シャルロット・デュノアの妹、ジャンヌ・デュノアです。 作:ひきがやもとまち
誕生日。
言うまでもなく、それは一年に一回だけ訪れる自分が地上に生まれ落ちた日であり、人生がスタートした始まりの日でもある。
お金のある家は盛大に祝い、お金のない家庭は慎ましやかに暖かく愛情のこもった祝い方で、我が子の誕生と家族と過ごしてきた今までの幸福に感謝を捧げる記念すべき日。
要するに、ひねくれ者にとって一年間に起こるイベント中、ワースト入り確定している実に嫌な日のことであった。
「なぁ、ジャンヌ。今月の二十七日に俺の誕生日を中学のときの友達が祝ってくれるって言ったら、みんなが俺の家に集まって祝ってくれることになったんだけど、お前も来るか?」
「行かない、パス。勝手に一歳年とって、寿命が一年縮まって、一歳分ジジイに近づいたことを祝ってなさい、バーカ」
「ヒデぇ言い様だなオイ!? 人が素直に誕生日祝ってもらえることを嬉しく思ってたのに、水さしまくらないでくれないか! いやマジで!!」
祝い事はとりあえず罵倒しておく習性を持つ、ひねくれボッチ族として生まれて生きてきたジャンヌ・デュノアは、朝食に遅れてやってきたが故に聞き逃していた織斑一夏の誕生日パーティーの一件について聞かされた瞬間に即答して、空気読まずに拒絶してしまったのだった。
「ま、まぁまぁジャンヌ。一夏も親切心で誘ってくれてるだけなんだから、そんなに冷たくあしらわないであげてよ。ね?」
姉のフォローでなんとか持ち直した(主に一夏が)代表候補生たちの食卓にただよう雰囲気。
その中でもフランス産イノシシ科に属するジャンヌ・デュノアは特に感応した様子もみせずに「ふん!」と鼻を鳴らして忌々しそうに表情を歪めながら吐き捨てるように言ってやった。
「だいたい、あんなイベントのどこに祝う要素があるって言うのよ。どいつもこいつも物欲丸出しで祝う気なんかどこにも見いだせないじゃないの」
「えー、そうかなぁ? みんなちゃんと心の底からおめでとうって言ってくれてる様に見えるんだけど・・・」
「甘いわね、姉さ―――こほん。シャルロット。あなたは人間性というものの中に潜む真の醜悪さについて理解なく生きてきたのですね。ならば判らないのも無理はありません。
いいですか? ヒトという生き物はあなたが思っているよりずっと狡猾でズル賢く、狡知さと保身に長けた醜い俗物の群れになるよう神によって創られたゲテモノ集団なのですよ」
「なんで、いきなりお嬢様口調・・・?」
パンを頬張る身振り手振りまで気品あるお嬢様っぽくして見せる腹違いの妹にジト目でツッコミを入れる姉だったが、妹の方は動じない。むしろ「ふん!」と誕生日について持論の正しさをより深く確信する。
「それが事実だからよ。―――それまで毎年呼ばれていた他家のパーティーに、金回りが悪くなってきた途端に呼ばれなくなる。破産の噂が現実味を帯びてくると今までつないできた縁を切るため努力し始める。成り上がりの新進企業の若手社長を笑顔で迎えて、帰って行く背中に舌を出し合う。同世代の子供たちにとっての友達作りは、子供の内から上と横への人脈作りをしておくよう親に良く教育された結果に過ぎない。
使用人たちに至っては、雇用主である父と母の前で礼儀正しく『お誕生日おめでとうございます、お嬢様』と祝福して見せてるだけで、廊下の陰では『明日のパーティーは大変だ。破産確定した貧乏社長のバカ娘の誕生日会を準備させられるなんて・・・』『苦労知らずの上流階級様はお暇でいいわねぇ』とか黒い顔して言い合いながら再就職先の候補を自慢しあってる連中ばかり・・・・・・。
―――私、人の欲望と欲得が一番表に出やすいあの手のパーティーはもうウンザリ・・・・・・」
『・・・うわぁ・・・・・・』
途中から暗い顔になってつぶやかれたジャンヌの過去に一同ドン引き。
