シャルロット・デュノアの妹、ジャンヌ・デュノアです。   作:ひきがやもとまち

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長らく更新をお待たせし過ぎて申し訳ありませんでした。
先日プリヤ二次創作を更新したのでFate絡みで(厳密にはモデルなので違いますが)今作の続きも急いで書いて完成させた次第です。

……ただ久々だったせいか途中からテンションが上がり過ぎてしまい、微妙な終わり方になってしまったことをお詫びいたします…すいません……。
久しぶり過ぎて楽しい気分になりすぎたようです。次には落ち着いてるでしょうから気を付けますね。


第31話「月のきれいな夜に吼え立てる、我が憤怒の復活を!!」

 各専用機持ちのレベルアップを図るため、全学年合同で行われたタッグマッチ。

 そのイベントは、かつてと同じように乱入してきた無人IS《ゴーレム》の最新型によって蹂躙され、アリーナ内各所で専用機持ちたちが分断され孤立無援での戦いを余儀なくされる中。

 

 突然の襲撃者に対応するためのISを、未だ展開できていないのは簪だけだった。

 ジャンヌ・デュノアの機転(?)によって窮地を救われ、瓦礫の陰に隠れて小休止を取りながら今のところは発見されていない場所で、ガタガタと噛み合わない歯を鳴らしながら怯えきることしか出来ていなかったのだ。

 

 ・・・・・・だが、それも無理はない。

 彼女は別に、家族の不幸から家を守るため国家代表の地位を欲して、専用機乗りになりたかった訳ではない。

 たまたま適性が発見され、押しつけられた立場と専用機であっても、誰かを守りたい願いと生来の負けず嫌いで強さを求めて、専用機開発を再始動させた訳でもない。

 

 ただ姉に対するコンプレックス。

 それのみが彼女を突き動かし、未完成だった専用機を完成させ、戦場へと参加させられる資格を手に入れてしまうに至らせただけなのだ。

 

 完成された美。優れた頭脳。常人を超越した肉体能力。多くの人心を掴んで離さない魅力。

 

『あなたは何もしなくていいの。私が全部してあげるから』

『だから、あなたは―――』

『いつまでも今のまま―――無能のままでいなさいな』

 

 

 ―――ち、違う! 違うッ! わ、私にだって・・・・・・私っだって・・・・・・きっと・・・・・・っ!!

 

 

 幼き頃から耳元でささやき続けてきた幻の声が、彼女をここまで辿り着かせたモノ。その正体。

 誰かと戦う意思など微塵もない、誰よりも強くなりたいなどと願う熱意は些かも持ったことはなく。

 ただ姉だけを意識して、姉に出来たことが自分にも出来るのだと証明したくて専用機を完成させて、合同タッグマッチ参加まで漕ぎ着けてしまっただけの存在。

 

 それが更識楯無の妹、更識簪の戦う理由の正体だったのだ。

 とうてい敵が攻めてきたからと、いきなり戦えるだけの心構えなど出来ているはずがなかったのだ・・・・・・。

 

 

 ――しかし、現実は夢やアニメのように甘くない。

 すでに味方の弾薬は残り少なく、援軍の目途も立たず、孤立無援の状況下で敵に追われて、隠れ場所もいつ発見されるか分からない状況の中。

 

 戦う力と、ISエネルギーを持っているのは自分のみ。

 そういう状況下になってしまっていると、たとえ自分に戦う意思があっても無くても、こういう事を言われる羽目になっちゃうのは仕方が無し。

 

 

「と言うわけで、カンザシ。アンタが専用機に乗って戦いなさい。でなければ帰れ!!」

「イヤだよ!? 無理だよ! 私には出来ないわよ!!

