紅いイレギュラーハンターを目指して 旧話置き場 作:ハツガツオ
お久しぶりです。私生活が修羅場な為に、かなりの時間がかかってしまいました。おのれ実験レポートめ!!
ざっくりとした幼少期編のあらすじ
怪我の影響か、自身の前世の記憶を思い出した名も無き少年。彼はドルド夫妻に引き取られ、レイという名前を貰う。そして自身の身を守る為に自分の好きなキャラクター『ゼロ』を目指して修行を開始したのは良いものの、
さらに、それを手紙で知った師の友人がココス村を訪問。その人の息子から魔法剣を教わったり、模擬戦やったり、友達になったり、魔法刀を成功させたり、野生のゴーレムにゼロばりの剣戟を喰らわせたりした後、互いの目標を目指して別れる。
本編はその七年後からスタート。
旧一話 きみは、ゆくえふめいになっていたレイじゃないか!!
汗を拭いながら、部屋の中を見渡す。入った時に感じた埃っぽさは無くなり、床にも壁にも汚れ一つとして見当たらない。ベッドと壁の間や机の置いてある隅も勿論の事、小さな台所もピカピカだ。窓も薄く汚れていたものの、今では本来の透明さを取り戻し、外部から照らされる光を余すことなく部屋に伝えていた。それこそ
新品同然のように――正直言って、やりすぎである。
だが彼からすればこれ位やって当然だと思っている。これからはこの部屋で生活するのだ。なら、少しの汚れも無い方が気持ち良いに決まっていると思われる。
ほぼ新室同然となった部屋を満足そうに見渡した後、掃除道具を片付ける。部屋の換気を行うために窓を開けると、外に植えられていたサクラのが映り、昼過ぎの暖かい日の光が部屋に入ってきた。
――この分では、明日の入学式は問題無いようですね。
そう顔を綻ばせた後、次は荷物の整理を行おうと隅に避難してあった自身の荷物を部屋の中央へと持っていく。最初は本からにしますか、そう思って紐を解いた。瞬間、少し強めの風が吹き、本のページを捲って中に挟み込んであったのだろう一つの少し古びた便箋を床の上へと晒した。風が捲ったのは自身の日記、飛ばしたのは友からの手紙、その最初のもの。思い出として大切に保管してあったのだが、まさか風が吹くとは思っても居なかった。
次の風によって飛ばされる前に慌てて回収した後、便箋の隅に視線が行く。文字は薄くなってはいるものの、そこには自身の大切な友の名前が記されていた。
「……あれから七年、ですか」
部屋の中で懐かしそうに、彼――オーウェンは呟いた。
当時の事は今でも鮮明に覚えている。模擬戦を行った事、共に鍛錬を積んだ事、そして助けられた事。期間にして一ヵ月に満たない短さではあったものの、確かに自分はあの少年と友情を育んだのだ。無口で感情が乏しいものの、仲間を助けるためなら一人でも強敵に立ち向かえる強さを持つ人物。そんな友と互いの目標に向けての約束を交わした事も。
そして彼は自身の目標に辿り着いた。王都に戻ってからは、今まで以上に鍛錬を積んだ。自身と渡り合える友人に負けたくない、守る側でありながら守られてしまった、そうならない為にも今よりも強くなりたい。それらの思いを胸にして只管にこなし続けた。只でさえ同僚よりも多かった訓練量はさらに増え、人一倍取り組み弛まぬ努力を重ねた。
その結果、オーウェンの腕前は国内でも屈指の強さを誇るほどになった。この事に関して自身は友に感謝している。彼の存在があったからこそ、今の自分があるのだから。
しかしその友とはここ数年連絡を取っていなかった。というのも、あまりにも忙しかった為に手紙を送る暇も無かったのだ。どうやらそれは向こうも同じだったらしく、最初の一~三年は送られて来てはいたものの、四年前近くに最後のそれを受け取って以来さっぱりだった。忘れられた……という訳では無いはずだ。彼はそういう人間では無いと自分は思っている。そう信じたい。というかそうであってほしい。
