シャルロット・デュノアの妹、ジャンヌ・デュノアです。   作:ひきがやもとまち

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久々の更新となります。久しぶり過ぎてジャンヌ(オルタ)の台詞とか忘れてる部分多すぎることに気付きましたので一先ず無難な範囲でギャグパートを。
残りは次回ですかねぇ…。(我ながらなかなか先に進めなくて情けない…)


第30話「聖女の条件(注:民衆に都合がいい活躍しないと魔女枠になります)」

 更識簪が目を覚ましたとき。彼女がいる場所は地獄と化していた。

 

「こ、これは・・・一体、何が起きたって言うの・・・っ!?」

 

 階段下の空きスペースという位置で座り込んでいたため、無人IS部隊襲来の折には運良く衝撃で気絶しただけで無傷だった簪だが、意識を取り戻した頃には既に生徒たちは避難し、講堂は無人と化してしまった後だった。

 

 先ほどまで気絶していた簪の主観では、つい先ほどまで学園中の生徒たちがISアリーナに集められて、いつものように眩しい姉の演説に歓呼でもって応じ、観客こそいないものの本物のタッグトーナメント会場が移転してきたような活気が溢れていたというのに・・・・・・。

 

「だ、誰か・・・誰かいないの・・・っ!?」

 

 弱々しい声で簪が呼びかけても、周囲には何処からか流れてきた爆煙か硝煙の白い靄が薄く漂っている光景が見えるばかり。

 何が起きたかは気絶していた彼女には分からない。だが、異常事態が起きたことだけは確かな事実のようだった。

 

「と、とにかく・・・・・・安全なところへ避難しないと・・・・・・」

 

 兵器を扱わせる教育機関として、日頃から行われている避難訓練の手順を思い出し、簪は半ば現実逃避気味に日常の一部をなぞる道を選んで、ほとんどが電子制御されているIS学園セキュリティの中で非常口だけは手動で開ける扉を開閉して、その先へと繋がる避難訓練マニュアルで規定されている安全な場所へと向かって歩みを進めていく。

 

 周囲に高い建物がなく、崩落する恐れのある天井もない、【ISアリーナのグラウンド】という名の【安全な避難場所】へ・・・・・・彼女は自ら赴く道を選んでしまったのである・・・・・・。

 

 

 

「よい、しょ――っと」

 

 非常用脱出通路の出口側にあるハッチを開き、広々としたグラウンド上へと這いずりだしてきた簪は、自分より先に避難しているはずの生徒たちが一人もいないことを訝しみながら、それでも今が非常事態で『敵が襲ってきていて』『自分が戦わなければいけなくなってる状況にある』とは考えないまま、グラウンドの中央部へ向かって歩き始める。

 

 それは果たして彼女自身が目を逸らしたがっていた願望の現れ故の行動だったのか、それは分からない。

 

 ただ一つ確かなことは、更識簪にとっては当然の権利である『自分は戦いたくない』という願望が叶うことを、彼女の敵たちが尊重してやる義理を持ち合わせていなかった。只その一つだけ。

 

 ――ガシャン!!

 

 突如として、簪の目の前に飛来してきた、人の形を持つ鋼鉄の塊。

 女性的なシルエットをした真っ黒な装甲坂。バイザー型のライン・アイ。羊の巻き毛のように大きく前へと突き出たハイパー・センサー。

 

 そして・・・肘から先が巨大なブレードとなった右手と、掌に超高密度圧縮熱線砲を放つため四つの穴が開いた左腕。

 

 戦闘用無人量産型IS『ゴーレムⅢ』

 

「ひっ・・・・・・!? な、なにあなた一体・・・!?」

『―――』

 

 突如として降り立ち、自分の行く手を遮るように迫ってくる漆黒の無人IS。

 その決して動くことのない、のっぺりとした無個性な女性型の顔を見上げて、ライン・アイと目が合った。――そう感じさせられた瞬間には、彼女の右手に伸びかけていた待機形態のISを展開させて生き延びようとする意思は、プッツリと途切れてヘタリ込むことしか出来なくなってしまっていた。

 

(た、たす・・・けて・・・・・・。誰か、助けて・・・・・・!!)