 あと、帰れるんだったら今すぐ帰して欲しいんだけどぉ――――ッ!?」

 

 

 自分をつれて脱出してくれたけど、その前にアリーナ中を駆けずり回ってエネルギー無駄遣いしまくって、最後のエネルギーもさっきの脱出行でほぼ0になってたからカンザシ守るのに役立てなくってたフランス代表候補生の片割れジャンヌ・デュノアからの無茶ぶりに、簪は涙ながらに声量限界ギリギリの声音で叫び声を上げ、敵に気づかれることなく目の前の友人だけに怒号するという器用なマネをやってのけ、現状の不本意すぎる待遇改善を要求していた。しまくっていた。

 

 然もありなん。彼女としては、いきなりの実戦に巻き込まれて、完成したばかりの新型最新鋭ロボットに乗り込み、突如として襲撃してきた謎のロボット軍団と戦って倒せとかいう王道ロボットアニメの主人公ポジションにいきなり昇格させられちまったようなものである。

 

 そんなもの、新たなる人の形の新人類とか、親がロボット開発者で機体が勝手に動いて守ってくれる選ばれた子供たちでもない限りには、才能あるだけで普通の女子高生には無理だ。

 それが出来るアイツらやっぱり人間じゃない。本当は戦争が好きな種族なんじゃないか?ってレベルで普通じゃない。

 

 そういう特殊すぎる選ばれた特別な人たちに助けてもらえるヒロインの作品とかに憧れているのが彼女だったけども、別に主人公になりたいと憧れていたわけではない。

 どっかのイノシシな友人だったら憧れるかもしれないけれども、自分は無理。むしろ守ってもらえるヒロインポジションが希望です。

 

「じゃあ、仕方ないわね。ここで敵にやられて殺されなさい。ヴァルハラまでは私も一緒にお供させられて上げるから」

「それもイヤ――――ッ!!!!!」

「どっちなのよ」

 

 そんな相手の願望に配慮すること一切なく、ジト目でツッコむジャンヌちゃん。

 いやまぁ、子供のワガママみたいな展開になっちゃっているけれども、簪の言ってる主張の内容的には、そうなってしまうのも現状では事実な訳でもあるわけで。

 

 戦いたくないんだったら、殺されるしかないし。

 殺されるのがイヤなら、戦って倒すしか道がない。

 

 彼女を助けに来てくれたのが、誰かを守ることに憧れていて―――特にカワイイ女の子とか美人のお姉さん助ける時はやる気出しまくってくれる武士道系の朴念仁美少年だったなら別だったかもしれないのだけれども。

 

 残念ながら簪が今を生きてる世界において、彼女を助けに来てくれたのは突撃特化で、守ることは性に合わないと切り捨てて今に至っているイノシシ少女だと、どうにもこういう展開は相性が悪い。

 

「だ、だいたいジャンヌは私を助けに来てくれたんでしょ!? だったら私の代わりにジャンヌがメインで戦って、私もサポートで支援するぐらいなら出来るから―――」

「ああ、それは無理ね。私のノワールは、もうエネルギーあんま残ってないから」

「なんで!?」

「さっきアンタを捜し回ってアリーナ中を徘徊してる間にガス欠しちゃった」

「おバカ!? いいえ、このおバカッ!!!」

 

 簪ちゃん、戦うことを恐れるあまり普段だったら絶対言わない他人への罵倒を、小声で最大音量の大声出して言っちゃいます。人を怒鳴ることよりも、今は敵と戦う方が恐ろしい更識簪ちゃん。

 

「ふぅ・・・仕方ないわね。私が残ったエネルギーで出来る限り戦ってみるから、その間にアンタは可能な限り遠くへ逃げなさい」

「い、いいの・・・? でも今、エネルギーが残り少ないって・・・」

「少ないけど、仕方ないじゃないの。戦う気がないヤツを、無理やり敵にぶつけたところで無駄死にするだけだし。やる気ないヤツよりかは私だけのまだマシでしょう?」

 

 さっぱりきっぱりと、割り切った口調で言い切りながらスクッと立ち上がって、格好付けのため髪をバサッとかき上げてみせるジャンヌ・デュノアちゃん。

 

 他の者なら、ほとんど誰もしない対応をする「己の意思で戦うヤツだけ来れば良い。無いヤツは物の役に立たん」を地で行く、主人公らしからぬ主人公ちゃんが彼女である。

 どっかの特攻馬鹿も似たようなこと言ってたジャパニーズコミックあったけど、自分は違う。アイツではない。根拠は特にないけど違うと言ったら違う。自分はあんな馬鹿じゃない。

 

「ほ、本当にいいの・・・? だったら私は、急いで他の所に助けを求めてくる! 絶対に見捨てたりなんかしない! それまで保たせるだけのエネルギーは残って―――」

「大丈夫よ問題ないわ。あと2,30秒ほどヘビィマシンガン撃ち続けたらお終いぐらいのエネルギーは残ってるもの。もう一戦やってから死ぬには十分過ぎる残量だわ」

「ダメ―――――ッ!? 絶対に助けが来るまで保たないからダメ――――ッッ!!!!」

 

