馬酔木の花 作:あばちみゃかむ
血と汗に塗れた制服は至る所が破れ、生々しい傷痕を露にしていた。もはや斬魄刀を、漸く名を知ることになった鈴葬を鞘に戻すだけの気力すら残されていない。浅い息を繰り返しつつ、精気の消えかかった瞳であらぬ方向を見上げる。
抉り取られた腹部からの出血は然程多くない。止血する余裕も気力もなかった。体内に残された血は既に微々たるものだった。
投げ出された四肢は青白く、月明かりと夜闇が巧妙に入り混じった祐輝の顔に影が差す。
霊圧を感じた。複数の死神によるものだった。動かすことの叶わない身体を震わせ、満足気に表情を歪ませる。
あぁ、ようやく救援が来たのか。虚は、斬った。代償は己の命。まぁ、仲間二人の命を助けたのだから。既に己の身が長く持たないと自覚しているためか、妙に思考が冴え渡る。
一緒に甘味処へ行く約束を破ってしまった雛森には顔向けできない。あぁ、一回生の頃から迷惑かけてばかりだったのに。わるいな雛森、流石に今回は反省してるさ。
「よぉ、遅れてすまない、ボロボロになるまでよく頑張ったな後輩。仲間たちは
額から流す血の所為で視界は赤く明滅していた。快活な声の持ち主を見上げるが、不明瞭な輪郭しか把握できない。
「俺は十三番隊の副隊長、志波海燕だ。んで
坊主、懐かしい響きだ。そうか、つまりこの人は。
▽
鼻孔を掠める薬品の匂いに目が覚める。最初に見えた光景は見慣れない白い天井、上体を起こそうとすれば腹部に激痛が走り、渋々断念する。
身に纏うのは医療患者用の衣服。左腕は丹念に包帯が巻かれていた。右腕は対照的に傷痕が残るだけで、既に完治しているようだった。
目だけを動かして場所の把握に努める。寝台の上に横たえられた己の身体が手当てを受けたのは確か。殺風景な部屋には調度品らしいものはなく、寝台のすぐ隣に小さな机と椅子がひっそりと備え付けられている。
部屋自体は明るく、窓の外から微かに陽の光が差し込んでいた。
霊術院の救護室か、或いは四番隊の総合救護詰所であると見当づける。恐らくは後者だと考えられた。室内には他に人の気配が感じられず、どうやら個室らしい。そして霊術院の救護室には、記憶が正しければ個室は存在しない。
「なんだよ、約束どうにか守れそうじゃねえか」
祐輝は笑った。死を予期していた己の姿があまりにも莫迦らしかった。生の実感よりも、雛森との約束を破らずに済んだ事実が安堵を齎していた。
腹に穴を空けた甲斐があったものだ。笑いすぎて腹部の激痛がぶり返し、強制的に気分を落ち着かせる。
さて、死神の霊圧を持つ謎の虚を斬り伏せた英雄として彼女は称えるだろうか。あり得ない、傷だらけになった身体を目にすれば腰に両手を当てながら告げるのだ。全く、どうして無理をするの、と。
「なんだァ、もう目が覚めたのかお前」
快活な声がした。首だけを動かし、入室してきた黒髪の死神を見遣る。酷く懐かしい記憶が蘇る。憧れるだけの背中だった存在は風呂敷包を右手に、左手には腰に差す斬魄刀とは別の斬魄刀を携えていた。
「起きたばかりで分からないだろ、ここは四番隊の総合救護詰所だ」
「十三番隊の、志波副隊長」
「海燕隊長、って呼んでもいいんだぜ。うちは隊長が病弱でな、俺が代わりに隊を仕切ってんだ。あ、これ見舞いの羊羹な。お前は腹に穴が空いてるから、客にでも出してやれ」
羊羹、もし雛森が訪れたら喜んで差し上げよう。
飄々と羊羹の包みを机の上に置いた海燕は、物音を立てて椅子に座り込む。左手に携えた斬魄刀を祐輝の前に突き出した。
見慣れた浅打とは各所の形状が異なる。しかし、祐輝には浅打よりも遥かに親近感が湧き起こる。
