「ぐうう・・がああ・・・」
獣の様な呻き声を上げ暗闇から出て来たものを見てきりしまは女神になる前に見た漫画を思い出す。
全進がうろこに覆われ、手足に水かき、首の横にはえららしきものまで有る。
「海底魚人だったっけそれにそっくりじゃないですか。」
細かい所は違うがほとんどそのままだときりしまは思った。
「ぐうおおお!!」
そんなきりしまにその海底魚人は鋭い爪を生やした両手で掴みかかろうと接近して来る。
「・・・!」
その瞬間きりしまの両手に大型の拳銃が現れる、洞窟内での戦闘を考慮し用意した装備の一つだ。
ちなみに何も無い所から現れて見えたのはコアからバトル・ドレスを転送する仕組みと一緒で事前に準備した装備を呼び出しているのだ。
「止まって下さい。」
言葉が通じるか分からなかったがきりしまは警告をする。
だが海底魚人は無視し接近を止めない、きりしまは奴の足元を掠める様に大型拳銃を撃った。
それでも止まらない海底魚人にきりしまは、今度は身体の方に照準を合わせ撃つ。
「が・・あ・あ!!」
2丁の大型拳銃の弾丸を受け海底魚人は一瞬うずくまるが再びきりしまに向かおうとする。
「効かない?まさか・・・」
屈強の騎士だって行動不能に出来る特殊な弾丸を受けても奴は平気な様だった。
その驚きとできりしまは一瞬動きが止まってしまいその隙を狙うように海底魚人の両腕に囚われてしまう。
「くっ離なせ・・・この・・・」
両腕を拘束され海底魚人に締め上げられるきりしま、必死に振りほどこうとしてもびくともしない。
「何で力・・・っておい何をするんですか。」
海底魚人はきりしまを締め上げるだけでなく、そのささやかな胸に顔を押し付けぐりぐりし始めたのだ。
「や、やめ・・・ああ何で!!」
きりしまの胸はバトル・ドレスが作り出した物だから感じる事は普通無い筈だが、どう言う作りなのか、揉みくちゃにされている感触に最初から襲われてしまっている。
お陰できりしまは女性が胸を蹂躙される感覚を男なのに感じると言う、得がたい経験をしていた。
もちろんきりしま本人がまったく嬉しくもない事は言うまでもない。
「い、いいかげんにしろ!!」
きりしまは何とか動かせる右足を海底魚人の股間に打ち込む。
「ぐ・・・ぐ・・う・・う!!!」
見た限りでは海底魚人の股間には何も無い様だったのだが、男が打撃を受けた様に絶叫を上げ、きりしまを解放して今度こそうずくまってしまう。
「はあはあ・・・」
解放されたきりしまは無自覚に胸を押さえて息を付く・・・その姿はどう見ても恥かしさに耐えている女の子だった、しかも怒りの挙句に男の股間に一撃を与えているのだ。
「よ、よくも・・・」
怒りは収まっていないきりしまは囚われた時に落してしまった大型拳銃を拾い上げ、コアに戻すと、今度はサブマシンガンを出現させる。
「身体中に風穴を開けてあげます!」
果てして、きりしまの怒りは、女性として蹂躙されたからなのか、男なのに女性の辱めを受けさせられたからなのか?・・・まあ本人も分かっていない様だったが。
「・・・それ・まで・・だ・・やめろ・・」
だがきりしまの怒りは突然掛けられた第三者の声で止められてしまう。
慌てて周りを見たきりしまは何時の間にか現れたもう一体の海底魚人を見つける。
「な・・・もう一体?」
サブマシンガンを向けようとするが・・・
「お前・・とは・・戦う・・・気は無い・・・お・い。」
突然現れた海底魚人はきりしまと戦う意思が無いと告げて、うずくまっているもう一体に声を掛ける。
「もう・・・やめる・んだ・・もう人・の・・こ・心を・・忘れ・・たのか・・・」
呼び掛けられた方は動きを止め、ふらふらと立ち上がる、そこには先程までの凶悪さは無い。
「お、俺は・・・あ・あ・・あ!!!」
そう叫ぶと洞窟の奥へ走り去って行く、それを黙って見送るもう一体の海底魚人。
きりしまの方は呆然と見送るしかなかった。
「・・お前は・女・神様・・・なの・か。」
先に現れた方もだが、こいつもきりしま達の様に旨く言葉を喋るのが出来ないみたいだった。
無理やり人の言葉を喋っている・・・いや喋れない・・・?
