4人の女神姉妹の末っ子であるきりしま。
数奇な運命により女神となったのだが、それを語る前にそもそも女神とは何かから始めなければならないだろう。
この世界において最大の国家である皇国には遥か過去から皇国と世界を守護する女神が存在した。
古の戦いで使われたと言われる大戦艦を操り、黒や白の戦闘装束で戦う4人姉妹がそれだ。
そして彼女達はその皇国に住む女性達から選ばれるのだが、近年3人しか現れていなかった。
末の女神であるきりしまが見つからなかったのだ。
もちろん探す事は続けられていたが、女神達も人々も半ば諦め始めていた時・・・
皇国の首都にある学院、そこで定期的な女神の資質を持つ者達を見つける為の適性検査が行われていた。
ここで後にきりしまとなる少女、いや少年がいた。
そしてその彼にはある特徴があった、それは容姿だった。
その姿は正に美少女なのだ、本物の(?)少女達よりも・・・
だから周りの者達からは冗談半分に適性検査を受けてみたらと言われる始末だった。
もちろん男として自覚のある彼は拒否しいたのだが運命の日は確実に迫っていたのだ。
適性検査の当日、彼は教師から用事を頼まれ、検査が行なわれている講堂に向かっていた。
本来女子しか近寄れないのだが、彼はその容姿や言動で女子や教師から信用されていたからだ。
「何をしているの貴女・・・早く入りなさい。」
講堂の前に来た彼を検査を行なう補助として来ていた女性神官は見つけると声を掛ける。
どうやらその容姿から遅れてきた女子と勘違いされたのだ、その時制服(男子)では無く体操服(男女共用)だった事が仇になった。
「いえ僕は・・・」
「時間がありません早くしなさい。」
違うと言おうとした彼を制して女性神官は講堂入り口へ連れて行く。
「だから僕は・・・」
反論空しく彼は講堂に入れられてしまう。
「まったくも。」
ドアが閉じられ彼は深い溜息を付く、此処に教師や女子が居れば分かったのだろうが残念な事にこの時は
たった一人だった。
「君が最後か?」
突然声を掛けられた彼は驚きながら相手を見るが。
「ひ、ひえい様、それにはるな様も?」
そこに居たのは女神の2人、ひえいとはるなだったのだ、彼が固まってしまうのも仕方が無いだろう。
皇国を守護する女神に相対すれば誰だってそうなる。
「それじゃこちらへ来て下さいね。」
はるなが微笑みながら彼を招く。
「は、はいってあの僕は・・・」
その笑顔に見惚れた彼は意図も簡単に連れて行かれ開かれたドアから部屋の中に入れられてしまう。
どうやらひえいとはるなも彼を女子生徒と勘違いしている様だった。
「大丈夫直ぐに終わる・・・まったく今回も無駄足か。」
ひえいはそう言ってぼやく、朝からずっと立ち会っていたのにまったく収穫が無かった為、その少女(本当は少年だが)にもまったく期待していなかった。
「そうですね・・・残念です。」
はるなにしてみれば早くきりしまが見つかって欲しいと3人の姉妹の中では一番強く思っていた。
それは女神としてだけでは無く、姉として妹を世話したいという気持ちだからだ。
だが現時点でそれは叶ってはいない、最後の1人は結局見つからないのではないかとひえいとはるなは思ってしまう。
そんな2人の耳に部屋に入った少女(笑)の驚いた声が届く。
「な、何んだこれ?」
ひえいとはるなは顔を見合わせると急いで部屋に入る。
「これは・・・」
「はいひえいお姉さま、間違いない様ですね。」
ひえいとはるな頷き合う、部屋の中央に置かれた黒い板状の物体が激しく鳴動する前で焦っている少女を見て。
「ようやく見つかったのか?・・・はるなはこんごうお姉さまに連絡を。」
「はいひえいお姉さま。」
動転している少女を横目にひえいははるなに指示をする。
「君はこちらへ。」
4女神の筆頭であるこんごうに報告する為はるなは急いで出て行き、ひえいは少女を別室へ連れて行くのだった。
「はい?あのそれってどういう事なんでしょうか?」
少女、いや少年は話の内容を理解出来ずにいた。
「だから君は適性検査の結果女神と分かったんだ、だからこれから・・」
「いや待って下さい、女神って僕がですか?」
少年の前に座っている4女神の1人、ひえいの言葉を遮って聞き返す。
「そうだが・・・」
ひえいは当然と言った顔で答える。
「ちょっと待って下さい、女神ですよね?僕はなりはこうでも・・・」
「・・極めて異例だが君が女神である事は間違いない。」