 簪ちゃん再びの大声拒否。今度のは友人を置いて一人だけ逃げ出す案への否定です。

 戦うのは確かに怖いけど、十中八九というより確実に死ぬしかない死地へ友人身代わりの囮にして自分だけ逃げ出すため利用することになっちまう作戦までは容認できない、臆病だけど心優しくはあるのが彼女でした。

 

 って言うか、これだけ逼迫しまくった懐具合聞かされた上で許可しちゃったら、「自分が助かるために死んでこい」とか言ってるのと同義である。

 せめて、そういう厳しい懐具合は言わずに「十分さ。お前が戻ってくるまでなら余裕で耐えられる」ぐらいは言って欲しいものである。こういう時の、お約束セリフとして。

 

 

「ってゆうか戦死すること前提の玉砕展開は辞めてよッ!? 死んじゃったら何にもならないじゃないの!!」

「いや、そう言われてもアンタが戦わないんじゃ、そうするしかないし。他の道ない状況なんだし。仕方ないんじゃない? むしろ他にどーしろって言うのよ?」

「そ、それは・・・・・・」

 

 日本人の女子高生らしい、こういう展開のお約束説教かました簪ちゃんだったけども、相手が胡座かきながら白い目つきで告げてきた冷淡な現実的問題に反論することが出来ず、視線を右往左往さまよわせながら助けを求めるように周囲を見渡し。

 

 やがて―――どこにも助けの手など来る気配のない絶望的な状況を認識して、正しく絶望させられる。

 

「そん・・・な・・・・・・。こんな、ことっ、て・・・・・・」

 

 ガクリと膝から崩れ落ち、四つん這いになって絶望に打ちひしがれる事しかできない更識簪。

 そして、その姿を見つめながら胡座かいて座り込みながら、ボンヤリと他人事のように友人の絶望する姿を眺めてるだけのジャンヌ・デュノア。

 

 ―――彼女としても別に死にたいわけではなかったし、生きていたいと思っているし、どうにかして二人そろって脱出したいと願っていたのは嘘偽りなき本心ではあったのだ。

 

 そんな彼女がここまで落ち着いている理由はシンプルに――――自分じゃもう何もできなくなったから、全部カンザシに任せて委ねて命預けるしか出来ることないなぁー・・・・・・と。

 己の立場を完全に正しく把握しまくっていただけ。只それだけの理由だっただけである・・・・・・。

 

 もともとジャンヌは、守ってもらってるだけの癖して偉そうに糾弾してくる一般民衆モブキャラとかが大嫌いなタイプの視聴者であり。

 「権利」だの「責任」だの「報道の自由」だのと喚くしか能のないマスゴミとか左巻きすぎな人道主義者なんかは戦場に連れてってやって、敵に向かってマイク持たせて平和論叫ばせながら突撃させてやればいいとか思ってるタイプの過激な前線サイコー派な突撃バカ少女だった。

 

 そのため、「守ってもらうことしか出来ないなら文句言うな」という方針を、他人にも自分にも当てはめてくる、ある意味では潔いタイプではあり、軍国主義な時代錯誤ともいうべき非民主的発想の持ち主でもあったという次第。

 

 そんなタイプのため、簪に戦ってもらう以外に自分が助かる道がない状況下では、簪が自由に決めて良い問題だと思っていたし、そうするのが普通だとしか思ってもいなかった。

 

 だから彼女基準での「常識的判断」によって、『カンザシが戦いたくなければ一緒に殺されるしかない』『カンザシが戦うかどうかはカンザシだけで決めて良いこと。関係ない他人は引っ込んでいるべき!』・・・・・・という方針をすでに受け入れ終わっちまってて、考えることも迷うことも無くなっちまって久しい状況に今ではなっちまった後なのだった・・・・・・。

 

 

「ダメ・・・だよ・・・・・・。一人じゃ・・・・・・勝てないよ・・・・・・」

 

 すでに覚悟を決め終えて、全ての下駄をカンザシに預け終えていた、戦えなくなった戦士の少女ジャンヌ・デュノア。

 

