欠けた心を埋めるもの   作:歌川

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二人を繋ぐもの

 外で長い時間気を揉んでいた為、玄関の扉を開けると私がただいまを言う前に苦情の声が響いた。

「おーそーいーぞー!夕方までには帰るって言ったのにもう日が暮れてるぞー」

「すいません、用事のついでに寄り道してたら遅くなっちゃいました」

足早にリビングに入るとソファーで横になっているタマさんが私を睨んでいる、

部屋の中はテレビがついておらず静まり返っている。

「あれ?テレビもつけないで寝てたんですか?映画とか色々見れるようにセットしておいたんですけど」

「ああ、それね。音声操作にセキュリティでもかかってたのか、私の声には全く反応しなかったよ」

背中にヒュッと悪寒が走る、動けない彼女を一人にするのだから出来る限り退屈しないようにと思っていたのだが、

致命的なミスを侵していた。

「あの……ごめんなさい、忘れてました。誤作動防止に個人ごとに登録しないと動かないんでした」

ため息をこぼして肩を落とす。

「いや、そんなに気にしなくていいよ。確かに退屈だったけど今日は悪い日じゃなかった」

確かに退屈な状況だったと思うのだが、彼女の口調はどこか楽しげだった。

「何かあったんですか?なんだか楽しそうですけど」

「まあ…なんて言うのかな、自分と向き合うには丁度良かったっていう?

 とにかくそんなのらさんが気を落とす必要はないって」

照れ隠しのような笑いを浮かべて話を切り上げる、自分と向き合ったと言っていたが一体何が起きたのだろうか?

気にはなるが様子から見て悪い事ではないようなのでとりあえず気にしない事にした。

 

 「しかし改めて考えると…ここに来てからの毎日、私に合わせたメニューばかりで申し訳ないな…」

二人分のシチューとパンを食卓に運ぶとタマさんがボソリと呟く。

「そんなの気にしなくいいんですよ、私は好きでお世話してるんですから」

「え!?ああっ、うん、それでも感謝とか、申し訳なさとかあるのには変わらないからさ」

「そんな、あなたが気にするほど苦労してませんよ、ほらあったかい内に食べちゃいましょう」

食卓につき、スプーンでシチューをすくい、彼女の口元へ運ぶと抵抗なく、口を開きそれを食べる、

熱い物だから慎重に口を開くが、目覚めた当初と違い食べさせられる事への照れというのはなくなったように見える。

「そんな風にジッと見られると恥ずかしいってば」

「まあまあ、減るものじゃないんですからいいじゃないですか」

 そうして食事を終え、一息ついてから伝えるべき事を伝える。

「やっとタマさんの修理の準備ができたって連絡が来たんです!」

「おお!やっと準備ができたのか!」

タマさんを抱え上げグルグルと回り、勢いよくソフォーに飛び込む。

ボスンと勢いよく飛び込んだ反動で床に投げ出され、ゴロゴロとそのまま転がった。

「そっか、ついに私は自分の力で動けるようになるんだな!」

「そうです!これで自由に動けるようになるんですよ!」

寝転んだまま、タマさんを掲げ見つめあう、彼女の瞳はここに来て一番輝いているような、そんな気がした。

掲げた彼女を再び抱きしめ、今度は自分の意思でゴロゴロと床の上ではしゃぎ回る。

「嬉しいのはわかるんだけど、なんなのこれ」

「修理が終わったらこんな事はできないなって思ったんだ、今のうちにやってしまおうかと」

盛り上がったテンションに任すまま、頭を撫で回したり、頬ずりしたりして、タマさんが怒るまでいじり倒した。

 

