「.....」
ああ。やけに首が痛いと思ったら、座りながら眠っていたのか。
気づいたら店に置いてある、客用の椅子に座ってた。ゆらりと店を見渡せば、それはもう荒れに荒れまくっていて。
俺は先程まで狂乱していたのだと。嫌でも分かった。
「.....汚い」
その言葉は、どっちに向けたものなのか自分でもよく分からなかった。
今の自分の心象風景をそのままに映したような店の風景。はたまた、何度も水で洗おうと取れやしない血塗れの手か。ああ、両方の事を言ったのかもしれないな。
「汚い、汚い汚い汚い汚い」
ゆらりと立ち上がり、洗面台で手を洗う。
洗い流す。取れない。洗い流す。取れない。洗い流す。取れない。
ゴシゴシと洗っているうちに、両手からポリゴンが浮かんでいるのが目に映った。
強く擦ったせいか攻撃判定になってしまったのだろうか。
『お前は今、人を殺したんだ.....!』
「ああああああああっ!!?!?」
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ
気持ち悪い。吐き気が来た。頭が痛い。
あの時のアイツの顔が。呪いのように自分に纏わりついていて。
必死に手を擦る。擦れば擦るほど
「何をしている?」
「───あ、?」
その声に気づけば、ずっと擦っていた左手は自分の手前で止まっていて。
それを止めている腕を辿って見ていけば、よく目立つ赤い鎧が目に入った。
「自分に生の素晴らしさを教えてくれたキミが。自分を殺そうとはどういう事だ?」
「.....茅場、さん..........」
つまり、俺の目の前には聖騎士が居たということだ。
*
「即興で悪いが、コーヒーを作った。なに、GMアカウントで調整しておいた。味には心配無用だ。」
「.....」
彼なりのジョークを言ったのだろうか。生憎だが笑う元気は持ち合わせていない。
何故ここに居る、とかは聞かない。だから早く帰ってほしい。
「.....帰ってほしそうな顔だな。キミの状態を見て帰ると思うか?」
「.....有り得ない、な。何事にも無頓着だったアンタは何処に行ったんだか」
うざったらしい。他人を無機質な目で睨んでいたアンタはどこへ行ったのか。
やめてくれよ。そんな、光が灯った目で俺を見ないでくれ。
「.....なんで此処に居るんだよ」
「近々、75層ボス攻略があるだろう?ただ武器の修復を頼みに来ただけだったのだが.....こんな事になっているとはな。」
「っ.....」
その言葉に俺は詰まらせてしまう。ホントに偶然なのか.....ああ、考えても仕方ない。
「.....俺の事はもういい。早く出て行ってくれ」
「何を言っている。そんな状態のキミを放っておけるわけないだろう。」
「チッ.....アンタには関係ないだろ。これ以上関わんな」
イライラする。なんでこんなにも構おうとしてくるんだよ。
私には関係ないって言えよ。お願いだから気にかけないでくれ.....!
「全く.....これ以上ない程に捻くれているな。」
「あァ───ガッ!?」
ため息が聞こえたかと思えば、俺は頬を打たれていた。
世界が動いた。いや、実際そうなのだが、何と言えば良いのか.....心が動いた気がした。
「人を殺しておいて何を迷っている。何を後悔している。キミが殺したのは悪だったのだろう?悪は殺してはならない、そういう甘い考えでも持っているつもりか?」
「ッ.....で、でも、悪とかそれ以前にアイツは人間で......」
「それがどうした。もしも、彼を殺していなければ。それはつまり───」
それだけ言って少し間を置き。
彼はこう言った。
「───彼女達に危険が及んだのではなかったのか?」
「!」
その言葉を聞いて、俺はハッと顔を上げた。
目には、やけにニヤついた彼の顔が映っていて。俺の目を見てから、頭に手を置いた。
「なんだ、それで戻ってこれたのか。ここまで愛されているとは、彼女達を救った甲斐があったというものか。」
「......俺は、間違っていなかったのか.....?」
「うん?ああ、それはキミが決めることだ。彼を殺したことを背負って生きていくのか、それとも自分のやったことは間違っていないとするか。どちらもキミの選択の自由。私が決めることではない。」
すると彼は立ち上がり、俺の前に剣を差し出してきた。
.....ん? “剣”?
