私を魔王軍参謀と知ってのことか 〜訳あり魔族は幼女を拾って養育するようです〜   作:サンボ

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決闘

 戦いの火蓋は切って落とされた、と考える間もなくユシアスは踏み込んだ足で地を蹴り、私へと肉薄する。

 後ろからは「手加減はいらないからね。最悪殺しちゃっても隣町で復活するし」とマユの緊張感に欠ける声がとんでくる。

 

 もちろんそのような余裕などない私は、冷や汗をかきつつも防御結界でユシアスの剣を防ぐ。

 

「セキュリア!」

「あら、こんな時に他人の心配だなんて随分余裕なのね」

「これが余裕なものですか!」

「うーん、残念。まだ違うのね。ま、キーちゃんなら任せといて」

 

 瞬間、キノミとともに姿を消すように闇に紛れるセキュリアを見届け、勇者から一度距離を取るため後ろへ跳躍する。

 この時ばかりは彼女にも感謝しよう。

 

「やっぱり、この程度じゃ駄目みたいですね。なら、本気で行かせてもらいます。……『烈火の鼓動』」

 

 彼は苦笑した後に胸に手を当てると、淡く光を放ち始める。勇者にのみ許された特殊な魔法は、その者の身体能力を3倍以上に引き上げるなどという、ふざけた技だ。

 

 さらに速く、床をめくりあげるようにして踏み込んだユシアスが私に迫る。続けざまに放たれる剣撃。

 直に受けるのは得策ではないと思い、防御結界上で剣身を滑らせ全て受け流した。

 

「『身体強化・敏速』」

 

 勇者の魔法に比べれば、こちらは微々たるものだが私も魔力による補助を受け付ける。しかし筋力や魔力の底上げはいらない。

 この私にとっての力は知性であり、武器は言葉なのだから。

 

「烈火の鼓動とは、聞き覚えのない魔法名ですね」

 

 ユシアスの剣を捌きつつ、すれ違いざまに尋ねてやる。すると、途端に歯切れが悪くなるのだった。

 

「あっ……その、勇者だけが使える魔法で……」

「それにしても違う名だったような……もしや、ご自身で考えたので?」

「えっと……はい」

「なるほど、しかしどのような意図で烈火の鼓動と? まさか字面の良さだけで決めるなんてあり得ませんし」

「ぐっ……うう……」

 

 私の言葉を受け、ユシアスは苦しそうに唸る。しかしそれでも攻撃の手は緩めないのだから、大したものだ。

 

「くっ、この精神修行だって、乗り越えてみせます……!」

 

 彼は食いしばるようにして、決意の目をこちらに向けてきた。この程度では折れないか。流石は勇者、と言ったところか。

 しかし確実に精神にはダメージが入っている。こちらもここが耐えどころだ。

 

「烈火の鼓動。素敵な名だと思いますけどね。こう、掴みどころのなさというか、妙に面白みがあります。……さて」

 

 ここらで、奥の手を一つ見せておこうか。いや、私も既にそこまで追い込まれているということだ。余裕の態度は見せていられない。

 勇者がもう少し速く剣を動かしていれば斬られていた、そういう場面が数度あった。

 

 しかし不思議だ。それならそれで彼も速く動けばよいのに、なぜしないのだろうか。もう3倍速くするくらい訳ないだろうに。

 

 まあいい。運が味方をしていると思って、今回はそれに甘えさせてもらおう。

 

「『投影』」

 

 私は魔力を手のひらから霧状に噴出させ、その上に人物像を立体に描いた。

 

『はあい、ユシアスちゃーん。頑張ってる?』

「なっ、マっ……母さん!?」

 

 その人物こそ、ユシアスの母こと勇者ママである。

 

 

 勇者になる人物には、実は法則がある。

 それは、親が一人、または義理であることだ。

 

 幼い頃から親の苦労を見てきた勇者候補の少年少女は、その姿を見て『助けになりたい』と切に願うようになる。

 その願いはやがて大きくなり、その対象も村人達、国、世界へと大きくなるのだ。この願いの大きさこそが、勇者の強さの根源である。

 

 しかし、どこまで大きくなろうとその核にあるのはやはり親だ。故に、親という存在は勇者にとって最大の弱点となる。

 

『――でね、この前スブュイさんにはちっちゃい頃のユシアスちゃんの話を聞いてもらったのよ。昔はこーんな、可愛かったんですからってね? もちろん今も十分、可愛いままだけどっ』