だからこそ、相手は今どうしているのかは分からない。目標であったマナリア魔法学院に入学できたのかどうかすらも。だと言うのに……
「私が学院に入学するってどんな皮肉でしょうか……」
何とも言えないような顔で言葉を漏らす。そう、オーウェンがいるのはマナリア魔法学院、その男子寮の二階の自室。今は部屋の掃除の為に動きやすい青いジャージ姿に着替えてはいるものの、制服は一式所持している。――つまるところ、入学式を明日に控えた新入生なのだ。
もちろんオーウェンは魔法を学ぶために学院に来たのではない。明日からは学生の肩書を持つことになるとは言え、本職は騎士である為今更魔導士を目指そうとしている訳でも無い。
では何故彼が魔法学校に居るのか? 理由はとある人物の護衛の為である。対象の人物は王国の重要人物。その護衛騎士として、対象を守れる一定水準以上の強さ、護衛対象と年齢が近い、尚且つ家柄も申し分ないという条件の元で自身に白羽の矢が当たったのだ。
ちなみにだが、対象の人物とは既に顔合わせは済ましてはいる。……初対面でいきなり友達になってと言われた時は驚いたが。しかも自分が七年前の模擬戦後に言ったあの時の事を思い出して顔を押さえて蹲ってしまうという、初日……というか顔合わせの時点で醜態を晒してしまうという事態に。おかげで護衛対象とその場に居合わせた騎士団長からはコイツ大丈夫か? という若干不安な目で見られてしまったのは思い出したくも無い事である。
閑話休題
手紙の人物が入学したのかどうかは分からない。他の生徒から情報を得るという手もあるが、入学式の前日で忙しいと思えるこの状況だ。そこで態々時間を割いてもらうというのも気が引ける。それに今その事を気にしても仕方ないとも言えるだろう。頭からは離れないものの、いくら考えたところで友人の現在が分かる訳でも無いし、どうにかできる訳でも無い。出来たとしても、後日手紙を送る事位なものだ。なら、目の前の事を片付けるしかない。ため息を吐きながら頭を切り替えた彼は、荷物の整理に取りかかる。
荷物自体はそこまで多くは無い。自宅から持ってきたのは書物は日記や兵法書、後はとある武器マニアの無限の剣拓氏監修の「全空武器名鑑」等。衣服の方も最低限のものである為に、部屋に備え付けのタンスに収納し、整理が終わるのには三十分とかからなかった。
作業が終わった後、椅子に腰かけて一息つく。とりあえず一通りの作業は終わった。なら次にするべきことは……。
「……どうしましょうか」
やる事が無い。既に取り組むべき事は終わってしまった。
明日の入学式の準備を行う……とは言っても、持ち物は然程必要無い。精々が自身の武器位だ。兵法書等を読むという手もある。しかし、それを行ってしまえば今後読む物に困るという事態が容易に想像できる為に中々踏み出せない。別の物を買うというのも荷物が増えるばかりであまり宜しくは無い。
なら護衛対象の手伝いでもすればいいと思うだろう。無論彼もその考えはあったし、すぐにでも行動に移そうとも考えていた。対象が
そう、護衛人物は
当然の事ながら、男子が女子寮に向かうのは校則で禁止されている。逆もまたしかりである。もっとも、仮に校則で問題無しとされていたとしても、常識的に考えても向かうのは憚られる。いくら自身が護衛騎士の任を与えられているとはいえ、女性の部屋に踏み込むのも考え物だ。
だがしかし、やる事が無いというのもまた事実。自身の性分からして時間を無駄にするのは、あまり好まない。隣人への挨拶も考えたが、どうやらまだ部屋の整理が片付いていないらしく両隣の壁から作業音のようなものが聞こえていた。その事から後回しにしても問題無いと思える。
