掌大の小噺   作:サクウマ

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ヤマメ一人称です。


第三編 登場:黒谷ヤマメ 水橋パルスィ

 

 

 

    【つちのしたにて】

 

 

 

「私ね、昔は神をやっていたの」

 

 パルスィが唐突にそんなことを言うものだから、私はひどく驚いた。

 

「……あー、祟神ね」

「違う」

「縁切りとかしてたわけだ」

「違うから」

 

 どれだけ驚いたかといえば、こんな詰まらない冗談しか飛ばせなかったぐらい、と言えば伝わるだろうか。

 

「まあ、神とは言っても今とやっていたことは変わらないわ。嫉妬を食べて失わせるだけ」

「ははあ、夫婦円満の神様ってわけね」

「そういうこと」

 

 そう言ったきりパルスィは口を閉ざした。おおかた昔を思い出して感慨に耽っているのだろうけど、私としては疑問が残る。

 

「でもそれならさ、なんで封印なんかされたのさ」

 

 尋ねると、パルスィはふうとため息をついた。

 

「私からすれば名案に思えたのよね……」

「なにが?」

「嫉妬の養殖」

「よーしなるほどよく分かった」

 

 パルスィは、腑に落ちないと文句をこぼした。

 

 

 

「あれを見てたら、ふと昔のことを思い出したのよ」

 

 パルスィの指差した先には、地底に輝く太陽があった。

 間欠泉異変の後、間接的な方の元凶こと霊烏路空は、いくつかの新しい仕事を与えられることになったという。その一つが、旧都を太陽で照らすこと。毎朝決まった時間に彼女は小さな太陽を打ち上げて、旧都に朝の訪れを告げるのだ。

 

「私は地底に封印されて、信仰も全て失って、ただの橋守まで落ちぶれた。かたやあいつは今や地底の信仰を一身に受けた飛ぶ鳥も落とす太陽神。ああまったく、妬ましいったらありゃしないわ」

 

 パルスィはそうは言いながらも、その顔は実に楽しげだった。

 それを何故かと尋ねると、パルスィは首を傾げて言った。

 

「当然の話よ。ぽっと出の成り上がりが身近にいるなんて、嫉妬を食べる身としてこれほどいいことはなかなかないもの」

 

 

 

 パルスィの感慨に耽っているのを見ながら、私もまた過去を想っていた。

 といっても、私の過去なんてものは平凡極まりない。隠れ住んでいたところを都の貴族に目を付けられ、一族丸ごと殺された。それだけだ。

 その程度の傷など、ここにいる奴なら誰でも持っている。話の種にもなりやしない、なんの役にも立たない過去だ。

 それに比べてパルスィは、と私はちらりと目を向けた。

 神となった過去。やらかした過去。口に出すことこそないけれど、刺激的な半生を送ってきたことが窺えて。

 彼女の弁ではないけど、――私はパルスィのことが、急に妬ましくなってしまった。

 

 

 

「……美味しい」

「パルスィ、なにか言った?」

「独り言よ。気にしなくていいわ」

 

 

 

  ・ ・ ・

 

 

 

「ヤマメはいいやつよ。嫉妬を煽るとすぐ乗せられるし、味もなかなかに上質だもの。それに、何度やっても私の仕業と気付かないのも好感度高いわね」

――――水橋パルスィ 「文々。新聞独自クロスレビュー 地底編」より抜粋




パルスィは倫理観すっぽ抜けてたりさらっと性格悪かったりするといいなと思います。
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