シャルロット・デュノアの妹、ジャンヌ・デュノアです。 作:ひきがやもとまち
でもまぁ、今回は学習しましたので一応は形になってると思います。たぶんですけども。
なお、今作はギャグ作品です。格好いい原作がお好きな方は一瞥もすることなく去っていくことをお勧めします。いやマジで。
午後四時前。
一夏が箒を庇って被弾して意識不明の重傷を負ったことにより銀の福音迎撃作戦は失敗し、織斑先生から『自分が呼ぶまで各自待機』を命じられた操縦者たちが旅館に帰還してきてから三時間以上が過ぎたころ。
臨時病室と化した旅館の一室にはベッドが置かれ、包帯だらけの一夏が横たわり、その傍らには箒が。部屋の壁に背中を預けるようにしてジャンヌが座り込んでいた。
「……」
「……」
二人は無言のまま同席し、身じろぎもせずに目を覚まそうとしない一夏と同じ部屋に居続けていたのだが。
その内実は、あまり友好的なものとは言いがたかった。
「…ジャンヌ。すまないが私は今、お前の話を聞いてやれる気力はな―――」
項垂れたままの箒が気力を失った声で苦情を言うと。
「あ̋?」
「……なんでもありません」
殺気の籠もりまくった狂眼とドスの利いた声で返されるから、黙り込んで引き下がるしかなくなってるだけだったりする。
もともと箒の怒りには中身がなく、プライドや虚栄心といった内実のない衝動から来る脊髄反射じみた反発心に過ぎず、本気で人を殺したいと願う本物の殺意なんか浴びせられた日にはビビって黙り込むしか他にない。
部屋を出て行けば済むとは言っても、一夏が心配で出て行くことが出来ない。
だからと言って本気の怒りで暴発寸前のジャンヌに「傷心中だから気を遣って欲しい」とお願いするのも恐くて出来ない。
じゃあ、割り切って黙ったまま二人一緒に過ごせるかと言われたら、それはそれで辛くて嫌な八方塞がりの窮状に今の彼女は追い詰められていたのであった。
(き、気マズイ…)
いったい何故どうしてこうなったのだろうか? 自分はただ、怪我した一夏が心配で不安でお見舞いに来ているだけなのに―――。
「そう言えばさー」
ジャンヌが、何気なさを装った声と態度でやり場のないストレス発散目的での嫌がらせ毒舌を『再開』するため箒に声をかけてきた。
「凰から聞いたんだけど、織斑がこうなったのってアンタのせいなんだってね?
なんでも、敵を前にして戦場でボーッと突っ立ってたせいで敵に撃たれそうになったところを織斑に庇ってもらって無傷で帰ってこれたんだって訊いたんだけど、本当なのアレ? ねぇ、味方を負傷させた味方殺しの篠ノ之箒さん?」
「ぐふっ!? ……い、一部に悪意的解釈が入ってはいるが本当…です……」
「ふーん?」
ヘタレではあっても根はクソ真面目で誠実でありたいと願っている箒は、自分の方が悪かったり、間違っていたと自覚させられる不利な状況に弱い。
そういう時は素直に謝るか、逆ギレして斬りかかるかのどちらかしか選べる選択肢を持ち合わせていないのだ。
なんかこれだけ聞くと、最近の切れやすい若者なのか、素直で可愛い乙女なのか判別しづらくなるのが微妙なところである。ある意味で、半端物な彼女にはふさわしいのかもしれないけれども。
「あー、それとさー。途中で聞こえてきた通信内容なんだけどさー。アレって酷いわよね~? 『馬鹿者何をしている、せっかくのチャンスに犯罪者などをかばって』って言うアレ。
私たちって世界最高戦力の兵器で、人殺さないスポーツやってる代表候補生で、その自覚あると認められたから専用機与えられてるはずなのに、『勝利のためなら犯罪者は死んでいい』って、専用機持ちの資格ないにも程があると思うんですよねー、私としましては~」
「う、ぐ…はぁ、はぁ…」
「あー、そっか。そう言えば篠ノ之さんは代表候補でもないのに、お姉さんが開発者本人だったから個人的にお願いして専用機作ってもらえる特権階級にあったんですよね☆ ごめんなさ~い、忘れてました~♪ 忘れてただけなんで許してくださーい♡ テヘペロwww」
「ぐぅぅ、うぅぅぅ……」
「いやー、でもさっすがお姉さんはIS作った天才ですよね-。ちゃんと勉強してるじゃないですか。“有史以来、世界が平等であったことは一度もない”と妹さんの前で断言されちゃうなんて♪
改めて考えると、あれってスッゲー嫌味ですよね~? 『お前が専用機手に入れられたのは私の妹だからだ。他人から認められた他の連中とお前とじゃ格が違うんだよ。妹思いで甘々なお姉ちゃんに感謝しなさーい♡』…ってか?」
「うううううぅぅぅぅぅぅぅっっ!!!! ねぇぇぇぇぇぇさぁぁぁぁぁぁぁっっん!!!
