シャルロット・デュノアの妹、ジャンヌ・デュノアです。 作:ひきがやもとまち
「・・・と、これらの理由よりISは現在も進化の途中で、全容はつかめていないそうです」
ジャンヌ・デュノアがふてくされた表情を浮かべながらそっぽを向きつつも、眼前に立つ織斑先生に質問の回答を述べていた。
場所は旅館の裏手にあるプライベート・ビーチの一角、IS試験用ビーチだ。四方を切り立った崖に囲まれた狭い空間で、合宿の目的である新装備のテストもここで行われる予定。
「さすがに学業“だけ”は優秀だな。遅刻の件はこれで許してやろう」
「・・・・・・・・・・・・どーも」
ぺこりと頭を下げて後ろに下がり、一夏たち他の専用機乗りが並んでいる列の一員に戻る。
彼女たちが乗る専用機は単にワンオフ機と言うだけではなくて、自国のIS技術を公の場で喧伝してもらわなくてはならない分だけテストさせられる装備品の数が多く、どこの国でも使えるライセンス生産可能な量産機用の装備を試す一般生徒たちとは別枠扱いになっていた。
・・・・・・やっぱ世の中に平等なんてないじゃないのよ・・・・・・
ジャンヌはそう思う。たまたま適性を生まれ持ってなかった時点で他のどんな技術で強くなろうとトップに立てないIS時代の不条理さと不合理さに義憤を感じながら、いつか必ず腐った世界を煉獄の業火で焼き尽くしてやると心の中で誓いを立てながら。
ちなみに彼女が遅刻した理由は、言うまでもなくゲームを夜更かしプレイしてたせいでの寝坊である。
言い訳したところで絶対に誰も庇ってくれる訳ないと分かりきっていたため、仕方なしに問われた質問に大人しく答えるしかなかった自分の置かれた状況と地位が気に食わなかった。
“だから悪いのは私じゃなくて、世の中の方だと断言する”
ジャンヌ・デュノアは思春期。
つまり誰もが掛かる恐ろしい病、“厨二病”患者になる年頃です。
「さて、それでは各班ごとに振り分けられたISの装備試験を行うように。専用機持ちは専用パーツのテストだ。全員、迅速に準備を行え」
織斑先生の言葉に一年生全員から「はーい」と、小気味よい返事が返されて、それぞれがバラバラに散っていく。
ジャンヌたちも、何故か混じってきている篠ノ之箒を不思議に思いながらも自分たちの準備に取りかかろうとした、まさにその時。
「ああ、篠ノ之。お前はちょっとこっちに来い。お前には今日から専用―――」
「ちーちゃ~~~~~~~~~~~~~~~ん!!!」
ずどどどどど・・・! 織斑先生が箒を呼ぶ声に応えるかの如く、砂煙を上げながら人影が走ってくる。無茶苦茶早い。
問題はその人影が千冬先生にとっては旧知の人物でありながら明らかにIS学園教員とは思えないエキセントリックな服装に身を包んでいたと言うこと。そして今いるこの場所は関係者以外立ち入り禁止の秘密ビーチであるということ。
――ようするに早い話が、本人に直接復讐できない場合には八つ当たりする対象に持ってこいな不審者という訳で。
「えい」
「やあやあ! 会いたかったよ、ちーちゃ――へぶしっ!?」
千冬目掛けて飛びかかろうとした瞬間を見計らい、ジャンヌ・デュノアに足払いされたISの産みの親にして天災科学者の篠ノ之束は転がされ、超スピードで砂地の上を顔面スライディング。
アスファルトの上と比べりゃ遙かにマシとは言え、それでも間違いなく痛い。痛すぎる光景に目撃者たちである専用機乗り一同は
「「「う、うわー・・・」」」
と、盛大に顔をしかめさせられていた。――若干一名、犯人だけが横向いて口笛吹いてたけどいつものことだから気にすんなよ、束さん。
「お、おい。大丈夫か束? ・・・生きてるか?」
千冬先生が心配そうに声をかけて上げる。
基本的に自分がやる分には遠慮容赦なく攻撃してくる人なのであるが、他人に身内が攻撃されると同情的な気分になってしまいがちな彼女は、まさに織斑一夏の姉らしい似たもの同士な姉弟であった。もう結婚しちゃえよお前ら、いやマジで。
「ぐぬぬぬぬ・・・・・・おい! ちょっとそこのフランス金髪女!」
「なによ、国籍不明で年甲斐もないド派手なピンク髪オバサン。何か私にご用でも?」
「オバサン言うなだし!? て言うかキミ、昨日から邪魔ばっかりしてくるけど、束さんに何の恨みがあるのさ!?」
「はっ! べ~つに~? 私はただ単に新装備のテストしに行くため動こうとして足を前に出しただけですけど~? なにかそれに問題ありまして~?
