シャルロット・デュノアの妹、ジャンヌ・デュノアです。   作:ひきがやもとまち

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前回の28話が中途半端過ぎたので付け足し分を書いてただけだったところ、長くなりすぎましたので29話という事にして更新してしまう事を決めた次第です。
相変わらず脳ミソ茹だっている内容ですが、昼間に書いたため前回分よりかはマシかと思われます。夏の夜は脳味噌が死ぬだけじゃなくゾンビになる(要するに腐乱しました)


第29話「ヒーローの条件『最後は結局はじまりの場所へ戻ってくること』」

 ・・・・・・フランス産イノシシ娘が、見失ってしまった相方を探してアリーナ内を迷子になりながらもさ迷い走っていたのと同じ頃。

 それとは異なる場所、異なる方向、異なる相手を、簪とは異なる形で“別の人の妹”を守ってあげていた『もう一人の更識』がいた。

 

 その人の名は更識簪の姉―――更識楯無。

 

 

「はああああっ!!」

 

 ギィンッ!!

 ・・・箒が操る二刀流の左右同時払い上げで、敵である『ゴレームⅢ』の右腕部ブレードを弾き飛ばす!

 すぐさま余剰衝撃で体勢が一瞬傾きそうになる姿勢をPICによって引き戻そうとする無人ISゴーレムⅢだったが、敵が崩した姿勢を戻そうとするのを黙って待ってやるほど生ぬるい『敵にとっての敵』などいる訳がない。

 

「もらったわ!」

 

 IS学園生徒会長にしてロシア代表選手でもある更識楯無が、自らの愛機《ミステリアス・レイディ》が保有する、螺旋状に超高周波振動の水を纏わせたランス型のIS武装《蒼流旋》による突撃で、敵の胴体を刺し貫くため穿ちに来る。

 

 立場上、敵機の正体が以前に奇襲をかけてきた無人機《ゴーレムⅠ》の発展型であること、そこから類推して無人機であることはほぼ確実なこと、人が乗ってない機体ならドテッ腹を刺し貫いたところで人殺しを犯す罪悪感など気にする必要性は一切ないこと。

 

 ・・・・・・そして何より、長い時代の中で日本を陰から守り続けてきた陰の組織《更識家》の当主として、守りたい者のためなら敵を殺すことをも厭わない。

 確実に仕留めることで守るべき対象の安全が将来にわたって確保できるなら、その方がよい。

 

 ――という覚悟の仕方が彼女にためらうことなく、最も効率的に確実に『敵を殺せる攻撃手段』を選ばせたからである。

 

 伊達に、多くの他人たちを守るためなら、他方の他人を殺しまくる道を受け入れてきた訳じゃあない・・・!

 一点突破を仕掛けることで一撃で相手にトドメを刺すことを狙ったのだが、敵は機械とは思えぬ根性によって彼女の意図を阻むことに成功した。

 自分のドテ腹を貫通している途上にあったランスを、貫通され終わるより前に自らの巨大な左腕で掴んで止めてしまったのである!!

 

 もともと突撃という攻撃方法は、攻撃力の大半を突進力に依存しているため、受け止められて足を止められてしまった時点でほとんど無力化されてしまうという致命的欠点を有する攻撃手段だ。立ち止まった状態でランスを突き出しているだけでは、単なる突き技と大差ない。

 その事は突撃の専門家たるジャンヌの方が詳しかったが、楯無とてランスによる突撃方法を採用すると決めた時点でジャンヌほどではなくとも学び納めて承知している。

 だからこそ《蒼流旋》には通常のランス突撃だけでなく、特殊ナノマシンで超高周波振動する水を纏わせ螺旋状に回転させることでドリルのような機能を付与させ、受け止められた後も無効化だけはされないようになっていた訳ではあったのだが。

 

 それでもドリルは本来、武器ではなく工事用の道具であり、回転することによって貫通力を何倍にも増幅させる普通の器具でしかなく、前へ進む力と回転力が合わさなければ大した効果までは期待できない。

 楯無は自らがおこなった攻撃失敗を悟ると、即座に方針を転換し援軍を求めた。

 自分の背中で自分が守ってやっている存在、篠ノ之箒に助けを求めたのである!

