「それにしても女神としての資質を持った者が男性にも居たとは思いませんでしたね。」
「確かに・・・長い女神の歴史でも聞いた事がありませんから。」
はるながきりしまを着替えさせられている頃、こんごうとひえいは先程の部屋で話していた。
「しかしこれで今まできりしまを見つける事が出来なかった訳が分かりました。」
こんごうは椅子から立ち上がり窓から鎮守府を見渡しながら言う。
「男性側に居たのでは見つかる訳が有りません・・・今後の課題ですねこんごう姉さま。」
ひえいの言葉にこんごうは振り向いて頷く。
「ただ反女神派の動向もありますからきりしまの扱いは女性とした方が良いでしょう。」
反女神派、女神による守護に異を唱える一派の事だ。
大半は女神ばかりに頼っていては人は駄目になってしまうという憂慮から来ているものだが、一部に自己の権益の為に反女神派に加わっている者達もいるのだ。
その中心勢力が皇国の貴族連中だ、と言うのも例え皇王といえど女神の意向には従わなければならない。
時に女神の意向で皇国の政策が変更される事もあり、貴族連中の思惑通りに行かない時も多い。
場合によっては貴族連中の権益すら制限されたり取り上げられたりするのだ。
そして貴族と結びついている一部の大商人達にとってもそれは同様であり、両者は不満を募らせているのだ。
だが皇王と大半の民達は女神居るからこそ世界のバランスが保たれていると考えている為、反女神派の支持はそれ程強固ではなかった。
とは言え女神側に何か失態があれば彼らは喜んでそれを利用しようとするだろう事はこんごうやひえいにも分かっている。
今回のきりしまの件は場合によっては彼らのいい標的になる可能性がある。
それでなくても4人いる筈の女神が3人しか居ないのは伝承に照らし合わせてもおかしいと、一部マスコミや知識人(反女神派)を動員してネガティブキャーペンを起こしているくらいなのだから。
きりしまの存在を女神は『皇国民の女性の中から生まれる』と言う伝承からすれば正当性に疑問があると言い出しかねないだろうとこんごうは懸念しているのだ。
「きりしまについては学院関係者にはかん口令をしいてあります、まだ外部へ情報も漏れてはいませんこんごうお姉さま。」
事態の重要性に鑑みひえいは学院関係者やその場に居た神官達にきりしまに関して口外する事を禁じておいた。
退学の件も一身上の事として扱う事をきりしまの元両親にも承諾して貰っていた。
「独断で判断した事はお詫びいたしますこんごうお姉さま。」
「いえ、貴女の判断は間違っていませんよひえい、むしろ素早い行動に感謝すべきでしょう。」
頭を下げ謝罪するひえいにこんごうは首を振って答える。
「こんごうお姉さま、きりしまの着替えが終わりました。」
はるながきりしまを伴って部屋の入ってくる。」
「ご苦労様はるな・・・」
「・・・きりしま?」
入って来たきりしまを見てこんごうとひえいは一瞬固まってしまった。
青と白の女神の正装を身に纏った可憐なきりしまの姿に。
「えっとおかしいでしょうか?」
2人の反応にきりしまが自分のドレス姿を見ながら聞いてくる。
「いえ・・・ごめんなさいね似合ってるわきりしま、そうでしょうひえい。」
「はい!こんごうお姉さま、きりしまとても似合ってるぞ。」
こんごうとひえいは我に帰るときりしまを誉める。
「だから言ったでしょきりしま、貴女は可愛いんだから・・・他の衣装を着せるのが楽しみです。」
はうなはうっとりとした表情で言うとこんごうとひえいも興奮した様に続く。
「それは良いですね、私も色々着せたいわはるな。」
「ええこんごうお姉さま、私もです。」
「はいこんごうお姉さま、ひえいお姉さま、是非お2人もお願いします。」
この瞬間きりしまの姉3人による着せ替え人形化が決まったのだった。
3人の姉たちのる着せ替え人形が決まったきりしまは、今ひえいとはるなと共にドックに来ていた。
女神達が操る大戦艦がここにある、きりしまになる前に見学した事があったが、今回はその時とは状況が違う。