 

 ぎゅっと目を閉じて、祈るように縋るように、ただひたすら強く念じる。

 こんなときヒーローがいてくれたら、きっと自分を助けに来てくれるに違いないと。

 風を纏って颯爽と、闇を切り裂いて堂々と、完全無欠のヒーローが現れて自分を助けてくれるんだ!――と。

 

『―――』

 

 しかし、現実は夢やアニメのようにはいかない。

 一歩、そしてまた一歩と彼女に近づいてきて手を差し伸べてくれるのは、ヒーローの優しい手ではなく、ゴーレムⅢの熱線砲を備えた金属性の冷たい左腕のみ。

 

 その全く救いのない、絶望的すぎる現実を目の当たりにして、簪の頭に浮かぶのは、不思議と完全無欠な姉ではなく、『彼』の名前と姿のみ。

 

「・・・・・・り、む・・・・・・ら・・・く・・・・・・」

 

 それは彼女が望み求める存在が『ヒーロー』であって『ヒロイン』ではなかったせいなのか。この学園と彼女自身の狭すぎる交友関係で、その条件に合致している対象が彼一人しか知らなかっただけだったのか。

 あるいは、本能的に彼女は自分の思い描く理想のヒーローを・・・・・・『自分だけの王子様』のイメージを彼に被せて見てしまうようになっていた故だったのか――それは分からない。

 

 だが不思議と今の簪は、自分を助けてくれる存在に、他の誰かではなく彼を選んだ。彼だけを選んだのだ。

 

「おり・・・・・・むら・・・・・・く・・・・・・っ」

 

 ゆっくり、ゆっくりと伸ばされていくゴーレムⅢの左腕を前にして、動くことなく逃げることもせず、ただ一心不乱に祈り縋って、救いを求める。

 

 ピシッ―――。

 

 そして・・・戦火に苦しめられ、救いを求め続けた無力な少女の願いに天が応えたかのように。

 簪の立つ場所と敵の立つ場所。その丁度中間点に位置する壁に亀裂が走り出し。

 

「―――織斑くんっ!!」

 

 簪が全身全霊の想いと気持ちを込めて命の雄叫びを叫んだ瞬間。

 

 

 ドゴォォォッン!!!

 

 

「カンザシィィィィィィィッ!!!!」

 

 

 壁を粉砕しながら突き破って現れた、黒い疾風。黒き鋼鉄の軍馬に跨がる漆黒の女騎士。

 

「――っ!? ジャンヌ!?」

 

 簪は驚愕の余り彼女の名を叫び、思わず恐怖以外の涙がこぼれそうになってしまう。

 求めていた彼ではない。助けに来て欲しいと願った男の子ではない。女の子はヒロインになれても決してヒーローになれることはない。

 それでもいいと、彼女は想った。現実は夢やアニメのようにはいかない。ヒロインの窮地を救いに来てくれるのはヒーローであるとは限らない。

 

 それでも・・・来てくれたのだ。友達が、自分を助けるために危険も顧みず、こんな所まで・・・・・・ッ!!

 

(ジャンヌ・・・っ、ジャンヌが、来てくれた・・・・・・っ!!)

 

 涙ながらに自分の救い主へと駆け寄ろうとする簪と、敵の魔手から救出するため高速接近していくジャンヌ。

 

『―――』

 

 だが、機械で造られた無人ISの頭脳に「友情」などと言う人の心を思いやる機能は搭載されていない。

 あらたなIS専用機コアの接近を関知したゴーレムⅢは、プログラムに従い敵の速度と、救助しようと近づいていく少女との距離を計算し、速度を加えて接触予測ポイントと発砲のタイミングを完全に演算し終えたとおりの角度でチャージを開始。

 互いが互いと接触し合って、足を止めた瞬間に―――二人まとめて射程に収まるよう計算され尽くした射撃によって終わらせようと目論んでくる。

 

 

「カンザシィィィィッ!!」

「ジャンヌ・・・・・・っ」

 

 だが、そんなことは露知らず、孤立した味方を救うために危険を承知で援軍に駆けつけてきた救国の女英雄のごとく高速接近し続けてゆくジャンヌと、そんな彼女による助けが来たことを喜んで全力で駆けだしていき、敵が見過ごしてくれている理由を疑いもしない更識簪。

 

 互いと互いが交差し合って、ジャンヌの両手が飛び込んでくる簪の体を優しく抱き留めて動きが止まった―――そうなるように思われた、そのシーンの次の瞬間に。

 

 

「ニー・バズーカァァァァァァァッ!!!!」

「ジャンぶふぅぅぅぅっ!?」

 

 

 ・・・・・・高速接近してきながら放たれた飛び膝蹴りモロに食らわされて、簪は元いた位置まで来たときの倍以上の早さでリバースさせられて強制送還。

 その一瞬の後。彼女たちがいた空間を、一条のビーム光が過ぎ去っていくことになったため、結果的にジャンヌの行為が何を目的としたものであったかは誰の目にも明らかにはなったのだが。

 ・・・他にやりようなかったのかお前は・・・。あと、ニーバズーカって。確信犯確定じゃねぇか。

 

 まぁ、そんなこんなはいざ知らず。

 とりあえず敵の初撃から簪を助け出すことに成功したジャンヌは、いったん地面に降り立ち、救い出した味方の安否を確認すため声かけをして、

 

 ズザザザザ――ッ!!!

