欠けた心を埋めるもの 作:歌川
僕の名前はレイと言います、メイドのような事をしているアンドロイドです。
友達と出かけた時の事をお話したいと思いますね。
「鮎食べたいって思ってたんですよ、これから一緒に釣りに行きません?」
のらちゃんと会話をしていると突発的な提案を受ける。
のらちゃんとは同一の機体で近くに住んでいて、たまに顔を合わせると会話する位の関係でした。
そんな彼女から突然よく分からない誘いを受け、戸惑いました。
「え?鮎?急にどうしたの?」
「昨日からなんか鮎食べたいなって思ってたんですよ、
でも釣り道具も釣りの経験もないからどうしようかなって迷ってたんですけど、
レイさんの家に釣り道具があるなら是非行ってみたいなって」
鮎の話の前に釣りの話を振られていたんですけど、まさかそんな事を探っていたとは思いませんでした。
「でもあれはご主人様の道具だし…僕は釣竿のセットのしかた位しかわかりませんよ?」
「それなら大丈夫です!私は釣りについて何もわかりませんから!」
何が大丈夫なのか分からないまま、釣りに行く事は決まってしまいました。
ご主人様に連絡を取ったところ、
安い川釣り用なら使っていいと言われたので、それと道具一式を持ってのらちゃんと合流すると、
マキやハンゴウなど色々背負っていて、その気合に驚きながら川まで出かけました。
「じゃあ私はご飯とかの準備をしてるのでお願いしますね」
そうお願いされてから1時間近く、竿には何の手応えもなく、若干気持ちが焦ってきました。
日の下にずっといるせいでかなり汗も酷いし、肌に張り付く服の不快感にイライラする。
手応えのない竿を上げ、ポイントを変えて竿を振るう、針の落ちる場所をジッと見つめ確認していると、
「あの…大丈夫ですか?」
「えっ!えぇ!何がかな!?」
「いえ、なにか不機嫌そうだったんで…無理してお誘いしたの嫌だったのかなって…すいません」
「そんなことないよ!ただ釣れなくて焦ってるだけだから!」
「本当ですか?それなら平気ですよ、釣れるまでずっと待ちますから」
そう答える顔は少しぎこちない物だった。
多分のらちゃんは私を無理矢理連れてきている事に負い目を感じているようだった。
僕からすると前から気になっていた隣人と距離を縮める機会だと思っているのだが、
互いの気持ちのズレを感じてより焦燥感が募る、早く掛かれと願うとついに釣り針に何かが来る気配を感じる。
焦る気持ちを抑え、合わせをして引き上げる。
「やった!やりましたよ!」
のらちゃんがピョンピョンと嬉しそうにはねる。
「良かった…これで最悪でものらちゃんは食べれるね」
「何言ってるんですか、今流れが来たんですからこれからガンガン釣れますよ!
あっ!ご飯のこと忘れてた」
そういうとハンゴウの元に急いで戻っていった。
のらちゃんの言ったとおり、その後はポンポンと3匹釣る事ができたんです。
4匹の鮎を串に刺して、塩焼きにしました。
少し焦げ目のついた白いご飯と鮎の塩焼き、見た目はシンプルだがとてもすばらしいご馳走に見えました。
「ごめんなさい、焦げちゃいました」と頭を下げるが「ううん、僕そういうの好きだから」というと、
「そうですよね!美味しいですよねおこげ!」と目を輝かせました。
「「いただきます」」
串のついたままの鮎を手に取り、口にいれる前にのらちゃんの方を見る。
焼きたての鮎にかぶりつき、あつっ!と言いながら一度口を離す、
今度はゆっくりと慎重に口に運ぶ、そっと鮎の身を口に入れるとモグモグとゆっくりと味わう。
「おいしい」と呟くと再び、鮎を口に運ぶ。
可愛らしいその仕草に苦労したけど釣れて良かったな、と改めて安堵しました。
僕も人の食べる姿を見ているだけじゃなく食べないと、と鮎を口に運ぶ。
シンプルな身に塩ピッタリ合いとても美味しくて、夢中に食べてしまいつい、ご飯に手を出さずに一匹を食べ終えてしまう。
そこで一息をついてから口を開く。
「あの…のらちゃん、さっきの事だけど今日は誘ってくれて凄く嬉しかったよ」
「あっ…本当ですか?ピリピリしてるみたいでちょっと不安でしたけど」
「あれはちょっと汗のせいでイライラしてただけだよ……」
「なんだ、そんな事だったんですね、不安になって損しちゃいました」
お互いに生じそうになった不和を消すように、笑いを飛ばす。
これからはもっと仲良くなれそう、そう思いながら青い空を見渡す。
さっきまでストレスの原因だった日の光が今では心地よい物に変わった気がする。
もう一匹を食べようと手を伸ばすと
「次は…イワナかな……」と呟く声が聞こえた気がしたけど今は気にしないことにします。