 タマさんの体を身奇麗にし、明日外に出る準備をしてから床に就く。

「そういえばタマさんは体が戻ったらどうするんですか?」

「どうするって言われてもね、あんまり考えてなかったな。私達みたいなアンドロイドって戦後はどんな仕事があるんだ?」

「基本的には人間の皆さんと変わりませんよ、やりたい事を探して好きにしてます。

 望むなら1から勉強だってさせてもらえますから」

「へー、それは意外だね。どうせ小間使いにされてるものだと思ってたよ」

「終戦後は結構問題になりましたからね、私達をどうするかって」

「それでどうなった?結構悪くなさそうだけど」

「沢山いたんですよ、私達の事を守ってくれる人達が。

 そういう人達の意見もあって原則武装の禁止、のらきゃっとモデルの製造禁止、量子AIを持つアンドロイドの同時存在可能数の制定とか、

 制限なども付けられましたが、それで人間と同じ世界で生きていけるようになったんです。

 後軍属期間に応じてお給料もでましたよ」

「へー、意外な話ばかりだな。私が想像していた待遇の100倍は良い」

「そうですね、私も武器を没収されるだけで自由になったんで拍子抜けしましたよ。

 最悪の場合、仲間を募って人間に宣戦布告しようと計画も立ててたんで」

冗談を言ったつもりだっただ本気で取られてしまったのか、タマさんは乾いた笑いで答える。

「まあ実際の所、みなさんもう嫌になってたんでしょうね、近くにいる人がいなくなるのを」

ネックレスを指で撫で、遠くに行ってしまった仲間達の事を思い出す。

「そうか…そういうものなのかな」

「そういうものなんでしょうね」

それを最後に沈黙が響く。

もうタマさんは寝てしまったのかと思った時、彼女の答えが返ってきた。

「私はのらさんと一緒にいるよ、だってまだのらさんのご主人様が帰ってくるのは大分先なんだろ?

 恩人に寂しい思いをさせるほど恩知らずじゃないよ」

 

 朝、目を覚ますと送迎用の車が来ていたのでそれに乗り、数十分ほど揺られて工場につく。

物々しい扉の奥に通されると気難しそうに眉をひそめた、いかにも学者といった風貌の人物が椅子に座って待っていた。

「おはようございます、こちらが今日修理をお願いしたいタマさんです」

車椅子を押し、彼女を前にだす「おはようございます…その、お願いします」

「はい、おはよう。酷い状態の子の修理だって言うから心配してたけど、受け答えが出来るようなら問題ないね」

気難しそうな顔を緩ませ、タマさんの前に身を屈め体を眺め始める、安心して修理を任せられそうな人のようで安心する。

検分を終えて、作業台の上に載せられると大掛かりなスキャンが行われた、内部にも異常がある可能性は十分にあるという話だった。

スキャンの結果が出ると先生はそれを睨みながら口を開いた。

「これは結構個人差のある話なんだけど、タマさんは出来るだけ元の体を残しておきたいかな?」

「出来るなら残して置きたいかな……こんなだけどこの体だから私は生き残れたって、そう思うんだ」

「そうだね、タマさんの場合四肢のパーツは完全に壊れている訳ではない、接続部はまだ生きているんだ。

 強力な衝撃により接続部のエネルギー回路が壊れているだけで修理は可能だ。

 だから君が望むならその接続部を修理する事でそこに新しい手足を付けることが出来るのだけど、

 それをやると肌に大きく傷が残るけど、それでもやるかい?」

「ああ、それでもいいよ。お願いするよ先生」

 スキャンの結果内部パーツにもやはり異常があり、

放置すると死ぬ危険もあるという事で思ったより大掛かりな修理になってしまったようだった。

恐らく丸1日かかるだろうと言われ、私は部屋を追い出されてしまった。

時間がかかるのなら、それはそれで良かった。

多分私の考えが正しければ、今から連絡を取ろうとしている相手にタマさんの事を話すとタマさんとは別れてしまう事になるだろう。

そう考えるとやはり胸を掻き出したくなるほどに苦しくなる。

しかし何時までも捻じ曲げた想いで過去を恨むの何て私は間違っていると思う。

私は湧き上がる苦しみを押さえ、タマさんの家族へ連絡をとった。

 

 

 連絡に出た相手は、そんなに悪い印象を覚えないような人だった。

事情を説明すると仕事を切り上げ急いで工場に来ると言い、ギリギリ修理が終わる少し前に到着した。

話を聞いてみると今は自然をメインにしたカメラマンをやっているという。

深い森の奥に落ちたタマさんを探している内に何かに目覚めてそうなったらしい。

 タマさんの現状を伝えている内に作業が終わり、ラボに入るようにアナウンスが入る。

「それじゃあ、彼女に顔を見せてあげてください、でも気をつけてくださいね。

 きっとあなたの話を聞く前に拳が飛んでくるでしょうから」

「ははは、気をつけるよ。

 いや、俺よりもまず君が顔見せた方がいいんじゃないかな?」

「私は後で良いんですよ、少しでも早く誤解をといてあげてください」

私が背中を押すと、それに促されるままに彼は扉の奥へ向かっていった、

反対の扉から部屋を出ようとすると、扉に勢い良く物がぶつかる音が響いた。

怒号の後に何かを叩く音が何回か響いた後、静寂が訪れる。

耳を澄ますとわずかに泣き声が聞こえた。

「タマさん……よかったですね……」

別れを惜しんでも辛くなるだけ、後ろ髪を引かれる思いで部屋を出た。

 

