シャルロット・デュノアの妹、ジャンヌ・デュノアです。   作:ひきがやもとまち

27 / 43
とりあえず更新です。思ってたのと出来た後のとで大分内容に違いがでちゃったパターンの回になってしまいました。もし不評なようでしたら書き直すべきかとも思っていますので、不満だった方はご遠慮なくどうぞです。


第26話「第二整備室で踊るメンタル大消耗戦」

 タッグマッチ大会前日の夜9時頃。

 IS学園整備課の第二整備室には下校時間を過ぎた後も明かりが灯り続けており、中では突貫で更識簪の未完成だった専用機《打鉄・弐式》の最終調整が大詰めを迎えていた。

 

 

「よーしよしよし、なんとか基本部分はこれで完成ね。更識さん、機体の動作に違和感はない?」

「だ、大丈夫・・・です」

「火器管制システムは? 結局マルチ・ロックオン・システムは諦めたのかい?」

「は、はい・・・。通常の、ロックオン・システムを・・・使います・・・・・・」

 

 整備課に所属する何人かの女子生徒たちから質問が飛び、それに応じて答える更識簪。

 ただでさえ遅れていた独力での未完成IS完成計画が、自分とジャンヌのケンカに巻き込んでしまったせいで研究機材はメチャクチャになり、データも一部破損してしまったため止むを得ず他人に手助けしてもらうことで何とかタッグマッチ前日の夜には完成にこぎ着けることが出来たのだった。

 

 ――と、言うわけで。

 

 

『『じゃあ、私たちは仕事終わったみたいなので部屋に戻りますね、ジャンヌお嬢様♪

  今回の活躍で私たちの働きぶりを、アルベール社長にアピールよろしく~~♡♡♡』』

 

「・・・いいから。そう言うのいいから、とっとと帰んなさいよアンタたち・・・。

 夢破れてブロークンファンタズムしそうな女子高生複製してないで黙って帰りなさいよ、いやマジで頼むからお願いだから・・・。

 ただでさえ根暗そうなヤツの瞳から、これ以上ハイライトを喪わせないでいてやって頂戴・・・」

 

『『は~い♪ 失礼しました~♡ お疲れ様で~す&お休みなさ~い、お嬢様~♪♪』』

「・・・・・・・・・」

 

 

 笑顔で手をヒラヒラさせながら整備室を出て行く、フランスからの留学生で専用機持ちではない量産機乗りを兼ねた整備科の普通学生数人たちの背中を凝視しながら、簪としては呆然としたまま立ちすくみ、黙って見送るより他にできることは何もない。

 

 

 ――日本人が造ったISに脅威を感じた世界各国が、日本に責任を取らせる形で設立させられたIS学園は、IS条約によって『協定参加国の国籍を持つ者すべてに門扉を開くこと』および『日本国での生活を日本国の金で保証すること』を義務づけられた日本の税金で運営されている国立のIS操縦者育成機関である。

 

 要するに、日本以外の国の人にしてみれば『タダでIS操縦技術と整備技術を学べる学校』と言う側面を持っていたことから、結構前の時点で経営難に陥っていたデュノア社みたいな大手IS企業は経費削減のためIS学園を利用しており、操縦者志願という形で願書を出させて入学試験を幹部コースへの選抜試験も兼ねて、将来におけるデュノア社技術開発部門の幹部候補生育成をIS学園と日本の税金に担わせていたという裏事情が存在していたと言うわけである。

 

 操縦者と違って、国や政府や世間がIS整備関係者に向ける目は厳しくなく。自分の国のIS整備員が他国のIS企業に就職したところで気にもとめない緩さがIS業界には蔓延している。

 そこを突いたアルベール社長、苦肉の一手だったが今回はそれが大いに役立ち、社長から直々に裏事情のすべてを聞かされた上で日本に来ていたジャンヌの手引きによって優秀な先輩たちから手助けを受けられた簪の機体《打鉄・弐式》は想像以上に良い仕上がりになったんだけれども。

 

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 

 ――肝心となる使い手の心を殺してしまう結果を招いてしまったらしく、先ほどからウンともスンとも言やしない状態に陥ってしまっていた・・・・・・。

 

 簪としては、今まで自分が抱えてきた色々な問題をお金の力で解決できてしまう程度のものだったのだと、額縁付きで実証されたに等しいことをされてしまった訳なのだけれども。

 

 そんなことジャンヌは知らないし、わかんないし。

 あと、なんで大好きなお姉ちゃんが優秀だったからコンプレックス抱いて卑屈になるのかがワケガワカラナイし。ツンデレ妹だから。

 

(てゆーか、優秀すぎる親とか姉に対するコンプレックスって今どき流行らなくない?

