シャルロット・デュノアの妹、ジャンヌ・デュノアです。 作:ひきがやもとまち
「――それでは、開会の挨拶を更識楯無会長からしていただきます」
専用機持ちタッグマッチトーナメント当日の朝、IS学園生徒一同は開会式に参列するため一堂に会していた。
『どうも、皆さん。今日は専用機持ちのタッグトーナメントですが、試合内容は生徒の皆さんにとってとても勉強になると思います。しっかりと見ていてください』
生徒会役員を務める側近の布仏虚から司会用のマイクスタンドを、マイクパスして譲られて、IS学園生徒会長で更識簪の姉でもある更識楯無が淀みなく美しい声音で平々凡々な紋切り型の挨拶をした後。
『――まぁ、それはそれとして!
今日は生徒全員に楽しんでもらうために、生徒会である企画を考えました。名付けて【優勝ペア予想応援・食券争奪戦】!
みんな、自分の昼食を豪華にするためにも赤の他人な専用機持ち選手の試合をがんばって応援してあげましょー!!』
『『『わああああっ!!』』』
と、いつも通りに扇子を開いて「博打」と記された文字を見せつけながら。試合会場内で人と人が撃ち合い斬り合い戦い合うISバトルを中心にして新秩序を構築させたIS社会特有の『パンとサーカス』的人気取りの手法で圧倒的人気と現在の地位を盤石のものとするのに利用しながら満足げな笑みを朗らかに浮かべる日本を裏から守り続ける非合法組織『更識家』の現当主・更識楯無。
国立高校の生徒会長自らの主導のもと、生徒たちを対象としたトトカルチョ大会の開催を宣言しておきながら、元世界最強ブリュンヒルデ織斑千冬をはじめとする買収されて黙らされてる学園教師陣は見て見ぬフリ。
金の力のすさまじさを存分に見せつけて、将来のIS社会を支えるエリートたちに今の時代の政治というものを身を以て示してあげてから、彼女は自分の背後に控える側近たちにも順繰りに優しい笑顔を向けて一瞥していき・・・・・・
「・・・・・・ギロッ!!!」
「・・・・・・!?(ビクゥッ!!)」
・・・一夏の眼前を通過する一瞬の間だけ視線を超厳しくして素通りさせ、正面にいる生徒たちに向き直ったときには元の気さくで楽しい性格の生徒会長の笑顔に戻し、生徒たちから送られる声援に手を振って応え返してあげるのだった。
――代々続く暗殺者一族の長として、彼女が圧倒的人気な理由を望んでもいないのに見せられてしまった一夏としては堪ったものではなかった訳だが。
今の彼にはそれでも耐えて口答えするわけにはいかない事情が存在していたため、ただ内心で冷や汗をかきまくりながら心の中で声を出さずに絶叫する以外できることが許されていなかったりするのであった。
と言うのも・・・・・・
(――何故だ!? 簪さん! なぜ開会式当日の朝になっても、まだ来ていないんだ!? おかげで俺は立つ瀬なくて楯無さんに朝から睨まれまくりで超怖い目に遭わされてるんだけれども!?)
・・・という訳である。
そうなのだ。簪が、タッグマッチトーナメント開会式当日の朝になっても未だに姿を現さず、それどころか昨夜から連絡もないまま寮の自室にも戻ることなく無断欠席しているという、更識姉妹はじまって以来の由々しき事態を到来させてしまっていたのであった!
楯無にとって、これは看過できない問題である。
なぜならタッグマッチトーナメントは、学園所属の専用機持ちのみで行われる自衛力強化のために急遽決定されたイベントであり、これに不参加ということは自動的に簪の専用機《打鉄・弐式》は未だ未完成である証となってしまうからだ。
簪が『一夏のせいで自分専用機の完成が遅れて完成していないと思い込んでしまっている“今回の問題の最大要因”』が解決していないという答えを示唆している状況。
これは更識姉妹の姉妹仲改善を目指して一夏にお願いしにいった楯無にとって、無視できない非常事態だったのである。
折角そのために機体を完成させる際には頼れる人材として側近の本音や、同級生の友人で整備科に所属している黛薫子などにも面通しとプロフィール紹介を済ませておいてあげたというのに、その全てを無駄にしてしまったというのだろうか!? 一夏君は!
(・・・お願いしたのに! 私あんなにお願いして『妹をお願いします』って頼んでたのに!
一夏君の方も『妹さんのことは任せておいてください!』って自信満々に豪語してくれてたのに・・・ッ!! 嘘つきぃぃぃぃッ!!!)
