掌大の小噺   作:サクウマ

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壮大になにか始まりそうで始まらないやつです。


第二編 登場:自機人間組

 

    【かつて人間だったひとでなしどもへ】

 

 

 

 博麗霊夢は目を覚ますと、自身が妖精になっていることに気づいた。

 

「あーたぶんこれ私、妖精になってるわ」

 霊夢は布団の中で、そう呟いた。

 さしたる根拠はなかった。

 しかし、そんな気がしたのである。

 つまり、いつもの勘であった。

「そういえばやけに背中がむずむずするわね」

 そう思って起き上がり背中を見ると、なるほどそこには羽があった。

「羽ってかこれ、陰陽玉だけど」

 どう見ても羽ではなかったが、しかし霊夢の勘はそれを羽と言って憚らなかった。

「まあ、チルノの羽もあれだし」

 そんなもんか、と雑に納得する姿は、なるほど春頭の巫女であった。

「でもどうして妖精なんかに」

「その疑問には私がお答えしましょう」

「出た胡散臭いの」

 霊夢の独り言を拾ったのは、スキマ妖怪こと八雲紫であった。

 いつの間にやらスキマから覗き見をしていたらしい。まったくいい根性してるわね、と霊夢は呆れ気味である。

「やっぱあんたの仕業なわけ?」

「あら、そんなことはありませんわ。これに関しては私は何も干渉していないですもの」

「まあ、そうでしょうね」

 霊夢はあっさりと矛を収めた。もともと妖怪が目の前に現れたからとりあえず尋ねたというだけのことであったし、何より霊夢の勘は紫を元凶であるとは告げていなかったのだ。

「まあこの件については、主犯などというものはいないに等しいのですけれど」

「どういうことよ」

 霊夢は紫の顔を眺めたが、相変わらずの胡散臭い表情からはなにも読み取ることはできなかった。

「妖精とは現象の受肉したもの。その中でも恐れられることもなく、敬われることもなく、ただただそうあるものと認識されたものですの。水が冷えると氷となり、芋虫が蛹を経て蝶となるのと同様に、貴方が出会い頭に妖怪を退治するのも、ある種の摂理として認識されたということですわ」

 霊夢は記憶を巡らせた。見かけた唐傘妖を殴り飛ばしたことを思い返し、通りすがりの宵闇妖に陰陽玉をぶつけたことを思い返し、寄ってきた虫妖を針鼠にしたことを思い返した。

「???」

 そして全くわからないと首を振った。

 それを見て紫は少し微笑んだ。

「そのくらいが貴方らしいわ。それに結局のところ、貴方はこれからもそのままでいればいいということなのですから」

 霊夢は、とりあえず紫の頭頂部にお祓い棒を叩きつけた。そして痛みを訴える紫を放置したままお茶を淹れると、そのまま縁側でのんびりすることにした。

 霊夢には、紫の話は微塵も伝わっていなかった。しかし霊夢の勘は、とりあえずいつも通りに過ごせばいいのだと、そう彼女に告げていたのだ。

 

 

 

 

 

 霧雨魔理沙は目を覚ますと、自身が妖怪になっていることに気づいた。

 

 魔理沙の目に最初に映ったのは、辺りに飛び散った金属片だった。

 数秒の思考の後に、彼女は液体窒素缶の蓋をきっちり閉めていなかったことに思い至った。

 魔理沙は飛び起きて壁に並べられた瓶を検分して、そのうちのいくつかが砕けていることを確認すると、大きく肩を落とした。

 そしてとぼとぼと布団に戻ろうとして、そこでようやく布団に大量の金属片が刺さっていることと、その割に己の肉体には傷一つないことに気づいたのだ。

「こいつは、妙なことになってるな」

 魔理沙は呟いた。試しにそこいらの金属片で指に切り傷を付けてみると、それがじわじわと塞がっていく様子を観察できた。同じ光景を魔理沙は見たことがあった。妖怪の怪我の治り方と同じだったのだ。