なら、残りの選択肢は鍛錬のみ。いついかなる時にも対処が出来るよう、己の腕を錆びつかせないようにする。しかし今の時間帯に、寮の前でやるのは邪魔にしかならない。となると、ここから一番近い第一演習場なら大丈夫だろう。そう考えて寮から少し離れた第一演習場へと足を運んだのだった。
◇ ◇ ◇
オーウェンが演習場へと向かってから数分後、赤いジャージ姿の人物が彼の部屋の前に現れた。恐らくその部屋の主に用事があるのだろう、その人物は三回ほどドアをノックをする。が、当然ながら返事は無い。当の本人は入れ違いで寮から出て行ってしまったのだから。そんな事を知るはずもない彼は、何の反応も無いことに頭を掻く。
「今は居ないのか……」
この人物、少し時間はかかったものの部屋の掃除や荷物の整理が終わった為に隣人への挨拶にでもと向かったのだが、まさかの不在。しかも自室の配置の関係上、隣人はこの部屋の主しか居なかった。となると、挨拶は後にするしかない。己の考えに結論付けた後、仕方なく別の行動に移す事にした。
(……鍛錬しに演習場にでも行くか)
確かあそこは入学式前でも使えた……はずだ。微妙に記憶があやふやではあったが、すぐに行動に移すべく自身の得物を取りに部屋へと戻った。
◇ ◇ ◇
寮を出てから歩き続けること十数分。最初は小さいシルエットだったが、歩を進める毎に次第に大きくなり、数分後には非常に大きな建物となって目の前に現れた。マナリア魔法学院には幾つかの演習場があり、第一演習場はその一つ。主に屋外での魔法実習を行う場所だ。
外観を少しの間眺め、いざ内部へ進まんと歩を進めた瞬間――。
「う、うわぁああああ!?」
「何ッ!?」
突如として聞こえた悲鳴。オーウェンは急いで内部へと走って向かう。距離はそこまで遠くない。その証拠に、十数秒程度で中に到着する事が出来た。
向かった先で彼が辺りを見回すと、天井の無い広いフィールドの隅で牙を見せて唸っている獣や蛇が融合したような魔物――マンティコアと、尻餅をついている服装からして新入生であろう三人の生徒達だった。
「あ、あぁ……ぁぁあ……」
「だ、誰か……」
「ひぇぇぇ……」
恐怖のあまりか、魔法を発動するという考えが出ないのだろう。その場で身を寄せて震えているばかりだ。マンティコアはそんな事はお構いなしに、生徒達へと牙を向ける。
このままでは不味い!! 彼は生徒達の元へ走ると共に腰に装備していた剣――ソード・オブ・ソーサリーを抜刀。水魔法を発動し、剣に水を纏わせた状態でマンティコアへ飛び掛かり、剣を振り下ろす。
「チェストォ――!!」
「グァッ!?」
第三者の介入は頭に無かったのか、避けられる事も無く右の脇腹を斬り裂く。が、蛇の鱗に防がれたのだろうか、深い傷を負わせる事は出来なかった。傷を負ったマンティコアはバックステップで数メートル先へと下がり、こちらの様子を伺うかのように姿勢を低くして唸り声を上げていた。それに伴い、自身も剣を構えて生徒達の前に立ちふさがる。
生徒達の方を見ると、恐怖の対象が遠ざかった事や助かった事で緊張が解けたのか、その場で放心していた。しかし、三人共怪我も無く無事の様だ。その事に安堵しつつ状況確認の為にも言葉を投げかける。
「皆様、お怪我はありませんか?」
「あ、ああ。助かったよ……」
「しかし、何故この様な状況に……? 少なくとも学院には居るはずの無い魔物ですが……」
そう聞くと、内の一人である男子生徒がマンティコアの側方向を指さす。目を向けると、そこには魔法陣が展開されていた。となると……
「まさか召喚魔法を……?」
そう問うと、三人は頷いた。 ――召喚魔法。離れた場所に居る存在を呼び出す魔法。呼び出されるのは、小型の魔物から大型の魔物。極めれば、高位の存在とされるものまで呼び出せるとされる。しかし、扱うにはそれ相応の腕が要求される。必要な術式も高度な物が必要とされるだけでなく、相手が召喚に応じるとも限らない上に下手をすれば召喚に応じた存在に術者がやられてしまう可能性がある。その為、魔法の中でも高い難易度を誇るとされる。