 サスペンスとかで親を殺す社長の息子とかよく出てくるけど、うちの親父の業界でそんな奴に出会ったことって今まで一度もないんだけど・・・。

 男尊女卑の末期には、2世タレントとか2世経営者とかいっぱいいた世の中だったってのに、どうして“アイツ”が深く関わり合おうとする娘に限って、こういう古風で王道なトキめきでメモリアル的ヒロインみたいなのばっかし集まってくるんだか・・・)

 

 ジャンヌとしては正直、簪の抱える懊悩は素直にそう表せざるを得ない。

 実際問題、偉大すぎる先達に対しての劣等感というのは現実の芸能界や経営業界だとあまり流行っておらず、芸能人でも経営者でも親の名声や威光を借りて別にコンプレックスを持つでもなく、そこそこ実力を発揮している人は一昔前からけっこういる。

 

 善し悪しは別として、神経が図太い人ほど成功しやすいのが現代社会ということなのだろう。

 たとえば、ジャンヌ・デュノアとか。どっかの世界の銀髪魔王とか、頭の中が愉快な魔王の仲間たちとか、そういう連中が。

 

 彼ら彼女らと比べて簪の精神は、やや神経の太さが不足しすぎていたのだろう。

 優秀な姉への劣等感にしたところで、歴史を見れば誰でも知っているとおり『偉人の子が偉人である事例は多くない』――それが事実なのだから、そこまで気にすることでもないと判りそうなものだと思うのだが・・・・・・。

 

「あー・・・、まぁ、仕方なかったんじゃないの今回だけは? 機材壊れてデータ飛んじゃったのは、アンタのせいじゃなくて不可抗力でしょ? 明日のタッグマッチ終わってからあらためて頑張んなさいよ、そうしましょう。ね? だから元気出して」

 

 とは言え、ジャンヌとしては良かれと思ってやってあげたことで、相手を暗く塞ぎ込ませてしまっている状態を前にすれば罪悪感の一つや二つぐらい湧いてくる。

 もともと、捻くれているだけで薄情なヤツになりたかったわけではないジャンヌである。悪気もなく良いことしてやろうとして結果的に悪いことしてしまった時には、慰めの言葉とかフォローとか、そういうのを言って励ましてやろうという気になるときもあるのだ。

 

 ――特に! 好みのジャンルは全然違うけど、生まれて初めてできたオタク仲間という名の同類に対しては特別に!

 

 

「それにほら、結局マルチ・ロックオンは完成できなかったわけなんだし。ワンオフ・アビリティ武装のアレを完全体にして装備させてこそ第三世代ISを完成させたことになるんじゃないの! だから大丈夫よ! 何とかなるわ! ガンバって!」

「・・・・・・うん、ありがとうジャンヌ・・・私、頑張る・・・」

 

 弱々しい声と笑顔を浮かべて儚い返事を返す更識簪。

 流石にここまで弱っているヤツ見かけると、多少は元気づけてやりたくなってくる、弱い者イジメする趣味がない突撃厨のジャンヌは適当な慰めセリフはないものかと必死こいて頭を捻っていたところ。

 

 

 ―――ふと、気がついた。

 気がついて“しまったこと”が頭の中にもたげてくる・・・・・・

 

 

「・・・ねぇ。今更過ぎて申し訳ない質問なんだけどさ。

 このISって世界中でも数少ない第三世代ISで、さっきまでは未完成で戦えない状態にあったわけよね・・・?」

「・・・え? うん、そうだけど・・・今更どうしたの? 本当に・・・」

「・・・・・・その未完成だった第三世代ISが今完成して、アンタ専用機として明日開かれる専用気持ちは全員強制参加のタッグマッチに出場する・・・ここまでは合ってるわよね?」

「うん、そうだけど・・・本当にどうしたのジャンヌ? らしくないよ・・・?」

「・・・・・・・・・そして、明日のタッグマッチはIS保有のテロ組織に狙われてる奴らの自衛力アップのためにおこなわれる。

 テロ組織が狙っているのは専用機のISで、特に最新型の第三世代持ちは要注意、と・・・」

「・・・・・・・・・」

 

 ――ここまで言われてしまえば簪とて、言い終わる前に理解できる。理解できてしまってる・・・。

 顔面蒼白になってガタガタ震えだしてる哀れなオタク仲間の友人未満に、同情的な視線を向けながらジャンヌ・デュノアは今からじゃどうしようもなくなってしまった辛くて過酷な現実を言いづらそうな口調で言いにくそうに言ってあげる・・・・・・。

