シャルロット・デュノアの妹、ジャンヌ・デュノアです。   作:ひきがやもとまち

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第2話「ルームメイトは優しくて恐いお姉ちゃん」

「クソッ! クソッ! あのビッチ! ロリビッチめ! 担任の美人教師を追いかけて転校までしてきた元教え子の百合ビッチのくせに生意気なーーーーーーっっ!!!

 次は勝つ! 絶対に勝つ! 必ず勝つ! ぶちのめしてから勝つ!

 ぶっ潰してぶっ倒して、思いっきり勝ち誇ってやるんだからーーーっっ!!!!」

 

 ISアリーナ内に響きわたるフランスから来たデュノア社長令嬢の『お嬢様』という設定保持者ジャンヌ・デュノアの雄叫び。

 それは世界で唯一の男性IS操縦者織斑一夏よりも漢らしくて勇ましい、勝利への渇望と決意に満ち溢れた宣戦布告。・・・・・・なんか色々と間違っている気もするけど、スポーツ選手としては(たぶん)正しい在り方なのだろう。おそらくはだけれども。

 

 

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

 ・・・・・・そして唖然呆然とさせられる、ジャンヌをお嬢様だと思っていた周囲のクラスメイトたち(一部、他クラス生徒を含む)。

 

 優秀だけれど残念無念きわまりない、それがジャンヌ・デュノアクオリティ。

 

 もの凄く話しかけ辛い状況のなか、普段と同じように普通の態度で彼女に話しかけられるぐらい彼女に慣れてる人間は、兄設定で実の姉でもあるこの人しかいない。

 

「ジャンヌ、大丈夫だった? 怪我とかしてない?」

「ああ? 見りゃわかるでしょ、ないわよそんなモン。むしろ有って堪るかって次元の話だし。

 あんなロリ百合ビッチに掠り傷ひとつでもつけられたりしたら恥って言うか、逆立ちしながら全裸で学園中を練り歩いた方が百倍マシってもの・・・」

「そっか。よかったね。じゃあ今日はもうあがろっか。四時過ぎたし、どのみちアリーナの閉鎖時間だしね」

「はぁ? ざけんじゃないわよ! このやり場のない怒りを誰か適当な奴見つけて発散させずに帰れるわけないでしょーが!」

「いいから」

「聞きなさいよバカ姉! 私は帰らないって言ってんでしょーが! 少しは人の話を聞き・・・」

「いいから」

「・・・・・・あ、はい。ごめんなさい、帰ります。

 ご迷惑をおかけしたみたいで申し訳ございませんでした・・・」

 

 つい数秒前までラウラに対する怒りで猛っていたジャンヌであったが、姉が湛えている海色の瞳を一目見た瞬間、意識するより先に借りてきた猫のように大人しくなって頭を下げてしまっていた。

 

 姉の瞳は穏やかな春の海を連想させる母性本能に溢れたものであったが、その一方で海面の下に何が潜んでいるのか見ることの出来ない未知への恐怖を孕んでもいた。海面の穏やかさと同時に、暗くて深い深海を連想させられる碧色なのである。

 

「じゃあ、一夏。僕たちはこれで。他のみんなも今日は巻き込んじゃったせいで迷惑かけてごめんね? 埋め合わせはきっと“ジャンヌに”させるから」

「お、おう。じゃあ、また明日な?」

『お疲れさまでし・・・た?』

「うん。それじゃあみんな、また明日! バイバ~イ♪」

 

 不自然なまでにテンションの高い挨拶で場を締めくくり、妹と仲良く手を組んだ姿で去っていくデュノア姉妹。一見しただけでは落ち込んでいる妹を慰めながら帰路につく感動シーンのはずなのに、どう言うわけだかジャンヌの顔色が悪く見える。あと、顔に縦線が入ってる姿を幻視しかけたりもしてしまう。

 

 色々と不可思議な点に満ち満ちた放課後だったけど、何かをあきらめて割り切った色を顔に浮かべた織斑先生が「パン! パン!」と音を立てて柏手を打った音で場は時間を取り戻し正常空間へと帰還を果たす。

 

「言いたいこと、聞きたいことは多々あると言うことは理解しているが、さすがに今日は時間がないし私も疲れた。部屋に戻ってゆっくり休み、明日にでも話は聞いてやる。以上だ。解散!」

 

『お、お疲れさまでしたーっ!!』

 

 強引に話をまとめて去っていく元世界最強ブリュンヒルデの織斑先生。・・・強引なのもたまにはグッジョブ!