仮に問題あったとしても、前方確認怠りながら猛スピードで突っ込んできたアンタが悪い~♪」
「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬ・・・・・・っっ!!!!!!」
減らず口を叩いて挑発するジャンヌと、ついつい高すぎるプライドが原因で解っていても乗ってしまう篠ノ之束。
正直、周りで見ている側の感想としては、
『ガキかよ、どっちも』
としか言いようがない状況だった。
「――ちっ。ま~あ~? 束さんは天才だから凡人の妬みからくる罵倒や嫌がらせなんかには慣れてるし気にならないから、特別に無視してあげるよ。よかったね、フランスの金髪女。
命を長らえることが出来たんだから、束さんには大いに感謝を捧げなよ~?」
「はぁ? アンタいい年して自分で自分のこと天才とか言っちゃってんの? バッカじゃないの? それって如何にもな自信過剰で自意識過剰な“自称”天才キャラの特徴じゃない。
天才キャラ自称したいなら、それぐらいの常識は知っといてから名乗って欲しかったんですけど天才様~?」
「キッ!!(人を殺せそうな目付き)」
「はっ!(人を小馬鹿に仕切った上から目線の厨二的カッコイイ目付き)」
・・・おガキ様劇場再び再演。
誰かもう、この果てなく続きそうな負の連鎖を終わらせるため断ち切ってくれ・・・。
――と言う訳で強制的にぶった切りました。続きが気になる人は別枠で用意しますので言ってちょ♡
ぶっちゃけ重苦しい展開になっちゃいましたので作風に合わなくなり無かったことにされた黒歴史イベントです。
「た、た、大変です! お、おお、織斑先生っ! こ、こ、これを見て下さいっ!」
いきなり大声を上げながら山田先生が走ってきて、慌てながら小型端末を担任で上司の織斑千冬先生に手渡し、画面を見た千冬の表情が曇る。
「特命任務レベルA、現時刻より対策をはじめられたし・・・・・・」
「そ、それが、その、ハワイ沖で試験稼働をしていた――」
「しっ。機密事項を口にするな。生徒たちに聞こえる」
「す、すみませんっ・・・・・・」
そんなやり取りを交わす二人を眺めながら、ジャンヌ・デュノアはいつもと変わらない。
「いや、普通に言いまくっちゃってるじゃないのよ。機密事項をお互いに」
『うっ』
「つか、機密事項って言葉を人前で堂々と口走ってどうすんの。詳しい内容までは知らない奴らの前でなんだから、余計な詮索誘うような表現用いるなっつーの。
どこのタイムボカンなウッカリ発明家よ、アンタ達は」
「う、ぐ、ぐぬぬぬぬぅぅぅ・・・・・・っ!!!!」
侮辱された織斑先生、大激怒! ・・・でも自分が悪いので暴れられません。
大魔神は裁きにだけ来て、それ以外何もしてくれないからこそ正義の味方として暴れられるのです。自分が悪いのに侮辱されて怒ったからで暴れたらワガママな暴れん坊のガキです。
大魔神は、正義の味方か破壊神か? その答えを決めるのは大魔神の行動如何なのが悲しい現実です。
「と、とにかく! 私は他の先生たちにも連絡してきますのでっ」
「了解した。――全員、注目!」
山田先生が走り去った後、千冬先生はパンパンと手を叩いて生徒全員を振り向かせて、その様子を白い目で眺めていたジャンヌから評されてしまった。
「・・・・・・誤魔化して逃げたわね」
「現時刻よりIS学園教員は特殊任務行動へと移る!」
大声で掻き消される、不用意な発言をした自分自身への責任追及。
IS学園は日本にある国立学校であり、超エリート校です。
生徒は全員IS操縦者になれる適性を持ち、ISは有事の際には国防力になるので代表候補でなくても国家の大切な財産です。だから優遇されてます。ようするに一級公務員ですね。
・・・・・・余談ですが、日本にある国立エリート校はほぼ全て官僚を育成するための教育機関であり、千冬先生と山田先生はこの学校の卒業生です。
官僚は本質的に責任を分散する性質を持つ職業です。お後がよろしいかどうかは知りません。
「今日のテストは中止。各班、ISを片付けて旅館に戻れ。連絡があるまで各自自室内待機すること。以上だ!」
