「次発装填・・・良し発射。」
きりしまの指示に大戦艦に装備された連装砲4基が正確な射撃を繰り返す。
それは貴族の館を掠める様に着弾していた、命中はさせない、あくまで連中を追い出すのが目的だからだ。
そしてきりしまの狙い通り慌てふためく連中は館から逃げ出し、港の船に向かう。
もちろんその先頭を行くのはあの貴族だった、自分の進路を塞ぐものを押しのけながら。
きりしまは館を攻撃するだけで港には手を出していなかった、だがそれは島から1人残さず彼らを追い出す為だったのだ。
やがて貴族とその一味達が島を離れたのを確認し、きろしまはその照準を館そのものに向ける。
「距離良し、射角よし、全砲塔打て!」
きりしまの指示で大戦艦の連装砲4基が砲弾を発射、館は跡形も残さず消滅した。
一方島を逃げ出した貴族達だったが、一時間もしない中に皇国警備隊の艦船に取り囲まれていた。
実はこんごうからの要請で皇王は皇国警備隊を派遣し、海域を封鎖していたのだ、彼らを捕らえる為に。
「お、俺は皇王に連なる地位の貴族だぞ、何でお前らに・・・」
囚われた貴族が喚き散らすが、対応した警備隊長は冷たくこう言った。
「貴方の貴族としての地位は先程剥奪されました、関係者である役人や警備隊の人間も既に捕縛されています。」
貴族、いや元貴族の男は肩を落とし絶望に落ちる、彼の野望が最早絶たれたのだと悟って。
「連れて行け、貴方にはこれから相応の罰が下される、覚悟するんですね。」
そんな隊長の言葉に元貴族は言葉を返す事も出来ず、警備隊員に引きずられる様に連行されるのだった。
「もうこんな時間、起きないと・・・」
宿屋に住み込みで働いている少女は時計を見るとそう言って布団から起き上がる。
父親が行方不明になり途方に暮れていた少女を、宿屋の女将であった女性が住み込みで働き学校に行かれる様に世話をしてくれたのだ。
そんな女将の善意に答える為にもがんばらないと・・・行方の知れない父親の為にも・・・
そう思い着替えを終えて天気を見ようと窓に近寄った少女は、その前に立つ人影に気付き恐怖に襲われる。
「だ、誰!?」
少女のその声に人影は光の当たる場所に歩み出てくる。
「貴方は・・・まさか?」
白いボディスーツ姿で銀髪をサイドテールにした、自分と同じ年頃の少女の姿を見て絶句する。
「女神様・・・?」
「はい、女神きりしまと申します。」
問われた少女が微笑みながら答えると彼女は慌てて膝を付き頭を垂れる。
「貴女に伝えなければならない事があって、ここにまいりました。」
女神の言葉に少女は顔を上げて問い掛ける。
「伝えたい事ですか?」
女神から直接言葉を掛けらると言うのは余程の事が無い限り聞いた事がなかったからだ。
「はい・・・貴女のお父様についてです。」
その言葉に少女は驚きの表情を浮べる。
「お父さんの・・・」
女神は頷き辛そうな表情を浮べながら先を続ける。
「貴女のお父様は亡くなりました、それを伝えにまいりました。」
そう言って女神はペンダントを少女に見せる。
「そ、それは・・・」
自分が父の誕生日に送ったプレゼントだった、少女の目に涙が浮かぶ。
「お父様は事故に合われたのです、そして私が駆けつけた時にはもう・・・」
実際には事故では無く事件に巻き込まれたのだが、それはこんごうお姉さまの指示で秘密とされた。
だから遭難したと言う事になった、他に行方不明になった船員達も含めて。
「お父様を助けられず、本当に申し訳ありませんでした。」
女神はそう言って少女に頭を下げる。
「そ、そんな女神様の責任では・・・こうやって父の形見を持って来て頂いたでけでも感謝しなければ。」
少女は慌てて女神に言う、父親を助けようとしてくれた上に最後を看取り、遺品までわざわざ届けてくれたのだ、感謝する事は有っても恨むなど出来ないからだ。
「感謝・・します女神様、これで私も・・・一歩を踏み出せます。」
少女は涙を堪えながら健気に感謝の言葉をきりしまに掛ける。
「分かりました・・・これからの貴女の人生に幸ある事を、そしてお父様が善天に無事行ける事を祈ります。」
まあ自分の祈り何て大した事は無いけどと、きりしまは内心自虐的に思いながらそう言ったのだが・・・
「はい、ありがとうございます女神きりしま様、そんなお言葉を掛けて頂くなんて、私も父も感謝で一杯です。」
少女はきりしまの言葉に大変感激して頭を垂れてお礼を言ってくる。
「そ、そうですか・・・それでは私はこれで。」
その言葉に少女が頭を上げた時にはもうきりしまの姿を無かった。
「夢・・・?いえ違いますね。」