 

「箒ちゃん! 背部展開装甲をオン! 私を押して! 早く!!」

「わ、わかりました!」

 

 箒は即座に彼女の指示に従って、言われたとおりの作業をおこない水の回転力を増させてゴーレムⅢの左腕を削っていくことに貢献したのだが――しかし。

 

「くっ! なんて硬い装甲を使ってるの!?」

 

 一方的に攻撃し続けている側であるはずの楯無の表情が、驚愕に歪む。

 敵機の装甲は現時点で知られている既存の材質とは違うものが使われているのか、はたまた現在の世界水準よりも数世代上の技術によって造られたものである故なのか。

 既存の世界で存在を確認されている『各国代表選手たちの専用機を相手取って倒すこと』を目標として開発されたロシア代表選手専用機の最新鋭機であるはずの《ミステリアス・レイディ》が保有する通常武装では決定的なダメージを与えることがどうしても出来ない!

 

「楯無さん! いきます!」

「ええ!」

 

 箒もその事実を察したのか、自らの愛機《紅椿》のブースターも全開させて強力な推進力を発揮させると、楯無の《ミステリ・レイディ》による突撃に力添えするため後ろから押して加速させていく。

 

 やがて二機に押される一機による、敵味方合わせて三機のISは互いの機体を密着させたままアリーナ・ゲートへと突進していく。

 シールドと接触してのダメージを避けさせるため、シールド接近警告が発せられるが今の楯無にとっては耳障りな雑音としか聞こえない。

 

 突撃は一見するだけなら強力に見える攻撃手段だが、実際のところは両手が塞がる上に、渾身の力で敵を穿つために傾けているせいで避けられたときには隙だらけになってしまう一撃必殺の攻撃方法でもあるのだ。

 剣道では『突きは死に技』という言葉がある通り、一度放った後にはイニシアチブを敵に譲ることになる。それはそのまま反撃によって自分たちの方が負けかねない。

 

「くらいなさい!」

 

 だからこそ楯無は警告を無視して、手に持つランスをさらに強く握りしめると《蒼流旋》に装備されているもう一つの武装、四門ガトリングガンを展開して一斉射撃を開始する!!

 

 ガガガガッ!!

 至近距離から乱射される機関砲による攻撃をしたたかに食らわされたゴーレムⅢは、着弾した弾数をこれ以上増やされる前に壁を造ろうと、防御用の可変シールドユニットを移動させようとする。

 エネルギーシールドを展開して本体を守らせる浮遊ユニットは、既に密着されて機体を穿っているランスの突撃には防具として役立たない。

 だが、射撃武装による追加の支援があるなら話は別だ。ガトリングガンの攻撃はランスと違って継続的にダメージを与え続けるものではなく、一発一発が使い捨ての弾丸を撃ち込み続けてこそ合計で大ダメージが与えられる類いのもの。

 発砲しはじめた直後の少数分だけしか当てられなければ、これも大した威力には届かない武器なのである。

 

 その事を理解していたからこそ楯無は止まる訳にはいかなかったし、敵機とともに自分の機体も壁に激突して構わない程度の速度は、突撃を失敗させないためにも必要不可欠な要素だったのだから。

 

 バチバチバチィッ!!

 ゴーレムⅢが可変シールドユニットを展開させようと移動させ始めた刹那の直後、その背中が背後にまで迫っていたアリーナ・シールドに叩きつけられ、ユニットの展開が阻止させることに成功した。

 合理的に状況を判断するゴーレムⅢの機械的判断が、楯無の自爆に近い攻撃方法を『非合理的な攻撃手段』と判断して過小評価した結果としての戦果であり、謂わば日本人特有の《カミカゼ特攻》が奇襲という一点のみにおいてだけは有効だという証明になるものだったやもしれない。

 

「くぅっ!!」

 

 ――だが言うまでもなく特攻は、相手に大ダメージを与えられる可能性が得られると同時に、自らも確実に深手を負ってしまう『肉を切らせて骨を断つ』を前提とした捨て身の攻撃手段。

 失敗してしまえば自分だけが無駄にダメージを負ってしまうし、仮に成功しても自分が負傷することは避けられないハイリスク・未知リターンな分の悪い博打戦法なのである。

 

 その博打になんとか勝つことが出来た以上、賭けの勝者たる楯無も負傷は免れない。

 正面に向けて猛スピードで押し続けてきた敵機が急速停止して、その先には絶対に進むことが出来ない障壁が存在して、自分の後ろから高機動型と肩を並べられる第四世代機による加速支援がおこなわれ続けているという、この状況。

 