女神である事が判明した時点で学院に確認し少女では無く少年だとひえいは知った。
だが女神である事は先程の検査で間違い無い、黒い板状の物体、きりしまと繋がれた端末が反応を示すのは女神以外にはありえないからだ。
だから最終的な判断は鎮守府に連れて行った時にこんごうにしてもらうつもりのひえいだった。
一方容姿が女の子に見える所為か幼い頃から間違えられる事が多かったとは言え、いくら何でも『女神』に選ばれるなんてと少年は混乱していた。
「取り合えずこれから鎮守府に来てもらう。」
「え、ちょっと待って下さい。そんな事急に言われても。」
立ち上がりひえいは宣言し少年は更に混乱してしまう。
「家は?親には何て言えば?・・・それに学校は?」
突然来いと言われても少年にも都合がある、おいそれと付いて行ける訳・・そう言おうとした彼にひえいは厳しい顔で、恐ろしい事を告げる。
「申し訳ないが、君が女神と判明した時点で皇国民としての全ての権利を失った、以後その身柄は鎮守府に置かれる。」
権利を失い鎮守府に・・・少年はひえいの言葉に固まり何も言えなくなる
「既に親御さんには連絡済みだ、学院も退学手続きこれから行なってもらう事になる。」
こうして少年は突如別世界に放り込まれれる事が決定したのだった。
鎮守府
それは女神達の居城であると共に執務を行う所だ、彼女達が操る大戦艦も此処にある。
数時間後少年は女神であるひえいに乗せられた車でそこにいた。
まさにあっというまだった、少年は先生やクラスメイトに別れの挨拶さえ出来なかった。
なお両親からは電話があり、曰く『皇国の為にがんばんなさい♪、応援しているわよ。」
と言われ昔から能天気な親だと思っていたがこれ程までとはと少年は嘆いてしまった。
「それでは行こうか、こんごうお姉さまが待っている。」
ひえいは車を降りると少年を伴って鎮守府の門を通り鎮守府の中に入って行く。
門の両横には警備の神官達がおり、通り過ぎるひえい達に深々と頭を下げてくる。
入った鎮守府内は静かだった、まあ此処には女神しか居ないのだから当然なのだが。
その鎮守府にあるまるで宮殿の様な建物にひえいは少年を連れて入って行く。
年に何度かある開放日に鎮守府内に少年は入った事があるが、ここでけは決して入れなかった。
何しろ女神達が執務を取り、また生活している所なのだから。
その宮殿に入り、廊下を暫く行くとある部屋の前にひえいは立ち止まる。
「ひえいですこんごうお姉さま、入ってもよろしいでしょうか?」
ひえいはノックをして中に声を掛けます。
「はい、入りなさいひえい。」
中から女性の声が、それは間違いなくあの女神筆頭のこんごうの声。
少年の緊張が更に高まる。
「それでは失礼します、さあ君も。」
促されてひえいと一緒に部屋の中に入る少年。
「ようこそ鎮守府へ、歓迎します新しい女神を。」
部屋は結構広く、目の前に立派な机が置かれている。
その立派な机に座り僕の事を『新しい女神』と呼んだ人は・・
皇国の守護女神姉妹の長女にして、最強の女神であるこんごうだった。
美しい青と白のドレスに身を包み優雅な笑みを浮かべつつ少年を見つめてくる。
「こんごうお姉さま、彼いえ彼女が今日見つかった新たな女神です。」
呼び方は言い直さなくても良いんですがと少年は内心ひえいに突っ込む。
「ようこそ、私は守護女神のこんごうと申します。」
改めて名乗らなくても彼女の名前を知らない者などこの皇国内には居ないだろう。
こんごうはひえいの言い直しを気にするでもなく、満面の笑みを浮かべ挨拶してくる。
「あ、はい、僕は・・・」
自分も名乗ろうとした少年はひえいに制される。
「もう君の名はそれでは無い。」
「え・・・?それって?」
思わず少年が聞き返す。
「君は今日から4人目の女神であるきりしまと名乗る事になるからだ。」
ひえいはそう告げるとこんごうも頷いて見せる。
「女神きりしま、貴女は今後全ての人々からこの名前で呼ばれる事になります。」
自分が4人目の女神であるきりしま?・・・いや肝心の事を皆忘れていると少年は言う。
「ちょっと待って下さい、その僕がきりしまって・・・いえそれよりも僕は・・・男ですよ、女神っておかしくありませんか!?」
少年いやきりしまの魂からの叫び(?)が部屋に響いたのだが。
「性別など些細な事ですきりしま、貴女が女神の資質を持っていると言う事が何よりも重要なのです。」