「俺の斬魄刀、っすね」
「そうだ。まだ正式に支給されていない浅打をお前は自分のモノにした。霊術院の生徒が始解するのも確か五番隊の副隊長が最後だったから、四、五十年振りだな」
ひょい、と海燕は手にした斬魄刀を取り上げる。手を伸ばせば微かに届かない絶妙な距離、上体を起こすことも叶わず指先が柄を掠めるにとどまる。
目の前でこれ見よがしに鈴葬を振られ、意地でも取り返そうとすれば腹部の激痛で中断される。
「返してくれないんすか、俺の鈴葬」
「確かにお前のモノだな。けど言ったはずだ、浅打はまだ正式に支給されていない、と」
霊術院の生徒は、浅打を一時的に貸与される。それは霊術院を卒業後、護廷十三隊に入隊するとは限らないからだ。鬼道衆、或いは隠密機動へ進むかもしれない。護廷十三隊も、霊術院を卒業すれば即入隊とはならず、入隊試験に合格する必要がある。
護廷十三隊に入隊し、死神となって初めて浅打が正式に支給される。その程度のことは、祐輝にも分かる。
「自慢じゃないが俺も霊術院時代に斬魄刀を解放した。けどな、その時は既に護廷十三隊への入隊が内定していた。聞いて驚け、飛び級して二年で霊術院を卒業したんだぞ。あぁ、そんなことは置いておくが、つまりだな」
「ただの三回生が始解を修めた、ってのが問題とでも?」
「力の扱い方を知らないガキが持つには危険だとか、そんな声もあがってる。よく言うわ、市丸、五番隊の副隊長も一年で霊術院を卒業したが、お前よりも小さいただの子どもだったぞ」
「才能があれば賢いとでも思ってるんじゃないすか」
「違いないな、特に自分を賢いと思い込んでる連中は凡人が過ぎた力を持つことに拒絶反応でも出るらしい」
わざとらしく咳き込み、周囲の様子を窺った海燕は鈴葬から手を離す。
「アー、手が滑って斬魄刀を落としちまっター」
「本当に落とす必要があるのかよ……っ!」
病み上がり、もとい絶賛病んでる途中の身体は思い通りに動かず、健全な右腕だけで鈴葬を掴めば身体の節々が悲鳴を挙げる。抗議するように睨めば明後日の方向を向いて口笛を吹く海燕。露骨なまでに何も知らない、見ていないと貫き通すつもりのようだ。
改めて、右腕だけで己の斬魄刀を見遣る。柄糸は風や霧、雲を彷彿とさせる灰色へと変わり、鍔の形状は葵型に鈴の紋様が刻まれていた。
鈴を葬る名を持った己の半身を手にすれば、挨拶のつもりか鈴の音色が掌を通して直接伝わる。
「んじゃま、本題に入るとするか」
「さっきまでの話が本題じゃなかったんすか」
「後輩に対する忠告だよ。それで、なんだ、その鈴葬って斬魄刀と一緒にお前が虚を仕留めたのか?」
「俺、言ってませんでしたっけ」
「見つけた時には虫の息だったんだよ、お前。起きてるのか寝てるのか死んでるのか区別がつかないほど、な」
少しでも海燕や救護班の到着が遅れていれば、今頃はこうして会話することもなかったのか。死の淵はすぐそばだったのかと受け流し、特に隠し立てする必要もないため答える。
「斬りましたよ」
思い返せば随分と謎のある虚だった。死神と同じ霊圧を持っており、しかもそれは祐輝の知る複数の人物と全く同じもの。包み隠さず海燕に話せば、神妙な表情で顎を撫でながら一言。
「実はお前が虚、なんていうのは」
「俺の額に巻いてる包帯が仮面に見えるなら確かに虚っすね」
「わりぃわりぃ、少しからかっただけだ」
飄々と笑い飛ばし、見舞いの品として自ら持ってきた羊羹に口づける海燕。
「死神の、あむっ。死神と同じ、あふぁむっ、霊圧ねぇ」
「食べるか喋るかどっちかにしろよ……」