「もう、ダメだよ・・・・・・できないよ・・・。やっぱり、私になんて、無理・・・だったんだ・・・・・・」

 

 そんな彼女だからこそ、嗚咽と共にはじまった、血を吐くような簪が抱え続けてきた苦しすぎる心の悩みを、葛藤を、姉に対するコンプレックスと裏腹の、完全無欠なヒーローに対して憧れた理由を。

 

「やっぱり・・・ヒーローなんて、この世にいなかったんだ・・・・・・」

 

 冷静に、客観的に、正しく簪の思いを理解しながら、黙って彼女の話を聞き続けられる。

 

「アニメ・・・みたいに・・・・・・ピンチに颯爽と現れて・・・悪の組織を倒してくれる・・・・・・完全無欠のヒーローなんて・・・・・・この世には、いないんだよ・・・・・・っ!!」

 

 己の無力さを呪い、やらなきゃいけないと分かっているに立ち上がる勇気さえ沸かない自分に嫌気がさして。

 

 ――不意に囚われることになった、後ろ向きな心の内側。

 

 強くて逞しい、完全無欠なヒーロー。

 優しくて、折れることも、曲がることもなく、真っ直ぐに自分の道を突き進む正義の味方。自分だけの特別な王子様。

 

 ――自分が今までずっと憧れ続けてきた彼らという存在は、最初から実在したことなんて一瞬たりともなかったかもしれない・・・・・・と。

 

 本当はそんな物どこにもいなくて、弱くて幼い不幸な自分が、すがる対象として信じたがった・・・・・・只それだけの子供じみた願望に過ぎなかったんじゃないのか?・・・・・・と。

 

 

 簪は、自分が絶望のあまり戦えなくなった理由と経緯を、ジャンヌに語った。

 ラノベの文章に書き写したら、5ページぐらいは文字でビッシリ埋め尽くせそうな合計数になりそうな今まで自分が抱き続けてきた心の悩みを、内側を。

 

 生まれて初めて・・・・・・友達に、他人に語った。語り聞かせた。

 そして、そんな自分の思いに対する帰ってきた友達から返答はこうだった。

 

 

 

「グダグダ理屈ごねてんじゃないわよ。

 要するに、“命が惜しいから戦うの怖いです”ってだけでしょうが」

 

「そんなハッキリ言わなくても!?」

 

 

 ガガン!と、友人からの回答に表情崩壊しまくらせながらショック受けまくりの簪ちゃんという結果になりました。

 うんまぁ、そうなんだけど。実際の所そう言いたかっただけなんだけどね?

 もう少し気を遣って、オブラートに包んだ言い方をしてあげようジャンヌちゃん。

 そうじゃないと、ラノベ5ページ分くらいの行動理由を経緯と一緒に語った後の相手だと、立つ瀬なくなっちゃってかなり辛いぞ?

 

「って言うか、助けに来てくれないからヒーローいないって。アンタ、自分のことヒロイン枠で考えてたわけ? メガネで根暗でアニオタ設定なのに、ヒーローアニメのヒロイン枠に? ・・・・・・うわぁ~・・・・・・」

「そういう事いわないでくれるかな!? いいじゃない! 夢ぐらい見たって! 女の子なんだから乙女チックな夢見る権利ぐらい許されてもいいと思うんだけどー!?」

「むしろ、どっちかっていうと敵キャラにいそうなタイプだと私なんか思ってたわ。

 自分に優しくない社会に絶望して、この世を自分の思い通りにさせてあげるとか誘惑されて魔王とかに自主協力する引きこもり系ネクラ美少女悪役とかに」

「死ぬわよ!? 自殺するわよ! いい加減にしないと私本気で死んじゃうからね!?

 敵と戦うより先にジャンヌの言葉で自殺するわよ!? 友達を殺すためにジャンヌは私を助けてくれたのかしら!? ねぇ!ねぇ!ねぇーッ!?」

 

 ギャーギャー!と。

 流石に堪忍袋の緒が切れまくって、感情的に声量押さえることさえ忘れ果てて、他人事な心の悩みを他人事として聞いてやって論評して、『戦闘に関係したこと』には特に何も言わずに自分の流儀は破っていない、薄情ではないけど他人への気遣い方が微妙すぎてて、かえって普通の人にはズケズケ言って傷つける言葉にしかならない事しかいえないジャンヌちゃんは相も変わらず平常運転マイペース。