 並の人間では、立ち止まった敵より背後から圧力をかけ続けてくる味方の方に押しつぶされてしまいかねない衝撃を受けさせられて、さしものIS学園最強も苦悶の声を上げて表情を苦痛に歪めざるを得ない激痛にさらされることになる。

 

「楯無さん!」

「大丈夫よ! それより、このままこの無人機の装甲を突き破るの!!」

 

 それでも楯無は攻撃をやめない。突撃を止めさせようとは絶対にしない。

 なぜなら、『そうせざるを得ない攻撃方法』が突撃であり、槍を使った突き技であると承知しているからだ。

 

 『この攻撃を成功させれば確実に勝てる。失敗すれば確実に負ける』・・・その覚悟を決めた上で行うべき攻撃手段が突撃であり特攻であり突き技なのだ。

 謂わば『殺るか、殺やれるか』という必勝と必殺の信念を命がけで実践することが、これらの攻撃方法の本領を発揮させられる最低条件になっている技。

 『退いてもいい、次がある』などと思ってしまったのでは上手くいかない。一撃必殺でなければ格上の敵を倒すことができる必殺の一撃にはなり得ない。

 

 その事実を実戦経験豊富な楯無は理解していたが、スポーツの剣道大会で相手を殺しそうになってしまったトラウマを持つ箒には、その真理を理解できる高見に未だ達することが出来ていない。

 

「で、ですが・・・・・・!」

 

 躊躇いを見せる箒に苛立ちを感じながらも、楯無は必死に説得をやめない。箒の意思で自主的に加速させてもらえるよう言葉での指示を出し続ける!!

 彼女の加速なくして勝つことは出来ない現状、それしか楯無たち二人共が勝って生き残れる道は他になかったから・・・・・・ッ!!!

 

「いいからやりなさい! さぁ早く!! ここで押し切れなければ二人とも死ぬわよ!?」

「・・・・・・(ビクッ!?)」

 

 ぴしゃりとした怒号を受け、続いた言葉に今の戦況がどれだけ追い詰められたものだったのかと言うことを改めて思い知らされた箒は、一瞬ビクリとして怯えを見せた後、言われるままに背部展開装甲の出力を上げて機体をさらに加速させていく。

 

「ぐ、うっ・・・・・・!!」

 

 ずしん、と背中に強烈な重量感がのしかかってくるのを歯を食いしばって耐え凌ぎ、楯無は水のドリルとガトリングガンの連射による攻撃を続行し続け、ゴーレムⅢの装甲にダメージを与え続けていく。

 基本的には悪手とされる、使い捨ての騙し討ち戦術としてしか用いようがない特攻や突撃を一度でも選んで実行してしまった以上、他に道はない。

 払ってしまった犠牲が大きすぎる攻撃方法なのだから、せめて確実に求めていた成果だけでも手にしないと元が取れないと言うものである。

 

「楯無さん! もう限界です! 一度後退して態勢の立て直しを図りましょう!?」

「ふ、ふふん・・・。まだまだ、おねーさんの奥の手はこれからよ」

 

 そう言って、苦痛に歪んでいた顔を不敵な笑みに変化させて楯無は、それまで両手で支えていたランスを左手一本だけに任せて、空いた右手を真上に向かって突き出させる。

 

「《ミステリアス・レイディ》の最大火力、受けてみなさい・・・・・・!!」

 

 不敵に笑う楯無の掌の上に、しゅるしゅると水が集まってくる。

 それは機体表面を覆っていた水のナノマシン装甲を一点に集中させることで防御力を大幅に減らしてしまう代価として、最大級の攻撃力を得ることが可能になるミステリアス・レイディの攻撃特化モードとも呼ぶべき最強最大の必殺技を使用する前触れ・・・・・・!!

 

「こ、これは・・・・・・?」

「通常時は防御用に装甲表面を覆っているアクア・ナノマシンを一点に集中、攻勢成形することで強力な攻撃力とすることができる一撃必殺の大技・・・・・・。

 名付けて――《ミストルテインの槍》

 表面装甲がどんなものだろうと関係なく紙クズみたいに突き破ることができる、私とミステリアス・レイディの奥の手を、防げるものなら防いでみなさい!!」

 

