鎮守府でのそんなやり取りを思い出しながらきりしまは、先程の男性が言っていた宿屋を目指す。
途中何人かの村人とすれ違ったが、皆最初は迷惑そうな表情を浮かべるが、直ぐに先程の男性と同じ反応を示す。
お陰できりしまは落ち着かない気分にされる。
(やっぱりこの服装の所為かな?)
きりしまは自分の格好を見て、姉達がやり過ぎだ所為だと思っていたのだが。
もちろん服装もあったが、それを着ているのが稀に見る美少女(笑)だったのが原因である事にきりしまは気付いていなかった。
やがて目的の宿屋にたどり着く、男性が言っていた通り1階が飲み屋になっている。
その店の前に誰かが立っているの見てきりしまは近付いて声を掛ける。
「こんにちわ、お店の方ですか?」
すると声を掛けられた相手は振り返り、きりしまを見て目を見開いて驚いた表情を浮かべる。
「あ、こんちは・・・そうですけど。」
驚きながらも挨拶を返して来るのはきりしまと同年齢の少女だった。
「ここ宿屋ですよね、泊まれますか?」
きりしまの方も声を掛けたのが同じ年頃と気付き、内心驚きつつも問い掛ける。
「ええ大丈夫ですよ、中へどうぞ。」
その少女は直ぐに笑みを浮かべきりしまを店内に案内する。
店内はまだ昼前と言う事もあり薄暗く静かだった、調理場から準備でもしているのか音がする位だ。
「いらっしぃませ、雫へようこそ。」
カンターを回り込み立つと少女はそう言ってきりしまを迎える。
十分手馴れているが年齢的に従業員とは思えない、家の手伝いしている子供と言う感じだなときりしまは思った。
「お泊りと言う事ですが、何日位でしょうか?」
「それは決めていなくて、一応二三日ってところなんですが。」
調査に何日掛かるか分からない為、きりしまはそう答える。
「そうですか、それではこちらにご記入をお願いします。」
そう言って少女は宿帳と書かれたノートを差し出してくる。
きりしまは受け取ると名前と住所を記入する、もちろん偽名と偽りの住所だ。
いくら何でも、女神きりしまで鎮守府から来ましたと馬鹿正直には書けない。
「はいありがとうございます、ではお部屋にご案内しますね。」
宿帳を確認し少女はきりしまを店の2階へ案内する。
「お1人で旅行ですか?」
その途中少女はきりしまに聞いてくる、世間話と言うより好奇心の様だったが。
「ええそんなところです、ちょうど学校も休みに入ったもので。」
そう答えるきりしま、こんごう達と聞かれた場合を想定し、そう決めておいたのだ。
「そうなんですか、羨ましいですね、私なんか休みの日は店の手伝いばかりですよ。」
羨ましそうに少女は言う、確かに忙しそうだときりしまは思った。
まあきりしまも女神としての勤めが有るので何となく分かる気がするのだが、まさかそう言う訳にいかない。
「そうなんですか・・・でも家のお手伝いをしている貴女はりっぱだと思いますよ。」
きりしまの言葉に顔を赤くして少女はお礼を言う。
「ははありがとう、何かそう言われたのって始めでだわ。」
やがて部屋に到着する、狭いが落ち着いた所できりしまは思わず微笑む。
「狭くてあまり綺麗じゃないけど・・・」
「大丈夫ですよ、この方が落ち着きますから。」
恥かしそうに言う少女にきりしまはそう言って微笑む、何しろ普段女神として居る部屋が部屋だけに、こっちの方が落ち着くのだ。
「そうですか・・・良かったです、あそうだ一つ注意があるんだけど。」
きりしまの言葉にほっとした表情を浮かべていた少女は突然真剣な顔をすると言う。
「夜は絶対外に出ないで下さいね、特に海には近付かないでね。」
多分例の化け物に事だときりしまは気付く。
「・・・わかりました。」
きりしまとしてはそうはいかないが、彼女が真剣に心配してくれるのは分かったのでそう答える。