恐らくだが、折角マナリアに入れて気分が高揚していたのだろう。難易度の高い魔法に挑もうと複雑な術を組もうとしたものの、そこは新入生。まだ習って居ないそれらの意味を理解せずに滅茶苦茶に組み合わせた結果、魔物の中でも強い部類に入るマンティコアを呼び出してしまったのだと思われる。唯一幸運だったのは、演習場に他の人物が居なかったことだ。もし多くの生徒がいる中で呼び出されていたら、被害が出ていただろう。
いずれにせよ、早急に対処しなければならない。そう考えたオーウェンは、生徒達に避難を促した。
「貴方方は避難してください。奴の相手は私が致します」
「む、無茶だ! マンティコアはあんな強い魔物を一人で相手するっていうのか!?」
「ええ。ここで誰か倒さなければ、他の生徒に被害が出る可能性があります。それに私は騎士。戦闘には慣れておりますので問題ありません。さあ、急いでください!!」
激を飛ばすと、生徒達は急いでこの場を離れようと慌てて走り出す。それを目前で見ていたマンティコアは、逃すまいと追いかけようとする。しかし、その前をオーウェンが立ちふさがった。
「お前の相手はこの私だ。さあ、掛かってくるがいい!!」
その言葉を聞いたマンティコアは咆哮を上げて、彼へと飛び掛かって右前脚で爪を振り下ろす。オーウェンはそれを左に回避し、攻撃してきた足を斜めに斬り上げた。だがやはり普段よりも刃の通りが悪く、傷が浅い。恐らくマンティコアが蛇や山羊、獅子等様々な動物が融合して生まれた魔物の為に、それぞれの特性を得ている事が起因しているのだろう。実際、斬った部分は鱗に覆われていた。それだけでなく、様々な属性を内包している事を活かし、鱗を土の魔法で強化しているのだろう。敵との相性は悪いと言えよう。
だが、そんな事は七年前のゴーレム戦で経験済みだ。属性の相性というのは覆しにくいというのは分かっている。なら、どうするべきか。後ろへ距離を取り、その答えを証明するかの様に、魔力を剣へと集中させる。
「スゥゥウウウ…………」
呼吸と共にさらに濃密な水の魔力が剣を覆い始める。迸る魔力を薄く研ぐようなイメージの下に収束させた。形状は先ほどとは変わってはいない。
マンティコアがこちらにダッシュして、突進を仕掛けてくる。彼はそれを躱し、すれ違いざまに横を一閃。水の刃が鱗を削り取り、深い斬り傷を負わせた。――これが彼の出した答えだ。属性の優劣を覆す方法。それは、さらに属性力を高める事で無理矢理打ち破るというものだ。一見脳筋にしか見えない方法だが、これは彼の剣技も相まって成せるものである。いくら属性力を高めたところで、腕が無ければ結果は同じである。
今の攻撃で傷を負ったマンティコアは、痛みで顔を歪める。傷口からは血が滴り落ちている事から、深手を負わせられたと判断できる。
しかし、向こうはまだ戦意は喪失していないらしい。その場で攻撃態勢を取り、オーウェンを唸りながら睨みつける。
それに応えるように、彼も剣を構える。戦いはまだ続く、そう感じていたからだ。
だがこの時オーウェンは気づいていなかった。魔法陣が未だ起動していたことに――。
◇ ◇ ◇
場所は変わって演習所より数十メートル離れた先、先程オーウェンの部屋を訪れた人物が背中に武器を携えた状態で向かっていた。道の途中、三人の生徒達とすれ違う。その際、声を掛けた。
「おい、アンタ達。ちょっといいか?」
その言葉に三人は足を止めてその人物へと振り返る。
普段なら気に止める事はなかった。だが、何やらただ事じゃない雰囲気を纏っていた為に気になってしまったのだ。何か嫌な予感がすると。そして、三人から聞いた説明でその予感は的中する事となる。