 叫んでエネルギーの収束を早めていく楯無だったが、相手もまた敵が放とうとしている溜め時間の長い必殺兵器を使ってくるのを黙って待っていてやるほどお人好しではない。

 エネルギーの流れを感知したゴーレムⅢが、目の前で自分の腹を穿ちながらエネルギーのチャージも同時に行っている楯無の動きを阻害するため、大型ブレードを振り上げて斬りかかろうとしてくる。

 

 一つには、それまで両手を使って行っていた突撃を左手一本で継続させて、利き腕である右手を頭上に掲げたままエネルギーの集中を開始してしまったことから、ゴーレムⅢに掛けられていた衝撃による圧力が緩和されてしまったことが、この攻撃を招いた原因だった。

 

 如何に箒が速度を緩めることなく後ろから押し続けているとは言え、敵との間に挟まれた楯無が足を止めてエネルギー収束に意識を傾けるため壁となって立ち塞がってしまったのでは圧力の低下は必然の結果にならざるを得ない。

 まして相手に与えている圧力そのものを伝えているのは、あくまで彼女の左手一本が持ち続けているランスだけなのだ。

 ただでさえ重量級の武装を片手離しの状態で攻撃し続け、しかも利き腕の右手は頭上に掲げながらエネルギー集中するのに使ってしまう・・・・・・これでは折角の突進力も大半が空費されてしまって雲散霧消してしまうのは自然の摂理でしかなくなってしまう。

 

 さらに皮肉な話を付け加えるとするなら、『ランスによる突撃』と『ガトリングガン斉射』と『壁に激突させて動きを妨げる攻撃手法』・・・・・・この三つを同時進行で継続し続けてしまったことが結果的に良くない効果をもたらしてしまっていたことがあげられる。

 

 ガトリングガンに限らず重火器兵装は、発砲の際には後ろに下がる反動が生じてしまうことは一般に広く知られている現象であり、威力の高いガトリングガンともなれば反動の力もハンドガン一丁とは比べものにならないほど巨大なものになってしまう。

 そこへ壁に激突したことから、相手にはこれ以上後ろに下がることが物理的に不可能な状況が形成されてしまった中で、ガトリングガンの斉射とランスによる突撃と、二つ共やめることなく続けてしまったら互いに向かおうとする方向が真逆になってしまい結果的に突進力は大きく損なわれる結末になるしかない。

 

 それが、『諜報や暗殺を得意とする対暗部カウンターの専門家』である更識家当主の楯無には咄嗟の状況下の中で思い至ることができなかった。

 仮にこれがジャンヌであったなら、ランスによる突撃と重火器の斉射を同時に続けさせるようなことは絶対にしなかっただろう。

 あくまで《ヘビィーマシンガン》を牽制用、騙し討ち用、相手をビックリさせて姿勢崩させちまおう用に用途を限定して用いてきたはずである。

 

 

 ・・・・・・結局のところ、『特殊戦の専門家』で『突撃の半人前』が、自分の専門分野ではない突撃と特攻に自分たちの命運をかけた一撃必殺の戦法として用いてしまったこと自体が間違いだったということになるのだろうが、それを後悔している暇も、自分の誤りに気づいている時間的余裕も生き残っていてこそ得られるものであり、《ミストルテインの槍》を作り出すため意識を集中させ、抵抗も防御もできない状態にある中でISアーマーを突き破り生身の肉体に大ダメージを与えることが可能な斬撃が至近距離まで迫り来ていた現状にあっては何らの意味もなしてはくれない!

 

「楯無さん!? 危な――ッ!!」

 

 箒が気づいて叫び声を上げようとしたが、もう遅い。

 大型のビーム刃が楯無のISアーマーを砕き、絶対防御のも貫通してシミ一つない綺麗な柔肌を切り裂こうとした、その刹那。

 

 

 

 メコッ、と。

 

 

 

 何かが凹まされる音がして、楯無に大型刃を振り下ろす寸前だったゴーレムⅢの顔面の形状が右側面から大きく左側へと歪めさせられ、初期型と違って「鋼の乙女」といった容姿をしていたイメージが大きく崩された顔立ちとなり、まるで『泥の巨人』といったようなイメージの表情になりながら楯無たちの目の前で一瞬動きを停止させられ止まってしまっていた。

 

 やがて時間の経過が元に戻ると、『顔面を横から全力込めて蹴飛ばされて』顔が歪められたゴーレムⅢが近くの壁まで吹っ飛ばされていき、目の前に差し迫っていた脅威に対処しようと集中していた強敵に突然の『不意打ち奇襲キック』をぶちかましてくれた、黒い疾風のような襲撃者は地面に降り立ち、敵意に満ちて赤く染まった瞳に好戦的な嗤いを浮かべながら―――自らの誇りの由縁とする名を世界に向かって高らかに叫びあげる!!!