「うん良かった、食事は部屋に持ってくるから、まあ本来は下で食べてもらんだけど・・・貴女じゃそう言う訳にはいかないしね。」
どうやらきりしまが少女(笑)なので気を利かせてくれたらしい。
きりしまとしては気にしない、女神と言うだけでなく男としての自覚があるからだ、もっとも後半の方は最近自信が持てなくなって気がするのだが。
「ありがとうございます、ああ風呂なんですけど。」
そうこれも懸念事項なのだ、絶対きりしまは女性用に入れられるのは分かっている、だから次官ぎりぎりでも入浴しよう思っているの。
「お風呂ね、大体夜7時から11時に入浴してね、多少ぼろだけど」
少女はそう言って笑う、何だか客と従業員と言うより友人みたいだが、同じ年頃の少女同士(笑)な為だろう。
「それじゃごゆっくりね。」
笑って部屋を出てゆく少女を見送り、きりしまは夜の調査準備を始める、時間は十分有るとは言えない。
素朴だが暖かい食事に、確かに古いが広い風呂に、こちらは大変気を使う羽目に陥ったが、満足したきりしま。
そして後は就寝する・・・と見せかけて調査に出発するだけとなった。
1階が酒場だった為かなり遅くまで騒がしがったが、それも終わり時刻は真夜中。
部屋の窓を開けきりしまは周囲を探る。
「・・・大丈夫の様ですね、何だかあの娘に悪い気がしますが。」
実は就寝前にももう一度注意してくれたのだ、そんな彼女を裏切る様できりしまは心苦しかった、例えそれが女神の勤めだとしても。
そして彼女がそこまで気にする理由もきりしまの罪悪感を高めていた。
どうやら彼女の父親、漁師らしいのだが、海で消息を絶ってしまったと言う話しだ。
だからこそ心配なのだろう、また誰かが消えてしまう事が。
ちなみにきりしまが彼女の父親の事を知ったのは本人からではない、物珍しそうに宿の周辺を、まあ偵察も兼ねていたのだが歩いて、その途中で村の奥様方に捕まってしまったのだ。
外から来た珍しい相手、しかも飛びっきりの美少女とくれば奥様方もほって置いてはくれなかったのだ。
あっと言う間に囲まれ、それ「何処から来たのか?」とか「彼氏は居るのか?」など怒涛の質問攻めにあったしまったきりしまだった。
こうなったら暫らくは離してもらえず付き合うしかないのは、女神になる前に通っていた学院でも経験済みだった。
とは言え、「自分は女神です。」とか「彼氏なんて、僕男ですよ。」などとは答えられず、かなり冷や汗を掻く事になった。
宿屋の少女の父親の話しはその時に聞かされたのだ。
とは言え女神の勤めは絶対だ、心を鬼にしきりしまは窓から下に飛び降りる。
かなり高い所から音も無く静かに降り立つきりしま、女神であるのでこれくらいは造作も無い。
空は曇っているのか星も見えない空の下きりしまは走り抜ける、海岸までは20分も掛からない筈だ。
幸い誰にも遭遇する事無くきりしまは海岸までたどり着く事が出来た。
まあ例の化け物騒ぎで、村人は夜絶対家を出ないからだが。
そしてきりしまは、妙な噂の耐えない洞窟の前に立つ。
「ここか・・・じゃ行きますか、バトル・ドレス展開!」
そう叫ぶときりしまは白のボディスーツ姿に変わる、但し何時も持っているライフルは無い。
狭い洞窟内では使えないからだ、一応それ以外の武器も用意しているから問題は無い。
一旦周りを確認するときりしまは洞窟へ入って行くのだった。
洞窟の中は暗くて視界が悪かったがきりしまは気にした様子も無く進む。
明かりの類は持っていない、そんなものが無くても困らない程、きりしまの視覚は強化されていたからだ。
やがて洞窟の中ほどまで来たきりしまを迎えるものが居た。
「ぐうう・・がああ・・・」
それは正に化け物だった、姉のひえいが言った通りの・・・