「――マンティコアだと?」
「ああ。俺達が召喚魔法を発動して……それで襲われそうになった時、アイツが助けてくれて……俺達は先生を呼びに行くところで……」
「アイツ……?」
マンティコア相手に一人で挑むとは、一体どんな奴なのだろうか。疑問が生じたので、とりあえず聞いてみると、次の言葉が返ってきた。
「多分同じ新入生だよ。先輩は入学式の前日だから、学院にはあまりいないだろうし……自らを騎士だって……」
「騎士? そいつは一体……?」
「さ、さあ。青いジャージで、魔法剣を使ってた位しか分からなかったけど……」
それを聞いた瞬間、ある顔が思い浮かぶ。騎士に魔法剣……何でか知らないけど、あの子の顔が思い浮かぶんですが。そう思っていると、三人が聞き捨てならない事を言った。
「でも、大丈夫なのかな……。いくらあの人が騎士とは言っても、マンティコアを一人で……」
「だから急いで先生を呼びに行くんだろ! アイツ一人とか、無謀すぎる!!」
「ああ。もしかしたら、魔法陣から他の魔物が現れる可能性だって――」
他の魔物……もし戦闘中、乱入されて注意が逸れたら……。そう考えた時には、既に走り出していた。
「あ、オイ!? 何処へ!?」
「情報提供感謝する! 今から俺もそいつの元へと向かう!!」
「はぁ!?」
そう言い捨てた後、あっと言う間に姿は小さくなっていった。止めようとする暇も無く起きたいきなりの展開に、三人はその場で茫然とするしか無かった。
「い、一体何だったんだ……?」
「さあ……」
「変わった人だったのは確かだと思うよ。背中に刀背負ってたし」
「せ、背中に刀? 意味不明だな……――って、そうじゃない! 急がないと!!」
三人は気を取り直して、職員室へと向かった。
◇ ◇ ◇
「グルオオッ!!」
「ぬん!」
オーウェンは未だ、マンティコアと戦闘中だった。あれ以降学習したのか、彼を近づけないように尻尾の蛇による素早い連続攻撃と魔法による遠距離攻撃を主体に攻めていた。オーウェンはそれらの攻撃を剣でいなし、一つの場所に留まらないよう動き回る事で回避し、同時に相手の行動パターンを分析していた。いくらこちらを近づけさせないようにしようと、攻撃の繋ぎ目といった隙は存在するからである。そうやって躱し続けた結果――チャンスは到来した。
近すぎず遠すぎずの位置。そして尚且つ、蛇を直線に射出して戻すのに時間がかかるであろう攻撃。
(ここで叩く!!)
真っ直ぐに飛んできた蛇を、膝を曲げ、身を屈める事で避ける。そして曲げた際にかかった足への体重。それを活かして、地面を蹴って接近する。
まさか避けられるとは思わなかったのだろう、マンティコアは一瞬焦った後に蛇を戻しながら魔法での迎撃を試みる。だが、それよりもオーウェンが接近する方が速かった。
マンティコアの眼前で、そのまま剣を振り下ろそうとする。瞬間――嫌な予感を突如として察知した。それに従い、その場からすぐに離脱した。彼が離れたとほぼ同時に、さっきまで居た場所に火炎弾が着弾、床に炎が広がった。
攻撃の飛んできた方向へと顔を向けると、そこには攻撃の主であろう新たな乱入者が魔法陣の下に居た。赤黒い甲殻を纏った竜のような魔物――フレイムドレイクである。その魔物は、まるで自分も参戦せんとばかりに、身体の溶岩を活性化させて威嚇している。
「ここに来て、二体目か……!!」
思わず歯噛みする。どちらか一方ならば、問題無かった。だが、状況があまりにも悪い。前にはマンティコア、後ろにはフレイムドレイクと挟み撃ちの状況だ。加えて、両者ともに遠距離からの攻撃を所持している。迂闊に近づけば只の的にしかならない上に、片方の攻撃を回避したところでもう片方に狙われるのが見えている。位置を変える為に距離を取ったとしても結果は変わらない、もしくはまた同じ状況に持っていかれる可能性がある。