 

 

 

「ジャンヌぅぅぅぅぅぅッ!!!

 貴様を倒していいのは誇り高きドイツ代表候補生たるこの私、ラウラ・ボーデヴィッヒだけなのだぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」

 

 

 

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

 

 

 そして叫んだ後、視界の先にあった黒色の両目と、自分と同じ赤色の両目の合わせて四つと見つめ合い、自分が持つ赤色の片目をパチクリさせてしばらく黙り込んだ後。

 

 

「・・・・・・チィッ!! またしても外れか!! 無駄をした!!」

「おいぃぃぃぃぃッ!? ちょっと待てお前オイィィィィィィィッ!!!!」

 

 盛大に隠す気もなく響かされた忌々しそうな舌打ちの音と、面倒くさいことしちまったと言いたげな表情と、実際にハッキリきっぱり口に出しちまってるセリフの三つに全部合わせてツッコミ入れざるを得なくなる、一応は助けてもらった側の箒ちゃん!

 借りはあるけど、流石にこれは看過できません! エネルギー集中させてるから何か言いたくてプルプルしてても言ってる余裕のない楯無さんに代わって猛抗議を決意する彼女の相方・篠ノ之箒!!

 

「貴様、ピンチの味方を前にしてその態度はなんだ!? もう少し労ってやろうとか思えないのか!? この冷血漢の非情人間!!」

「知らん。私が助けてやってから改めて倒そうとしたのはジャンヌだけだ。お前たちのことなど端から眼中にない。結果論とは言え、助けてやっただけでも有り難いと思って感謝でも何でもしておけばよかろう。この恩知らず共が」

「お前、自分で助けてから倒す気だったのか!? それ一体なんのために助けてるんだ!?」

「無論、私が倒すためだ。ジャンヌを倒すことが許されているのは私だけだ。私以外の者がジャンヌを倒すことは、私が許さん。絶対にだ」

 

 ――おかしい。言ってる事がなんかおかしいとしか思えない。

 なのに、どうしてコイツは世界の真理を語っていると信じ込んだまま揺るがない顔を平然としてられてるのかが判らない・・・・・・。

 

 ・・・ってゆーか、それより何より箒にとって重要な確認事項のための質問として!!

 

「そもそも、お前! 一夏はどうしたのだ一夏は!? お前は一夏と組んでタッグマッチに参加していたはずだ! ならば一夏が今どうなっているか知っているはず! 一夏は今どこでどうしている!? まさか置いてきたなんてことを言ったりしないだろうな―――」

「無論、置いてきた。敵の足止め役が必要だったのでな。

 誰でもいいから守りたくてしょうがない捨て駒として理想的な男にとって殿は、丁度いい役目だろうが」

「うおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉッい!? ちょっと待てぇぇぇぇぇぇぇぇッい!!!!」

 

 とんでもない事実をカミングアウトされた箒は、もはや冷静さだとか普段の喋り方がどうとか言っていられる状態ではなくなってしまうしかない!

 こんな強敵を相手に一夏をたった一人で置いてきたなどと、一夏に片思いし続けているヤンデレ気味な女子高生・篠ノ之箒にとって許される行為では決してなかったのだから!!

 

 ・・・だが、所変われば品変わり、一夏を好き続けている女の子と、そうではない女の子との温度差は異様なほど激しかった。激しすぎていた。

 

 ラウラは箒の熱意あふれる怒りの叫び声を平然と聞き流すと、さも当たり前のことを言っただけのような口調で普通に説明してくるだけ。

 

「問題ない。どうせジャンヌとの試合が始まった直後に、バカの一つ覚えで前に出ようとする奴をワイヤーブレードで絡め取った後、アリーナ脇まで遠心力で投げ飛ばし邪魔者を排除してからジャンヌとの決着を一対一で算段だったからな。状況が多少変わってしまったが、この程度なら許容範囲内だ」

「この状況で許容範囲内なのか!? あとお前、今回のタッグマッチが開催された目的を理解してないのか!? 自衛力強化のためだぞ!? 私怨を晴らすための場じゃないんだからな!?」

「IS学園と生徒会執行部の決めた都合だ。私は知らん。興味もない。所詮は皆、敵だ。敵はすべて倒すだけのことだ」

「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!!!」

 

 箒、思わず地団駄を踏みまくるしかない!