突然に宣言された不測の事態に、ざわざわと騒がしくなる有事の際の国防力な女子一同。
「え・・・・・・?」
「ちゅ、中止? なんで? 特殊任務って・・・・・・」
「状況が全然わかんないだけど・・・・・・」
注:これでも彼女たちはIS操縦者です。IS操縦者は女尊男卑の象徴であり、世界最高戦力を使えるからこそ特権階級にいられる存在です。一応は。
「とっとと戻れ! 以後、許可無く室外に出たものは我々で身柄を拘束する! いいな!!」
「「「は、はいっ!」」」
千冬に一喝されて慌ただしくも動き出し、ようやくテスト中止の準備を始めるIS学園一年女子一同。
怯えながらではあるが手際は良く、訓練された手順通りにテスト装備を解除してカートに乗せて運んでいく。
その様子を眺めながら、ドイツ軍少佐ラウラ・ボーデヴィッヒから一言。
「ほう。さすがは日本の国防戦力候補たち。
やるべき事を教えてもらえば、動きが異常に早くなる」
「自分たちで考えて決めるのは苦手みたいだけどねー」
「お前ら専用機乗りも余計な指摘をしてないで準備せんか!?」
織斑先生、微妙に頬を染めながらの叫び。なんか段々とヤケッパチになってきている気がする今日のイベントと彼女は相性が悪い。
「はっ! 小官もそうしたいのは山々なのですが・・・・・・」
「ぶっちゃけ、何やればいいのか、やっていいのか分かんないですけども?」
「う」
またしても言葉に詰まる織斑先生。
専用機はイメージだけで出し入れ可能なトンデモロボットなので通常の片付け作業を必要とせず、テスト中止しろと言われりゃ即座に中止は可能。
逆に新装備の方は特殊なのが多すぎるせいで、整備課ではない彼女たちには触っていいのかどうかさえ判然としない精密機器の塊ばかり。
――要するに、何もできない。やることがない。命令待ちな待機状態という、暇な時間を持て余していたジャンヌたちだった。
「で、では専用機持ちは全員集合! 織斑、オルコット、デュノア姉妹、ボーデヴィッヒ、凰! ――それと、篠ノ之も来い」
「はい!」
「へーい」
妙に気合いの入った返事をした箒と、いつも通りに気の抜けた返事をするジャンヌが対照的に見えて、
(だ、大丈夫なのか・・・? この状態で・・・)
まっとうな理由で先行きに不安を感じさせられ、堂々と胸を張って歩く巨乳と、頭の後ろで手を組んで歩くから結果的にドカンとロケットおっぱいになる巨乳たちの後ろで一人、胸板を――じゃなかった、胸をざわつかせながらついていく一夏であった。
つづく
次回予告っぽいオマケ『福音事件と日本の対応』
「では、現状を説明する。二時間前、ハワイ沖で試験稼働にあったアメリカ・イスラエル共同開発の第三世代の専用IS『シルバリオ・ゴスペル』が制御下を離れて暴走。監視空域より離脱したとの連絡があった。学園上層部からの通達により、我々がこの事態に対処することとなった。
それでは作戦会議を始める。意見があるものは挙手するように」
「はーい、一つだけ確認いいですかセンセー」
「許可する。デュノア妹、言ってみるがいい」
「んじゃ、確認ね。――どうして日本の代表たちが出撃しないで訓練生を出させてのよ。おかしいでしょ絶対に。
なんのために国民の血税で贅沢な暮らしさせてやってると思ってんの、お宅らの国の代表どもは。有事の際の国防力なら給料分は働けバーカ」
「・・・・・・すまんな、デュノア妹。質問には答えてやりたいが、今は緊急事態だ。余裕がない。
その為、この件については後日改めて詳細な事情説明をおこなう場を用意してやるから、今は目の前の事態に集中するのだ!」
『緊急事態に現場責任者が官僚的答弁で誤魔化したっ!? 本当に大丈夫なの!? この作戦!』
おまけ2『一夏君と束さん』
「ところで、いっくーん。昨日はあんまり話せなかった久しぶりの再会な束さんと感動的なハグハグは~?」
「えーと・・・ですね・・・。(い、言えない・・・。束さんが走り去っていった後に意識しちまった、巨乳クラスメイトの水着姿が目に焼き付いちまって今の今まで忘れてましたなんて死んでも言えるかーっ!!!)」