ぶっちゃけ、それぞれが生まれた家の問題で苦労してきているため『自分が一番不幸で大変だった』と、そう言う類いの感情を言語化するレベルまでは行かなくとも持ってしまっていた思春期少年少女らしい彼ら彼女らから見ても、これは重かった。自分の不幸自慢っぽい感情的な優越感が一気に吹っ飛ばされる程度には嫌な過去話を聞かされてしまった。
・・・てゆーか、一夏としては己の誕生日会を前にして語って欲しくない話トップ3に入ること間違いなしな内容だったのであるが、それすら言い出しにくい状況というか空気となってしまったのでチト困る。
「・・・・・・うわぁ・・・」
シャルロットに至っては、内心でちょっとだけ憧れていたプレゼントがいっぱい届いて笑顔で満ちあふれたキラキラしたお金持ちのお誕生日会のイメージを根底から崩壊させられて精神的ショックが致命傷すぎた顔になってしまってる。
父に引き取られたのが二年前で、厳しそうに見えて実は子煩悩なデュノアパパは、どうやら愛するシャルロットママの忘れ形見に嫌な現実を見なくて済むよう工夫してくれていたらしい。
そのシワ寄せが妹に行っていたことには気付いてなかったっぽく見えるけど、その点では妹本人が気にしてなさそうだから良いのだろう。たぶん・・・。
「え、え~とぉ・・・・・・」
それはともかく話題の変換である。
さすがに今のままなのはちょっと・・・うん、嫌すぎる・・・。
「あ! そ、そうだわ! みんなの誕生日っていつだったかしら!? 一夏だけのじゃなくて、みんなの分もお祝いできるように言っておいて知っときましょうよ!」
「(ナイスですわ鈴さん!)そ、それは良い提案ですわね!」
「う、うむ! そうだな、友人の生まれた日を知っておいて覚えておくのは人として当然のことだからな! 私の誕生日は7月7日だ!」
「わたくしは12月24日ですわ!」
「俺のは今更言うまでもないかもしれないが、9月27日だぜ! ――あ、オイそこ行くラウラ! ちょうど良かった! お前もこっちのテーブルで一緒に食べようぜ! そして誕生日を教えてくれ! お祝いしたいから!」
「ん? 私か?」
一夏ラバーズに入ってないから朝食をともにする理由もなく、適当な時間までトレーニングに勤しんでたら出遅れてしまったラウラが登場したので相席を進め、ついでのフリして誕生日を聞いてみたところ返ってきた答えはこんな感じ。
「知らん。私は試験管ベビーだからな。フラスコの中で精子が卵子に受精して、受精卵になった日であれば研究所に問い合わせれば記録が残っているかもしれんが」
『・・・・・・・・・・・・・・・』
今までで一番重苦しい空気になってしまいましたとさ。ジャンヌでさえ気不味そうにそっぽを向いて沈黙するしかないほどの重たい過去話です。
どちらかと言えば、こんな話を誕生日の直前に教えられてしまった一夏の方が被害者なのですが、それすら主張できないほど重たい出生の秘密です。自分からバラしといて秘密もなにもありませんが、バラした本人以外の他人から見りゃ立派に極秘情報扱いです。
ものの価値なんて流動的なので、その人の価値基準によって大きく流転して変動もします。永遠に変わらぬ価値あるものなんて無い。
「まぁ、所詮は過ぎた過去話だ。気にする価値はない。それよりも私は早くジャンヌを倒したくて仕方がないぞ。早く勝負してリベンジさせろ。ハリー、ハリー、ハリーッ!!」
「アンタはどこのルーマニア出身で今の住所はイギリスになってる吸血鬼の王様だ! 少しぐらいは待つって言葉を覚えなさいよ!」
いつもの如く、いつものやり取り。
一夏に敗れず、一夏に惚れず、過去のしがらみも払拭し得ないまま、ただただ『ジャンヌ倒す!』という一心で自己変革起こしたラウラにとっての優先順位は『ジャンヌに勝つこと!倒すこと!』に傾倒しまくっており、それが一向に叶ってないから其れ以外の価値が相対的に下落しまくっており。
「何時どのようにして誰が生まれたか等どうでもいい。
それよりもジャンヌとの再戦を! 復讐戦を! リベンジを!!
あの懐かしき戦場へ私をさそえ!!! あの懐かしき戦闘へと私をいざなえ!!!!
そして私に勝利を!!!! 今度こそ私に勝利を味わう悦びを賜わしたまえ!!!!