「ついに私は妖怪になっちまったのか。参ったなこれは」

 魔理沙は文句を呟いて、それからとりあえず霊夢に見せようと思い至った。

「箒はどこに置いたっけか」

 呟いた時には手に箒が握られていた。どうやら任意に呼び出せるらしかった。

「いよいよもって人外だぜ」

 苦笑いして、魔理沙は家を飛び出した。

 

 そして博麗神社に着くや否や、霊夢に退治されることとなった。

 

 

 

 

 

 東風谷早苗は目を覚ますと、自身が現人神になっていることに気づいた。

 

 当時の彼女は中二病真っ盛りであったから、自分は選ばれし人間であると信じて憚ることはなかった。彼女が神主の家系であることと、家に二柱の神がいること、加えて彼女がその二柱の子孫であるという事実が、彼女の中二病を更に加速させていた。

 そのような状態であったから、ある日早苗が目覚めたときに得体のしれない万能感を感じた時も、彼女は「ああ、遂にこの日が来ましたか」とだけ感じて、その万能感に違和感を覚えることは全くなかった。

「今なら私、空をも飛べる気がします」

 早苗はそう呟いた。そしてそれは強ち間違いではなかった。無論、彼女の言葉も確信に満ちていた。

 しかし、彼女は空の飛び方など知らなかったのだ。

 早苗は二階のベランダから宙へ身を投げ出した。そして自由落下の感覚に首を傾げた。次いで神奈子にその身を受け止められた。

「飛び方も知らないのに無茶するんじゃない」

 神奈子は苦笑交じりにそう言った。早苗はむむむと唸った。こんなはずではなかったのですが、と。

「早苗。私と諏訪子は、新天地を目指そうと思うんだ」

 神奈子は歩きがてら、そう早苗に話して聞かせた。

「この世界に、我々の居場所などもうない。けれど幸い、我々のような者たちを受け入れる場所があると聞いている。我々は、そこに行こうと思うんだ。なあ早苗。お前は、どうする?」

 早苗の答えは、考えるまでもなかった。

「ついていきます!」

 なぜなら、早苗は中二病であったから。

 

 

 

 

 

 十六夜咲夜は目を覚ましても、十六夜咲夜のままであった。

 

 起床。然して時間停止。

 常に瀟洒であるためには、これから起こりうる出来事を事前に知っておくことが肝要である。それが咲夜の考えであった。

 部屋を見回す。特に変なものは見受けられない。うんと伸びをして、念のためにいちいち物陰を見て回る。

 いつもはこれは杞憂で終わる。そもそもメイド長如きの部屋になにかを仕掛ける方が珍しいのだ。当然である。

「あら」

 しかし今日は違ったらしい。

 そこにいたのは、紅魔館が主のレミリア・スカーレット、それにその妹君のフランドール・スカーレットであった。

 なかなかお目にかかれない、仲睦まじげな二人の表情に、咲夜の表情が少しばかり緩む。

「しかしお嬢様も妹様も、こんなところで何をしてらっしゃるのでしょうか」

 咲夜は疑問を抱いて、二人の手に持つ旗のようなものを見て、そこに書かれている文字を覗き込んで、そしてなるほどと得心した。

「もう、そんなに経つのですね」

 咲夜の呟きは、誰にも聞かれぬまま消えていった。

 ベッドに戻り、様子を整えて、目を瞑る。折角お二人がサプライズを用意してくださったのだ。無下にするわけにもいくまいし、何より咲夜は嬉しかった。

「しかし時間を操れると、どうも感覚がおかしくなっていけませんね」

 かくして時は動き出す。咲夜は今目覚めた体で伸びをする。彼女の仕えるお二人が物陰から飛び出して、「咲夜、メイド長就任200周年おめでとう!」と、そう叫ぶまで、あと数瞬。

 

 

 




涙腺がわりあい脆いので、寿命ネタは本当にだめなんです。
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