 

 

 

 

 

 

 そして、所変わってデュノア姉妹の自室。

 

「・・・・・・・・・(ガタガタガタ)」

「ねぇ、ジャンヌ。僕たちに与えられた任務は覚えているよね? その中で僕たち姉妹に割り振られていた役割も覚えているよね? それとも忘れちゃったかな? だとしたらもう一度だけ思い出してもらう必要性があるんだけど?(ニッコリ☆)」

「・・・・・・・・・お、覚えておりますから、大丈夫ですわお兄さま。ええ、本当の本当に覚えておりますので再教育の必要性だけは本当にまったく金輪際二度と御座いませんのことですことよ・・・・・・(ガクガクガク)」

「ふ~ん、そっか~。僕が教えたこと、ちゃんと覚えていてくれたんだね。兄としても姉としても僕とっても嬉しいな~(かいぐりかいぐり)」

「・・・・・・・・・((;゜д゜)ガクガクブルブル(ひーっ!? 久しぶりにシャルロットが切れかけてる! 私、この状態のお姉ちゃん嫌い!嫌い!大っきらい!

 嫌いな人におそわれそうになってるの! だからお願い、助けに来て正義のヒーロー! か弱い女の子があなたの助けを心待ちにしているわよーっ!?)」

 

 実家にいるとき、姉よりも早い時期からIS操縦の仕方を叩き込まれていた後妻の娘であるジャンヌは、後からやってきた後発組の姉にIS操縦をコーチングしてあげた先生であったが、同時に彼女のはすっぱ過ぎる言動は男を落とすには向いていないと遺伝子上の実母であるロゼンダに酷評され、シャルロットからお嬢様口調と丁重な物腰を学んで覚えることを義務づけられていた過去を持つ、互いが互いにとっての教師姉妹なのである。

 

 その関係性が二人の仲を急速に良くしていくのを助長したのは確かだが、それと同じくらい二人の間の力関係を確立するのにも役立っていた。

 

 平たく言うと、姉の方が圧倒的に上位であり、妹の方は姉の穏やかさのおかげで横柄な態度が黙認されているだけなのがデュノア姉妹の実体だったりする。ぶっちゃけ、ジャンヌは恐姉家なのだ。お姉ちゃんが本気で怒っているときに逆らう勇気など微塵もだせない。

 

 強気に出られるのは腕っ節がものをいう戦場だけ。それ以外の場で偉そうにしてても、姉が少し凄んだだけでしおしおとヘタレる内弁慶少女。それがシャルロット・デュノアの妹ジャンヌ・デュアなのである。

 

 

「ジャンヌ? 僕の話はちゃんと聞いてた? 聞き取れてなかったなら、もう一度最初から言い直してあげるけど?」

「(ビクッ!)・・・い、いえ、ちゃんと聞いてましたわよお兄さま。ええ、もちろん一言一句過つことなく正確に・・・」

「そっか、良かった。ーーじゃあ、この漢字ドリルの書き取り集を朝までに30冊終わらせておくこと。わかったね?」

「・・・へ? い、いや、ちょっと待って、ちょっと待って。私漢字が超苦手だってことくらい、アンタ知ってーー」

「日本で長くやってくためには、漢字が書けて読めないと厄介ごとが多そうだからね。今までやってきたのを『一晩に凝縮しただけ』なんだから、出来るのが当然だと思うよね? ジャンヌ?」

「・・・・・・(ふるふるふる“注:子犬が泣きそうになりながら助けを求めている時の目で”)」

 

 懸命に助けられて然るべきか弱い乙女を演じるジャンヌであるが、やはり普段の行いが祟り、よい子じゃなかったから困っているジャンヌを助けに来てくれる都合のいいヒーロータイプの主人公が現れることはなく、シャルロットは妹に言うことを聞かせるためにも伝家の宝刀を抜き放つ。

 