あなたは! 貴女って人だけは――――っ!!!!!!(激怒)」
キュピィィィィィッン!!!
「はっ!? 今、箒ちゃんが私の助けを求めたような気が……!?
でも、なんでだろう…。
今行ったら斬り殺しに来るような気が、ものスッゴくしてるのは!?」
「…束…、安心していい。お前は変な機械を頭に乗っけてるから毒電波を受信してるだけだ…病院で休ませてもらえばきっと明日には良くなっているさ……」
「ちょっ!? 違うよ、ちーちゃん! 束さんは本当にどこからともなく箒ちゃんの助けを呼ぶ声が頭に響いてきたんだよ! こう…キュピィィィッンっとね!!」
「束……」
「だから違うんだってば! その可哀想な物を見る目は本当にやめてーっ!?」
――などという二次災害が発生しているのと同じ頃。
一夏の横たえられた仮病室でジャンヌが箒をいたぶっている部屋の外。
…扉を開けた横で二人からは見えないように息を潜ませながら中国代表凰鈴音が、壁に張り付いたままの姿勢で出るに出られず困り果てていた。
(――待機命令無視して一夏の仇討つために箒を誘いに来てやったってのに、なんでジャンヌまでいるのよ!? しかもあんな殺気だった殺意の波動みたいな状態で!
恐いじゃないの! 声かけづらいじゃないの! 割り込めないし、気付かれるの恐くて帰ることも出来ないじゃないの!! どーしてくれんのよ本当に!!)
声には出さず、心の中だけで、盛大に愚痴と悪態とを連発しまくっていた。
なんだかんだ言いつつも、彼女は箒と同類のプライドから来る衝動で敵と戦うヘタレなので予想外の逆境にはすこぶる弱い。
自分の立てた計画から一歩でも外に出てしまった状況になると、逆ギレして衝撃砲ぶっ放すか素直に乙女ぶるかの二択しか選択肢を持ち合わせていないのだ。
だから当然彼女も、嘘偽りなくガチな殺気など浴びせられたらビビるしかなく、選ぶべきコマンドも『逃げる』一択だ。他はいらない、必要もない。
プライドと一夏が絡まない限り、彼女たちの戦いに本当の勇気は必要ないのだ。
欲しいのはただ、ムカつく敵を倒せる力と、分かり易く目に見える勝利のみ。
己の内側に潜む恐怖心など、あるのを認めるのが恐いから向き合いたくもない。だから倒す力も必要ない!
…なんか今、IS操縦者として強い奴ほど心が弱くなる傾向にある様に感じてしまったのは、気のせいだと思いたいぞ……。
「じ、実はだなジャンヌ。私の心には、このような悲劇を招いてしまう要因が内包されているのだ……」
「あん?」
ジャンヌからの虐めに耐えられなくなった箒は、自分が抱えてきた秘密の衝動について語り始めた。
とにかく今は…いや、今だけでもいい。手加減して欲しい…っ!
