ねぇ、こっちにおいで?   作:Mr....

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寒いですね。
人肌が恋しい。
出来れば想い人の肌が...
いないので、布団ちゃんの温もりに包まれようと思います。

こんにちは。Mr....です。
ちょっとダークな展開から打って変わって...
という内容です。
ついにあの人が...!
今話もよろしくお願いします。


desire 6

desire 6

 

 

猛は無事退院し、仕事にも復帰した。店長が根回しをしてくれてたおかげで、あの話をしてくるスタッフは今のところいない。時折思い出すことはあるが、耐えきれずに仕事や生活に支障が出ることもなく、経過良好。前と同じように日常を送ることが出来ている。あの女も出てこない。変わったことと言えば、

 

 

女先輩「あっ!アァん!...猛、くんっ、ンンっ!」

 

 

猛「はぁ!はぁ!、んっ、 はぁ!」

 

 

猛は先輩スタッフと付き合っていた。猛が退院してきて1週間経った頃に先輩スタッフが告白してきた。猛は誰でも良かった。よく分からない、整理の出来ない気持ちから遠ざけてくれる人。都合良く先輩が告白をしてきたので、好意はなかったが、付き合うことにした。

 

 

それに加え、猛はなにかを探しているかのように、身体の繋がりを求めるようになっていた。一時の快楽。愉悦、その行為に対して今までは蔑むような目で見ていて、退廃的な繋がりだと否定し嫌い避けてきた行為。誰でも良かった。自分を見てくれる人なら誰でも。

 

 

今まで持ち続けていたであろう純粋な想い。変わることがないと思っていた美夜への想いは、歪んだ感情によってねじ曲げられてしまっていた。必要とされたい、求められたい、愛されたい。見返りがほしい。今まで抑えつけていた欲求が猛を変えていた。

 

 

女後輩「猛くん...好きよ......」

 

 

猛「なんか今まであしらってたみたいで、僕も好きです。」

 

 

女先輩「ううん、私もしつこかった、よね。猛くん顔には出してなかったけど、嫌だった?」

 

 

猛「そ、そんなことないですよ!僕もどうしていいのか、わからなかったから...」

 

 

女先輩「なら、2人とも一緒だね!えへへっ」

 

 

本当に好きかどうかは分からない。ただ自分を求めて欲しい、ただそれだけ。求められれば応えるし、なければそれまで。けれど何故か満たされない。何故満たされないのか、ずっと考えても思い浮かばない。満たされたい。どうしたら満たされるのか自分勝手な葛藤だった。

 

事を終えた2人はそのまま裸で抱き合いながら、ホテルのベッドの上に横たわる。猛の隣で魅力的な先輩は可愛らしい寝息を立てて眠っている。

 

猛「はぁ...。俺、何がしたいんだろ。」

 

 

恐らく美夜なら、こう言うと想像する。

 

 

美夜「なんか、今日は乱暴な気がした。」

 

猛「乱暴?ごめん、痛かったかな?」

 

美夜「ううん、そうじゃない。良かったよ。でも...」

 

猛「でも?」

 

美夜「自分から人を求めるなんて、猛らしくないって思う。」

 

猛「ん?ごめん、なんのこと?」

 

美夜「猛はいつも尽くしてくれる。私が求めれば、いつも尽くしてくれる。それは嬉しいよ。」

 

猛「嬉しいなら、なんでそんな事を?」

 

美夜「それは猛が自分の気持ちをまっすぐ私に届けてくれるから。でも、今日は届けるから、お返しが欲しい、うーん、上手く言えないけど、見返りが欲しかったのかな。」

 

猛「そんな風に感じてたの?」

 

美夜「見返りを求めず、まっすぐに気持ちを届ける猛が好き。」

 

猛「よく分からない...ごめん。」

 

美夜「謝ることじゃないよ。だって......」

 

 