 ───

 その顔を見た時、思わず手が伸びていた。

私が目覚めて最初にした事は昔、兄として慕っていた同じ部隊の一人を殴る事だった。

衝動のままに殴りつけてしまったが、反撃も防御もしない彼に私の手は止まっていた。

「お前が味わった苦労に比べたらこの位なんでもないさ」と言う。

そして兄は語り始めた、部隊がどうなったのか、そして何故自分がここにいるのかを。

 部隊の皆の話を聞いた時、頭に架かっていた靄が晴れるような感覚がした、それと同時涙があふれて止まらなくなってしまった。

ただ泣き続ける私を兄は優しく慰めてくれた、私が泣き終わるまでずっと。

そして私が落ち着いてから、学者の人を含めて私の身の振り方について軽く話す事になった。

私としてはのらさんとまだしばらく暮らしたいと申し出をだすと兄もお前が望むならそれでいいと了承してくれた。

連絡をとれるように連絡手段の交換、そして何かあれば頼ってくれと家の住所も教えてもらった。

基本的には家にいないという、あまり意味の無さそうなものだったが。

そして私は早速のらさんと会おうとラボを出るが先に帰ってしまったと工場の人に教えてもらい、家に帰ることにした。───

 

 どこに行くでもなく、あちらこちらをふらふらと歩きまわり、気がつけば人気のない公園まで足を伸ばしていた。

タマさんと初めてのお出かけで来た公園、ここで彼女の過去の話を聞かなければ今日別れる事もなかったんじゃないかとぼんやり考えてしまう。

一人になるのが嫌というよりも、彼女がいない日常が来るということが悲しかった。

私の見えない所で、私がいなくても彼女は生きていく。

そう思うと心の中身がサーッと流れ出ていくような虚しさを感じてしまう。

何もする気が起きないまま、ベンチに座り傾いていく太陽をジッと眺めていた。

 

 「家にいないと思ったらこんな所にいた!どこで道草食ってるんだよ!」

呆けながら空を眺めている内に眠ってしまったようで、突然の大声で目を覚ます。

そこには見覚えのない、のらきゃっとが立っていた。

髪は後ろでまとめ、Tシャツとハーフパンツと随分ラフな服装をしていて、

シャツの袖からは後から無理やり縫い合わせたような傷のようなものが見えた。

「えっと…どなたですか?」

「手足が戻ったくらいでどなたって言うのは酷いんじゃないか?私だよ、タマだ」

「え?!あっ!タマさん!どうしてこんな所に?!」

「それはこっちのセリフだよ、なんで私を置いてこんな所にいるのかって話だよ」

話しながら私の隣に腰を下ろす。

自分の力で動く彼女を見ると、なんだか心にむず痒さを覚えた。

「だって…せっかく昔の仲間…家族に等しい人と再開したのに……」

「うん…それは本当に感謝してる。

 私、ずっと考えないようにしてたんだと思う、皆が死んでしまったなんて考えたくもなかったんだ。

 だからその事をずっと考えないようにしてたし、その事も忘れてた。

 それで今は凄く晴々とした気分になれたんだ、今なら現実とも向き合える」

「だったら、私と一緒にいるよりあの人の所に行ったほうがいいですよ。

 せっかく会えたんですから」

そう私が言うと、何か言葉を捜すような挙動をし始める。

貧乏ゆすりをしたり、ベンチの周りをグルグルと回ったりして、しばらくするとようやく思いついたのか口を開く。

「私が今一緒にいたいのはのらさん!あなたなんだ!昨日の夜にそういっただろ!

 家族よりもあなたといたいんだ、だから……」

「だから?」

「家に帰ろう、その……今の私にはそれ以外、伝えられる言葉が思いつかないんだ」

 さっきまで感じていた寂しさは彼女の話を聞いている内にどこかに消えてしまった。

今感じているこの気持ち、それがどういう物なのか理解できなかったが、

それでもこの気持ちは彼女が今抱いている物と同じ物だというのはなんとなく理解できた。

 タマさんが恥ずかしそうに手を差し伸べている。

タマさんの望む事、それが私と同じ事なら何も拒む必要なんてなかったんだと思い、その手を握る。

「そうですね、帰りましょう」

私は出来る限りの心を込めて笑顔を作り、彼女に引かれるまま歩き始めた。

 

 

 

 

「そういえば私の名前言ってなかったね、実は私タマって言うんだ。

 これからもよろしく」

「え?タマ?え??」

「やっぱり気づいてなかったんだな……私の事調べてたのに」

「ああ!そういえば資料にそう書いてありました!

 え?でもそれなら嫌じゃなかったんですか?」

「んーー…ないしょ、その内話したくなったら話すよ」




これにて完結です。
若干煮え切らない感じですが、この先二人は上手く行くんじゃないかな?とは思っています

拙い文章ですが楽しんでいただけたなら幸いです
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