――その一心で、彼女は自身が抱え続けてきた心の闇をジャンヌに語ってしまったのだった……。
―――いつも、力を手に入れると流されてしまうことを。
―――手に入れた力は、使いたくて仕方がなくなってしまうことを。
―――わき起こる暴力への衝動を、どうしてか抑えられない瞬間があることを。
「だから私は剣の修行に励んだのだ…。己の脆弱な心を鍛えるために…!!」
―――箒にとって剣術は己を鍛えるものではなくて、律するものだったことを。
―――自らの暴力を押さえ込むための抑止力――リミッターだったことを。
「けれど、それは非常に危うい境界線なのだという事実を今更ながらに思い知らされた。薄い氷の膜のように、ほんの僅かな重みで壊れてしまう制御装置でしかなった事実をな…。
紅椿という名の、自分には過ぎた力を手にしてしまった為に私は一夏を傷つけさせてしまった。だから―――」
―――私はもう…ISに乗る資格も理由も失ってしまったのだと言うことを――――
一つの決心をつけながら紡いだ決意の言葉で締めると共に、項垂れていた顔を上げた箒が目にしたジャンヌの反応。
それは―――――
「……はあ~~~~~~~?」
――――と、思いっきり怪訝そうに顔をしかめて、不愉快そうに鼻で笑うという予想外すぎるにも程がある返しであった。
声には出さなかったけど、言葉よりもハッキリと顔に出ちゃってる。
『なに言っちゃってんのコイツ? アホか』―――と。
「はぁ~~~~……なぁーにを気にしているのかと不思議に思ってたのにコレって…なんだか私の方がアホみたいに思えてきちゃうわよね…」
「え? え? えぇぇっ?」
箒、混乱。…てっきり同情してくれるとばかり思ってたんだけど…だって、一夏だったら同情して慰めてくれたから。(注:箒も子供の頃から友達いなくて一夏とばかり遊んでたボッチです)
「あのね、篠ノ之。ハッキリきっぱり断言させてもらって悪いんだけどさ……」
「う、うむ?」
「すぅぅ~~~~~~………」
ジャンヌ・デュノア。大きく息を吸って、さぁ、どうぞ。
「ただの邪気眼厨二病よソレは!! 高校生にもなって卒業しなさい!!」
ジャンヌ、大声で喝破! 言ってることは正しいが、お前にもブーメランになるのは承知の上なのか?
「じゃ、ジャキ…?」
「邪気眼よ邪気眼!
思春期男子がよくやる妄想の一つで、『俺の右手には凶悪な竜が封印されていて、それを押さえ付けるための修行を続けているのだぁぁぁっ!』とか人前で言ったり、自分一人のときに妄想しまくったりしている奴らのこと!」
「な、なんだその変態どもは! 私はその様な怪しい輩では断じてない! 絶対に違う! 私には本当に暴力的な衝動に抗えない心の弱さがあって、それを押さえ付けるために剣術の修行をだな!」
「どう違うのよ!? 固有名詞以外はまったく同じじゃないの! 厨二病にかかってる奴はみんな同じこと言うのよ!」
「そんな…ならば手に入れた力を使ってみたくなる衝動はどう説明する気だ!?」
「単にアンタがガキなだけよ! 手に入れたオモチャは遊びたくて仕方がないってだけの、ただのガキ!