「忘れてるかもしれないけど、ジャンヌが素を出しちゃった時にはデュノア社にいるお母さんに連絡するよう言われてる監視員は僕だからね? これ以上なにか仕出かすようなら、ヒドいことになっちゃうかも知れないよ? ーーほら、そんな風に」

 

 ーーーぶーん、ぶーん、ぶーん・・・・・・。

 

 ・・・突然に鳴り出したジャンヌがもつ携帯電話のバイブレーション機能。

 

 おっかなびっくりしながら開いてみたところメールが来ていて、一文だけの短い短文が画面中央に表示されていた。

 

 

 

 “お小遣いの額、減らしときました”

 

 

 

 ・・・・・・その日の晩。ジャンヌ・デュノアは、もう二度と許可なくIS展開して戦闘したりしないと、血の涙と共に心に誓ったのでありました。

 

 

 閉じこもり系のオタクであるジャンヌは服装に金かけなくていい代わりとして、ゲームとかグッズとか本とかブルーレイには金かかりまくって今月カツカツ過ぎてた今時女子のオタク少女でもある女の子であった。

 

 

 

 

 

「ーーあれ? 箒ちゃん? こんな時間にこんな場所で、どうしたのかな? 何かあった?」

「ん? ーーああ、デュノアとデュノア妹か。妹の方は、今は落ち着けたようで何よりだったな」

「・・・・・・どうも」

 

 食休み兼ちょっとしたお仕置きとして外に連れ出してこられた妹を連れてシャルロットがやってきたのはIS学園でもあまり人が寄りつくことがない学生寮の裏にある、ときおり簡素な集会の場として使われているぽっかりと空いたような場所。

 

 そこまで来て、姉妹は思わぬ人物と遭遇することになっていた。

 織斑一夏の幼馴染みにして、ISを作った天災科学者篠ノ之束の実妹。それでいて本人に他者より抜きんでている長所としては胸のデカサぐらいしか今のところは存在していない侍ガールの篠ノ之箒だった。

 

 今の彼女は制服を着ておらず、無論のこと全裸でもない。

 白い胴着に紺袴。足下には足袋と草履。一体いつの時代からタイムスリップしてきたのかと疑問に思わざるを得ない出で立ちのクラスメイトから、二人は一本の筒を見せてもらいつつ説明を受けた。

 

 

 箒の実家から抜き身の真剣でもある日本刀が送られてきたから、居合い抜きの練習をしていたらしいのである。

 

「名は緋宵。かの名匠・明動陽晩年の作だ」

 

 箒はそう言って得意げに愛刀の解説をし始める。どうやら届いたばかりの愛用の品を自慢したくて仕方がないらしい。

 変なところで妹と似ている点を見つけられたことからシャルロットは箒に対して好感を抱き、その説明を最後まで聞き逃さずに聞いてあげることにする。

 

 ーーー昼間の失態を蒸し返させないためにも、話を逸らしてくれる話題でさえあれば何でも良かったのは秘密である。

 

 

「名匠、明動陽は女剣士を伴侶としたことから、それまでの刀剣作り一切を捨て、飛騨山中へと移り住み、そこで『女のための刀』を作り続けたことで有名な刀鍛冶でな。柔よく剛を制すの精神に近い『女が男を倒す』というテーマを生涯をかけて研究した御仁でもあるのだ」

 

 箒は気分良く語って聞かせて、明動陽が最後に至ったふたつの結論についてで話を締める。

 

一つ『けして受けることなく剣戟を流し、また己が身に密着して放つ必殺の閃き』

 

一つ『相手よりも早く抜き打ち、その一太刀をもって必殺とする最速の瞬き』

 

 ーーー自分が持っているのは後者であり、刀身が細く長くされた日本刀で、その鞘もまた常識のものより長い。しかし、これが不思議なことに短い刀よりも早く抜けるのだと。

 

 

 話を聞き終えたシャルロットは、全身武器庫な射撃戦タイプのIS《ラファール・リヴァイブ》の操縦者らしく剣術関係は専門外なので「そうなんだー、スゴいねー」と笑顔でほめる以外にできることがない。

 

 対してジャンヌは、やや事情が姉と異なっていた。

 まず、彼女の愛機《キャヴァルリィ・ノワール》は敵に肉薄して短期決戦を強いるのが必勝パターンの強襲型だ。避けるだの流すだのと言った間怠っこしい戦い方は好きになれない。