戦況は一気に不利に持ってかれた。その事実に眉を潜めつつも、剣を構え直す。ここで諦めてしまえば、誰が止めると言うのだ。自分を鼓舞しながら二体の魔物を視界に納めようとする。
二体の魔物が歩もうと足を踏み出した。
――刹那。二発の風属性の魔法弾、そして斬撃が入口より飛来。フレイムドレイクへと命中し、身体をのけ反らせた。
「今のは……」
オーウェンが呟きながら、入口へと顔を向ける。それに伴って、魔物達も同じ行動を取る。この状況に水を差した、第三者の存在を確かめる為に。
そこに居たのは、赤いジャージの一人の男子生徒だった。それを見た魔物達は、人間が一人増えた程度としか認識しなかった。が、オーウェンは彼を見た瞬間、目を見開いた。灰色に近い白髪に、鋭い緑の瞳。そして左手に持つのは、風を纏わせた刀。そう、彼は――、
「レイ……」
オーウェンが呆けていると、レイは刀を収めて、オーウェンの元へと駆けつけた。
「久しぶりだな……だが、挨拶は後だ。先にこいつ等を片付けるぞ!」
その言葉にハッと正気に戻る。そうだ、今は戦闘中だったのだ。呆けている場合では無い。意識を切り替え、正面にいるフレイムドレイクと対峙する。それを見たレイは、オーウェンと背中合わせになるように、マンティコアへと向き直った。
「マンティコアは俺が相手をしよう。そっちのコンディションは知らんが、行けるな?」
「勿論です。……レイ、疑うようで申し訳ないのですが、腕は落ちていませんよね? マンティコアは鱗が頑丈ですので……」
「問題無い。だから、お前は相手に集中してろ」
「分かりました。では、そちらはお願いします!」
そう言った後、オーウェンはフレイムドレイクへと疾走。それをマンティコアは逃さないと言うかのように歩を進めようとした。しかし、レイが足元に魔法弾を撃ちこむことで阻止する。
「――悪いが、お前の相手は俺だ」
マンティコアの前へと立ちはだかり、右手を構えた。
口から放たれる火炎弾を避けながら、オーウェンは距離を詰め、剣で斬りつける。その身を覆っている甲殻を貫き、吹き出す炎を水で鎮火させながらダメージを与えた。フレイムドレイクはその事に怒りながら、こちらへと火炎弾を連続で放ち続ける。彼はそれを避け、再び接近を試みる。そうはさせまいと、相手は尻尾による薙ぎ払いを繰り出してきた。
「くっ……!」
剣で受け止め、後ろに後ずさる。フレイムドレイクはその隙を利用し、口元に炎を溜める。次第に大きくなったそれを塊に形成、口から放った。放たれた巨大な炎塊は、真っ直ぐにオーウェンへと飛んでいき、着弾。土煙を舞い上がらせた。これで終わりだろう、炎の竜はそう考えていた。
しかし、煙からオーウェンが剣を構えて飛び出してきた。
実は火炎弾が着弾する際、剣に纏わせている水を剣に収束させた状態から形を定めていない解放状態へと変化させて、ぶつけていた。その結果、多くの魔力を消費してところどころ焦げてはいたものの、ほぼ無傷で済んだのだ。
慌てたフレイムドレイクは近寄らせんと、先ほどと同じように太い尾で右から薙ぎ払う。
だが、それは先ほども見ている。オーウェンはそれを剣を斜めに構えて受けることで、斜め上へと受け流す。そのまま間合いを詰めて、懐へと潜り込む。そして自身の持つ魔力を剣へと流し、大量の流水を纏わせて、己の最強剣技を放つ。
「我が極技、お見せしよう! ――ミラージュブレイド!」
斜めからの振り下ろし、そして横に一閃。これには堪らず、悲鳴を上げる。そして最後の一撃を繰り出そうとしたところで、フレイムドレイクはその巨体を後ろへと下がらせた。いくら一撃が強烈でも、直前に間合いを離せば隙が生まれると判断したからだ。