ひえいとはるな連れられドック内に入ると、暗かった内部が急に照らし出される。
そして其処に有ったのは4隻の大戦艦、皇国のいや世界の守護を担うもの・・・
その中の一隻の前に3人は立つ。
「これが大戦艦きりしま、今日からお前がこれを操り、女神としての責務を果たす事になる。」
ひえいの言葉を聞きながらきりしまはその大戦艦きりしまを見つめる。
「私達女神にとっては分身みたいなものですきりしま。」
そんなきりしまを見ながらはるなが補足する。
「では始めるか・・・きりしま前へ。」
肩をひえいに押されたきりしまはこわごわと大戦艦きりしまに近寄って行く。
前に女神以外が大戦艦に不用意に近付いたら結果大怪我をした話をきりしまは思い出したからだ。
「心配する必要は無いきりしま、もうこれはお前の物なのだから。」
きりしまの心情に気付いたひえいが優しく励ましてくれる。
「は、はいひえい様。」
「きりしま、私の事はひえいお姉さまと呼べ。」
何時もの感じで言ってしまったきりしまにひえいが言う。
「あ、はいひえい・・・お姉さま。」
緊張と言い慣れない呼称にきりしまはどもりつつ答える。
そんな時だった、今まで静かだったドック内に何かの振動音が響き、淡い光がきりしまの目の前にある大戦艦から放たれてくる。
「えっ・・・?」
思わず立ち止まって振り向きひえいとはるなを見るきりしま。
「大丈夫だきりしま。」
ひえいがそう言って頷いて見せる、隣に居るはるなも微笑みながら頷いて見せる。
その言葉に大戦艦に視線を戻したきりしまは何時の間にか白い橋が出来ている事に気付く。
「それで乗り込むんだきりしま。」
ひえいの言葉通り橋を渡りきりしまは大戦艦の甲板に立つ。
次の瞬間浮遊感を感じ、きりしまは自分が高い位置からドック内を見渡している事に気付く。
「これは?」
あたふたしているきりしまの周りに次々と何かの映像が空中に現れる。
『メインコアの初期設定開始。』
『艦内システムチェック開始。』
『データベースのチェック開始。』
表示は次々と変わって行くのをきりしまは呆然と見つめていた。
『メインコアの設定完了、登録に問題無し。』
『艦内システム問題無し、全ての作動を確認。』
『データベース問題無し、登録者との接続を開始。』
「あれ・・・?」
きりしまは何時の間か自分が次々に表示される内容から何が行なわれているか理解している事に気付く。
『どうやら旨く行ったようだな。』
空中にひえいの顔が表示される。
「こ、これはひえいさ、いえお姉さま?」
この状況に混乱状態のきりしま。
「きりしまとメインコアが同調したんだ、その大戦艦もうお前自身と言っていい。」
不思議な事にきりしまはひえいの言っている事の意味を理解出来ていた。
メインコア・・・大戦艦の中枢、女神と同調する事によりまるで手足の様に操れるのだと。
「最初は戸惑うかもしれませんが、直ぐに慣れますから。」
ひえいの空中映像の隣にはるなの顔をも表示され語り掛けて来る。
「これできりしま、お前は強大な力を得た事になる、その行使に女神として重大な義務と責務が課せられる事を忘れるな。」
今更ながらきりしまは自分が女神になった事を思い知らされていた。
何しろ女神が操る大戦艦は1艦でも皇国を破壊出来る程の力を秘めているのだから。
大戦艦との同調を終えたきりしまは、今度は学校の体育館の様な所に連れていかれる。
「さてきりしま、女神になったお前には大戦艦を操る力と共にもう一つの力を得ている、それが何かわかるか?」
大戦艦を操る以外に?きりしまは暫し考えていたがそれが何かを思い出す。
「も、もしかしてバトルドレスですか?」
バトルドレス、それは女神が自身で戦う時に身に着ける物だ、高い防御力を持ち、それに強力な武器を合せて使う。
きりしまになるまではその姿に感動していたものだ、美しい女神達がその姿で戦う様を見て。
「そうだ、きりしまもメインコアと同調出来た時点でその能力を使う事が出来る、さあやってみろ。」
ひえいはそう言って促がしてくるが、きりしまは激しく動揺してしまい動けない。