 

「カンザシ! 無事!? 助けに来てやったわよ! まだ死んでないわよねッ!?」

 

 足ブレーキをかけながら速度を落とした後、凜々しい表情を浮かべて助けた味方の安否を気遣う、その姿だけは彼の救国の聖女がオルレアンで孤立している味方の救援に来た姿と名前通り連想させられなくもない、名高き女英雄っぽさに満ちあふれたものであったが、しかし。

 

「・・・で、殿中が・・・っ!? 鼻が・・・!! 陥没させられたみたいに痛いぃ・・・・・・ッ!!」

 

 ・・・・・・助け出した味方の美少女が、自分の鼻おさえながら涙流しまくって床のたうちまくってる姿を背景に置きながらじゃ、誰も名高き救国の聖女による救済シーンを連想しようなんて考えるバカな愚行はしないだろうし出来ないだろうなぁー・・・常識的に考えて。

 

 しかも、その挙げ句に。

 

「痛いって事は死んでないって事ね!? よし、それならいいわ! 逃げるわよッ!!」

「・・・え? ちょっ、待・・・・・・ッ!? グェェェッ!!??」

 

 ベテラン軍人みたいなこと言い出したと思ったら、いきなり倒れて床転がっていた簪の着ている制服の襟首つかんで宙に浮上し、再びISを使って戦場からの離脱を試みる!!

 

「ちょ、ちょっとジャンヌ待っで! 首締ま・・・ッ!? ぐ、ぐるじいィィィッッ!?」

「我慢しなさい! 殺されて死ぬよりかはマシでしょう!?」

 

 ・・・その結果として、着ている制服の襟首つかまれ空飛ばれたため、要救助者が窒息させられる羽目になっていたりもしたのだが・・・。

 当然ながら、脳に酸素が行き届かなくなるから窒息状態が起きるのであり、脳に酸素が足りてない状態でISを正確にイメージして展開させろなんて無茶ぶりにも程があるし、それが出来れば窒息も多分していない。

 

 まぁ、確かに安全優先して結果的に死ぬよりかはマシだし、IS機能の『絶対防御』もあるので窒息死する心配だけはない(死ぬことさえ出来ないとも言う)

 ジャンヌの持つ機体特性を鑑みた上で、必ずしも間違った行動とまでは言い切れない部分は確かにないわけではないのだが。・・・・・・絵面がなぁー・・・。

 

 苦しみもがく少女の首つり状態で空飛んで逃げようとしている、黒い鎧を纏った目つきの悪い女騎士って・・・・・・これもうダークヒーローですら通用しそうにねぇ悪役が民間人を処刑してるようにしか見えようがないのだが・・・・・・いいのか? この助け方で本当に・・・。

 最後は火刑で殺されて、報われなかった救国の英雄と同じ名前を持ってる女の子が人助けするときに使う手法は色々と連想できるものが多くて困る。

 

『―――』

 

 しかし、それでも人の心を持たないクソ真面目な無人ISゴーレムⅢは、雰囲気にも絵面にもセリフにも流されることなく、逃げる敵を追撃するため下からの位置で迎撃しようと狙いを定める。

 チャージを開始し、飛び去ろうとしているジャンヌの背中にロックオンを完了させた。

 

 また、このときゴーレムⅢは馬鹿正直に相手の背中の中央に狙点を定めるような愚行は犯さない。

 ロックオンされた相手からは誤差として切り捨てられるよう計算して、僅かに右方向に砲門の向きをズラしていた。

 

 これはジャンヌが現在、簪の襟首を右手でつかんで引っ張り上げていることが理由によるものだ。

 ゴーレムⅢの放つ射撃から、丸腰の簪に当てられないように避けるためには、少しでも彼女を敵の攻撃の当たり判定から外す必要があり、上も下も左に逃げても、右手に持ったままの簪は敵の攻撃に晒されるかもしれない時間が長くなってしまうしかない。

 

 それ故に、右方向に高速で回避行動を取る確率が一番高いと、ゴーレムⅢの電子頭脳は判断し、僅かに狙点をズラしてロックオンを完了したのである。

 この一発で仕留める必要性は微塵もなく、バーニアを損傷させるだけでスピードは低下し、彼女たち二人は足を止めて自分と戦って勝つ以外に逃げ延びる道をなくさせることが出来るだろう。

 それこそが自分たちを造りし、操り手の望みであり、襲撃の目的。

 最後まで、それに付き合わせるためにも、ゴーレムⅢは敵を殺す気まではなくとも逃がしてやる気だけは絶対にない一撃を、ジャンヌの背中めがけて狙いを定め――発射させた。

 

 

 ビシュ―――――ンッ!!!