 

 ある意味では彼女の生き方も、折れず曲がらず真っ直ぐ自分の道を突き進んでいく、簪の憧れたヒーローの生き方に似ていなくはなかったかもしれないが・・・・・・。

 

 ―――別に、『イノシシになりたい』と願ってたわけではないだろうし、ヒーローたちもイノシシには多分なりたくないだろうから、あんまり役に立たない悩み相談相手だった簪初の女友達フランス代表デュノア姉妹の妹ジャンヌ・デュノア。

 

 せめて姉の方だったら良かったかもしれないけど・・・・・・ご愁傷様としか言い様がなし。南無。

 

 

 しかも、挙げ句の果てに。

 

 

 

 

 ―――ガギィィィィィィィッン!!!!

 

 

【―――】

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・おおぅ」

 

 今の騒ぎを(流石に)聞きつけて、簪とジャンヌの居場所を察知されたらしい【ゴーレムⅢ】の一体が、二人が隠れ潜んでいた場所がある部屋の壁を破って姿を現してしまうという最悪の事態に。

 

 流石にここまで来てしまうと、ジャンヌも簪も腹を決めるしかない。

 戦って勝つか、戦わずに殺されるか、戦って殺されるか。どれかの道を選ばざるを得ない状況に、今の彼女たちの会話でなってしまったのだから――――

 

 

「・・・こうなったら認めるしかないようね・・・。カンザシ、頑張りなさい。アンタこそがナンバー1よ!」

「アホか――――ッ!!!!」

「へぶひっ!?」

 

 とりあえずバカなこと言って誤魔化そうとしてきたバカな友人を、部分展開させたISパンチで修正することで戦意をなんとか高めようと努力して、それでも震えそうになる心に活を入れながら更識簪専用機【打鉄・弐式】を全面展開させ終えた彼女は、震える心と足で怯えながらも敵に向かって一歩―――前へと足を踏み出し。

 

 

「・・・か、カンザシ・・・・・・」

 

 そんな彼女に向かって激励するためか、あるいは発破をかけるためなのか、床に沈められてピクピクしながらだったけど、ジャンヌ・デュノアは実戦経験者として初陣に望もうとする友人に最後の言葉を投げかける。

 

「完全無欠の・・・・・・ヒーローなんて、いない・・・・・・わ・・・・・・」

「――え?」

「完全無欠のヒーローなんて奴らは・・・・・・泣きもしなけりゃ、笑いもしないのよ・・・・・・なぜ、ならば・・・・・・」

 

 またバカな戯言かと思って聞き流すつもりでいた簪だったが、以外にもマトモすぎる内容だったため足を止め、真剣な眼差し相手を見つめて一元一句聞き逃すまいと集中して、ジャンヌの言葉に耳を傾けて、そして―――

 

「なぜなら・・・完全無欠のヒーローなんて呼ばれてる連中は・・・・・・決して、“自分では手を汚そう”としないからよ―――」

 

 ――一気に絶望の淵へと突き落とさせられた気分にさせられただけだった。

 

「汚い仕事は・・・他人任せで・・・・・・手を汚さずに・・・綺麗事ばかり語、って・・・美味しいところだけ盗んでいく・・・・・・救世主面した偽善者を求める連中、から・・・『汚れてない』から・・・人気を得ていく・・・・・・それがヒーローよ・・・・・・」

「・・・・・・」

「奴らに・・・・・・涙なんてないわ・・・・・・自己憐憫に酔ってるだけ、よ・・・・・・。

 笑うこともない、わ・・・・・・勝利して、笑うと・・・・・・ヒーロー好きの民衆から、嫌われる、から・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

「・・・カン・・・ザシ・・・・・・アンタは、そんなヒーローに助けて欲しいのかしら・・・・・・ね?

 ・・・ふふ・・・そうなんでしょうね・・・・・・救世主面した偽善のヒーロー、に・・・・・・ガクシ」

 

「え!? それだけ!? 特に私には何も言ってなかったわよね今の言葉って!?

 ただヒーローの悪口言いたかっただけだよね!?ただ単に!! あーもう!!

 気絶しちゃった後だと今更言い返すことも出来ないから、私だけがムカついちゃってるだけじゃないのよ本当にもーッ!!!!」

 

【――――】

 

 ブォォォォォォッン!!!