 

 ・・・・・・実のところ、一夏に負けず、一夏に惚れず、そもそも一夏と戦ってすらいない上に、チームプレイにも敗れることなく、最初のタッグマッチ大会でも一対一を二つ作っちゃっただけで最後まで終わらせちまった、この世界ラウラにとって織斑一夏という少年は未だ味方ではなかったりする・・・。

 

 いや、それどころか基本的にIS学園に所属している国家代表候補生たちとは、いずれ戦って倒さなければならない敵同士であることに未だ変わるべきことも何も起きておらず、『自分一人の力で敵を倒し尽くせなければ弱い』という思想から脱却する理由と未だに一度たりと出会っていなかったりするのである。

 

 この世界の彼女にとって、自分自身は『ジャンヌ倒す!』の一心で強くなった存在であり、一夏は以前のように八つ当たりで倒そうとする気はなくなったまでも、それまでずっと恨み続けてきた記憶が払拭されるようなイベントにも遭遇していないため『敵』であることには今も以前も変わりはなく、『ジャンヌを倒したら、次はお前だ・・・!』の最有力候補として名前が挙がっているままなのである。

 

 

 ・・・と言うよりも、一夏に惚れることのなかった世界戦でのラウラにとって、ある意味では一夏以上にムカつく相手もそうはいない。

 

 今年からIS操縦を習い始めたばかりで、聞けばIS学園に強制入学させられるまで興味すら持ったことがなかったままミドルスクール時代までは過ごしてきたというのに、長年ずっとISについて学んで基礎から教わり強くなろうと努力してきた実績のある自分たち代表候補生に対して先輩として敬う気持ちも見せず、敬意さえ払うことなく、『強さ』についてご高説を垂れてきて、他人の助けがなかったら自分の身一つ守れなかったかもしれない危うい機会に何度も見舞われるほど油断しきった生活態度を送りながら、他人に対しては『守ってやる』だなんだと上から目線で見下した発言をしてくることが度々ある。

 

 それでいて、実績だけは腐るほどあるのだ。それこそ異論の余地がないほどに。

 挙げ句の果てには、臨海学校において自分たち代表候補生が束になって窮地に陥っていたところを瀕死から回復したばかりの新兵に助けられてしまうという致命的な失態をやらかしてしまっているのが、自分たちIS学園一年に所属している各国代表候補生たちのウソ偽らざる正直な立場というものでもあった。

 

 ・・・これでは、たとえ個人的に不平不満があったとしてもラウラは流石に口をつぐまざるを得ない。彼女にも公の立場というものがあるし、事実として借りもある。

 まして、出会い頭に逆恨みから殴ってしまったり、他にも迷惑かけまくった自覚を今では持つようになってしまったラウラにとっては、思うことがあってもなくても口に出すのは憚られる存在に今では一夏はなってしまっていたりした。

 

 それは、たとえるなら『実績を盾に取って命令無視や反抗的な言動を黙認するよう要求してくる生意気な部下を持った上官』と似たような心理であり。

 ラウラにとって織斑一夏という名の少年が、他とは違って『生意気な黒髪の小僧』でしかなくなってしまっていたのは仕方のないことだったのかもしれない・・・・・・。

 

 これを恨みに思って、嫌がらせをするなどという行為が筋違いであることぐらいラウラも承知しているが、それでもムカつくものはムカつくし、嫌いなこと言ったりやったりする奴は嫌いなのである。

 

 正しい理屈だけで感情的な反発心やら、プライドからくる嫌悪感やらを納得させられ何の蟠りも感じなくて済むようになるなら苦労はしない。自分はそこまで感情を完璧にコントロールできるほど非人間的になれた覚えもない。

 人はマシーンではないのだから、怒りや不平不満、負の感情だって普通に感じるし持ち合わせざるを得ないものなのである。

 

 この世界線でのラウラは、そんな事情から一夏のことを『超高熱・結果論的正しさのカミソリ』と呼んで忌み嫌うようになっており、この時も自分が意図して呼び寄せたわけでもない襲撃者たちであるゴーレムⅢの相手を『守りたがり』の一夏が率先して引き受けたがったので一任して自分はジャンヌとの決着探しのため単身飛び出すのに利用することを『丁度いい口実が飛び込んできてくれた』としか思っていなかったのである。