「まさか・・・貴方は?」
きりしまはある可能性に衝撃を受ける・・・この海底魚人元々人間であったのではないのかと。
「今は・・この・姿・・だが・俺・は・ここの・・漁師・・だった・」
「・・・!?」
自分の予測が当たりきりしまは言葉を失ってしまう、そして何故と言う思いが湧き上がる。
「どうしてそんな姿に?」
「それ・・を・聞いて・・もら・い・・たい・・」
聞き取りにくい言葉でその海底魚人は話し始める。
海底魚人、いやその漁師はこの村の人間で、ある日漁の途中に数隻の船に囲まれ、皆拉致されてしまった。
一応海賊らしい格好していたが、漁師達は直ぐにその正体に気づく、連中はとある貴族の私兵達だと。
近くの海域にその貴族の所有する島があり、漁師達は時々その姿を見ていたからだ。
そして拉致された漁師達はその島に連れて行かれ・・・そこからおぞましい出来事が始まった。
漁師達は1人づつ眠らされ、そして意識を取り戻すと・・・皆この様な姿に変えられていたのだ。
そして程なく何故そうさせられたかを知る事になる。
島を所有していた貴族と漁師達をこんな姿に変えた張本人の男の会話を聞いたのだ。
「改造兵士の進捗はどうなのだ博士?」
「ふふふ見たとおりですよ、どうですかこの完成度、水中を自由に行動でき、その力は女神にも劣りません!!」
「そうかこれであの女神どもを駆逐出来る、忌々しい女神どもをな・・・わははは!!」
そうこの貴族は反女神派の人間であり、女神達を排除する為にこんな恐ろしい事を考えついたのだ。
成功に酔っていた二人だが、自我を完全に消去る事には失敗していた事に気づいていなかった。
だから改造された漁師達の何人かはその後島を逃げ出したのだが・・・
「じょ・・徐々に・・自・我は・・消え・・皆・・凶・暴に・なっ・て・いった・・そ・して・・」
そしてついにその1人が人を襲って・・・殺害に至ってしまったと彼は言う。
それがあの若者達の殺害事件だったのだときりしまは気づく。
「絶・望・・した・他の・者・は・皆・自ら・命を・たった・・」
「・・・・」
きりしは彼の言葉に絶句させられる。
「お、俺は・・・あいつを・・なんとか・・し・ようと・・して・・探して・・ここ・に・・」
そこできりしまと遭遇したと言う事だった。
「私達の所為で・・・どうお詫びすれば・・・」
反女神派の仕業と聞いてきりしまは責任を感じてしまう。
「め、女神・様の所為・では・・ない・あの・・貴族・連中が・・悪いのだから・・・」
彼は首を振って否定してくる。
「・・頼み・・がある・やつら・・の企てを・潰・して欲しい・・これ・以上・・俺達・の様な・犠牲が出・・ないう・ちに・・また・始め・る気・・だあ・の貴族・達は・・」
「何て言う事を・・・」
きりしまは腹の底から怒りが沸いて来るの押さえる事が出来なかった。
「分かりました、貴方の願い、このきりしまがお受けいたします。」
本人は意識していないがその姿は正に女神だった。
「感・謝・・する・・あと・こ・れは・・俺の・・個・人・的な頼み・・だ娘に・伝えて・・ほしい・・」
「構いません、言って下さい。」
彼はきりしまの言葉に頷き話始める。
「村・・の宿・屋に・・俺・の・娘・・が・働いて・・いる・・その娘・に俺・が死・・んだと・・伝・え・・て欲・しい・・」
「え、宿屋って雫ですか?」
村にはそこにしか宿屋は無い筈だ、意外な願いにきりしまは驚く。
「知・・っ・て・・いる・の・か・」
「ええ、世話になりましたから。」
色々と気を使ってもらったりした事を彼に話す。
「そ・・う・か・・不思議・なも・のだ・・あ・いつが・俺・達・・を・引き合・わせ・たの・か・もしれ・・んな・・」
彼の言葉にきりしまは頷く。
「こ・・こ・に娘・に・もら・った・ペン・ダン・トを・置・いて・行く・そ・れは・・渡し・て欲・・し・い・」
彼はペンダントを地面に置く。
「分かりました・・・それで貴方はこれからどうなさる積もりですか?」
「こ・・の・まま・では・・俺・もさっき・の奴・の様・になる・・そ・のま・えに深・い海・の底で・命・・を・絶つ・」
その言葉にきりしまは悲痛な表情を浮かべてしまう。
「そ・・ん・な顔を・しな・いでく・れ女神様・俺は化・け物・・のとし・てで・はなく・・人・とし・・て死・にた・い・」
きりしまはそんな彼に、掛けるべき言葉を見つけられなかった。
「最・・後・に女・神様・・に・会え・・てよ・かった・娘も貴・・女・の言・・葉な・ら信・・じて・く・・れ・る・だろう・・励・まし・・てやっ・て欲・・し・い・・」
「・・・分かりました必ず。」
彼は頷くと洞窟の奥へ消えて行く、きりしまが黙ってそれを見つめるのだった。
洞窟を出たきりしまはそのまま海へ飛び上がり沖へ向かう。
「結界解除。」
そうきりしまが呟くと深い闇が晴れる様に消え巨大な物が見えて来る。