だがその考えは甘い。彼の剣はそんな程度では躱せない。表面を覆う水によって間合いは変幻自在。「逃げ水」の名を冠するが如く、例え距離を離そうとも刃は届く。オーウェンはそのまま剣を地に沿わせるように、渾身の力で振り上げた。地面より水柱が噴き出し、炎の魔物へと迫る。フレイムドレイクはそれを防ごうとするも、間に合わずに真っ二つに両断された。
「オーウェンの方は終わったようだな……」
相方の方を眺めながら呟いた言葉と共に、マンティコアは鋭い牙でレイを噛み砕こうと大きく口を広げながら接近。レイは地面を蹴り、上空へと跳躍する事で回避した。
しかしそれは悪手と言えた。空中では身動きが取れない、出来る事はそのまま攻撃を受ける事か、上手く受け身を取る態勢を取るの二択だけだ。それを好機と捉えたマンティコアは、土魔法によって地面からエネルギーを噴出させた。このまま呑みこまれるが良いと。
――直後、マンティコアは目を見張った。
エネルギーがレイへと迫るその最中、彼は空中で右足を曲げていた。そして何かを呟いた後――何も無い空中で、
この予想外の光景にマンティコアは驚愕した。何故翼を持たない奴が空中を駆けているのだ!? あまりの驚きに反応が遅れたが、すぐに冷静になって自らも敵に向かって
地面から跳ぶ。いくら空中で加速しようと、直線的である事に変わりはない。そう考えたからだ。相手を叩き落とそうと前足を振り被った。
しかし、それはレイの狙いだった。こちらが空中に居る、かつ敵と一直線の位置に居る事。その状態でこそ繰り出せる、自身の最速最強の技があったからだ。
背中の刀――始刀を抜いて両手に持ち、突きを放つように前へと構える。さらに、武器に風を集約して威力を高め、
「――旋牙突!!」
自身を矢と化したその一撃は首元に命中。鱗を貫き肉を抉り、鮮血を噴出させて大きな風穴を開けた。いくら耐久力があっても、これだけの傷ならば耐え切れない。その一撃でマンティコアは絶命した。
互いに魔物を倒し、無事を確認した事でホッと息をつく。そして、遅れながらの挨拶を交わした。
「七年振りですね、レイ」
「ああ、久しぶりだな。オーウェン」
言葉を交わした後、二人はお互いにガッチリと握手をした。
◇ ◇ ◇
行方不明になった覚えは無いぞ、俺は。
あ、どうも皆さんお久しぶり。ゼロを目指して十年、ようやく入り口に立ったかもしれないレイです。ちなみに今は、魔物達との戦闘の後に駆けつけた先生達への説明やら何やらを終えたので、オーウェン君と一緒に話しながら寮に戻っている最中です。
「先程はありがとうございます。おかげで助かりました」
「気にするな。……しかし、まさかマナリアで再会するとは思ってもみなかったな」
「ええ、私もです。ここ数年間、お互いに連絡を取りあう事が出来ませんでしたからね」
「……スマン。ハクランさんとの修行や座学の勉強で少しの時間も惜しかったからな……」
オーウェン君と約束を交わしたあの日から、ずっとマナリアに入る為の勉強をしていたのだ。あの後マナリア魔法学院について調べたのだが、試験には一般的な教養と魔法の知識を確かめる筆記試験と、自身の習得している魔法を試験官の前で披露する実技試験がある事を俺は知ったからだ。
以前この世界の一般常識が多少あるとは言ったが、あくまで多少。当然ながら試験を突破するには全然足りない。加えて記憶喪失の影響なのか、マナリア王国の歴史はおろか、魔法史や全空史等も足りておらず、まるでお話にならない状態だった。そんな状態で七年間過ごしたところで、筆記で間違いなく落とされる。そう考えたため、本屋に勤めている父さんや駐屯所の人達にお世話になりながら、この七年間座学に
