シャルロット・デュノアの妹、ジャンヌ・デュノアです。 作:ひきがやもとまち
『一夏・・・・・・』
『シャルロット・・・・・・』
暮れなずむIS学園校舎の廊下で、織斑一夏とシャルロット・デュノアは互いの瞳を見つめ合いながら徐々に身体をの距離を縮めていたーーー
「ーーあ、れ?」
そして、キスするかしないかの直前に目が覚める。甘い夢から目覚めた先に広がっていたのはIS学園にある自室だった。
「はぁー・・・なんだ夢かぁ・・・」
はい、その通り。夢落ちです。思春期女子で初恋相手と初めて出来た男友達が同一人という女尊男卑な今の世の中だと恐竜の化石かオーパーツ並に希少な美少女シャルロット・デュノアは、お約束的な朝の目覚めを余韻と共に満喫しながら布団の中で体を起こす。
「よ、よく考えてみたら学校の廊下でなんてことしてたんだろうね僕たちは・・・あは、あはははは。ーーでも、せっかく夢ならもうちょっとえ、エッチな内容でも僕は全然構わな・・・・・・って、何を言ってるんだろうね僕は!? ちょっと浮かれすぎちゃってるのかな!? でも、しょうがないよね!? 初恋なんだから!?
ジャンヌだって、そうでしょ!?」
妹が出来たことにより一人で過ごす時間が物理的に短くなったせいで独り言が多くなっていたシャルロット。
たいていは近くにいる妹に聞こえるように言って返事が返ってきてたから、事実上の会話になってた一人語り形式の内心吐露の癖を初めての恋愛で情緒不安定になってる彼女は遺憾なく発揮して腹違いの妹に同意を求めてみたのだが。
「シラナイ。私ハ、モウ誰モ信ジナイ・・・・・・」
ーー返ってきたのは、夜通しゲームやりながら布団かぶってた引きこもりゲーマーな妹の機械口調ボイスによる回答拒否。
ブルマーが学園指定で体操服に復権しているIS学園内にありながら、着ているパジャマ代わりの服装はジャージ。青色で名札の部分には「じゃんぬ・でゅのあ」と記された、今時ブルマー以上にどこで手に入れられるか不明な物品を身にまとったジャンヌは死んだ魚の目をして画面を見ながら、機械的動作で古典的名作RPGを再プレイ中。
嫌なことがあると思い出の中に逃避したくなるオタク系女子のダメな部分全快で、トーナメント決着からの約一ヶ月間を過ごしてきていたフランス代表候補ナンバー2、シャルロット・デュノアの実妹ジャンヌ・デュノア。
彼女は先月終わりに負った心の傷からいまだに立ち直れていないまま、家(寮)と学校の距離が近いからサボる口実には使えない事実だけを寄る辺にしてIS学園と自分との関わり合いを繋ぎ止めていた。
とは言え、それはあくまで「学校には通えている。登校拒否児にはなっていない」と言う程度の意味しか持たず、彼女の日常は最初の一日目から変わることなく荒みきっていた。
食べたお菓子の袋はほったらかしのまま、しばらくしてゲームが一段落したときに捨てに行く。服は着替えず何日も何日も着た切り雀のヨレヨレジャージを着心地がよくなって過ごしやすいから長らく愛用し続けている堕落振り。ーーあんまし入学前から変わった様子がないかもですね。
「愛ナンテ偽リ。ニセモノ。コノ世ハ全部ウソダラケ・・・・・・ダカラ私ハ、ファーストキッスヲ女ニ奪ワレタリナンカシテイナイ・・・・・・」
「相当に重傷だね、これは・・・」
思わずシャルロットは、人差し指をこめかみに当てて頭痛をこらえる仕草をしてしまうほどジャンヌのトラウマ震度はヒドいものだった。ヒドすぎていた。
このままだと本当に出家して、修道院かどこかの僧院にでも入り「生涯を神に捧げます」とか言い出すんじゃないかと思えてくるほどに。ジャンヌ繋がりだけにね。
「あのさ、ジャンヌ? 気持ちは分からなくもない・・・いや、実際にはあんましよく分からない、分かるようになりたくない難しい問題だとは思うし、僕も悪いことしちゃったかもなーって反省していることだけどさ? でも、そろそろ外にぐらい出たっていいんじゃないのかな?