 

 

 

「アンタ専用機の第三世代IS《打鉄・弐式》を完成させて武装も戦えるレベルにまで仕上げちゃった以上、今夜からめでたくアンタも国際的テロ組織から狙われるターゲットの一人に強制クラスチェンジ・・・・・・。

 それはまるで、未完成だったOSを完成させてしまったせいでストライクのパイロットをやらざるをえなくなってしまったキラ・ヤマトのように・・・。

 ―――そう! マルチ・ロックオン・システム搭載機だけにね!?」

 

 

 

「ドヤ顔して言うほど上手くないわよぉぉぉぉぉぉぉッッ!?」

 

 

 

 

 更識簪、大激怒。

 臆病で戦うのが怖い彼女にしてみたら、大好きなロボットネタを出されたぐらいで笑って流せるレベルをとうに超えすぎる超重大事件に巻き込まれること確定しちゃった後なためにギャグで終わらせるわけにはいかない。

 

「どうするの・・・っ!? どうしてくれるつもりなの・・・っ!? 完成させちゃった後にそれ言われて、私は一体どうすればいいと思って言ってくれた言葉なのソレ・・・っ!!

 未完成だったならまだしも、完成させた後で国家資産の第三世代を壊しちゃったら私、犯罪者になっちゃうのに・・・っ!!!」

「ご、ごめん! さすがに今のはたとえが悪かったわよね!? 友達初体験の相手色々死なされまくっちゃう悲劇系主人公を比較対象に出したのは不適切だったと今はもう反省してるわ!?

 今のはせめて、アプサラスⅢに抑えるべきだったと・・・・・・ッ!?」

「そこについて言ってるわけじゃな―――――――――っい!?(ドゴォォッン!!)」

「ごふぅぅぅっ!?(ズゴォォッン!!)」

 

 

 罪悪感から話をそらして誤魔化して、責任逃れしようとしまくるジャンヌの腹に、簪は怒りのお仕置きパンチを叩き込み、いい感じにクリーンヒットさせてのたうち回らせることに成功した。

 

 如何にインドア系で根暗なオタク少女であろうと、伊達に専用機と日本代表候補生の地位は与えられているわけではない。

 身体能力で見劣りしようとも、技術面では学園入学まで専門教育を受けたことのない一夏より遙かに上回る簪からの、『隙だらけのところに鳩尾パンチ』はかなり痛い。痛すぎる。

 

 それでも気絶できない、鍛えられた専用機持ちで代表候補生のジャンヌは襟首つかまれ上下左右に「ガックンガックン!」振り回されながら簪から「どうにもならない事態をどうにかするよう」求められまくる。

 

「・・・私、臆病者で! 卑怯者で! 弱くて汚くてみっともなく、逃げることしかできないのに・・・っ!! テロ組織とかに狙われても戦えないのに・・・っ!!」

「だ、大丈夫よきっと! 何となるから! 絶対大丈夫だからね!?」

「なんの根拠にも保証にもなってな――――――っい!?」

 

 簪、パニックになりすぎて普段は大好きな作品の大好きな名台詞を、自分自身で完全否定しまくってる発言にも気づくことなく、騒ぎまくって暴れまくって泣き叫びまくって、ジャンヌを振り回しまくった末に、ようやく簪が落ち着きを取り戻したのは《打鉄・弐式》が完成してから一時間以上が経過して、暴れ疲れた美少女二人が肩で息をしながら四つん這いになって「ぜー…、ぜー・・・」している状態になってからであった・・・・・・。

 

 

「・・・どうしよう・・・。私、弱いのに・・・臆病なのに・・・戦えないのに・・・・・・怖い怖い怖い怖い・・・」

 

 そして、落ち着き取り戻して暴れる前の精神状態に戻ってきた簪は、部屋の隅っこに座り込んで体育座りでブツブツ言い出しはじめる。

 もとからテンション低くて根暗な性格してるから、マイナス思考から0に戻ってきただけだとプラス思考に至りようがなかったからである。最初から出来ないものはテンションの上下動だけで出来るようにならない、それもまた世知辛くて現実の厳しさと言うヤツである。

 

 そんな簪を見ながら、体制を息を整え直したジャンヌだったけども、今の自分が「覚悟決めろよ!」とか「塞ぎ込んだってどうにもならないんだから戦うしかないだろう!?」とか言える立場ではないことぐらいは流石に自覚できていたため、「あ~・・・」とか「えーとぉ・・・」とかのお茶を濁して時間稼ぎするためだけの単語を適当に並べ立てながら言葉を探して探して探しまくり、

 

「まぁ・・・出来ちゃったもんは出来ちゃったんだし、諦めて明日のタッグマッチを無事に終えられることを神様にでも祈っとくしかないんじゃないかしらね・・・?