と、この様な心理状態に陥っているのが現状における更識楯無の内心であったのだ。
――そう。彼女の中では、最近の妹が以前にも増してネガティブになっていた原因『白式のせいで完成遅れて未完成なままの《打鉄・弐式》問題』は未だ解決されておらず、妹が前向きになれない原因も『打鉄・弐式が未完成なせい』に止まり続けていたのである!!!
・・・これはシンプルに姉妹間で情報共有ができていない、コミュニケーション不足が原因で起きてしまっている平凡極まる人間関係のすれ違いに過ぎないわけであるのだが。
そもそもにおいて楯無自身が、普段から一夏にやっているように無断で自室内に侵入したり部屋にあるノートを盗み見たりといった行為をバレないよう行っていれば避けられた程度の簡単な問題だったのも事実ではある。
楯無には元々そういうところがあり、誰にでも分け隔てなく親切に接する反面、相手が『身内』か『外様』かの一点だけを根拠として態度と待遇を180度掌返しで反転させてしまう、日本の歴史ある旧家らしい悪癖を受け継いでしまっている少女だったのだ。
一族内で結束して、一族外の者たちには排他的感情を持つようになるのは日本の村社会ではよく起きている問題であり、型破りと評される楯無も日本を代々陰から守り続けてきた歴史ある裏の旧家・更識家の今代当主として日本の伝統的心理的弊害を彼女なりに煩っていた・・・そういうことなのだろう。多分だけれども。
余談だが、外様の中では一夏が今現在最も彼女との距離が近い位置にいる男性ではあるが、あくまで外様は外様として更識家の一員になることまでは楯無は想定していない。
もしこれが一夏を更識家の一門に迎え入れる『身内』と認定を改めた場合には、おそらく彼女の一夏に対する態度と待遇も大きく変化が訪れることと思われるが、所詮は想像の域を出ないタラレバ話の一つである。もし仮定の未来が現実のものとなった際には改めて是非を検討してみていただきたい。
・・・さて、想像上の未来についてよりも目の前の今を生きねばならない一夏にとって、簪の未到着は一番重要な直近の課題ではあったのだが。
彼にはそれ以外にも難題が存在していた。その一つがコレである。
『では、対戦表を発表します!
第一試合、篠ノ之箒&更識楯無VS織斑一夏&ラウラ・ボーデヴィッヒ!!』
「げえっ!?」
・・・よりにもよって一番最初に自分の番である。いい加減泣きたくなってくる。
ただでさえ、相棒が“コレ”だというのに本当に今回の自分はついてない・・・と天の差配を恨めしく思う気持ちで胸がいっぱいになってくる一夏であった。
「フフフ・・・遂に貴様との決着をつけるときが来たようだなジャンヌ・・・っ。以前のタッグマッチでは貴様に敗れたが、今度こそ貴様を倒し私がナンバー1になってやる!
四ヶ月間、真剣にトレーニングを積んで更に強くなった私の圧倒的なパワーに恐れ戦くがいい!! ふふふ・・・フハハハ・・・・・・ふはははははははははッッ!!!」
・・・本当の本気で泣き出したい気持ちになってきた一夏であった・・・。
そもそも何故コイツと組んで出場する羽目になったかといえば、ぶっちゃけジャンヌが主な原因だったりするのである。
彼女が横入りして掻っ攫っていった簪とペアで参加する権利を手にするため、仲良しISヒロインズから受けた誘いを全部蹴ってしまった後だった一夏は、再び握手の手を差し伸べても握り返してもらえなかった上に『タッグマッチ本番で私と組まなかったことをタップリと後悔させてあげるから・・・』と怖い目をして宣言されてしまった程で、他の一年生で候補は残っておらず、上級生とは親しくないし話しかけてみようかと思っている間にペア参加を済ませられてしまった後になっていた。
その結果、最後まで誰からも誘われることなく一人だけ余っていた奴と組むことになってしまった修学旅行のボッチコンビみたいなペアが誕生してしまい今に至る。
「ふふふ・・・どうやら未だ到着していないようだが・・・だが私は信じているぞ、ジャンヌ。貴様は必ずや、私と決着をつけるため私を追い続けてここへ来ると。
何故なら私は貴様を誰よりも敵として知り尽くし、貴様もまた私を誰よりも知る宿敵同士の我らなのだから・・・フフフフ・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
どうしよう? 本当に涙が零れてきてしまいそうな一夏になってしまっているぞ? 男の子だから、泣くなよ一夏。
(・・・こうなったら早く! 早く来てくれ簪さん! もう君だけが俺に残された最後の希望になってしまってる状況だから!!!)
一夏はそう祈り、心の底からそう願った。
今さら簪が開会式に間に合ったところで一夏の現状には何の変化も訪れようがないのだけれども。時に人は絶望を前にして希望を捨てぬために、幻想と承知で現実逃避のための逃げ場を求めてやまぬ生き物である・・・・・・っと、お?
