シャルロット・デュノアの妹、ジャンヌ・デュノアです。 作:ひきがやもとまち
「海っ! 見えたぁっ!」
トンネルを抜けた先に海を見つけたIS学園1年1組の女生徒たちがバスの中で歓声を上げる。
臨海学校初日、天候にも恵まれたバス移動の最中も男女比率99.9パーセントが年頃乙女なIS学園の生徒たちは今日も姦しかった。
「おー。やっぱり海を見るとテンション上がるなぁ」
「う、うん? そうだねっ」
名は体を表すを地で行く男、織斑一夏は一年中真夏のテンションで席が隣り合ったシャルロットに話しかけ、先日の水着買い換えイベント中にプレゼントをもらえたシャルロットは心ここにあらずの心境で同意を示す。
ぶっちゃけ意思疎通が成り立ってない会話であったが、脳は個別のもので世界観も主観も個人個人によるものでしかない人間の場合は必ずしも真実やら理解の共有は必要ない。
ただ『相手に自分の思いが伝わったから返事を返してくれた』という、結果から逆算された思い込みで会話を成立している風に見せかければ済む話である。
例を挙げてみよう。例えばこの二人ならば、
「それ、そんなに気に入ったのか?」
「えっ、あ、うん。まあ、ね。えへへ」
『自分に似合うと思ったのを選んで欲しい』とお願いして一夏にプレゼントしてもらったブレスレットを眺めながら思い出し笑いに笑みを漏らす元男装少女のシャルロットと、それを見やりながら「こんなに気に入ってくれると、高いもんじゃなかったのが逆に申し訳ないなー」と感想を抱く朴念仁で人の好意に鈍感な「想いの大切さを説く少年」織斑一夏。
彼らの一方通行な想いと思いのすれ違いにより発生している絆の強さで敵と戦う宿命を負った少年少女たちの存在こそが、人と人は決してわかり合えず繋がり合うこともない宇宙が終わるその時まで孤独のままに過ごすだけの寂しい生き物であることを証明していると言えるのではないだろうか?
「・・・字、あまり・・・・・・」
窓外に映し出される大海原を眺めながら「グデ~・・・」っと伸びてるシャルロットの妹ジャンヌ・デュノアは、そう締めくくる。
今朝の厨二哲学的に見た腐った世界への考察はいまいちな出来だった。今少し客観的な論旨に基づき理論を展開すべきだったかもしれない。明日の次回までに改善が必要である。字余り。
「まったく、シャルロットさんたら朝からえらくご機嫌ですわね」
「うん。そうだね。ごめんね。えへへ・・・・・・」
「??? (ま、いいか)向こうに着いたら泳ごうぜ。箒、泳ぐの得意だろ?」
「そ、そう、だな。ああ。昔はよく遠泳をしたものだな」
思い思いの挙動と理由で青春を満喫している十代の健全な肉体と精神の持ち主たちは、いつも以上にハイテンション! はしゃぎにはしゃいで騒ぎ立てる!
・・・すべては夏の魔力が成せる業。夏という季節は人を狂わせる魔力を秘めている。
ぜんぶ夏が悪いのだから!!
「・・・あぢ~~~・・・・・・クソあぢ~~~・・・・・・マジあぢぃ~~~~・・・・・・いくらなんでも暑すぎでしょ日本の夏・・・。
温暖化とか環境破壊とかどうでいいから休み取りなさいよ太陽。マジ暑苦しい・・・・・・」
――そんな中。
夏のきらめく日差しの下で遊ぶよりも、エアコンの効いた屋内でゲームしていたいと願う腐った精神と肉体を持つ十代女子のジャンヌだけは普段以上にローテンション。ぜんぶ夏が性悪だから悪いのだ。(注:よい子は絶対真似しちゃいけない、悪い子の思考です)
「だいたい同じ夏でも暑すぎるでしょ、日本の夏って・・・フランスだともう少し涼しかったはずなのに、どういう理屈よこれは。誰か出てきて説明しないよコラ」
柄の悪い目つきと口調でブツブツ言いながら、バスの座席で一番後ろの隅っこに陣取り携帯ゲームに興じている、転んでもただでは起きない悪い子ジャンヌは今日も平常運行中です。
「そろそろ目的地に着く。全員ちゃんと席に座れ」
『は~~~い』
「え!? ちょ、ま、今ちょうどいいとこなのに!? ジーク様から告白されるまでカウントダウン入ったばかりなのに!? お願いだから後1時間だけ到着待ってよーーっ!!!」
「長すぎるわ大馬鹿者ーーーーーーーーーーーっ!!!!!!」
「あべしっ!?」
・・・割と本気で今日も通常運行中のジャンヌ・デュノアちゃんでした・・・。
「・・・あー、痛てぇ・・・。ちょっとゲームしてただけで、あんなに怒ることないじゃないのよ。織斑センセーの切れキャラウザい。
そんなだから実弟相手にツンデレるほど男日照りになるのよ、あのブヒルデ様は」
拳骨食らった頭頂部を押さえながら、涙目でブツブツしつつもしっかり水着には着替えて海にも向かうジャンヌちゃん。なんだかんだ言いつつも海のバカンスには興味津々なお年頃の娘です。
「海・・・いいわよね、憧れるわ。――ノルマンディー公ウィリアムによるイングランド王国征服! エドワード糞太子の病没に、戦争不景気でイングランド軍撤退! ザマーミロ!