なんてことを美夜なら言うのだろう。忘れようにも忘れられない。猛の愛する人は後にも先にも美夜だけ。この人は自分にそんな言葉をかけてくれない。かけてくれるかもしれないが、心のどこかで期待していない自分がいる。「だって...」のその先の言葉。猛が欲しがっているもの。

 

 

女先輩「ん、ふぁぁ、寝ちゃった…」

 

 

猛「可愛らしい寝顔でしたよ」

 

 

女後輩「こんな無防備な顔、誰にだって見せてるわけじゃないんだからね!」

 

 

猛「そうなんですか??私も経験それなりって…」

 

 

女先輩「それは...猛くんが思わせぶりなことを言うから…」

 

 

猛「そ、それは、すみません...」

 

 

女先輩「でも、いいの。」

 

 

猛「なんでです?」

 

 

女先輩、美夜「「私を見てくれてるから」」

 

 

猛「え?」

 

 

女先輩「あの時も、私を困らなせないように、本当は引き止めて欲しくなかったのに引き止めてしまった私に猛くんなりの気を使ったんだよね。」

 

 

猛「え、い、や、そんなつもりじゃ、」

 

 

女先輩「じゃなくても、でもその後にご飯に誘ってくれた。すごい嬉しかったの。」

 

 

猛「そう言えば、とりあえずは先輩も引き止めるのを辞めると思ったので…...あ、すみません。」

 

 

女先輩「ふぅ〜ん。でも、いいの。私ね!すっごい真剣に悩んだの!猛くんに勧められそうなお店ホントに知らないから!でも、ここならいいかな?とか考えてるだけでも楽しかったし、嬉しかった。」

 

 

猛「どうしてですか?」

 

 

女先輩「そんなの、女の口から言わせるの??」

 

 

猛「あ、すみません......」

 

期待なんて本当に僅かなものだった。先輩が言った一言。恐らく美夜なら言う一言と重なって聞こえた。「私を見てくれてるから」。先輩にはそういう風に見えていたことを初めて知った。そんなつもりはなかった。猛は動揺していた。先輩と付き合ったのも、自分の欲求を満たしたいから、満たしてくれるなにかを探していたから。自分の都合と、相手の想いを良いように繋げて、自分の目的だけで相手のことなどこれっぽっちも見てなかった。

 

 

あの女から与えられた恐怖で美夜への想いを忘れ、ぐちゃぐちゃにかき混ぜられた気持ちは、猛をさらなる孤独に誘っていた。あの女がそれを望んでいるかのように、静かに確実に誘われていた。けれど、この人の気持ちを聞いてしまった。見た目はチャラけて、決して賢そうな印象もなく、そこら辺にいる欲望に忠実な女にしか見えないこの人の猛に対しての想いは、猛が思ってる以上に強いものだった。

 

 

猛「僕がほっといて欲しいって気持ちに気づいていたんですか?」

 

 

女先輩「うーん、ほっといて欲しいってのはわからなかった......けど、猛くんいつも寂しそうだったから...」

 

 

猛「寂しそう?」

 

 

女先輩「なんだろう。理由は分からないんだけど、なんか寂しそうだったから…...」

 

 

猛「どうしてそう思ったんですか?」

 

 

女先輩「分からない。けど、猛くんがうちのショップに来てからずっと思ってて、なにか出来ないかな、1人にしないようになんでも良いから話しかけなきゃとか、休み合わせて遊びに行ったりとか、ずっと気になってて、気づいたら猛くんのこと好きなんだ私って。

 

だからしつこいくらいに猛くんに寄ってみたけど、猛くんは私を見てくれなくて、......だから...ぐすっ、...猛くんから私と付き合って欲しいって言ってきてくれた時、本当に嬉しかったの...ぐすっ、ご、ごめんね?...泣いちゃって、なんか、...ら、らしくないよね…...。」

 

 

先輩は泣いていた。自分に出来ることならなんでもしたい。猛に寄せていた想いはまっすぐで、思わせぶりな仕草をしてみたり、無理やり引き止めて猛に話しかけたのも、全て彼女の好意ではなくもっと深い、猛に対しての想いがそうさせていた。どうにも届かない気持ち、軽くあしらわれる想い、それでも彼女は諦めなかった。