「・・・っ!! 来た! 来てくれたか!! 待っていたぜ簪さん!!!」
一夏に喜びの笑顔と歓声を上げさせた救いの主、すなわち一夏にとって救いのヒーロー更識簪ただいま参上!
開会式の会場代わりに使われていたアリーナの一部に向かって、全速力で走りながらジャンヌと二人で近づいてきてくれている!!
・・・・・・何故だか、食パンを咥えて全力疾走しながら。
・・・・・・そのうえ何故だか、タッグマッチ大会なのに学生鞄を手に持ちながら全力で・・・
――先を行くジャンヌの声が一夏の耳に聞こえてくる。
「あーっ! 遅刻遅刻ー!! 開会式当日に遅刻じゃかなりヤバいって感じだよねーっ!」
・・・うん。コイツについては、もう何も言うまい求めまい。求めるだけ無駄だろうから。
「――てゆうか、さ! ジャンヌ! 私たち、なん、で、食パン咥えて、走ってるの、かな・・・!? ものすっごく、走りづらい、し! 息が苦しいんだけ、ど・・・!? ウグッ! ごほっ、ごほっ!?」
「仕方ないでしょ!? 女子高生が遅刻しそうなときに遅刻しないで済むようになるためのラッキーアイテムが学生鞄と走りながら口に咥えた食パンなんだから我慢しなさい!! アンタだって遅刻したくないんでしょ!?」
「・・・そう、だけど・・・っ! こんな、苦しい、思い、するぐらい、なら・・・っ! 素直に走るトレーニングしておいた方が良かったって、今、後悔して、る・・・っ!!」
「情けないわねカンザシ! 私なんか、これを無理なく出来るようになるため四ヶ月のトレーニングを行っておいたわ!! アンタもそれぐらい根性出しなさい根性を!!」
「なにその、無駄なやる気、は!? 絶対にやる気の向ける方向、間違っちゃってる、と思うけ、ど・・・っ!?」
――どうやら姉の懸念とは裏腹に、妹の方はいろいろな問題をいろいろと解消されてしまいながら、ここまで走って到達してきているらしい・・・。
さすがはイノシシ。走り出したら大抵の問題は全部些細なことに変えれる固有スキルでも保有しているようである。IS機能に付与できたら無敵なような気もするけど、いろいろ台無しにしてしまいそうな気もするから強いけど欲しくない能力でもある気がするのは何故なのだろうか?
何はともあれ、ズザザザザーッ!と音を立てつつもようやく到着。
「よーし! 到着したわ! ギリギリセーフ――――」
「アウトだ馬鹿者――――――――――――ッ!!!!」
「ひでぶッ!?」
ずどぉぉぉっん!・・・と、盗塁してきてセーフを主張するジャンヌの頭に、織斑千冬主審によるアウト判定が下されてマウンドに沈むジャンヌ・デュノア。
なお、織斑審判の判定は絶対であり、一度下された判定が覆されることは決してない。異論反論不平不満は言うことだけ許された後に鉄拳制裁! それが織斑主審の審判魂である。現代日本で審判の職に就いている者たちに是非見習って欲しいスタンスだった。
「とゆーか、貴様! もう終わっているだろうが開会式! 開会式が終わった直後に到着してセーフだとか言う奴はじめて見たぞ!! 時間厳守と十分前行動は社会人としての常識だぞ! その程度の基本から教えてやらねば分からんのか貴様には!?」
「ち、違うわよ! 誤解だわ! 私は別に十分前行動とか時間厳守とかって言葉を理解できてないから守らなかったわけじゃない!