憧れが幻滅してゆく。幼い時分だったから美化されていた部分があるにせよ、目の前でだらしなく足を崩しながら羊羹を食べる姿に何とも言えない気持ちを抱く。
「俺たちが保護した霊術院の生徒たちな、命こそ助かったが霊力が極端に減少していた。魂魄そのものを一部分だけ喰われた、ってのが推測されてる」
「えぇっと、つまり? すみません、もうちょっとわかりやすく言ってくれないっすか」
「命を羊羹に例えるとだな、全部じゃなく端の部分だけ喰ったみたいなんだ。んで、喰われた分だけ霊力が減っている、理解できたか?」
しっかしこの羊羹美味いな、と更にもう一つ手を伸ばそうとする海燕を睨み付ければ冗談だと笑い飛ばされる。未練がましく指を蠢かせているのは見逃そう。
「お前の感じた死神の霊圧は、まぁ霊術院の生徒から喰ったものだろうな。どうして虚の霊圧を感じなかったのか、とか、どうしてお前以外の霊術院の生徒は重傷を負っても命の危険はなかったのか、謎は残ってるが」
聞き逃せない言葉があった。他の霊術院の生徒は重傷を負っても命の危険はなかった、とはどういう意味か。
祐輝の疑問を察した海燕は答える。
「虚の奴、奇妙な拘りでもあったんじゃないか。一度喰った味はそれで満足、だとか。死者は
「料理したのは俺になったけれど」
「聞いたぜ、仲間を助けるために一人で戦ったんだってな。斬魄刀のおかげだろうが、得体の知れない虚を仕留めた、それは素直に誇っていい」
見舞いを終えたとばかりに立ち上がった海燕は手を振りながら背中を向ける。
「まっ、ゆっくり傷を治すこったな」
「志波副隊長、一つ聞いていいですか」
「俺に答えることができるなら、いいぜ」
死神を目指す原点となった出来事。弱い自分を許せないならば、死神を目指せという言葉。
「東流魂街七十四地区、朝霧で虚から子どもを助けたことありませんか?」
沈黙は一瞬、振り返らずに扉を開けた海燕は短く言い残す。
「そういや、流魂街の泣きべそかいた坊主が最近腹に穴を空けたらしい」
▽
暇だ、凄く暇だ、暇を持て余すも見舞客は海燕を除いて誰一人訪れない。護廷十三隊に知り合いは、朽木家に養子入りした元級友と一回生の頃に一度だけ会話を交わした檜佐木という先輩ならばいるが、知り合いとして数えていいのか迷う。
最後に会話を交わしたのは経過観察に訪れた四番隊の隊士だった。
寝台に横になり続けるだけというのも、中々の苦痛だ。昼寝を続けても咎められない環境だが、生憎と眠気は遥か彼方へ駆け抜けて行く。身体を無理に動かすこともできず、手持ち無沙汰となっていた。
誰も見舞いに訪れない。どうせ斬術だけが取り柄の問題児だよ、と半ば自分を慰めていれば寝台の傍に立て掛けた鈴葬が嘲笑った気がする。いや、情けないと嘆息したのかも。
「おや~君が数十年振りに始解を修めた霊術院の生徒かい?」
音もなく病室に姿を見せたのは、女物の着物をだらしなく羽織り室内にも関わらず笠をかぶった男性。立ち振る舞いや言動からは軽薄さを漂わせているが、女物の着物の下から覗く白い羽織は護廷十三隊の隊長の証。そして腰に差した二刀一対の斬魄刀の所有者は、二人しか存在しない。
「ボクは八番隊隊長の京楽春水、いやぁ手酷くやられたねぇ君」
「あ、自分は霊術院三回生の朝霧祐輝です」
「あぁいいよいいよ、堅苦しいのは。君病人なんだし、安静にしとこう。それにボクも二日酔いで大きな声が頭に響くしね」
覚束ない足取りで椅子に腰かけた京楽の息は酒臭い。ほんのりと赤く染まった顔は、現在も何処かしらで酒を呑んで来た証拠だろう。
海燕に続き、二日酔いの京楽の姿を見て隊長や副隊長に抱くものが音を立てて崩れ落ちてゆく。