だって、ホラ見てよジャンヌ! お日様と空気がこんなに気持ちいい!」
バサァッ!と、閉め切って暗くしていた部屋のカーテンを思い切りよく開け放ち、夏の太陽の日差しを存分に浴びながら健康的でボーイッシュな魅力にあふれた美少女の姉シャルロット・デュノアが微笑みを向けると妹は。
「ぎゃああああああっ!? 直射日光がぁぁぁっ!? 太陽光線がぁぁぁっ!?
焼ける焦げる腐った性根と根性が灰になるぅぅぅぅぅぅぅぅっっ!!!!!!」
「吸血鬼か!? 僕の妹は!!」
久しぶりに陽の光をモロに浴びて身体が拒絶反応を起こしてしまったジャンヌは、ゴロゴロ、ゴロゴロ床を転がり逃げ回り。姉からの全力常識ツッコミは非常識な生活が日常と化しているオタク少女の耳には絶対回避で完全スルーされてしまうのだった。
学校と寮を往復すること“だけ”が外出のすべてという生活を約一ヶ月間続けてきたジャンヌの身体はすっかり環境に適合してしまっており、直射日光に当て続けるのは厳禁な精密機器であるゲーム機一式を取りそろえて持ってきていた引きこもり用カスタマイズを施された学園寮の自室に寄生していた今の彼女にとって強すぎる日の光は毒であり、身体に為になってはくれない。むしろ健康を損ない体を壊す有害物質となり果てていたのである。
「・・・はぁ。全くもう、ボクたちの立場を認めさせる活躍で見直してたのに、すぐダメにしちゃうんだから。ジャンヌの天の邪鬼~」
膨れっ面をして見せながらシャルロットが言う、ジャンヌの活躍。それは前回のトーナメント戦決勝で見せたVTシステムを乗っ取ったVTAシステムについてのことだ。
あのシステムは、ただでさえ非人道性が問題視されていたのもあって研究者たちの間では欠陥品という認識で一致していた事実上のガラクタでしかなかったのだが。
“アレ”でジャンヌが示した成果は意外なほど大きな広がりを見せ、研究開発及び数少ない成功例の一つ《ラファール》にも再度注目が集まってきていた。
なにしろISコアには限りがあり、専用機は一度造ってしまうと簡単には研究用に解体することは出来ない縛りがある。国益を損なう上に、そもそもが一点物なため別の機体で成功したシステムが自国の機体に適合するのか否か未知数すぎている。
その点、ノワールはジャンヌ専用のカスタムがなされているとは言っても、所詮は量産機がベースとなったマイナーチェンジ機でしかない。一個人のためだけに特注された専用機よりかはシステムの方を合わせやすい上に、金さえ払えば手に入れられるという利点はワンオフ機以外ほとんどない専用機では決して獲得できない優位性でもある。
もう一機の成功例がドイツの最新鋭機で専用機でもあるシュヴァルツェア・レーゲンだったことも重なり、今デュノア社にはラファールの発注と研究開発のために投資したいとする電話が殺到している旨を、先月の性別自白発表イベント開催前日に父から電話で聞かされていたシャルロットは妹を大いに見直して、お礼に幸せのお裾分けをするつもりで前回のアレを引き起こしてしまったわけのなだが。
・・・・・・完全に裏目に出てしまい、逆効果の極地状態になってしまっていたーーー。
「お父さんから『ジャンヌを褒めてやってくれ』って言付けられるほど大活躍したばっかりなのになぁ・・・」
「ーーいいじゃない、別に。今日は休みなんだし、誰にも迷惑かけてないんだからゲームやらせてよ。もう少しでクリアなのよ、このゲーム。『7人の英雄伝説3』って言って、スーファミ時代に流行った名作で・・・・・・」