 

「うるさぁぁぁぁぁッい!! こうなったらやってあげるわよ! やってあげちゃうんだから!! ジャンヌに言われっぱなしで勝ち逃げされた私の恨み、ぶつけちゃっても文句は受け付けないからね!

 行くわよ! 【打鉄・弐式】――――っ!!!!」

 

 

 ガギィィィィィィッン!!!!

 

 やり場のない怒りを(味方のジャンヌに向けての物だったけども)敵に向けてぶつけることで、ひとまずの戦う理由ができた簪は、果敢にも敵に立ち向かっていき『対IS用のIS』である【ゴーレムⅢ】を相手に、長刀と荷電粒子砲による射撃の両方で戦いを挑んでいく。

 

 だが如何せん、一対一では分が悪い。

 全距離対応型に分類し直されたとは言っても、見るからに武装などから射撃がメインで考えられているのが丸わかりな【打鉄・弐式】と違って、【ゴーレムⅢ】は前回の敗北を踏まえてなのか比較的に防御型だ。

 

 無論のこと火力も高く、その点では打鉄・弐式も劣る物ではなかったが・・・・・・【ミサイル装備メイン】の打鉄・弐式と、【熱線兵器メイン】のゴーレムⅢとでは火力の『質』が大きく異なる。

 

 ベース機である『近接両用型』を発展させた『全距離対応型』の新型機と。

 正確な分類は不明ながらも『重武装型』と思しきベース機を発展させた『中近距離戦対応可能機』

 

 この二つが構造的に持つコンセプトの違いも、一対一では生じてしまう小さな差を補ってくれる相方がいないため、積もり積もって敗因となるのを避けるための選択肢が乏しい。

 

「く・・・っ! このままだと・・・・・・」

 

 結果として簪は、徐々に徐々に追い詰められつつあった。

 荷電粒子砲は撃ちつくして空になり、エネルギーは切れ始め、ダメージも少しずつ敗北へと近づいているが・・・・・・敵は死を恐れることなく、自分に向かって攻撃し続けてくるのみ。

 

「・・・ダメ・・・やっぱり私には、ダメ・・・・・・」

 

 そうなると、ヒーローへ縋る心を打ち砕かれたわけではない簪の心は、再び弱気にならざるを得ない。

 

「私は・・・卑怯者、だ・・・・・・私、やっぱりダメだったよ・・・・・・お姉ちゃん・・・・・・ッ!!」

 

 

 せめて最後に思いを伝えたくなった相手への言葉。

 ようやく姉と自分との差を受け入れられる気になれたと思ってきた、その矢先の永遠の別離。

 

 今まで、いつでも助けてくれてた完璧すぎる、私の―――お姉ちゃん。

 

 その遠くに見えていた背中が・・・・・・今では何故だか、とても・・・・・・懐かしい――――そう思った。

 

 まさにその時。

 

 

 

 

 ゲシィィィィィッン!!!!

 

【―――ッ】

「え・・・?」

 

 ゴーレムⅢの頭部を、不意打ちして後ろから回し蹴りしてきて、鉄の巨人から鋼鉄の乙女といったイメージにデザインを変更されていた、女性型を彷彿とさせる相手の横顔に向かってモロに黒鉄の足を叩き込むと、アリーナの壁まで吹っ飛ばして蹴り飛ばしてしまった―――ヒロインのピンチを救うために颯爽と現れた、もう一人の【黒いヒーロー】

 

「フッ・・・、ようやく見つけたぞ。お前を探すためアリーナ中を走り回ってしまったぞ」

 

 ニヒルな笑みを浮かべ、自分が吹き飛ばした敵のことなど眼中にないとでも言い足そうな、傲慢そうな態度で見下し嗤う、もう一人の黒いヒーロー。

 

「あまり専用機持ちを甘く見なるなよ、木偶人形め」

 

 言いながら巨砲を持った右手をダラリと下げたまま、ゆっくりと鉤爪のついた左手を頭上へと掲げてから、その切っ先を突きつけるように一気に振り下ろす。

 

 ―――気絶したまま回復してない、ジャンヌだけがいる方に。

 

 

「ジャンヌ・デュノアを倒すのは、この私ラウラ・ボーデヴィッヒ様なのだからな!!