つか、思いっきり暴れて壊しまくりたいだけな、ジャイアンよりもガキな自分に変な設定付け加えて格好よく見せようとするな! 藤子先生に土下座して来なさい! 今すぐに!」
「ば、バカな……」
箒、再び愕然。そして今度は、茫然自失。
一夏と同類でテレビ見ないことが裏目に出た瞬間です。普通だったら、これは恥ずかしい。
でも、どれだけ恥ずかしいことしていたのか計る基準を持たない今の彼女は驚いてるだけ。知ることが必ずしも幸せではないことを知れ…厨二病です。
しばらくして落ち着いたのか、あるいは溜まっていた鬱憤をすべて怒声で流し出す適当な口実が見つかってくれたからか、それとも普段は人から言われる側の人間として言う側に回れたのが嬉しかっただけなのか。
とにかくジャンヌは冷静さを取り戻して「…はぁ~」と息をつき、頭髪を右手でかき回しながら、いちおう一夏が今の大声で目覚めてないか視線だけ向けて確認しつつ、箒に向かって根本的な疑問を投げかける。
「てゆーかさぁ…日本の剣術って人を斬るために習うもんじゃなくて、弱い己の心と戦うために学ぶべき物だって私は聞いたんだけど? …アニメでだけど(ぼそり)」
「―――っ!!!!(ガーーーッン!!!)」
箒、大ショック。
中学時代に全国大会に出場したときの剣道部員は、みんな勝つために剣道学んで強くなってたはずなのに! 剣術ではそうじゃなかったのか! 自分だけが特別じゃなかったのか! ……厨二です。
「あと、ISもう乗らないもなにも、アンタって歴とした国立IS学園の生徒なんでしょ? 学費が税金で払ってもらってる分、卒業まで操縦者続けて在学してないと今まで払ってもらってた分を全額耳そろえて払わされるわよ?
国防力育成のためにタダで学ばせてやる学校は、国のために働く奴だけタダで学ばせるためにあるんだから」
「―――っ!!!!(ガガーーーッン!!!)
箒、超ショック。
女尊男卑の世の中だから特別措置で作られた場所じゃなかったのか! …厨二というか、ガキのご都合主義ですよソレは…。(byどっかの平行世界の銀髪魔王)
「つか、そもそも紅椿ってアンタ専用に作ってもらった機体なんでしょ? 他の奴に使えるもんなのアレって? 剣道部が最弱すぎることで有名なIS学園に、銃で撃つより刀振って斬撃飛ばした方が当てやすいほど射撃下手な奴って聞いたことないんだけど・・・」
「―――っ!!!!(ガガガガーーーッン!!!)
箒、超大ショック。
自分専用機を与えられた専用機乗りは、自分の意思だけで辞めることが出来ないし捨てられない! 憧れるだけで専用機に乗ったことないから知らなかった! 学んだことすらなかった! ……だ~か~ら~…。ご都合主義だって言ってんでしょうがさっきから!(by以下同文)
…なんかもう、どうでも良くなってきたなここまで来ると。
「あー…。なんかもーいいわ。疲れたし、どうでも良くなったから。
――それじゃ、行こっか?」
「――――は?」
どこへ? 唖然呆然としていた箒と、意外にも知らなかった情報が多いことに驚かされていた、自分に興味の無い部分は知ろうとしないし学ぼうともしない扉の外の凰鈴音がジャンヌの一言に意表を突かれる。
どこへ? なにしに? 誰の元へ?
二人にとっては当然の疑問がいくつも飛び交う頭の中で、ジャンヌの声だけはハッキリきっぱり響いてきて理解できた。――――出来てしまった。
「無論、戦場へ、敵を倒しに。
三時間も待ってやったのに、未だなんの音沙汰もなく、戦闘解除命令も出そうとしない、要するに戦いたくない気持ち丸わかりな役立たず無能教師どもの代わりに私たちが殺りに行ってやるのよ。復讐戦を。リベンジを。アベンジャーズを」
「た、待機命令が出ているのだが……?」
「んなもん無視するに決まってんでしょ? だいたい最初の接触ときは距離があったけど、三時間経った今なら教師部隊全機出撃させて私たちと一緒に袋叩きにしちゃえばいいのに、やろうとしない時点でやる気ないのは明白でしょ?」
「敵の居場所が分かっていないだけなのでは…」
「んなもん偵察にも出さずにどう調べるって言うのよ!?