手には女神様から渡されたペンダントがある、少女は夢では無いと確信する。
「ありがとうございます女神きりしま様。」
少女は再び頭を垂れ、感謝を捧げるのだった。
「それでは形見をちゃんと渡せたのですね。」
大戦艦に戻りきりしまはこんごうに無事終わった事を報告した。
「はいこんごうお姉さま・・・ただ祈りますと言ったら大変感激されてしまいましたが。」
きりしまは少女に掛けた言葉をこんごうにも話し困惑した事を伝える。
「それは当然でしょう、きりしま貴女は女神なのですよ、その貴女が祈ったのですからね。」
「あ・・・」
こんごうに言われようやくきりしまは気付く、自分だって女神に祈りますと言われれば感激しただろうと。
今更ながらきりしまは自分が女神である事を認識させられるのだった。
「兎に角、これで全て終りましたね。」
はるなの画像がこんごうの横に現れ話し掛けて来る。
「はいはるなお姉さま、ご心配をお掛けしました。」
これで全て終りきりしまは達成感と安堵感に浸るのだったが。
「それではきりしま、このまま直ぐに帰ってくるのですね。」
「へっ・・・?」
残念ながらきりしまはこれからが大変だった。
「それじゃもう帰るんだ。」
翌朝、朝飯を持って来た宿屋の少女はきりしまから、直ぐに帰らなければならないと聞かされ落胆した表情を浮けべる。
同じ年代の少女同士(笑)、何だか友人になれた様で少女は嬉しかったのだ。
「はい申し訳ありません。」
きりしまは恐縮した態度で少女に謝る、実はもう何日かは居る積もりだったのだが、そうも行かなくなったのだ。
何故そうなったかのか?答えは簡単だった、様はきりしまのお姉さま達が原因だったのだ。
まずはるなが「このまま直ぐに帰ってくるのですね。」と言い出したのだが始まりだった。
「いえそう言う訳には行きませんはるなお姉さま。」
きりしまとしては偽装とは言え荷物を置きっぱなしな上に、宿代もまだ払っていないのだ。
いくら何でもそのままにはして置けないときりしまは考えたのだが、はるなは納得してくれなかった。
まあその辺はこんごうとひえいが説得してくれたのだが、問題はその後だった。
「それでは偽装の為、後何日か滞在します。」
そうきりしまが言った途端、こんごうとひえいの表情が変わった。
「後何日か・・・」
「・・・滞在します?」
「えっ?」
そうこんごうとひえいは、宿代を払い荷物を回収して、翌日には帰らせる積もりだったのだ、様ははるなと余り変わらなかったのだ。
結局きりしまは翌朝宿代を払い出発する様に厳命されてしまったのだ。
「そうなんだ・・・まあ仕方が無いか・・・」
彼女の都合ではどうしようも無い、少女は溜息を付いて納得する事にしたのだが。
(似ているんだよね・・・女神きりしま様に彼女が。)
朝会った時に彼女があの女神きりしま様にそっくりだと少女は気付いたのだ。
サイドテールにしてはいないが同じ銀髪、何より笑顔が女神きりしま様に重なるのだ。
朝女将から聞いた話では、悪い噂の絶えなかった貴族が囚われ、島に有った館が破壊されたらしい。
皇王に近いその貴族に手を出せるのは女神しか居ない、それに朝早く漁に出た漁師が沖合いを大戦艦が航行しているのを目撃している、とすればこの地に女神が来ていたのは確実だと少女は思った。
それに加え女神きりしま様は自分や父親の事を知っていた、偶然かもしれないが、彼女が自分の境遇を知った事は女将から聞いていた(前日きりしまを囲んだご婦人方の中に女将もいたのだ)。
そう考えると彼女が女神きりしま様だという可能性は高かった、事が済み帰るのだと思えば急な出発も納得が行く。
とは言え面と向かって「女神きりしま様でいらっしゃいますか?」とは流石に聞けなかった。
身分を隠しているのには相応の理由が有る筈だと聡明な少女は考えたからだ。
「それじゃまたのお越しをお待ちしていますね。」
だから少女はあくまでもここに旅行に来た者としてそう言って出発を見送る事にしたのだった。
「はい必ず・・・」
多分2度と訪れる事は出来ないと理解しつつきりしまは微笑んで答えるのだった。
こうしてきりしまの初めての単独任務は終わった。
なお鎮守府に帰ったきりしまにはるなは「帰るの遅れたのはやはり許せません。」と言われ、一緒にお風呂に入り同じベットで寝る事を命じられた。
そしてそれを見たこんごうとひえいまでもが「心配させられた。」との理由ではるなと同じ事を命じて来た事は・・・まあ余談である。
相変わらず鎮守府にはきりしまに対する姉達の愛で満ちていた(笑)。