それは大戦艦きりしまだった、女神の能力によりこの場所に人々が近付かない様にし隠しておいたのだ。
きりしまは現れた大戦艦の艦橋上に降り立つと鎮守府へ通信を送る。
時刻は真夜中、もしかしてこんごう達は就寝中かもしれないと思ったが、返答は直ぐに帰って来た。
「何か有りましたかきりしま?」
どうやら起きて待機していてくれた様だった、こんごうの映像の後ろにひえいやはるなも居る。
「はいこんごうお姉さま、実は・・・」
きりしまがあの漁師から聞いた事を話す。
「何と言う事を・・・」
こんごうは絶句していた、後ろで話を聞いていたひえいやはるなも同様だった。
「許しがたい事です、女神として見過ごす訳にはいきません・・・きりしま、彼の願いを叶えて上げなさい。」
冷静に見えるがこんごうが激しく怒っているのがきりしまには分かる、第一彼女自身だってそうなのだから。
「分かりましたこんごうお姉さま、ただそこが貴族の、皇王に近い者の領地ですが?」
漁師の話から彼らを改造したと思われる場所が、その貴族の領地だとわかった、彼が皇王の側近の1人と言う事も。
「その点については私から皇王に話しますのできりしまは気にせずとも大丈夫です。」
こんごうお姉さまがそう言うなら大丈夫だときりしまは思った、例え皇王と言えども女神の言葉に従わなければならないからだ。
「きりしま、お前は施設の破壊だけを行なってくれ、そこから逃げ出した連中の対応はこちらが手配する。」
ひえいお姉さまがきりしまに指示する、彼女は沸きあがってくる怒りを抑えようともしない。
「気をつけるのですよきりしま、そして漁師の方の願いを必ず果たして下さい。」
きりしまを気遣いつつ、はるなも怒りを隠さず言って来る。
今回の事に4人の女神姉妹の怒りは強かった。
「はいお姉さま方、このきりしま全力で務めを果たして見せます。」
数時間後・・・
きりしまの操る大戦艦は貴族の島に接近していた。
深夜の星明りさえない洋上を無灯火で航行できるのは女神の大戦艦故だ。
真っ黒でまったく視界無い状態だが、きりしまの目にはまるで昼間の様に見えている。
島には港があり多数の船が止まり、多くの者達が居るが、誰も接近して来るきりしまに気付かない。
「・・・・」
無言のままきりしまは大戦艦の連装砲塔4基を島に向ける。
「それで逃げ出した連中は始末できたんだろうな。」
この島の主、貴族の男は部下を叱咤していた。
「そ、それがまだ・・・」
「何をやっている、これ以上騒ぎが大きくなれば気付かれるだろうが、さっさとやれ!」
「は、はい!」
叱咤された部下達は慌てて部屋を出てゆく。
「まったく役に立たない奴らだ・・・それで博士、計画の進行状況はどうなっているんだ?」
貴族の男は傍らに立つ、よれよれの白衣にぼさぼさ頭の男に聞く。
「順調ですよ貴族様、まあ逃げられましたがサンプルのデータは十分収集出来ましたからね。」
気色の悪い笑みを浮かべ、その男が答える、その姿に貴族は眉を顰める。
はっきり言って近付きたくない男だ、ろくに風呂に入っておらず服だって殆ど着替えていない。
だが頭脳だけは優秀な事は貴族の男も認めている、だからこそそこは目を瞑っているのだ。
「それは結構だが、逃げられては意味が無いではないか。」
「・・・服従が十分で無かったもので・・・今度は完璧にしてみますよ、それで新しい素体は?」
先程からの気色の悪い笑みを絶やす事なく白衣の男が聞いて来る。
「もう少しまて、皇国警備隊が動きだしたらしいからな、下手をして女神共の注意を引く訳にはいかんからな・・・何しろあの忌々しい女共を排除する為だからな慎重期さねればならん。」
この貴族は発言で分かる様に反女神派の1人だ、過去何度も女神達に自分の権益を取り上げられて来た。
「強力な水中兵士、こいつらを海中から鎮守府に送り込む、そちらは殆ど無防備だからな、ふふ女神共の慌てふためく姿が楽しみだ、これで連中を排除出来る。」
もちろんそうなれば皇王や皇国民が騒ぐだろうが、貴族の男はそれを押さえ込む工作も既に進めていた。
そう貴族の男は女神だけではなく現皇王や女神派の人々を排除しようと考えているのだ、つまりクーデターを起こそうと・・・
最終的には自分が皇王の座に着く、貴族の男はそう考えていたのだ、その為金をばら撒き、重要な地位の者を懐柔し、場合によっては自分に賛同する皇国警備隊を使い武力で・・・
しかし貴族は彼の計画が既に女神達に知られている事を知らなかった。
凄まじい振動が襲って来たのは貴族がありえない未来を夢想していた時だった。
貴族と例の科学者は床や壁に叩きつけられる。
「な、何事だ!?」
ふらふらになりながらも立ち上がった貴族が怒鳴る。
「た、大変です!沖合いに大戦艦が、女神の大戦艦が。」
駆け込んで来た配下の男は真っ青になりながら入って来て叫ぶ。
「ま、まさか!?何で女神共が・・・」
同じ様に顔を真っ青にしながら貴族は絶句する。