知ってたけど二度寝して寝過ごして寝坊しちゃっただけじゃないの!! それを怒って殴り出す、こんな世の中じゃポイゾナで毒消ししたい!!」
「知るか馬鹿者―――ッ!!! それから、もっと悪いわ愚か者――――ッッ!!!!」
「ぐはぁぁぁぁッ!?」
ジャンヌによる意味不明な言い訳に対して織斑先生からの二段ツッコミ、二連続パンチが炸裂して宙を舞うジャンヌ。・・・いろいろな意味で姉という存在の恐ろしさを思い知らされるタッグトーナメント当日の朝っぱらだなぁオイ・・・。
「あわ、アワワワ・・・・・・(びくびく、ビクビク・・・)」
目の前で繰り広げられるバイオレンスな光景に、小心者の簪が怯えだし。――その背後から眼鏡を光らせながら「ぬっ」と顔を出す人物が一人いた――。
「・・・やれやれ、相変わらず織斑先生の担当するクラスは騒がしいことですね・・・」
「はぅっ!? きょ、教頭先生!?」
学園生徒たちの間で「鬼ババア」と呼ばれ恐れられている、逆三角形の眼鏡をかけたひっつめ髪の教頭先生がすぐ近くまで来ていたことに気づかされた簪がギョッとしてから涙目で道を空け、彼女のことを冷たい視線で眼鏡越しに一瞥してから軽くスルーしてジャンヌたちの前に立つ教頭先生。簪は後日、問題すればいいと思ったのかもしれない。
「あなたがジャンヌ・デュノアさんですね? 噂はいろいろと耳にしています。ずいぶん問題児だそうですね・・・。
もちろん、そういう生徒であろうと見捨てることなく正しく導いてあげるのが教師の仕事であり勤めとはいえ、物事には限度というものが―――って、なんですの? 私の顔に何か付いておりましたかしら?」
「・・・いや、そういうわけじゃないんだけどさ・・・・・・」
なぜか不審げな態度で教頭先生の話を聞きながら相手の顔を見ていたジャンヌが、「どうにも納得いかない」と言いたげな表情と仕草で相手のことをシッカリ見つめると、さっきから気になって気になって仕方がなかった疑問について率直に質問して問題解決を図るための努力を開始するのであった・・・。
「・・・アンタ誰? 今まで一度も学園内で見たことないんだけど・・・ひょっとして新任の新人教師かなんかなの?」
『『『ブ―――――――ッ!?』』』
織斑千冬、更識簪、織斑一夏と更識楯無など、大人の学園事情ってヤツについて少しは配慮する術を学んでいる空気の読める学生たち含む教師陣までもが一斉に吹いた。吹き出しまくらされた。
――コイツ、言ってはいけないことをナチャラルに質問して聞いてしまった―――ッ!?
彼女らの心理としては大体こんな感じ。慌てまくって簪が、青ざめて震えが止まらぬ教頭先生に助け船を出す。・・・なんか立場が一転しちまったなオイ。
「なんてこと言うのジャンヌ!? ちゃんといたじゃない教頭先生! 職員室とか学園長室とか色々な場所で仕事していて生徒たちの見えるところにはあんまり出てこなかっただけでたまには出てきてたじゃないの!? ほら、たとえばアレとか! あのイベントの時とかに!!」
「・・・いたっけ?」
「いたんだよっ!?」
「そうだったかなぁ~? 私の記憶が確かなら、六月の学年別トーナメントや文化祭のときの二大イベントでさえ見かけた覚えない気がするんだけど・・・・・・って、ヒッ!? お、お姉ちゃ――いや、姉貴!?
ご、ごめん・・・今回のは朝から飛ばしすぎたわ、反省してます。だからその、怖い目して私を見ないで、久々の暗黒面見せつけないで! ここ公の場だから! 殿中で・・・殿中でござるオロー!、ってギャァァァァァァァァッ!?」
・・・こうして、最近フリーダムにやり過ぎて調子に乗ってた悪い妹の躾を姉が怖い目をして行った後。
ようやくタッグマッチトーナメント大会第一試合の戦いが始まることになる。
もう既に、戦いはじめる前から負傷者多数の開会式となってしまった気がするが、それはそれ。決められた予定は予定として消化しなければならないのもまた、大人の学園事情であるので致し方なし。現実は厳しい。
何はともあれ、姉たちが怖さを見せつけたタッグトーナメント開会式はこれで終わり。
次は妹たちによる戦いの火蓋が切って落とされるぞ! 次回を待て!
つづく!!
オマケ『それでもラウラは変わらない』
ラウラ「フッ。やはり来たか、ジャンヌ・・・それでこそ私のライバルだぁッ!!」
一夏「お前最近、ジャンヌだったら何でも良くなってきてる気がするのは俺だけか・・・?」
順調に変な方向へ仲を深めまくってるラウラとジャンヌの百合な話を書いてみたいが、ギャグ過ぎちゃって逆に難しい二人になってる今日この頃な作者でした♪
解説:今話で用いたネタは解りづらかった事に気付きましたので、念のため解説です。
――7巻で初登場した教頭先生に対して、学年別トーナメントや文化祭といったIS学園にとって重要なはずの一大イベントでも顔を見た覚えのない結構上の地位にいるはずの存在に対して、
『そんな先生キャラいたんだ?』
――というフィクション作品の都合を配慮しないで空気読まない発言をしてしまったオリ主が力づくで黙らせられる、…そんなお約束をネタにしてみたものでした。
よくよく考えたら判りにくかったですよね、ごめんなさい。以後気を付けて解説も付け加えておきますね。(土下座)