バシュッ!(非オタのシャルロットが、ゲーム機の電源コードを引っこ抜く音)
ぶつん。(画面がブラックアウトして、ラスボス戦中のゲームが記録ごと消された音)
「何すんのよアンタはーーーーーーーーーっ!?」
「休みの日に朝からゲームなんて良くありません。若いんだからお外に出て遊びましょう。
ーーと言うわけだから今日は一日、僕と二人で一夏と一緒にダブルデートで決定ね☆」
「diable(ディアーブル/悪魔)かよ!? 普通に死ぬわ!?」
心優しい姉からの気を利かせてくれた悪意なき処刑宣告。
裸を見られたばかりの相手にファーストキスを同性の女に奪われるところまで続けて見られてしまったから恥ずかしさで引きこもっていたというのに、すべてを台無しにして盲目的に恋に向かって突き進もうとする姉の猪突猛進ぶりに流石のジャンヌもドン引き気味。二人はやっぱり血のつながった姉妹みたいです。
「私、次アイツと会って話しかけられたら殺すか死ぬかのどちらかしか選べない自信と確信が有り余ってたから今の今まで精神的にも物理的にも引き籠もり続けていたんですけど、そこん所をもう少しだけでも配慮していただけませんかしらねぇ!? シャルロットお姉様ぁっ!?」
「そんなこと言っても、もう少しで臨海学校に行く日が来ちゃうんだから、今の内に慣れておかないと大変なことをしでかしちゃうかもしれないんだよ? それでもいいの? 大丈夫なの? 本当の本当に?」
「う。そ、それはぁ・・・・・・」
ジャンヌは口ごもって、言いよどむ。
確かにマズいのだ。今のままでは夏休み前、直前になって行われる夏の臨海学校で一夏と遭遇してしまったときにノワールを展開してワンオフ・アビリティを使わないでいられる自信は皆無なのだから。
せめて水着姿を見られても、普通にショット・ランサーで串刺しにしようとしてしまう程度に押さえられるようにならないと、自分は殺人犯として刑務所に入れられゲームとお別れしなければならなくなってしまう・・・!
(そんなのはイヤだ! 絶対に! 発売直後から売り切れ続出で続編決定した『7人の英雄たちと・・・』が買えなくなっちゃう!)
ジャンヌは姉の挑発に乗る決意を固めた。(注:普通は槍で刺し殺そうとしただけで殺人未遂ですが、IS学園で一夏が殺されそうになるのは日常茶飯事なので誰も気にしてません。治外法権だからか法律の解釈がいろいろおかしい学校がIS学園です)
「・・・わかった、行くわ。行けばいいんでしょ?」
「よかった! ジャンヌなら分かってくれると信じていたよ! ジャンヌ大好き!」
「・・・・・・ふん」
姉に抱きつかれて、そっぽを向くジャンヌ。
頬が赤く染まっているのを隠そうとしたのがバレバレであっても指摘しないで上げている、優しい姉のシャルロット。
・・・二人の関係がこうなったのには理由があり、それは二人が知り合う前まで遡られる。
ジャンヌはもともと考えるのが苦手ではないが『嫌い』な子供だった。
物事は単純でシンプルな方がいいに決まっているし、グダグダ考えるよりかは殴り壊してしまった方が手っ取り早くていい。心の底からそう信じて生きてきた暴走好きな女の子がデュノア社の社長令嬢ジャンヌ・デュノアだったのだ。
だが、その一方で世の中がそれほど単純に出来てはいないことぐらい十六年近く続いた社長令嬢人生の中で理解してもいた。
だからこその、お嬢様な仮面。礼儀作法という決められたレールの上を乗って歩くだけでいい、考えることは何もない台本を演じるだけの役割をそれなりに美味くこなしてきたつもりでいる。