「その状態なら大丈夫だな。では、剣の修理を頼むよ。」
「え、あ.....お、おう。」
戸惑いながらも了承すれば、彼はツカツカとカウンターの方へ歩いて行った。
.....なんというかなぁ。実際、俺は立ち直れたんだけれども。
「.....マイペース過ぎるんだよ.....」
そんな事を言っている俺の口は、三日月を象っていた。
「───ん。これで良いだろ。」
「うむ。」
数分後。まるで新品のように見えるそれを投げ渡す。
彼は難なく受け取り、少しじっくりと見てから鞘に直した。
「では、行ってくるよ。」
「おん。行ってらー ───ああ、ちょっと待て。」
「む?」
ドアノブに手をかけた彼に一声かけて、振り向かせる。
俺は手に持っていたお守りを投げる。顔辺りに投げたのだが、流石は騎士様。上手く掴みやがった。
「.....これは?」
「一定の確率で防御アップ。前に探索行ったらたまたま見つけたんだよ。
.....今回の礼だ。それはアンタにくれてやる。いつか死にそうだからなぁ。」
流石にそれはないと思うけど。まぁ、念の為だ。
自分の心を取り戻してくれた恩人に死なれても困るからな。元より死なせないつもりではあるが。
「ふむ.....ありがとう、とでも言っておくか。そんな事態は起こらないと思うがな。」
「そーですかい。ま、次も来るんだな。アンタも数少ない常連客の1人なんだからよ。」
「ああ。そのつもりだ。」
それだけ言えば、彼は店から出て行った。
さて、今は昼前。仕事盛りの時間だ。
「.....片付けますか。あーあ、面倒くさいなぁ.....」
この日──2024年11月7日。
この9時間後に、あるアナウンスが流れた。
『ゲームはクリアされました』、と。
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「..........」
次第に、閉じられていた瞼が開いていく。
昏い目に映ったのは、白い天井。自分の家ではない事、すぐに分かった。
恐らく病院か──。腕に感じる違和感を感じながら、俺はふと左の方へ顔を向けた。
「───。」
「.....ぁ、ぃぉ...........ぅぅ、ぃ......」
そこには、俺の顔を見て、口元に手を当てている双子の姉と。
すでに涙を流している双子の妹が。
つまり───ずっと会いたかった彼女達が、目の前にいたのだ。
「ぁ......う、ぁ.....!」
「!」
二人して胸元に飛び込んできた。
激しい痛みが襲ってきたのだが、そんなものは無視して。感じなくて。
上手く動かせないが、なんとか両手をそれぞれの頭に置いた。
「ぁ.....ぃ.....あ.....」
「おかえりなさいっ.....おかえりなさい.....!」
「にいちゃん.....!にいちゃんが、帰ってきたぁ.....!」
ちゃんと言えなくてごめん。
後でちゃんと言うからさ。今は心の中で言わせてくれ。
ただいま。藍子、木綿季。
イエモンのライブ行って来ました。
ヤッベェ。初めて行ったんだけど、イエモンで良かったわ。(小並感)
これにてSAO編は終了です。
次回からはALO編が始まります。イチャイチャ話もありまっせ。グフフ。
.....それにしても、なんか無理やり詰め込めた感がしてならない。
ちゃんと出来てますかねぇ?
では、次回もお楽しみに。
感想・誤字報告、受け付けております。
更新どうするのだぁ
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週1ペースでぇ
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月1ペースでぇ
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他作品メインだぜぇ
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すたぁばぁすとすとりぃむぅ