 さぁ、決着をつけるぞジャンヌ!! 勝負だァァァァァァァッ!!!!」

 

 

「だから何でよアンタはァァァァァァァァァァァァァァッ!!??」

 

 

 ・・・・・・この展開には流石にイノシシでも我慢できなかったのか、生身の体でIS修正パンチ食らって痛みで動けなくなってた自分を忘れ去り、怒鳴り声と共に起き上がって、自分の指先を敵ISの【ゴーレムⅢ】と自分自身とに右手と左手両方使って説得を開始。超説得を開始しました。流石に緊急事態過ぎたから。

 

「前にも言ったでしょうが前にも同じことを!? 敵はアッチ! アッチにいるでしょうが! アッチを先に倒してから私との決着つけりゃいいでしょうがよ!!

 あと私、今エネルギー0寸前で戦えるような状態じゃないんだけどぉぉぉぉッ!?」

 

「そんなことは知らん。自分でなんとかしろ。

 とにかく私は、お前との決着さえつけられればそれでいい」

 

「理屈無し!? 無茶ぶりすぎるにも程があるんですけどぉっ!!」

 

 

 ジャンヌ・デュノア因果応報の図。

 さっき自分が他人に決断求めたばっかでも、自分が求められる側になると慌てふためき、相手の理不尽さに怒らずにはいられないのが人間です。

 

「さぁ、行くぞジャンヌ! どうにかしてISを展開できなければ私のファースト・アタックで死ぬことになる。

 限界を超えてみせろ! 私が倒したいお前は、この程度の敵にエネルギーを使い尽くすような雑魚ではないはずだ! 私にもう一度お前の輝きを見せてくれぇぇぇぇぇ!!!」

「アンタは勇者大好き魔王様かなんかかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!??」

 

 もはや不条理でも何でも、今この場で得た絶好の決着をつけられる機会を放棄する選択肢はあり得ないらしいラウラにとって、ジャンヌならISエネルギーぐらいなんとかするだろうと信じて疑わない敵への信頼度高過ぎな魔王勇者バカさま状態になっている彼女に道理は通じず、敵が回復した姿さえも見えてはいない。

 

 仮に最初の一撃で、生身のままジャンヌが死んでしまったら大いに困るのはラウラなのは目に見えているんだけども、【決着】の二文字だけが望みとなった、どっかのブシドーさんみたいな状態の彼女には言うだけ無駄。言ってる間に接近されて殴られて殺されるから、ほんとに言うだけ無駄死に過ぎる。

 

 簪以上に無理ゲー過ぎる条件を課せられてしまったジャンヌには――――もはや我慢の限界だった。

 

「だー!もう!! いいわよ! ムカつくわねアンタは本当に全く本当に全くもう!!

 ・・・・・・いいわよ。やってやろうじゃないの・・・・・・今度こそ完膚なきまでに負けさせまくって、泣きべそかかせてやるわ!

 舐めんじゃないわよクソガキ!! 月の果てまでブッ飛ばす!!!」

 

「ハッ!! 上等! それでこそ私のライバルだァッ!!!」

 

 互いに啖呵を切り合って、戦意というより怒気を高め合い、互いに相手にだけは負けたくない! こいつだけは絶対私がブッ倒す!!と、心の底から誓い合った二人の少女たち。

 

 その瞬間。

 ―――久方ぶりの“あの声”が、長き眠りから目覚め・・・・・・二人の心に問いを投げかける。

 

 

 

 

 Danage Level・・・・・・D.

 Mind Condition・・・・・・Uplift.

 Certihcation・・・・・・Clear.

 

《Valkyrie Trace System》・・・・・・・・・boot.

 

『――願うか? 汝、自らの変革する力を欲するか? 求めるならば叫ぶがいい!!』

 

 

 そう問われたならば、その声が誰の物であろうとも、彼女たちの答えは決まりきっている。

 

「Vertrag! ラウラ・ボーデヴィッヒが命じる!!

