私を魔王軍参謀と知ってのことか 〜訳あり魔族は幼女を拾って養育するようです〜 作:サンボ
紅茶と菓子を嗜む勇者一行。あれから毒の混入が無いことをマユが体を張って証明してくれたため、ようやく和解へと進むことができるのだった。
「それで、実はご相談がありまして、一度勇者さんには退いていただきたく……」
「ええ! 退くわ、退きます!」
「えぇ? えっと……」
「良いのかよ、ここまでせっかく来たってのに」
「来るだけならいつでもできるじゃない、ほら行くわよ!」
彼女はセシウを引きずりながら「また来るわね!」と去っていった。ご丁寧に菓子の箱を掴んで攫っていく。
それに続いて他の面々も後を追いかけていなくなった。
「……嵐みたい」
いつの間に食事を終えていたキノミが彼らを見送りながら呟く。全くその通りだ。
しかし「また」って、一体次は何しに来る気なんだ。
「あの、お父さん……」
「はい、どうかしましたか?」
私は応えるが、キノミは先程と同様に首を振って否定した。
「ごめんなさい、本当はお父さんじゃないって知ってたの。でも、同じ匂いがしたから」
少女は僅かに目を伏せる。同じ匂いとはどういうことだろう。まさか本当に匂いがするわけではないだろうし、同じ系統と感じ取ったということか。
「謝らなくて大丈夫ですよ。私も奇妙な体験に少し楽しまされましたから」
「……ほっ」
キノミは安心したように息をついた。
「それにしてもキノミさんは可憐に成長されたようで。顔をよく見せてください」
「あっ、うん」
彼女は頭巾を頭から外し、私を見つめてくる。
頭には傘の広い白いキノコが生え、帽子のような一つのチャームポイントになり得ている。
そして彼女ら「
そんなキノミの顔に友の面影が感じられ、懐かしい思いに胸が熱くなった。
「思えば10年ほど会っていないことになりますね。メシウルムは元気でやっていますか?」
「お父さんは……死んじゃったの」
「っ! なんと……」
あの病弱だが人の良いメシウルムが、既に亡き人となっていたとは……多忙を醜く掲げて顔を見せに行かなかった自分が恨めしい。
紙での連絡だけは何度かしていたため美しい配偶者と可愛い愛娘の自慢話だけはいつも聞かされていたが、つい羨ましさと妬ましさ故に直接の再会を先送りにしていた。
「これが私の醜悪な心ですね……」
「あの、お父さんが最後に「娘を頼む」って」
キノミは悔やむ私を心配そうに見つめる。いけないな、こんな幼い子供に心配されるようでは。
しかしたった一人の大切な娘を私に任せるとは、余程信用できる相手がいなかったと見て取れる。
それでも彼とは魔王城赴任前にはよく話をした仲だ。その親睦が表に現れて、キノミは私を父と勘違いしたのかもしれない。
「しかしこんな遠くまでよく……まさか一人で?」
少女は首を振る。
「途中までお父さんもいたけど、馬車ごと襲われて……」
彼女は怯えるように体を震わせた。
襲われた……? そうか、私はなぜ気づいていなかったのだろう。娘を外部の人間に頼むということは内部と何らかの柵があり、ひょっとすれば一族だけでなく国を敵に回してしまっているのやもしれない。
あの女、美しさの裏に冷酷さを潜めていると思ったがついに行動に出てきたか。
「怖い中よく頑張りましたね」
とはいえ震えているキノミを放ってはおけない。私は彼女を撫でながら出来る限り柔和な笑みを浮かべるよう努めた。
すると少女は寄りかかって私の肩で泣き出した。きっと今まで堪えていたのだろう、私は背中をさすって宥め続けることにしたのだ。
「しかし、これは一度出向かなくてはいけませんかね……」
キノミは寝付いてしまい、半ば独白のつもりだったのだが、それでも聞こえていたのか彼女は、
「ん……どっか行っちゃうの?」
「いえ、本当はすぐにでも見にいきたい所ですがお仕事がありますからね」
視察程度ならば部下に一任することも可能だが私的な用事に付き合わせるのも申し訳ない。
ここはやはり私が直接足を動かすしかない。そのためにも、まずは休暇を貰わねば。
「ん? その可愛い少女は誰だい?」
「友人の娘でして、訳あって引き取った次第です」
「へぇ、キノミちゃんっていうのか……キノちゃんね」
魔王様は私の服を掴み隠れる少女の顔をしばらく眺めると、納得するように頷く。ある程度の思考を読み取れるらしい魔王様の恐ろしい性質だ。
情報収集に非常に有用なため、いつかはお力添えいただきたいと思っているが、中々頼みにくい相手なのでこうして思考するまでに留めている。
「あのさあ、期待を込めた視線を向けないでくれるかな? …………はあ、わかったよ。いつか協力することを約束するから」
「はっ、光栄に存じます」
まさか魔王様が折れるとは思っていなかった。粘ってみるものだ。
「……それで、此度は休暇を5日ほどいただきたく参じたまでで」
「ああ、全然構わないよ。そうだね、せっかく遊ぶんなら遊園地にでも連れてってあげなよ」
「ええと、いえ、そういうわけでは……」
「ああ、それから出掛ける前に少し頼み事を引き受けてほしいんだけどさ」
魔王様は私の否定を聞き受けずに自身の用件を話す。きっと私の考えを理解しているだろうに、悪戯心がすぎる。
「分かりました。条件として受け取りましょう」
「そりゃ助かるよ。実は、獣国の王であるリロンくんは7種のキノコを使ったスープが好みらしくてね。次の会談で調理して出させようと思うんだ」
ほう、あの獅子、むやみやたらに肉ばかり食べるのではなく意外にも美食家だったか。
「ところが、在庫を切らしてしまっているらしくてさ、貴重なものだしすぐに取り寄せるのも難しい。そこでちょっと採集してきてもらいたいんだ」
「えっと……私ですか?」
「そう。自称参謀である君に」
「別に騙ってませんから!」
私が何を言おうとしているか分かっての発言なので、魔王様はつくづく意地の悪い方だ。
ついでに言えば魔王様はその先までお見通しだったようだ。
「……マイタキの事が知りたいなら、まずはその子から聞くといい」
マイタキとはメシウルムの妻であり、キノミの母である存在だ。今回の騒動の裏にはやはり彼女がいると見て間違いないが、私情が混ざるばかりに思案に現れてしまったか。
「有り難く存じます」
「あ、そうそう。帰りに日用品店に寄っていってよ。きっと役に立つものがあるだろうからさ」
「は、はあ……」
私は魔王様の配慮に感謝しながらその場を後にした。
「ああ、魔王様から話は聞いてるよ。あ、名前出したら駄目なんだっけ。ともかく、はいこれ」
私は店員に布袋を受け取る。中々にボリュームがあるようだが一体何が入っているのだろう。
「っ! ……これは」
私が中身に驚愕していると、キノミがくいくいっと私の服を引っ張る。
「ぱんつ、びしょびしょ」
そして外套のようになっている裾を捲りあげこちらへ提示しようとするので、私は今世紀最大の慌てようを見せるはめになった。
「ちょっ! 捲らないでください!」
何とか露わになる前に押さえつけることに成功したが、もはや今の行為ですら危うく捉えられるだろう。
私は首を傾げるキノミにため息をつき、その手を静かに離した。
「魔王様、私にどうしろと……」
袋の中にはあたかも私を挑発するように、パステルカラーの幼女用の下着と衣服がそれは丁寧に納められているのだった。