「もう、もうやめてよママぁ……」

『あら、まだ話し足りないわ。毎日手紙をもらってるけど、こっちからは連絡ができないもの。でね……』

 

 とまあ、勇者の戦意を完全に削ぎ、涙目になったところでそろそろ解除してやろう。

 そして膝から崩れ落ちるユシアス。効果は絶大だったらしい。

 

 ここで追い打ちをかけるとすれば、今のヴィジョンは私が作った偽の母君だと耳打ちしてやることか。本物にならまだしも、別のモノに自分の弱さを見せ、その上で他人にも知られてしまったと聞いたらどんな絶望を見せるのだろうか。

 

 しかし今のはちゃんと本物のユシアスの母であったし、私も鬼ではないのでそんなことはしないが。悪魔ではあるけども。

 

「ふ、ふざけんな。まともにユシアスと戦ったら勝てないからってよ……」

「当然です。あなた方だってドラゴンのような強敵は四人がかりで討伐するでしょう。私の場合、それを精神攻撃で補っているだけです」

「……いや、まるで歯が立たなかった。実力の底が見えないって、そういえばこういう感覚だった、って思い出したよ」

「実際に目にすると、魔王討伐なんて絵空事みたいに思えてきたわ。ええ、きっとそうなんでしょうね。それくらいの実力差だったわ」

「彼に対する観念の払拭不能。こんなこと、信じたくないです……」

 

 彼らの、私への視線にいつもとは違う感情が宿った気がした。これは……恐怖か? 冗談じゃない。私の方こそ、いつ殺されるか恐れていたというのに。

 

 いや、これはむしろ利用すべきだな。もう二度と彼らとは会わないようにするために。

 

「少し、話をしませんか」

 

 

 

 神妙な面持ちの勇者一行を招いて、いつもの食堂へ。先立って席についていたセキュリアとキノミが手を振るのを頷きで返し、私もユシアス達を伴って座る。

 

 そもそも我々には人間界へ侵攻しようだとか、彼らを支配しようなどという考えはない。あるいは昔の魔族や一部の過激な思想を持つ者ならあり得るかもしれないが、前魔王の打ち出した規定により今は人にも同族にも危害を加えてはならないことになっている。

 

「でも僕達の村には魔物が度々現れます」

「道を外れた者は自力で生きる術を持ちません。そういう者達が食糧を求めて人里を襲ったりしているのでしょう。人間だって同じではないですか」

「そちらの管理不足を追及します」

「この件には魔王様は一切関与していませんよ。彼らは私達をも襲うただの賊ですし、人間を襲った者の処罰を拒んだのもそちらの方ですしね」

 

 争い合った因縁故か、人間は未だに我々を信用できないのだろう。その件でも、謝罪を入れたいとは私個人としては思っているのだが、彼らの中枢部までは説得が滞っている。

 

 しかしそれでも復讐だと言わんばかりに勇者を派遣してくるのは、また違うのではないだろうか。

 

「というか、あなた方はここでは賊としての扱いなんですけどね」

「えっ」

 

 無条件で武力を以てして攻め入ってくるのだ。当然の扱いだろう。

 同時に賊という言葉で、人間の国家が関わっていない事を示唆している。事を大きくすれば恨みつらみの類も大きくなるので、魔王様もそれを避けたいのだろう。

 

 ただ、その賊は魔王様くらいしか手がつけられないほど、戦力には差があるのだが。

 

「……少なくとも魔王様には、こちらから人間に手出しをしようなどという気はありません。この城を攻めることは無意味どころか事態を悪化させるだけなんですよ」

 

 それと不当な扱いを受けたくなければここに長く留まらないことです、と釘を差しつつユシアス達に視線を向ける。しかしそれは交わることはなかった。目を伏していたためだ。

 きっと彼らも彼らなりの理想を掲げてここへ来たに違いない。その理想と現実とのギャップに心揺れているのだろう。

 

「……できれば魔王城攻略から身を引いていただけると――」

「分かったわ! 根の深い話みたいだし、一筋縄ではいかなそうね。ここは一度退かせてもらうわ」

「分かっていただけましたか」

 

 ん? 今「一度」と言ったか?

 

「また詳しく聞きに来るわね! じゃあねっ」

 

 そう言って「『帰還魔法』」と唱えて姿を消す。これ以上彼らにするような詳しい話などないが、一体どういうつもりなのか。

 

 よし……旅に出よう。

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