シャルル5世賢明王万歳! くたばれ神輿王シャルル7世! 地獄に落ちろっ!! 名前繋がりで子供の頃からバカにされててムカつくのよアンタは! お姉ちゃんの偽名にまで使われて呪いにきてんじゃねーーーっ!
海の向こうの異敵の、くっそバカ野郎ーーーーーーーーーーーっっ!!!!!!!」
・・・興味の持ち方が斜め上過ぎてて、ちょっとだけ怖い美少女ジャンヌ・デュノア十六歳。
最近、中古ショップで購入したPSPソフト『ジャンヌ・ダルク(SEC)』にハマっている女子高生です。
「・・・ん? アレって、もしかしなくても・・・織斑とシノノノ? 何やってんのかしら、あんな所で・・・」
ひとしきり叫んで(厨二心的に)満足して、海へと向かう歩みを再開したジャンヌは前方に見知った二人組を発見した。男女ペアの一人ずつだ。
馬シッポみたいな髪型の女は、おそらく篠ノ之箒。ツンデレ侍でキリリとしてて、内面はヘタレの内弁慶少女なクラスメイトだ。
真面目なくせして根がエロいという、お前はどこの猫又侍かと問いたくなるほどの王道を行く日本の侍ガールキャラ定番設定の量産機乗りでもある。
もう一人の男は、織斑一夏だ。――以上、説明終わり。コイツについて私が今更言わなきゃ知らないことなんてないでしょ。なんか文句ある?(ギロリ)
「えーと・・・・・・抜くぞ?」
「好きにしろ。私には関係ない」
二人は道端で地面を見下ろしながら何かについて語り合っていた。
この位置からでは何かが見えないし分からないので、ひとまずジャンヌが思ったことは、
(聞きようによっては、めちゃくちゃエロかったわよね。今のやり取り)
――だった事を、ここに明記しておくものである。・・・誰も要らんと思うけれども。
「そ、それじゃあ失礼して・・・せー、の!」
キィィィィン・・・・・・。
「ん?」
一夏が何かを抜こうと踏ん張りだして、ほぼ同時に上空からも変な音が聞こえてきて、しばらくしたらニンジン型ロケットが空から落ちてきてドッカーンと着地して織斑たち驚かせ、
「あっはっはっ! 引っかかったね、いっくん! 束さんは学習する生き物なんだよ、ぶいぶい!」
と、ニンジンの中からエプロンドレス姿で機械のウサ耳つけた三十路前でピンク髪の女が出てきて騒ぎまくりだした。
「・・・・・・」
白い目になったジャンヌは、それからようやく一夏たちに向かって歩いて近づき始める。
「お、お久しぶりです、束さん」
「うんうん。おひさだね。本当に久しいねー。ところでいっくん。箒ちゃんはどこかな? さっきまで一緒だったよね? トイレ? まあ、この私が開発した箒ちゃん探知機ですぐ見つかる――――」
「ねぇ、一夏。その変なコスプレしたオバサン誰よ? 有明にはまだ時期が早いし、場所も間違ってるじゃない。マナーを守らないオタクはみんなの邪魔になるんだからちゃんと排除しときなさいよね、まったくもう」
その瞬間。ジャンヌの放った悪意なき一言により世界の刻は止められてしまった・・・・・・。
つづく
おまけ「一夏君とジャンヌちゃんと束さん」
一夏「えーと・・・ジャンヌさん? 知ってると思うけど一応言っとくと、この人は篠ノ之束さんな?」
ジャンヌ「知んないわよ。誰よその人。篠ノ之箒の又従兄弟かなんかなの? 日本人は似たような名前多すぎて分かりづらいんだけど?」
一夏「えー・・・」
束「・・・ふっふっふ・・・こ、この天才の束さんを前にオバサン呼ばわりとは勇気ある子だねぇ・・・言っておくけど束さんはまだ二十八――――」
ジャンヌ「いや、オバサンでしょ? その年齢だったら十分すぎるほど。二十過ぎた女はみんなオバサン呼ばわり確定キャラ。これ、日本のラノベ業界では一般常識よ?」
一夏・束「「マジで!? どうなってんの日本の少年向けライトノベル業界!?」」
(注:束さんの同級生な姉を持つシスコン一夏)