つか、やむを得ずに生徒を前線に出して負傷させましたって言うのなら、教師部隊で人海戦術やって誰か一人が落とされた場所の近くに敵がいるのが分かるんだし、やりゃあいいのよ、生徒を守るために身体を張って給料分のお仕事を。
絶対防御あるんだから死にゃあしないってのに、あの戦うべきときに腰が重すぎて何もしてくれないヘタレな元世界最強教師め! 生きて帰ってきたら内部告発して給料減らしてやるんだから、覚悟しなさい!」
ジャンヌよ、それは死亡フラグだぞ?
「いいのよ! 帰ってこれないつもりで攻めてこその乾坤一擲! 格上相手に逃げ道用意しながら挑んで勝てると思う奴らの頭がおかしいだけ!
突撃するときに後ろを気にしながらじゃ、勢い落ちるでしょ!? アレと同じよ!」
さいで。
「いー、いー、かー、らー、行ー、くー、のー!!
日本の領海外に出られたら攻撃不可能になっちゃうし、アメ公に回収されたら二度と復讐の機会が無くなっちゃうかもしれないのよ!? アンタそれでもいいの箒!? 気になる男が傷つけられたままで、本当にアンタそれで自分を許すことが出来るの!?」
「!!!」
ジャンヌの言葉は篠ノ之箒の心にかかっていた無力感のカーテンを引き裂いて、彼女は見失っていた自分を再発見した!!
「…すまない、ジャンヌ。私ではやはり力になれそうにもない。また先ほどと同じ過ちを犯してお前たちまで傷つけてしまったら私は…私は、どうしたら……」
項垂れる姿勢に戻る箒。彼女の見失っていた本当の彼女もこんなんでした。所詮は強がってるだけのヘタレである。
「そう…そこまで言うなら仕方がないわね。アンタを自主的に参加させるのは諦めるわ…」
「ああ…すまないな。やはり私よりも適切な人材がいた方がお前たちのためにもな―――」
ダダダダダダダッ!!!!
「――選びなさい、箒。ISに乗って戦って死ぬかもしれない戦場に赴くか、乗らずに今ここでノワールのヘビーマシンガンに撃ち抜かれて死ぬかのどちらかをね。
臆病者として生き長らえるより、こっちの方がよっぽどアンタの大好きなプライドを守れる名誉のためになるのでしょう…?(にっこり)」
「……(ガタガタガタガタガタ)」
篠ノ之箒、銀の福音戦第二ラウンドに強制参加決定。
つづく!
次回予告じゃなくて本当のオマケ
ジャンヌ「そもそもアンタ達って、普段から一夏をガチで殺そうとしてんのに、なんで敵に対してだけ殺そうとしないの? 気になる男よりも敵の方が好みだったりするの?」
原作ヒロン全員『うっ!?』
*基本的には脊髄反射で攻撃してるから、そこまで深く考えてない皆さん。
本能の赴くままに「裸見られて恥ずかしいわ!」=「だから殺す!」に直結してます。
……何それ、すごく恐い……。
『使われることなく消え去っていったネタの一部』
“暴走した軍用機に対処するよう当然命じられた訓練生が満足な情報も与えられないまま出撃して、威力は高いけど外れたときのリスクが巨大すぎる欠陥兵器が命中すること前提で立案された作戦に、新兵+IS歴半年未満の実績あるけど初心者な二人だけで参加してきたのだから、生きて帰投できただけでも御の字なのが現実”だったりはするのである。
むしろ、開発者が『無茶苦茶強い』と太鼓判押した特殊装備だけスゴくて、性能的には平均的な第三世代機と同等でしかない世界中が血眼になって開発している第四世代機に乗った初陣の一般生徒としてはよくやった方、と言えなくも無いのだが。
まぁ、好きな男が自分を庇って傷ついてしまったという現実を前にしては、それ以外の事実なんて年頃の乙女心補正でどうでもよくなるものなのかもしれない。
人は所詮、“真実”を追い求めながら“信じたいと願うものを信じる”生き物であるからして。
(私はもう……ISには乗らな―――)
傷ついたまま目覚めようとしない包帯だらけになった幼馴染みの姿を見下ろしながら、箒は一つの決意をつけようとしていた。
心の中で小学校時代の思い出を走馬灯のように振り返りながら、『わき起こる暴力衝動を抑えきれない』とか、『剣術は自らの暴力を押さえ込むための抑止力』だとか、『ほんの僅かな重みで壊れてしまう危うい境界線上のリミッター』がどうだとか。
ジャンヌが聞いたら大喜びしそうなワードを連発しながら自己嫌悪に浸る篠ノ之箒、16才。
友達は、少ない。
……完全に邪気眼厨二病じゃねぇか…若さ故の過ちじゃねぇか…。
お前は一体、どこの『ロミオとジュリエット』を演じるつもりなんだ?と、第三者がいたら訊いてくれたかも知れないこの状況。プライスレスでもなんでもいいから、誰か止めてやれよ。本当に…。
「あそこに! 私たちの目の前に! アメ公が造った鈴を鳴らしてりゃいい兵器がプカプカ浮かんでバカみたいに立ち止まったままなのに! どうしてうちらのトップは出せる機体をすべて出して撃墜作戦指示だそうとしないのよ!?