 

 

猛は自分の愚かさを初めて思い知った。美夜への想いが強すぎて自分の世界に閉じこもって、他人からの干渉を忌み嫌ってきたこと。自分の全てを美夜は知っていたのか、そうじゃない。猛が勝手にそう思っていただけで、美夜が知らない猛もあったはず。なのに、どうしてそれが当たり前のように思って今まで生きてきたのだろう。

 

 

それは美夜が猛を見ようとして、美夜が見ている自分が全てだと入り込みすぎていたことに、先輩の気持ちを聞いて初めて感じた。この人が見ている自分は、美夜が見ていた自分とは違うかもしれない。けれど、自分を見てくれることに変わりはない。なのに、自分のことばかり考えていたことに大きな後悔を感じる。

 

ただそれはあの女の所為もある。あの女と今の猛は似たようなことになっている。見てほしい、求めてほしい、感じてほしい。自分が求めているものを相手に押し付けて、傷つけられたことさえ、いいように解釈して、喜びを得ようとした。

 

この人なら、もしかしたら。受け入れてくれるのかもしれない。醜い自分の目線ですら大切にしようとしてくれているこの人なら。

 

 

猛「あの......先輩。名前で呼んでもいいですか?」

 

 

女先輩「え??......、う、うん、そうして欲しい。猛くんがそうしたいなら、」

 

 

猛「陽奈さん。」

 

 

陽奈「猛くん?どうしちゃった?あ、寂しくなっちゃったの?よしよし、お姉さんに甘えなさい!」

 

 

猛「ち、違いますよ!恥ずかしくなるから、そういうのはやめてください!」

 

 

陽奈「なぁんだ、違うの...ふふ、でもいつでも甘えていいからね?」

 

 

猛「でも、そういうの苦手で...」

 

 

陽奈「じゃあ、私が甘える。そしたら猛くんも甘えてくれる?」

 

 

猛「どうして、僕みたいな人にそこまでしてくれるんですか?」

 

 

陽奈「んー、好きだから。じゃ、ダメ?」

 

 

美夜も似たようなことを言っていた。何故、自分みたいな人間にそこまでしてくれるのか、ほっといてくれたらいいのに、好きだから。愛しているから、理由は他にいらない、と。

 

猛には理解出来ない。何かをするには理由がつくもの、なのにそんな簡単な理由で何かをしてくれる、出来るようになる力。何が人をそうさせるのか、猛には分からないままだった。けれども。

 

猛「陽奈さんがそれでいいのなら、、、」

 

 

陽奈「私はこれがいいの。」

 

 

猛「ほんとに?」

 

 

陽奈「本当。そしたらもう、猛くんを誘惑したり、しつこく迫ることもしなくていい。猛くんが寂しさを少しでも忘れられるなら、私はそれがいい。」

 

 

猛「陽奈さん...」

 

 

陽奈「猛くん...」

 

まだ好きかどうか、愛してるのか、愛されてるのか、猛には分からない。分からないなりに、この人の気持ちに応えてみたい。時間はかかる。けれど、自分でこじらせて変に変わるくらいなら、この人が変えようとしてる自分を受け入れてみたい。猛はそんなふうに思う。

 

2人は抱き合う。今は暗くて、寒くて、静かな夜だけど、明るくて、暖かくて、愛でるような光が2人に降り注ぎ始めていた。





古川 陽奈
25歳 ♀
職場の先輩
猛に恋心を抱いている。見た目はチャラけていて軽そうな印象を持たれがちだが、寂しそうな猛を1人にさせないように、言動や容姿に気を遣い、なんとか気を引こうとしていた実は他人思いな優しい人。

最近猛に告白をしてOKをもらい、ようやく恋人になれた。けれど猛の寂しそうな様子はあまり変わらないため、逆に恋人としてどう接していいか分からないのが、最近の悩み。
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