 

 ・・・・・・何気にヒドい奴になってしまっているが、実際問題として味方じゃないし、将来的には今のところ確実に敵同士になる立場にあるし、たまたま倒したい敵が同じだからで野合した同盟の絆なんて「その程度」と言ってしまえばその通りであるのも事実ではある。

 

 『呉越同舟』は長続きしない。・・・ある意味では正しいんだけど、リアル所属国の違い事情をこんなところにまで持ち込まなくても良いのではとも思ってしまえる、この世界線版ラウラちゃんによる現在の心境説明でありましたとさ・・・・・・。

 

 

「え~とぉ・・・・・・、二人ともそろそろ私《ミストルテインの槍》撃っちゃっていいかしら? そこにいると巻き込んじゃって危ないんだけど・・・。

 お姉さんとしては敵がセンサーに異常起こして修復作業中らしい今のうちに仕留めておきたいんだけど・・・・・・」

「――フンッ、どうやら余計な手助けで無駄な時間を費やしてしまったようだな。私は当初の目的通りジャンヌ探しに戻るとしよう。ではな」

「アホーッ! もう二度と来るな人でなし―! 一夏を見捨てた人殺し―ッ!! 私の一夏に何かあったら一夏返せバカーッ!!」

 

 

 箒による、愛の怒鳴り声を贈る言葉としてラウラは飛び立ち、次いで楯無会長による《ミストルテインの槍》とかいう名の攻撃が放たれたらしい爆音が耳に届いてきたが、そんなことは彼女の知ったことではない。他人事だ。今の彼女にとってはどうでもいい。

 

 ・・・・・・しかしなぜ彼女は、ここまで冷酷非情にジャンヌとの決着だけを望みとする『修羅』と化してしまっているのだろうか・・・・・・?

 それには深く、そして非常に浅い、こんな事情が背景にあったりしたからである―――

 

 

「・・・突然の奇襲によって学内各所のセキュリティがロックされ、満足に連絡も取れぬまま各所で分断されて各個撃破戦法の好餌となってしまっている、この状況・・・フフフ、完璧だ。

 これでは学園執行部も織斑教官も私の動きを察知できまい! しかもこの状況下では、敵味方の識別など無意味。生き残るために味方を撃ったとさえ言えば確認しようもない状況・・・ふふふ、ハハハ・・・完璧だ! 完璧すぎる閉鎖空間だ!!

 今この場に於いてなら! 私とジャンヌ、どちらが死んだとしてもやむを得なかったで済ますことが可能になる!

 相手を倒すためにではない、殺すために全力を出し合う『死合い』を行い合えるのは今をおいて他にないと断言できるほどに!!!

 ジャンヌと私、どちらが本当に強いか決められる刻が遂に訪れたのだ!! フハハハァァァッ!!!」

 

 

 ・・・という事情である。

 コイツ頭おかしいんじゃねぇのか?と思う者もいるかもしれないが、こんな奴見て頭おかしくない可能性を考えてる時点で同類確定なので気にしなくて良いと断言できるだろう。

 

 つまりはそれぐらいに・・・・・・ヒドすぎる人格改変起こしてしまっていた女の子、それがジャンヌ・デュノアの好敵手と書いてライバル、ラウラ・ボーデヴィッヒだったというです!!

 

 

「待っているがいいジャンヌよ! 貴様を倒すのは亡国機業でも謎の無人ISでもなく、この私!!

 ドイツ軍のエリートであり、代表候補生でもある専用機持ち!! ラウラ・ボーデヴィッヒ様なのだぁぁぁぁぁッ!!!

 今この場に於いてのみ私はーッ! オウガにも優る者となってやるぅぅぅぅぅッ!!!」

 

 

 こうして『決着』だけを叶えたい願いとして掲げた少女は、戦に飢えて戦いのためなら味方を食い殺すオウガとなって戦場と化したIS学園内をひた走る!!

 獲物を求めて、倒したい勝ちたい勝利したいと願う唯一の存在を探し当てるために、ただひた走り続ける!!