ただ、正直な気持ちを白状するなら「面倒くさいなぁ~」の、一言に尽きていた。
壁があるならブチ抜きながら突き進んでやればいい。ムカつく奴には語って聞かせるよりも、拳で語り合った方が手っ取り早い。どこに走るのかで迷うよりかは、走り出した方へと向ってまっすぐ進んで行くのが一番楽だ。
『迂回とか後退とかまだるっこしい単語が載ってる辞書なんて焚書よ! 焚書! 燃やしながら貫き進んでやればいいじゃない!』
・・・そう言う思考パターンをしてしまう性質の持ち主であり、そう言う考え方を好む人間なのだと幼い頃から自分を理解していた彼女は『指揮官』を求め続けて生きてきた。
『自分をもっとも上手く使ってくれる指揮官に、自分という槍を委ねたい』。
それがジャンヌ・デュノアと言う少女が幼女時代から抱き続けてきた願望であり、姉が現れてからスッカリ依存するようになってしまった理由である。
自分は槍だ、とジャンヌは規定している。槍で、騎馬で、騎兵こそが自分なのだと幼い頃からジャンヌは自分自身を決めつけて、もっとも優れた槍で騎馬で騎兵になろうと努力してきた。
騎兵は突進力が最高の武器だ。勢いを殺がれてしまった騎兵など、単なる的でしかない。突撃と猛進こそが自分という騎兵にとって一番相性のいい生き方(戦い方)だったから。
だからと言って、ひたすら突進し続けたのでは息切れして矛先が敵の喉元に届くかどうか、勝敗が運任せになってしまう。それは嫌だ。
戦うからには勝ちたかったし、負けるよりも勝った方が気持ち良い。
的確なタイミングで最適な場所に自分を投入してくれる指揮官が自分には絶対に必要不可欠なんだと確信していたジャンヌにとって、包容力があって頭が良くて冷静な姉のシャルロットが登場したことは天恵に均しく内心でめちゃくちゃ喜びのダンスを踊ったりした。・・・表面的には仏頂面でぶっきらぼうに挨拶しただけだったけど。ひねくれ者な天の邪鬼だから。
ーーそう言う理由から、シャルロットの妹になってからのジャンヌは日常だとあまり物事を考えない少女になってしまっていた。
苦手分野にキャパを割くより、得意分野の戦闘で突撃するとき威力を少しでも上げるにはどうすればいいかを考えてた方がまだしも役に立つだろうと確信しながら日常生活と学園生活を送るアブナイ女子高生になってしまっていたのである。
・・・まぁ、だからこそ今この時この場所で、アホなやり取りをしなけりゃならなくなっているのだけれども。
「それで? どこへ何しに、何を求めに行くつもりなの?」
「駅前のショッピングモールだよ。臨海学校で着るための水着を買い替えようと思ってるんだ。学園指定のスクール水着はさすがにちょっと・・・この歳だとね(赤~///)」
「は? なんでよ?」
「え? なんでって・・・・・・ジャンヌは気にならないの? スクール水着なんだよ?」
「なにがよ? 萌えられるし良いじゃないの、旧型スク水」
「・・・・・・」
「ああ、競泳水着がダメって訳じゃないのよ? 『ケツ女!!』は面白かったしエロかったし、女子高生が着る競泳水着は小学生にスクール水着の組み合わせと甲乙つけがたい事実を思い知らされたし。
私も買うなら、ああいう使い方を検討しておいた方がいいのかしら・・・・・・って、シャルロット? なんで顔が怖くなってるの? え、笑顔が怖いわよ? ちょ、シャ、やめ、許してお姉ちゃんーーーーーーっっ!?」
ぶつん。(ジャンヌが意識を自分で切った音)
つづく