 

 超高速で迫る熱線! 距離的にも高度でも角度でも敵の方が絶対的に有利で、仕留められることこそなくても、損傷は免れそうにない、この背後からの攻撃に対してジャンヌは!!

 

「緊急解除ッ!! レリーズ!!」

 

 ―――っと、敵が発砲した瞬間にはタイミング見計らって、展開していたISを全面解除して空中で生身に。

 当然ながら人は空を飛べない生き物であり、可能性だけで人が竜になれるんだったら恨み辛みで竜に変化してパリ焼き滅ぼす魔女にでも聖女様がジョブチェンジするぐらいのことは出来ただろうからあり得ない幻想のフィクション話でしかなく。

 

 人が空高く飛び立つためには、機械の翼による補助が欠かせない。

 代用品として、蝋でできた翼でも空飛べる話もあるけれども・・・・・・どっちみち翼が溶けたり消してしまったりした人間が再び空へと上がるためには――地面に落下して天国に行くしか道はない。

 

「~~~ッ!? き――っ」

 

 一瞬の浮遊感の後、気持ちの悪い吐き気をもよおさせるエレベーターで下降りるときの感覚みたいな奴を味あわされて、簪が死の恐怖心から悲鳴を上げそうになった、その瞬間。

 

 

 ビシュ―――ンッ!!!

 

 自分たちの数ミリ頭上を、熱線が通過して通り過ぎっていく光景が確認され、威力は高いが撃つまでの溜め時間がけっこう必要な熱線砲、いわゆる『か~め~は~め~波ァッ!』みたいな射撃攻撃は連発されないことを確認済みなジャンヌは、再び叫び声を上げ。

 

「そして展開! 再び浮上!!」

 

 今さっき消したISを再び展開して、今度こそ全速離脱。

 敵が撃った砲口に穴が開いた場所見つけて逃げ去っていきましたとさ。

 

 夢もヘッタクレもない、出したり引っ込めたり思いのまま自由自在なトンデモ兵器ISを使った逃亡方法ではあったものの・・・・・・まぁ、現実の敗走なんてそんなもんである。

 孔明が逃げて走ってくれた仲達さんも、向かった先は自分の国の首都で王に対する簒奪しに行っただけだったし。

 

 負けて逃げるのが格好いい理由はどこにもない。敗軍は敗軍でしかないのが現実の戦闘なのだから致し方ない。

 

『―――』

 

 そう、仕方がないのだ。“今逃げられてしまったこと”は、仕方がない。

 問題はここからだ。あんな小細工を使って逃げに徹した、データにあるジャンヌ・デュノアらしくない戦い方から計測して、残りISエネルギーは多くないと見ていいだろう。

 焦る必要はなかった。

 ゴーレムⅢと彼女たち二人の専用機持ちとの戦いは、まだまだこれからなのだから―――

 

 

 

 

 

 

 さて、その頃。

 敗軍の将と兵たちには、逃げる敵を悠々と追いかけて仕留めればいいと、寛容な気分で許してやるような贅沢をさせてもらえる身分では全くなくなっていた。

 

 敵のセンサーから逃れるためにISを解除し、適当な瓦礫の影に隠れ潜みながら、二人の敗残兵たちは絶体絶命の窮地を乗り切るため知恵と勇気を出し合い、ピンチをチャンスに変えるため絆の力で一発逆転を誓い合うヒーロー的展開に・・・・・・・・・なっていなかった。

 

 

「・・・なんとか生き残れたわね・・・、凄まじい攻勢だったわ。

 私の人生の、ベストふぁ~いぶに入る死闘だったわよ・・・・・・」

 

「げほっ!? ごほっ!? ゲッホごっほ!?」

 

 

 ・・・・・・まぁ、ひとまず。

 今のところは、馬鹿とオタクの屍拾う者なしで済んでる状況DEATH。

 

 

 尚、ジャンヌの専用機【ラファール・キャヴァルリィ・ノワール】の残りエネルギーは0に近いDEATH・・・・・・。

 

 

つづく




【次回予告のようなオマケネタ(つまり実際には多分やらんと)】

簪『だって! だって・・・もう無理なんだよぅ・・・この世にヒーローなんか、いないんだよ! 私、やっぱりダメだっよ・・・お姉ちゃん・・・・・・』

ジ『?? なに理屈ごねてんのアンタ? 単に命が惜しいってだけでしょうが』

簪『そんなハッキリ言わなくても!?』
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