 

 

 

「あー、どうすっかなぁ・・・あーらよっと」

「ひょいッス」

「オレたちの得意能力使ったコンビネーション『イージス』なら、コイツの攻撃ぜんぶ躱せるし、防げるし、弾けるし、逸らせるし、流せるし、止められるけど・・・・・・これ、攻撃しねぇと終わんねーんだろうなー」

「そッスね、先輩。なのでお先にどうぞッス!」

「あ、てめーフォルテ。それが先輩に対する態度かよー。・・・はぁ~、でもまぁしょうがねぇから、いっty―――」

「反撃するッスかa――――」

 

 

「私の行く手を邪魔をするな―――――――ッッ!!!!!!」

 

 

 

「へぶしッ!?」

「あべしッ!?」

 

 

 

「悪ぶりたい不良ゴッコがやりたいなら普通の学校へ行け! ここはもう戦場なんだぞ!? 甘ったれるな平和ボケしたクソガキ共!!!」

 

 

 

 ・・・走ってる途中で 戦闘中だって言うのに銃も構えず武装も展開していない、舐め腐った名前も顔も知らない初対面の平和ボケしたバカガキ二人組を後ろから蹴っ飛ばして喝を入れてやったりしながらジャンヌを求めて戦場を走り回り続ける!!

 

 探しているのはジャンヌだけ。戦いたいのもジャンヌだけ。倒したいのもジャンヌだけ。

 只ひたすらに、ジャンヌ倒す!ジャンヌ倒す!!ジャンヌ倒すぅぅぅッ!!!・・・っと一心不乱に唱え続けて強くなるため特訓し続けてきた拗らせヤンデレ変な方向のレズ気味少女はただひたすらにアリーナ内を走りまくる!!

 

 自分が今いる場所とは正反対の方角で、『ぶえっくしょい!?』と盛大に親父臭いクシャミしてる目つきの悪いフランス人少女がいたことなど考えようともしないまま、情熱の赴くまま只走り続ける!!!

 

「ムッ!? こっちだな! こちらの方角からジャンヌの匂いが感じられる気がした!!」

 

 

 犬か、お前は。・・・とツッコんでくれる者もいないラウラの一人旅は続く。

 

 

 

 

 ――そしてまた、ジャンヌでもラウラでも、それ以外の専用機持ちたちの戦いでもない、最後に残されていた残る一人の戦いもまた、今この時から始まろうとしていたことを、本人自身も含めて誰も気づいていない。気づいてやれていない・・・・・・

 

 

「・・・ん、あ・・・・・・。い、一体なにが起きて・・・え? こ、この景色は!? い、一体なにが起きたの!? ね、ねぇジャンヌ!? 織斑君!? みんな・・・どこに行っちゃったのよー!?」

 

 

 ―――今まで気絶し続けていた最後の専用機持ちが目を覚まし、自らの愛機である専用機を展開できる状態になったと判断したバイザー型に置き換えられた線のように細い眼が、赤く光りながら自分自身をも起動させる。

 

 硝煙と瓦礫の向こう側から、ゆっくりと自分に向かって近づき始めた脅威を、当人である簪はまだ気づけていない・・・・・・。

 

 

 そんな中、簪を探し続けて彷徨い歩いていた少女が、遂に真理へと到達して正しい答えと捜し物の位置を見つけ出すことに成功していた!!!

 

 

 

「カンザシいるー? ・・・ってここにもいないし。う~ん・・・よし。ここは一旦、開会式の会場まで戻ってみるか!

 こういう捜し物って大体の場合、最初の場所にあるか、一番面倒なところにあるのが常識だし! 多分あそこよきっと! 多分だけども!!!」

 

 

 こうして、ゲームと現実の区別がいまいち付いていない現代っ子なゲーマー少女は主人公らしく、ヒーローらしく。旅だった最初の場所へと戻ってきて戦いに終止符をつけにくる土壌が成立したのであった・・・・・・。 

 なんかグダグダな流れな気がするけど、問題はない。

 大抵の場合、ヒーローが敵の魔手からヒロインを助け出す時。

 

 ・・・その場に居合わせた理由自体は『成り行き』である場合がほとんどなのがヒーローの条件―――俗に言う、“お約束”というものなのだから大丈夫。・・・たぶん。

 

 

続く

 

 

オマケ『その頃の一夏くん』

 

一夏「うぉぉぉぉぉぉぉッ!!!」

 

ズカバキドカボカドカンドカン!!!

 

*全ペア中で唯一、1人だけでゴーレムⅢを相手に一騎打ちしなきゃいけない状況になっちゃってるので会話してる余裕はありませんし、会話する相手もおりません。

(でも経験値だけは他の誰より上がる。・・・勝てればの話だけれども・・・)


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