「いやぁ卯ノ花隊長に二日酔いの薬を貰いに来たんだけどねぇ、ほらここ広いから迷ってたら君の病室に辿り着いたわけ」
「は、はぁ、ご苦労様です」
「にしても暇そうだねぇ、そうだ、どうせならボクと呑むかい?」
どこからともなく徳利を取り出した京楽は、杯に注ぐと病室など構わずに喉を鳴らす。
「暫くは入院食しか食えないんで俺、その、遠慮します」
「大丈夫ここにはボクと、えぇっと、あ、朝風君? しかいないんだから、呑んだってバレやしないよ」
「朝霧です、京楽隊長。いや、腹にデカい穴を空けたんで、折角のお誘いなんですけど呑んだら腹から垂れ流しますから」
「そうかい、そりゃ残念だ。退院したらボクと呑もう、退院祝いと君の入隊祝いを兼ねて奢ってあげるよ」
「その時は喜んでご同伴に……はい?」
祐輝は現在三回生、霊術院を卒業するまで漸く半分の年月が経過しつつあるばかり。退院祝いと入隊祝いを兼ねるなど不可能なのだ。流石に呑みすぎだろうと注意すれば、赤ら顔でさも当然のように京楽は言う。
「だって、君はもう始解を修めたんだよ? 霊術院の卒業を悠長に待つより何処かの隊で君の面倒を見た方がいいでしょ」
それは遠回しに監視と同義ではなかろうか。海燕の口にした忠告も相俟って、始解一つで何やら事が動き出しているらしいと悟る。
「あ~持ち歩きの最後の一つだったのに無くなっちゃった。それじゃ退院したら呑もう、朝霧祐輝君」
腰掛ける椅子に向かって粋の良い声をかけ、ふらついた足取りで壁にぶつかりながら京楽は去って行った。
「隊長って、あんな人ばかりなのか……?」
教壇に立つ藍染は学者や教師という言葉が似つかわしいが、昼間から酒を持ち歩いて酔っ払う京楽に比べれば隊長らしいと感じる。
なんにせよ、暇を潰せたことに京楽へ感謝する。入隊祝いは分からないが、退院した暁には遠慮なく酒を奢ってもらおうと決める。
酔っ払った今日の会話を覚えているか甚だ怪しいものではあるけれど。
▽
貸与された浅打を使っての実戦訓練で、雛森は些細な失敗を連発してしまった。見かねた教師から注意を受け、肩を落として雛森は浅打を鞘に戻す。
ここ数日間、雛森は授業への集中力が乱れていた。真面目な雛森らしくはない。級友たちからは心配されるが、気丈に振る舞って誤魔化す。尤も、雛森の様子が変であるのは一目瞭然だった。
総合救護詰所に搬送された二組の生徒と引率の上級生は重傷のため
それは楽しみにしていた藍染の授業でも同様だった。講義を聞き、板書に集中しても傍らに腰掛けていた少年の不在を気にかけてしまう。
どうすればお見舞いに行けるんだろう。甘味か、それともお花を持っていけば喜んでくれるかな。ちゃんとご飯も食べてるか心配だし。
「雛森君、何か悩み事でもあるのかい?」
「あああ藍染隊長っ!?!?」
「いつも熱心に話を聞いてる君が、今日は上の空だったからね。僕でよければ相談に乗るよ」
授業が終わり、肩を落として立ち上がったところに話しかけて来た藍染。憧れの人物と直接言葉を交わせることに心躍るのも一瞬、藍染ならばと心の内を曝け出す。
「友だちが四番隊の総合救護詰所に入院したんです。面会謝絶なんですけど、どうしてもお見舞いに行きたくて」
「ふむ、その友人は朝霧祐輝君だね」
「は、はい、そうです。あの、どうして分かったんですか……?」
「いつも君の隣にいた彼が今日はいない。そして四番隊の世話になってる霊術院の生徒は限られる。そこから推測しただけさ」
穏やかな笑みを湛えた藍染は顎を撫で、暫し思案に耽る。眼鏡が輝いたのも一瞬で、口を開いた。
