邂逅 -ワールドトリガー-   作:ぱぷりかーしゅ

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A級9位 平 火乃音(たいら かのん)の物語。
おまけ的なお話で、東さんと会話してるだけです。
背伸びしたがるお年頃。


東という男

 新入隊員の指導演習を終えた火乃音(かのん)は、夜間の防衛任務までの数時間を持て余していた。

 誰かしらA級が捕まるだろうと思ったのに、ロビーには誰もいなかったのだ。まさか訓練生やB級を相手に遊ぶ訳にもいかなくて、あてどなく基地内をさまよっていると、ジュースを買っている東春秋を見つけた。火乃音の顔がぱっと明るくなる。

「東さん!」

 手を振り駆け寄ると、東は「よう」と笑って買ったばかりのコーラをくれた。両手を伸ばして大事に受け取る。

「へへー、あざす」

「新人の案内おつかれさん。疲れたろ?」

「全然っすよ」

 プルタブを引き、冷えた液体を流しこむ。しゅわしゅわの炭酸が喉に染み渡った。

「んま〜い」

「はは。飲ませがいあるなあ」

 笑いながら、東は自分用のコーラを取り出した。

 彼の方も新人指導はひとまず終わったらしい。

「やばかったすね、アイビス砲」

 水を向けると、東が苦笑した。

 ボーダーの基地が出来て四年。東も火乃音も同期入隊の古株だが、アイビスで壁をぶち抜いたという話はちょっと聞いたことが無い。

 よほどのトリオンの持ち主なのだろう。

「トリオンいくつでした? あの子」

 問いに東が首を振る。

「分からない。玉狛で測定してるはずなんだが、報告がなくてね」

「……迅か」

「おそらくな」

 なにかと秘密を持ち、暗躍したがる男の顔が浮かぶ。空閑といい修といい、玉狛の隊員はなかなか謎が多そうだ。

「玉狛からもうひとり新しいのが来たんですけど、知ってます?」

「バムスターの戦闘訓練で一秒切ったって子だろ?」

「さすが。めっちゃいい動きしてましたよ。あれ絶対シロートじゃないす」

 たぶん他県からのスカウトだと思うんだけどな〜何者なんだろーなー……と呟く火乃音の頭を、東の手が優しく撫ぜた。

「新人が増えてこれから忙しくなるぞ。正月明けでしんどいけど、よろしくな」

「……! はいっ! まかしてください!」

 瞳をきらきらさせて火乃音が頷く。

 同期の中で、そしてボーダーの大人達のなかで、火乃音は東に最も大きい信頼と愛情を寄せていた。

 東のあたたかく大きな手が髪を撫でてくれる瞬間が、いちばん好きだった。

 東はコーラを飲み干してくれるまで話してくれ、夜間の防衛任務出発時刻には玄関まで見送ってくれた。

「最近、また防衛任務の回数増やしたのか?」

「貯金が趣味なんで」

「あんまり根を詰めすぎるなよ」

「だいじょーぶ!」

 ぐっと拳を固めると、東がそっと顔を近づけて囁いた。

「俺はしばらく諏訪のとこで麻雀やってるから、戻ったら声掛けてくれ。家まで送るよ」

「〜〜っ! ほんとですか!」

「ああ。だから一人で帰るなよ?」

「了解ですっ」

 火乃音は胸の中心がぽかぽかするのを感じた。

 東と出逢って4年。11歳だったころから、火乃音はずっと東にアプローチし続けてきた。好きです、付き合ってくださいと、もう何回言ったかしれやしない。さすがに昔は子供すぎて相手にしてもらえなかったけれど、最近は少し背も伸びたし、東もちょっとずつ意識してくれているような気がする。

 

 家に着くまでなるべくゆっくり歩こう。

 たくさんたくさん、話をしよう。

 

 今日の自分はたとえモールモッドが千体来ても負ける気がしない。

 さっさと終わらせて、東さんと帰宅デートだ。

 どんな話をしようか、期待で胸をふくらませながら、火乃音は任務地へと走りだした。

 

 

 火乃音を見送った東は、入れ違いで帰ってきた諏訪と出くわした。

「よう」

「うっす。玄関で何してんすか」

「火乃音が防衛任務に行くから見送りしてた」

「あー……」

 ぽりぽりと頭を搔く。道理であの小娘がやたらハイテンションで駆けて行くと思った。

「なんかあいつに言いました?」

 諏訪の言葉に東はきょとんと首を傾げた。

「特別なことはなにも言ってないが……ああ、帰りに送ってくって言ったんだ。夜道は危ないからな」

「それだ」

「え?」

「いや、こっちの話」

 小さく息をつく。火乃音が東にベタ惚れなのは公然の秘密だ。誰もが知っている。もしも火乃音に犬の尻尾があれば、ちぎれんばかりに振りたくっているだろう。それほど分かりやすい恋心を、知らないのは東だけだ。

 元A級一位の隊長で、最初のスナイパーで、高い指揮力と指導力で多くの隊員から慕われる男のくせに、自分に向けられる好意にはからっきし鈍いときたもんだ。

 そのくせ、火乃音が落ち込んでいれば慰めてやり、頑張っていれば褒めてやる。今夜のように夜の防衛任務が入った時は、家まで送ってやるという徹底ぶりだ。

 A級9位の火乃音が夜道で危ない目にあうこともないだろうに、まったくこの男は。

「罪なヤローだ」

 呟きに、東は首を傾げるばかりだった。

 

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