 ついでに言えば敵が罠を仕掛けて待ちかまえているなら、その罠を食い破って喉元へと食らいつき噛み千切ってやる!――ぐらいの気合いがない臆病者が戦場に立ちたがる理由が理解できない突撃厨でもある。

 

 なので、はっきり言ってジャンヌから見た明動陽の至った結論は『まともにかち合っても勝てないから、逃げ回るのだけ上手くなった逃げ上手』としか見ることができず、

 

「女が男に勝ちたいなら、肉や骨をいくら削られようと相手の心臓一つ穿つことのみ成し遂げられる一芸を磨き上げた方が自分の命一つ分あまって勝ちなんじゃないの?」

 

 ――という、女の子としてどうなんだよ過ぎる発想しか沸いてこないのだ。

 

 それもまた、ジャンヌ・デュノアクオリティ。

 

 

(正直、今までは特別なにも感じてこなかった相手なんだけど・・・なんでかしらね? 今の話を聞かされた途端にメチャクチャ腹立ってきたわ。怒りにまかせて殴りかかったりしたらダメなのかしら?)

 

 ダメに決まっているし、姉の前でそんなことすれば一体どれほどの額がお小遣いから減らされるのか想像することさえ恐ろしすぎる。

 

 結局、ジャンヌはまるで前世で宿敵同士だった生涯の敵と再会した転生者がごとき気持ちを味あわされながら箒の話を聞き流すよう努力し続け、なぜ自分がこんなにも無意味な努力をしなければならなくなっているのかを考えたとき最初に浮かんでくるのは当然のように当然のごとくドイツの百合ロリビッチ少女の貧乳だった。

 

 

(・・・そうよ! 全部アイツが悪いのよ! 私がこんなところで要らない苦労を強いられてるのも、お母さんからお小遣いを減らされたのも、地球の温暖化が止まらないのも、フランスの景気が悪くなる一方なのも、先月発売予定だった『もしも7人の英雄たちとアフター・ストーリー』をウッカリしてて予約注文しとくの忘れちゃってたのも全部が全部アイツが悪い!)

 

 

 ・・・すさまじいレベルの言いがかりであり八つ当たりである。ラブコメヒロインでもここまでは普通しない。つか、最後のは完全無欠の自業自得だと思うよジャンヌちゃん?

 

(それでも今は耐えるしかない・・・! ここで爆発したりしたらお小遣いが! 再来月発売予定の『もしも7人の英雄たちとオルタナティブ』が買えなくなってしまうかも! それだけはイヤ! 絶対にダメ! 『もし7』はオタク人生のバイブル!ないと孤独で死ぬる!)

 

 心の中だけとはいえ、残念さを遺憾なく発揮しまくるジャンヌちゃん。

 そうしてやっとこさ解放されて部屋へと戻り、姉が小さくて可愛いあくびをひとつして「じゃあ、寝るよージャンヌ。お休みなさーい」と部屋の電気を消してからしばらくしてーーーーむくり(ベッドから起きあがる音)

 

 

 

 暗闇の中、姉の寝顔をそっと見つめて頭の中に両親とデュノア社員の面々を思い浮かべながら、迷惑をかけてはいけない人々への配慮を最大限してから出した答え。

 

 

 

「よし、夜襲をかけよう」

 

 

 

 ・・・・・・最低だった。

 

 

 そっと部屋を抜け出してラウラの部屋へと続く廊下の最短ルートは警備側の想定内に入っているため、裏をかいて屋根づたいに相手の部屋を直上から強襲してやろうと上に登ったその瞬間に、

 

 

「「あ」」

 

 バッタリ“そいつ”と再会してしまった。

 

 ドイツの荒武者ラウラ・ボーデヴィッヒと、フランスの火の玉娘ジャンヌ・デュノアとが。

 

 二人の手にはそれぞれマジックペンとインスタントカメラが握りしめられており、それの事実を互いが互いに対してだけ正しく認識してから沈黙が降りて数秒後。

 

 

「「・・・・・・・・・・・・・・・」」

 

 

 

 無言のままに二人の少女は自分の愛機を展開して、第三世代IS武装をぶつけ合いまくりだすのである。

 

 ―――ラウンド2、ファイト!!

 

 

つづく

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