 明後日テロ組織に殺されることができるのは、明日のタッグマッチで何か起きて死ななかった人だけなんだし、まずは目先の問題から片付けましょうよ・・・ね?」

 

 気まずい立場だったため、とりあえず無難なこと言うに留めておいた。

 今日は妙にテンション低めで常識的なジャンヌ・デュノアちゃん。ひねくれ者も罪悪感の方が勝っているときには大人しくならざるを得ない日も偶にはある。

 

 そんないつもより大分優しくしてくれてるジャンヌだったけど、いつものジャンヌを知らない知り合ってから間もない簪は恨み節たっぷりで恨みがましい目で睨み据えると、

 

「・・・さっきから他人事だと思って、適当で無責任なことばっかり言われてる気がする・・・」

 

 暗に「お前のせいでこんな羽目になっている。責任取ってほしい」と意訳を求めた視線と声を向けられながら、それでもジャンヌ・デュノアは揺らがない。ついでに言えばブレることがない。

 

 

「んじゃ、あれだ。戦うのが怖くて勇気が出ないんだったら、アンタの機体のミサイルを信じればいいと思うわ。

 『弾を信じる者を弾は裏切らない』って趣旨のセリフをどっかで聞いた覚えある気がするから」

「・・・なんでそこで、『自分が信じれないなら私を信じろ。アンタを信じる私を信じろ』とかのセリフが言えるようにならないの? 貴女って・・・・・・」

「しょうがないでしょ? だって私は私で、アンタじゃないんだもの。アンタと私は違うものだから、こうして言い合ってケンカしながら一緒に今日まで過ごしてきたんだから当たり前のことでしょ?

 アンタが傷ついて傷心中だから気をつかって心にもない嘘吐けるような私だったら、今ここにいなかっただろうから、どうしようもないわよ。諦めなさいカンザシ。

 私は所詮、正真の戦争アニメ好きな厨二でしかない。熱血ロボットアニメ好きにはなれない人間なのよ・・・っ!!」

 

 

「言ってることは真っ当で、ヒーローっぽくて格好いいような気がしなくもないんだけどもぉー・・・・・・なにか違ってる気がする・・・・・・」

 

 

 複雑そうな心境を曖昧な表情で現すしかない簪と、こんな場合にあっても揺るぎなく厨二を謳うジャンヌ・デュノア。

 交わらない線と線。交われない根暗オタクと捻くれオタク。

 

 

 ――同じアニメを愛するオタク同士であろうとも、勧善懲悪系と王道ロボット作品を愛する簪の求めるものを、厨二バトルと敵メカと敵エースキャラとを愛好しているジャンヌが与えられるようになる日は永劫に来ることはないであろう。

 互いに好きという想いが一致しているが故に。曇りなく純粋に好きなものは好きと思えるオタク精神を持つも者同士であるが故に。

 

 二人の愛する対象が交わることは決してなく、未来永劫ぶつかり合って否定し合わなければならない宿命を背負って此処に、IS学園に立っている。

 

 『私とアンタは違うから』その一言だけを理由に、同じものを愛する違う者同士がペアを組んで臨む明日の専用機乗り限定タッグマッチ。

 

 決戦は明日。簪にとって過去との因縁に決着を付けられる運命の日まで残りわずか―――

 

 

 

「あ、ごめん。さっきの騒ぎのときに時計壊れてたみたいだわ。今見たら明日になってたからタッグマッチ当日は今日ね。明日じゃないわ。三十分ばかり今日は昨日を過ぎちゃってたみたい。

 ―――いったい今を何時だと思っているのかね!? 半時ばかり言うのが遅い!・・・ってな感じかしら?」

 

「・・・ねぇ、ジャンヌってさ・・・本当にさ・・・うん、もういいや。なんか疲れた・・・私はもう眠りたいわ、打鉄・弐式・・・・・・」

「あ~、確かにこれ完成させるために夜更かし続きだったもんねー。青島くんレベルで私も眠りたくなってきたからお休みなさい。・・・グ~・・・・・・ZZZZ」

「だから、そういうところ・・・が・・・・・・・・・ZZZZZZZZ・・・」

 

 

 こうして二人の少女のIS学園校舎内で過ごす夜は更けていって、あと少しで明ける。

 ・・・タッグマッチ開始まで、眠れる時間はあと8時間ちょい!

 

つづく

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。