まあそれも無理ないかもしれない、何故なら『バトルドレス』と呼ばれる衣装が問題だったからだ。
それは身体にぴったりと張り付くボディスーツなのだ、着ている者の身体のラインがはっきりと出てしまうのだ。
それを見るならいざ知らず、自分が着るとなれば話しは別だろう、何しろきりしまは自分は男だと自覚しているのだから。
胸が無く(当たり前だが)股間のそれが有る状態でそんな格好したらと想像し、きりしまは顔が青くなる。
「で、でも僕がそんな格好したら・・・」
必死にひえいとはるなに訴えるきりしまだったが、姉の2人は気にもしてくれなかった。
「何だ恥かしいのか、そんなもの気合と根性で乗り切れ。」
何処かで聞いた様な事を言うひえい。
「大丈夫ですよきりしま、貴女ならきっと似合います。」
はるなも慈愛を含んだ笑みで励ましてくる。
ひえいとはるなの期待に満ちた(笑い)に追い込まれてゆくきりしま。
「能力の発動は『バトルドレス展開。』と言えばいい、そうすればメインコアから転送され、一瞬で出来る、だから裸を晒すなんて事は決して無いから安心していい。」
そんな事を気にして、いや気になるがきりしまが言いたい事をそれでは無いのだが。
「わ、わかりましたやってみせます・・・見苦しいくても知りませんから。」
実際その姿になればひえいとはるなも理解するだろうときりしまは開き直る事にした。
「バトルドレス展開。」
きりしまがそう言うと身体が光に包まれていく。
そして光が消えるとと、そこには白いボディスーツ姿のきりしまが居た、手には巨大なライフル銃らしきものを持って。
「うん、旨く出来たじゃないか。」
「はい、きりしま似合ってますよ・・・とても可憐です。」
ひえいとはるなの賞賛にきりしまは困惑する。
『これは酷いな。』
『はい、まったく駄目ですね。』
きりしまはそんな2人の反応を想像していたからだ。
「いえそんな筈は・・・ってこれって?」
自分の姿を改めて見たきりしまはその変貌に驚かされる。
何しろ無い筈の胸が小ぶりながらも出来ており、股間もぴったり張り付いているのに例の物の存在を示す盛り上がりがいないのだから。
この時点では知らなかったのだが、ボディスーツが着たきりしまはの体形を女性として見えるように、無い胸を作り出し、目立つ部分を隠したのだった。
そうきりしまの意思に関係なく。
まあお陰で悲惨な姿を晒さなくてすんだ訳だが、これによりひえいとはるなの意識からきりしまが男だと言う事が完全に消えてしまったのだ。
これが後にどんな悲劇(喜劇?)を引き起こすかきりしまはこの時点ではまだ知らなかった。
「このバトルドレスはあらゆる攻撃から女神を守る、ただし衝撃までは完全に防げないから気をつける様にしてくれ。」
バトルドレス姿になったきりしまにひえいが説明する。
「あと今きりしまが持っている物が主に使用する武器となる。」
きりしまは自分が持っている大型のライフル銃らしきものを見る。
かなりの重量がありそうなのにまるでそれを感じない事にきりしまは驚いていた。
「それはバトルドレスの力ですね、女神を守るだけでなく、その能力も高めます。」
はるなが優しく教えてくれる、まるで姉が妹を指導している様に。
「またバトルドレスを装着する事により空を飛ぶことも出来る様になる。」
「そ、そう言えば・・・」
女神達がこの姿で空を舞っている姿をきりしまも見た事はあった。
「僕にも飛べるんでしょうか?」
あの時見た女神達の様に出来るかきりしまは不安だった、それはそうだろう生身で空を飛ぶなんて生まれて初めてなのだから。
「心配しなくても、バトルドレスが飛行を制御しますから、ただその感覚に慣れる必要があります、それはこれから訓練していきましょう。」
はるながそう言ってくれるのできりしまは心強かった。
「そうだな、武器の扱いを含めて後日訓練を行なうつもりだ、あと通常はドレスの下にバトルスーツを着込む事になる、つまり必要に応じて切り替える訳だ。」
「はい。」
こうしてきりしまは大戦艦との邂逅、初めてのバトルドレスの展開を終え、いよいよ女神としての生活が始まるのだった。