「よし、僕と一緒に朝霧君の見舞いに行こう。流石に隊長が同伴ともなれば、面会は許されるはずだからね」
「えっ、でも藍染隊長もお忙しいはずじゃ……」
「未来ある若者のためなら僕は喜んで自分の時間を捧げるよ。彼の顔を見れば雛森君の悩み事も消え去るはずさ」
▽
恩人の副隊長、酔っ払いの隊長に続いて見舞いに訪れたのは平隊士。しかし無名の隊士ならいざ知らず、五大貴族の末席に名を連ねる彼女と顔を合わせるのは実に二年ぶりだった。
突然の来訪に驚き、されど暇を持て余していた祐輝は朽木ルキアを歓迎した。
「よぉ久しぶりだな、死覇装も似合ってるじゃないか」
「う、うむ。朝霧も身体の具合は大丈夫なのか? 虚に襲われて重傷だと聞いていたが」
「見ての通り暇を持て余す程度には元気だよ」
あ、見舞いの品はそこの机に置いといてくれ。ありがとうな。そこの羊羹どうせなら食べないか、腹に穴が空いてるから食えないんだよ。気にするな、持ってきた人が見舞客に出すよう言っていたし。
「その、なんだ、相変わらず掴み所の無いヤツだ」
「褒め言葉として受け取っておくよ」
一年にも満たない期間を同じ学級で過ごした仲だ。逆に言えばその程度で親密な間柄ではない。わざわざ祐輝の病室まで足を運んだ理由を問えば、ぎこちなくルキアは答えた。
「私の上司、十三番隊副隊長の志波海燕殿が折角だから同期の見舞いに行ってこいと」
「それならさっき来たぞ。ちなみにお前が頬張ってる羊羹はあの人が持ってきた品だ」
あと京楽隊長もさっきまで酒を呑んでいたな。祐輝の話を聞いたルキアは猫を彷彿とさせる瞳を大きく見開いた。たかだか霊術院の生徒に一体何用だと。
二日酔いで道に迷っていたらしい、当人から聞いた言葉を伝えれば納得の頷きが帰って来る。どうやら京楽隊長が酒にだらしないのは平隊士でも知られているようだ。
「それで、その、霊術院は変わりないか?」
「二年でどう変わるって――あぁ、なるほどね」
「むっ、どうしたのだその生暖かい眼は! ええい、何故かは知らぬが癪に障る!」
雛森を通して、また親善試合で対峙したこともあって少なからず交流を持つ赤髪の人物を思い浮かべる。朽木家に養子入りした目の前の少女とは幼馴染みで、喜劇のような会話を二人は霊術院で繰り返していた。
阿散井恋次のことが気になる。素直に尋ねるのがもどかしい。一人納得した祐輝は幼子を見守る表情を形作り、ルキアは抗議の声を上げる。
「阿散井なら時々鍛錬場で手合わせしてるけど、死神になってお前に追いつくんだっていつも言ってる」
「そうか、恋次の奴め……」
寂しさの中に安堵を忍ばせたルキア。見舞いに来てくれた理由も、半分は恋次の現況を僅かでも知りたかったのだろう。
それからは当たり障りのない会話に終始した。死神としての業務が大変だとか、海燕の稽古は励みになる、などのルキアの近況話。斬魄刀が名前を教えてくれなかった祐輝の苦労話。
「朝霧は斬術が得意だったからな。どのような斬魄刀なのだ?」
「死にかけるまで名前を教えてくれない意地悪な奴さ。雛森曰く俺にそっくりさんの斬魄刀なんだと」
「そうか、二人は相変わらずの仲なのだな」
「留年しかけた俺を助けてくれる優しい奴だよ雛森は」
傷に障るだろうと、適当なところで話を切り上げたルキアは帰っていく。
「志波副隊長なりの気遣い、だな」
もちろんそれはルキアに対してだ。養子と言えども朽木家に連なる者、まして同期もいなければ様々な苦労をしたに違いない。直接言葉に出さなかったが、死神としての近況を話す節々に疲れや影が差し込んでいた。
彼女の姿が、近い将来の祐輝を暗示したものであると知る由もない。