ここは戦闘要員育成学校・牙の塔。この中ではありとあらゆるスペシャリストが養成されている。戦闘員、隠密作戦部隊、魔術師、機甲部隊、その他諸々・・・そんな中、彼ら達を管理・運営する組織がある。
『牙の塔生徒会』
主に教師陣と生徒達の間に立ち、様々な問題やイベントを担う、無くてはならない組織である。勿論生半可な実力では生徒会には入れない。厳しい試験、そして『生徒会長』による厳正な面接をくぐり抜けた猛者達のみが集まる、正に牙の塔のエリート集団なのだ。
そして、今日もここ生徒会室では・・・
「美樹原君。この書類は校長の所へ。そしてこちらはチャイルドマン先生の机へ頼む」
「はい、かしこましました。会長」
「会長、先日のバラムガーデンからの演習についてですが・・・」
「それについては既にメールを送っている。今は先方からの返事待ちだよ」
「すみません、第五パーソナルトルーパー部隊から追加予算の申請が来ています」
「ふむ、内容を確認しよう。こちらにデータを送ってくれたまえ」
テキパキと事務仕事を片付けていく『生徒会長』林水 敦信。学生時代に独特の白い学生服を着ていた名残か、卒業しても特注の白スーツをパリッと着こなしている。そんな彼の横で書類をそれぞれのボックスへ仕分けしているレディーススーツ姿の女性が、美樹原 蓮。艶やかな長い黒髪が窓から差す光に照らされ、彼女の神々しさを更に高めている。彼女もインナーからジャケット、スカートに至るまで見事に白。しかし絶妙な色彩バランスにより、決して不自然では無い。
「・・・美樹原君、そろそろ時間ではないかね?」
「はい、会長。それでは私はこれで失礼いたします」
「うむ。御苦労であった。・・・後ほど、伺わせて貰おう」
「はい、お待ちしております」
すっと上品に頭を下げた美樹原に、椅子に座ったまま軽く頷く林水。そう、彼女の本当の仕事はこれからであった・・・
・・・・・
・・・・
・・・
トントントントン・・・
店内に響き渡る包丁の音。そして漂う和風出汁の香り。
ここは『居酒屋 蓮』。牙の塔から少し離れた路地の奥にある、小さな居酒屋である。表通りからは少し奥まった場所にある為、知らない人からすれば簡単に見つける事は出来ない店ではあるが・・・知る人ぞ知る隠れ家的な居酒屋なのであった。
席はカウンターが6席に、4人席の小上がりが二つ、それだけである。しかし落ち着いた雰囲気の店には、毎日誰かしらが立ち寄る。
そして、今日も彼は戸を開く・・・
「あら、いらっしゃいませ。もうお仕事は終わりですか?」
「ああ。後は明日でも充分に終わらせられる」
淡い桃色の着物に割烹着姿の美樹原は、包丁の手を止めて入店した林水を迎え入れる。にっこりと微笑む彼女の顔を見て、林水も普段はあまり見せない類の笑みを浮かべた。
「ふふ、それは良かったですね。いつものお席、空いていますよ?」
「ああ、座らせて貰おう」
そう言って林水は、美樹原の正面のカウンターへ腰掛ける。店内にはまだ誰も居ないが、この店は大体このような感じである。客を増やして利益を上げるよりも、ここをちょっとした疲れを癒す、止まり木として訪れる人達を大事にしたい。そんな店主の想いがこの店の空気を作っているのであろう。
「さて、今日は何がオススメかね? 蓮君」
「はい。今朝は新鮮なサザエが沢山入りましたので、壺焼きやお刺身がオススメです。・・・敦信さん」
たおやかな笑みを浮かべながらサザエを見せる美樹原に、ふむと頷く林水。差し出された温かいオシボリで手を拭きながら、注文をする。
「それではサザエの壺焼きと、山菜の煮物を頂こう。酒は・・・」
「ふふ、分かっています。黒牛のぬる燗、ですね?」
「流石は蓮君。よく覚えていてくれている」
「敦信さんの好みは、大体分かっていますもの」
クスクスと微笑む彼女を見ていると、日頃の疲れがじわじわと取れていく感じがする林水。手を拭き終わった後のオシボリを綺麗に畳み、カウンターに置く。そうしている間に、目の前に小鉢が置かれた。中身は小さな豆腐の餡掛けである。彩りに三つ葉が添えられており、見た目にも鮮やかである。
「はい、ぬる燗お待たせ致しました・・・どうぞ」
「すまないね。・・・うむ、実に丁度良い」
カウンターの向こうからお酌をして貰い、お猪口を傾ける。適度に温められた酒からは、爽やかに甘い米の香りが鼻に抜ける。その後に含む餡掛け豆腐が実に合う。毎日試行錯誤している和風出汁は、今日も立派に役目を果たしているようだ。
ふぅと息を吐いた林水は、顔を上げて美樹原の顔を見て言葉を告げる。
「また腕を上げたのではないかね?」
「ふふふ、まだまだ勉強の毎日です。・・・そういえば、先日ノルさんの件でこんな事が・・・」
「ほお、それは実に興味深い・・・」
ゆったりとした空気の中、二人の時間は過ぎていく。きっと彼女の手が止まると、また美味しい料理が出てくるのであろう。そう思いながら林水は、彼女とにこやかに談笑を続けるのであった。
・・・・・
・・・・
・・・
最後のサザエを口に入れ、猪口を傾けた林水は、ふと壁に掛けられた時計に目を向ける。
「・・・おや、もうこんな時間か。そろそろ私は帰るとしよう」
「あ・・・もう、そんな時間なんですね。それでは・・・」
少し名残惜しそうに立ち上がる林水を見送る為に、カウンターの向こうから回ってくる美樹原。壁にかけられたコートを差し出すと、彼はサッと羽織り出口へ歩き出す。戸を開けると、少し肌寒い風が店内へ吹き込んできた。
「もうすぐ、冬ですね・・・」
「ああ。秋も終わりに近づいている・・・蓮君も、身体には充分に気を付けるように」
「はい。ありがとうございます・・・敦信さんも、どうかお気をつけて」
「分かっているよ。・・・それでは、失礼する」
すっかり暗くなった夜道に向かって歩き出す林水に、美樹原は深々と頭を下げる。まるで、今の顔を彼に見られたく無いかのように。
「またのお越しを、お待ちしております」
夜の秋風が、彼女の長い黒髪を静かにたなびかせていた・・・
はい、慣れない居酒屋小説に手を出しました・・・勿論彼らはとっくに成人しています。・・・どう見てもただのフル◯タ話になりましたすみませんm(_ _)m
林水の秘密・・・
『居酒屋 蓮』には、ほぼ毎日顔を出しているらしい。