PUBG【匿名希望の生存遊戯】   作:水無 亘里

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Case:01(女子大生と銃弾)

 頭が痛い。最悪の気分だ。

 あたしは親の仇でも見るみたいに眼下に広がる一面の海を眺めていた。

 鉄の機体越しに鈍いエンジン音が伝わってくる。

 密閉された機内のせいか、気圧の低い高度のせいか、あるいは沈鬱な気分のせいか、あたしの頭痛はさっきから酷くなるばかりだ。

 あたしは常備薬を一粒口に含んで水で流し込む。

 ぬるいペットボトルの水は忙しそうに波紋を浮かべている。

 そんな光景が何故か溜まらなく不愉快に感じて、あたしは前の座席を蹴って気持ちを紛らわせる。

 前の席から舌打ちが聞こえるがそんなものはどうだって良い。

 どうせ皆似たような心境だろうから。

 これから向かう場所は血も涙もない戦場なのだから。

 味方の一人すらいない、百人のサバイバル。

 狂気染みた殺し合い。

 これは、そんなクソみたいなゲーム。

 ただそれだけの話なんだ。

 

 あたしが初めて人を殺したのは、19の夏だった。

「僕を振るならお前の不都合な情報を全部バラすぞ!」

 あたしはなんてくだらないんだと、呆れて物も言えなかった。

 つまらない男。気まぐれに少し気を許したくらいで良い気になって。

 あたしの心が少しでも傾いたとでも思ったのか。

 けど、バラされたらまずい話も知られているのは確か。

 通りがかりに背中から一発。

 ちゃんとあいつの銃で撃ったから証拠は残らない。

 完璧なはずだったのに。

 息を吹き返しやがったから仕方なく病室で今度はあいつの頭を撃ち抜いてやった。

 まぁ、さすがに隠せなかったね。

 あたしは刑務所に連れて行かれることになった。

 

 思えば最初からあたしは自暴自棄だったのかもね。

 どうでも良いって思ってた。

 たった一発の銃弾で世の中は簡単にひっくり返る。

 そんなものが手の中にあるんだ。

 あたしは最初から狂っていたのかもしれない。

 けど、狂っていたのはあたしだけじゃなかったらしい。

 

【匿名希望の生存遊戯】

 

 それは良くある噂さ。

 罪を犯した人間が百人。無人島に降下させられて戦うサバイバルゲーム。

 本物の銃弾と硝煙が吹き荒ぶバトルフィールド。

 最後まで生き延びた人間には罪からの自由が約束されるらしい。

 そんな簡単なことで犯罪が帳消しになるなら、それはなんて面白い話だろう。

 あたしの罪が浄化されるというのなら、それはあたしにとってたったひとつの光と言える。

 ただ銃で撃ち合うだけだ。何も難しいことなどない。

 あたしは二つ返事でそれに応じた。

 

 果たしてそれは誰の思惑なのだろう。

 アメリカを裏で牛耳る秘密組織か。

 世界有数の資産家たちの享楽か。

 あるいはそれ以外の何かか。

 

 誰が糸を引いているのか。そんな話には、実はあまり興味もない。

 たた、あの身を焦がすような熱に浮かれていたいだけなのかもしれない。

 あるいは、銃に人生を狂わされた惨めな女の惨たらしい末路を迎えるだけなのかもしれない。

 

 答えなどどうでも良い。

 結果すらどうだって良い。

 ただ、あの快楽だけが、あたしの生きている意味なんだと、今は本気でそう思う。

 だからそのためにあたしはこの身を擲つ。

 

『ポイントに到着。……降下準備せよ』

 

 ぞろぞろと乗客が扉の前に集まる。

 持ち物は背中のパラシュートだけ。

 それ以外は全て現地調達。

 男も女も、子供も青年も中年も壮年も、姿形は様々だ。

 それでも皆にひとつだけ共通しているものがある。

 その瞳に宿した黒い炎。

 それだけは全員に共通していた。

 

 狂った罪人がハッチの前に雑然と並ぶ。

 眩しい陽光と共に、ハッチが開かれる。

 吹き込む暴風が、機体を強かに揺らす。

 しかし誰ひとり、怯まない。悔い改めない。顧みない。振り返らない。

 ああ、やっぱりこいつらは狂っている。

 あたしはそんなふうに頬を緩めた。

 これから向かうのは九十九人の死に場所だ。

 およそ生き残れないはずの戦場へ、しかし迷いなく歩みを進める彼らは、愚か者以外の何者でもない。

 

 そして、その列の後ろへ、迷うことなく並ぶあたしも含めて、やっぱりみんな狂っている。

 亡者の群れのように次々と空へ落ちてゆく犯罪者たち。

 解き放たれた爆撃機の爆弾のように、社会のゴミ共が地上へ降り注いでいる。

 やがてあたしの前に立っていた壮年の男が飛び降り、視界には一面の蒼が広がる。

 風があたしの赤毛を振り回す。

 あたしは身を乗り出し、空気抵抗を前進に浴びながら、そっと重力を手放した。

 あたしは空で逆さまになりながら、今は手元にない拳銃に思いを馳せていた。

 

 ――ああ、そうだ。あたしは今、一発の銃弾になっているんだ。

 

 そして、百人の命を懸けた【殺し合い】(ゲーム)が幕を開けた。




まさか百回分続くんだろうか……。
ちょっとだけ戦々恐々としながらも僕は小説を書いている。
今後は他のキャラクターに視線を移しながらドラマが描かれたり、バトルが描かれたり、死が描かれたりするのだと思う。
そういえばこの小説を書いている最中、PS4での配信が発表されたりした。
これでもっとプレイヤーが増えれば良い。
そして、PUBG界隈が盛り上がって、ついでに僕の実況動画も盛り上がって、ついでに僕の小説の書籍化が決まれば言うこと無しだ。
もしそうなったら今の仕事をどうしよう。スケジュールはどうしよう。カードの支払いを分割から一括に変更しちゃおうか。
そんなふうに考える。そして、そのうち我に返るのだ。
ああそうだ。そりゃそうだ。そんな幸運は、一握りのやつらにしか掴めないんだと。
たった一人しか勝者がいないのと同じように。

……そんなわけで、いつもとは違ったノリで後書きを書いてみました。
百回は行かないまでも何回かは続きます。
少なくとも終わるまでは書くので、お付き合いください。

追記:続くと言ってエタりました。申し訳ありません。
色々と新しいことに挑戦してみようと意気込んでいたように思うのですが、群像劇をイメージしつつも掘り下げが適当だったので、全体的に微妙な気配を纏っております。
どうせやるならもっとキャラクターを作り込んでからしっかりやるべきだったなぁと反省してます。

もし続くならいっそ全部書き直しますが、おそらく可能性は極めて低いかと思われます。ご容赦ください。

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