 貴様の力をジャンヌを倒すため、私に寄越せェェェェッ!!!!」

 

「Contrat!! 負けるくらいなら諸共殺すわ!諸共死ぬわ! それくらい言わなくても読み取りなさいよ!このス馬鹿!!」

 

 

 そして呼び声に応じた二人に与えられる、黒いIS追加装甲をまとった二つの専用機のパワーアップバージョン。

 0になる寸前だったエネルギーも限界まで回復させ、篠ノ之束さえ理解不能なISが持つ可能性という名のゴッドパワーによって引き起こされた謎現象により、手に入れた超パワーと超パワーを全力でぶつけ合う二人。

 

 ・・・・・・互いに味方同士に向かって、フルパワー出力の全力攻撃を・・・・・・。

 

「私を止めることなど誰にもできない!!

 《ジーク・ハイル・ヴィクトーリア》――――ッ!!!!」

 

「邪竜咆吼! 吼え立てよ、我が憤怒!

 《ラ・グロンドメント・デュ・ヘイン》――――ッッ!!!!」

 

 

 そして今日のは前回と違って、殴り合いではなく追加されたワンオフアビリティを使ってフルパワー撃ち合い。

 

 ベース機となった【専用機】を謎現象によって発展させた、【超パワーアップ版の改修機】が、追加された新装備を全力全開で遠慮容赦なくぶっ放し合う!!!

 

 

 

 ドッゴォォォォォォォォォォォォッン!!!!!

 

 

「あ~~れ~~~~・・・・・・」

【――――】

 

 

 そんな超パワーのぶつかり合いの真ん中あたりで戦闘してる途中だった、更識簪ちゃんとゴーレムⅢは、不幸としか言い様がない。

 

 『たまたま敵を倒す途中に立ってたから邪魔だった』というだけの理由で吹っ飛ばされ合ってしまった一人と一機は、不幸中の幸いなことにISを展開してたのとISそのものだったのでエネルギー削り取られるだけで難を逃れられ。

 

 ゴーレムⅢは機能を停止させ、簪ちゃんは。

 

 

 ヒュ――――――ン・・・・・・・・・ドゴンッ!

 

 

「へぶしッ!? ・・・は、鼻血が・・・・・・」

 

 

 顔面から地面に落下して、鼻血だけの軽傷で済んだみたいですね。

 専用機乗りは国家代表候補でもあるので、臆病でも普通の人より鍛えてるので頑丈です。

 

 

 

 

 

 ―――こうして全学年合同で行われたタッグマッチは混沌のうちに幕を下ろすことになる。

 ここまで混沌化した戦況になってまで戦闘を継続したがる物好きはいないだろうし、各専用機のりたちも各々の戦域でゴーレムⅢ撃破に成功して、教師部隊などの援軍も到着し、即日に内に事態を収束することに成功したのである。

 

 

 

 尚、余談だが。

 

 

『この者たち、またしても同じバカをやった馬鹿者たちのため、晒し者の刑に処す』

 

 

 と書かれたプラカードを捧げ持った少女たち二人の恥態が、一部IS学園女子たちファンの間で出回ることになるのだが・・・・・・完全な余談である。

 こんな馬鹿げた話と、テロ対策のイベントやってたIS学園が関係してるわけないのだから。

 

 

 

 

 また、もう一つの余談として。

 

 

「はい、簪ちゃん☆ お姉ちゃんに、ア~ン♡

 妹を守るため、こんなにも大怪我負うまで戦い抜いたお姉ちゃんに軽傷で済んだ妹としてア~ンは?♡」

「ぐ・・・っ。あ、あ・・・ア~~ン・・・・・・」

「ア~ン♡ パクリ☆ あん、美味し♪」

 

 

 更識姉妹の仲は、半ば強制的にだったけど今までよりかは良好になったみたいです。

 未完成だった専用機を完成させ終え、織斑一夏とも大して仲良くなれておらず、布仏本音さん他の整備関係の知り合いとも親しくなるイベントをこなせなかった簪ちゃんには―――

 

 

 ジャンヌが罰則受けてる間は、姉の看病する以外に他に行き先ないままだったから・・・・・・

 

 

「さぁ、次よ次! お姉ちゃんとの長年できなかったから溜まり続けた愛を確かめ合うためハグし合うイベントの続きを! ハグハグゥ~♡」

 

 

「うっ!? な、なんだ・・・? 今すさまじい寒気がしたような・・・・・・?

 どこかで私の同類が生まれたような、そんな恐怖で背筋がゾクゾクと・・・・・・っ!?」

 

 

 

 まぁ、そんなこんなで今日もIS学園は、結果論として平和が保たれました。

 

 

 

つづく

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