当人にとっては切実な問題なのだがこんごうはまったく意に関していない様だった。
「その通りだきりしま、この際性別など問題外だ。」
女神2人にとっては、少年いやきりしまの性別はどうでも良い話しだったらしい。
「そうだ挨拶が遅れたな、私は4女神の1人ひえい、これからはきりしま、お前の姉になる。」
今まで別世界の存在だった女神が姉になると言う事実にきりしまは混乱状態だ。
「それでは私も、ひえいやはるなと共に貴女の姉と言う事になりますね。」
ひえいに続きこんごうもそう宣言してくるに及んで最早これは現実なのだときりしまは理解する。
自分が4女神のきりしまとして今後生きて行かねばならないのだと・・・
「失礼しますこんごうお姉さま、ひえいお姉さま。」
そんな時部屋にはるなが入って来る。
「きりしまの受け入れ準備が整いました。」
そう報告するとはるなはきりしまに顔を向けて微笑んで挨拶してくる。
「きりしま、今日から私は貴女の姉です、何でも相談して下さいね。」
慈愛に満ちた笑み、こんな場面でなければどれだけ感激する事かときりしまは思った。
向けられる慈愛は皇国民に対してでは無く、妹としてなのだから・・・
こんごうから後の世話を託されたはるなに連れられきりしまは宮殿の中を歩いて行く。
「さあ此処で着替えて下さいきりしま。」
「着替えるって僕が何に?ってちょっとはるな様・・・」
しかし最後まで言う事は出来ず、何かの箱を手渡されるとそのまま背中を押され、何時の間にか開かれていた部屋に入れられてしまうきりしま。
「あれ・・・?」
気付いたら部屋の中に立っているきりしまの後方で閉じられる扉。
「着替え方が分からなかったら聞いて下さいね、あと私の事ははるなお姉さまと呼ぶ様にきりしま。」
扉の外から聞こえるはるなの声にきりしまは溜息を付くしかなかった。
部屋の中は独特の匂いにきりしまは何かとんでもない事をしている気分にさせられる。
こういう部屋に入るのは実はこれが初めてでなかったりするのだ。
本人の名誉の為に言っておくが、自分の意思で入った訳ではない。
大概は今回みたいに当人の意思を無視されてだ。
「女性が女子更衣室に入るのは当たり前です。」と言われて・・・
無理に男子更衣室に向えば、男女双方から『痴女』扱いされる有様だったのだ。
きりしまは過去のトラウマで打ちのめさせそうになるのを何とか堪えると着替える事にする。
嘆いても現状は変わらないからだ、こうなったら早めに済ませるのが一番良い言と分かっているからだ。
持たされた箱を近くのテーブルに置き開くと、そこに入れられていたものは・・・確認する必要もなく女性の服だった。
「はあ・・・」
分かっていてもため息が出るきりしま、取り合えず箱から出して、テーブルに並べる。
先程こんごう達が着ていた服と同じ青と白のドレス、女神達の正装だった。
今日から自分も着るのか・・・男なのにときりしまは絶望的な気分になる。
ちなみに女性用の服に着替えるのはこちらも初めてだなかったりする。
学院に在学中は女子制服や友人達(もちろん女子だ)が持って来た私服を着せられた事があったからだ。
「きりしま終わりましたか?」
外から聞いて来るはるな・・・お姉さまの声にきりしまは慌てて答える。
「えっと一応着替え終わったと思いますけど。」
「それでは確認しますね。」
扉が開けられ入室してくるはるなお姉さまはきりしまをじっと見つめてくる。
何かおかしいところが有ったのかときりしまは気になった、まあ男がこんな女物を着ている時点でおかしいとは思うだが、はるなお姉さまはそうは思わなかった様だ。
「うん似合っていますよきりしま、あっちょっと待って下さいね。」
きりしまの葛藤などお構い無しに似合っていると言ってはるなお姉さまは微笑む。
そしてはるなお姉さまは、きりしまに近寄り、裾やスカートの皺を直しだす。
はるなお姉さまから匂う甘い香りにきりしまが緊張している間に直しが終わる。
「これで良いですね、あと今まで着ていた服は処分しますので、そのまま置いておいて下さい。」
「処分って・・・今後何を着たら?」
きりしまの疑問にはるなお姉さまは笑って答える。
「今着ているその服が貴女がこれからずっと身に着けるのものです、それ以外に着る服については後で用意しますから・・・ふふ何を着せてあげようかしら。」
不穏なはるなお姉さまの言葉にきりしまは泣きたくなった、どうやら此処でも着せ替え人形になる運命からは逃れられないと。