ジーク・ハイル!! ジーク・ハイル!!! クリィィィィィィィィッック!!!!」
「お前はどこのドイツの敗残兵になっとるんじゃい! 軍服がソレっぽいからって精神面までコスプレするなぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!!」
ジャンヌとの闘争を、ただ闘争を待ちわびて拗らせちゃったっぽいラウラにとって、誰がどのような目的で自分を創ったかなど些事だ。他人の思惑など知ったことではない。他人が自分をどう見ているかなど問題視すらしていない。
そんなもの、気になるようなら力尽くでこちらを見るよう仕向けてやればいいではないか。
こちらを無視するのが気に食わぬなら、髪の毛をつかんで引きずり降ろし、眼を開けさせ恐怖の味と共に思い知らせてやれば良いではないか。二度と忘れられない軍靴の音を心の臓まで刻みつけてやればいい話ではないか。そいつらの都合では想像も付かない他人の傲慢さというものを思い出させてやればいいだけの話でしかないではないか。
そんな細やかな些事よりも! 速く自分をジャンヌと闘争する場へ連れて行け!! 早く私をあの場所へ誘うがいい!
突っ走れ! 突っ走れ! エンジンが焼け落ちるまで突っ走れ! もっとだ! もっともっともっと!
「今でも思い出す、あの喧噪と打撃の中へと向かって私を突っ走らせるのだ!!
私は戦闘を! 地獄のように甘く、天国のように情け容赦ない戦場を望んでいる!
私はISバトルという名の闘争が大好きだ――――――ごおへはっ!?」
「・・・お前はここがどういう場所なのか、よく考え咀嚼し吟味してから言葉を発することを覚えろボーデヴィッヒ・・・。
この学園は、『戦争利用が禁止されてるISの操縦者を育成する国立機関』なんだからな・・・?」
「・・・や、ヤー、フラウコマンダー・・・ル・・・・・・がくっ(パタリ)」
「やれやれ・・・まったく・・・」
手加減なしの全力げんこつツッコミを食らって、テーブルへと突っ伏した元教え子を担ぎ上げ、元世界最強ブリュンヒルデこと織斑千冬先生は一夏たちにも視線をやって急ぐよう促す。
「もうすぐ予鈴が鳴る。お前らも早く食べて教室へ行け。遅れた場合は“こう”だぞ?」
パシーン!と、肩に担いだラウラの尻を、盛大な音を響かせながら叩いてみせる織斑先生。
その目は口とは比べものにならない雄弁さで以て、彼らにこう語りかけていた。
『従わない者は、皆こうなる。
私に逆らっていいのは、私に殺される覚悟のある奴だけだ』
――――と。
言うまでもなく一夏たちは織斑先生の指示に従った。
戦友の犠牲を無駄にしないためにも。犠牲を一人でも少なくするためにも。そうするより他なかったから・・・・・・。
まぁ、早い話が『勝てない相手にプライドだけで立ち向かっていく阿呆はいなかった』ってだけの話ではあるのだけれども。
激情に任せて吠えて噛みつく蛮勇を振るえるのは、まだしも勝てる見込みがある相手まで。
本当の意味で圧倒的で絶望的な力の差がある相手の前では大人しく従い、目の届かなくなったところまで来てから気勢を上げ、罰する者の手が届かない場所で命令違反を犯す。
古来より、学生主人公およびヒロインたちにとって勝てない大人たちへの反逆や革命、支配からの卒業というのは、そういう風にやるものだと規定されてるものなんだから。
つづく
次回予告
鈴「そう言えば、もうすぐキャノンボール・ファストよね。準備進んでる?」
ジャンヌ「ああ、あのスタート直後に隣にいた強敵を不意打ちして脱落させて、最終的にマウンドの上で生き残ってた奴が歩いてゴールしても優勝になるトンデモレースの事よね? ちゃんと準備は済んでるから安心していいわ。任せなさい。
わだかまりを捨て一堂に会した万夫不当の英傑たちを、ロケットスタート爆弾で倒し尽くすことにかけて、私は誰にも負けない自信と実績を持つ女なのだから」
鈴「最低すぎるわねアンタ!? そんなだから誕生日を素直に祝ってくれる友達出来なかったんでしょうが! 少しぐらいスポーツマンシップを持ちなさいよ!!」
ジャンヌ「なんでよ!? ルール違反じゃないでしょう!? あと、レースに銃とか剣とか持ち込んでる時点でスポーツマンシップもヘチマも無いっての!」