量産機に乗る教師部隊も到達できる距離で立ち止まったままなのにーーーーっ!!!!」
ジャンヌ、大激怒。怒りのあまり言ってる内容が、どっかの世界で核撃たせたブルーな人たちの親玉みたいになっちゃってるけど、こっちの主張は割かし真っ当。
最初に失敗したときに参加できたのが二機だけだったのは、敵が遠すぎて速すぎたからというだけであって、時間掛けてもいいなら普通に全機投入可能であり、中世ヨーロッパの戦争でもない限り実戦に人数制限なんて物は存在しない。
数は力で、質より量なのが実戦だ。
「正々堂々、一対一で」なんて数が少ない方しか言わないし、負けてた数で優位に立ったら言わなくなる詭弁でしか無い。
夢もヘチマも浪漫もないが、そんなもの戦争に求める方がおかしいんだし別にいいんじゃね? ・・・それがジャンヌ・デュノアクオリティ~。
「だ、だが敵の居場所はわからないのだろう・・・?」
「近くにいる可能性がなきゃ、三時間以上も待機命令だされ続けるわけがないでしょう!?」
これまた真っ当。織斑先生はハッキリと明言してました。
『状況に変化があれば招集する。各自現状待機しろ』と。
敵が離脱したのを確認できたら間違いなく状況変化だし、待機中の戦闘要員に通達してこない理由も特には思い当たらない。
要するに、状況は変化しておらず、今も戦闘は継続中。少なくとも敵がこちらを襲撃可能で、待機中の操縦者に対処できる距離に留まってるのは明白すぎるということ。
実際に銀の福音は、旅館から三十キロ離れた沖合上空にステルスモードで滞空中。光学迷彩は持ってないから衛星による目視が可能なことを、ラウラだけはこの時既に知っています。
そして、ハッキングして不正に情報を取得した彼女とは違い、正式な身分と権限を持って情報提供と協力を要請できる織斑先生が知らないと思えるほど彼女は恩師を過小評価していなかったから・・・・・・早い話が隠蔽してますよね? 織斑先生ぇぇ・・・・・・。
「い、位置の特定に時間がかかってるだけかもしれないわよ・・・?」
「夕方よ! 今は!」
はい、その通り。作戦が開始されたのは昼頃で、今は四時頃。三時間以上もぶっ続けでオアズケ食らわされてたジャンヌの乏しい忍耐心は、こうして爆発しておりました。
どこの誰だ? 火を付けたままコロニーレーザーをほったらかしにしていた大馬鹿者は。爆発しちまってるじゃないか、責任者出てこい織○先生!
「怪我人治すのは医者の仕事。IS操縦者の仕事は敵を倒してくること。
役割が違うのよ。ここに居たって何の役にも立たないんだし、ボーっと待ってるだけよりかは敵探してぶっ潰してた方がまだしも少しぐらいはマシでしょ?
ほ~んと、平和な世の中には向かない難儀な商売だわ。IS操縦者って」