……『も』とついている時点で、大半の人達は既に察しているだろう。はい、そうです。毎度お馴染みハクランさん、あの人からの修行も続行な上にレベルアップしました。具体例を挙げると、魔物の巣の中に放り込まれたり、飛んでくる矢を只管避け続けて機動力を鍛えたりとか。もはや常識? 何それ美味しいの? 状態である。しかも一部の訓練の為だけに、数か月間他の島に向かうという徹底ぶりとか……うん、馬鹿なんじゃないかな。というか馬鹿だろ。おかげで魔物はサーチアンドデストロイの精神が身体に染みついちまったよ。しかも魔物に対する恐怖とか自分の命云々は、この七年間でさっぱりと綺麗に吹き飛んだし。そんなん考えてる暇があるなら、さっさと敵を倒せという事だ。これで俺も戦闘用レプリロイドではなく、スーパーケルト人の仲間入りである。いやさ、座学に時間を割きたいから修行時間の調整お願いしますって言ったら、
『おう、分かった。ならよりハードな内容にして、他の空き時間を訓練に回せば問題無えな!!』
って返されるって、誰が予想できると思うよ。思わず『違う、そうじゃない』って突っ込んじまったよ。師よ、誰が量を増やせと申しましたか。俺を殺す気なのですか。そして貴方の耳は節穴なのですか。
それはともかくとして、何故そうしたのか。師であるあの人曰く『魔法の失敗とかで魔物が出現する事はあるんだぜ? それに只でさえ学校に居る間は鍛錬の量が減って腕が鈍る可能性があるんだ。今やれるだけやっときゃ、大抵の状況は問題無いと思ってな』との事。で、それを聞いて一理あると判断して受け続けたんだけど……まさか本当にあの人の言う通りになるとは思ってもいなかったわ。ちなみに一日の日程としては、
朝方起床→鍛錬→朝飯→自主練(ラーニング技)→昼飯→訓練と勉強→晩飯→魔法の訓練→ゼロの技をノートに纏めたりして考える(勿論厳重に保管)→勉強→就寝
この様なよく訓練された七年間を送って試験を受けた結果、一ヵ月前に合格通知が来たのである。成績はどうだったのかって? ……真ん中ぐらいだよ。筆記試験も難しかった上、特別地頭が良い訳でも無いし。実技は問題無かったけど。
しかしこの生活のおかげで、魔法刀が自在に扱えるようになり、マナリアに無事合格出来た(奇跡)だけでなく、ゼロのラーニング技を習得できたのだ。どれを習得したかは今すぐ言いたいところだが、また今度でいいだろう。尚今までのお礼として、故郷を発つ前にとある場所に手紙を送っておいたという事だけ付け足しておく。しかし……
「む? どうされましたか? そんなに私をジッと見て」
「……いや、しばらく見ない内に変わったなと思ってな」
「そう、でしょうか?」
主に外見的な意味で。勿論、内面も以前より落ち着いているというのもあるが。あれだけ小さかった子が、今じゃこんなに立派になって……お兄さん嬉しいよ!! ……止めようこのノリは。お兄さんっていう年じゃねえし。けれども、成長を見て嬉しく思うのは本当なんだよな。こう、親が子の成長を見守るとかじゃないけど。そんな事を考えていると、彼が口を開いた。
「そう言う貴方の方も大分変わったように思えるのですが」
まあね。こっちも身長伸びたりしてるし、戦闘スタイルも少し変わってからね。そう返すと、苦笑された。
「それらの事ではありませんよ。七年前より、表情が豊かになっている事です。
心構え等に変化は見られないようで、安心していますが」
あ、それね。言語補正、もとい黙り癖と表情補正、そして勘違い。あれからどうにかしようと努力したんだよ。鏡の前で笑顔を作る練習したり、自分の部屋で会話の練習したりとか。何が悲しくてこんな事をやらなけりゃならんのじゃと思いつつ続けたら、以前より遥かにマシになった。例えるのなら、ロックマンゼロのゼロからロックマンXのゼロに進化した。あまり変わってねえじゃねえかとか、口調は諸にゼロじゃねえかという突っ込みは無しね。これでも大分苦労したのと、自分でもこの現象が一体何なのか良く分かって無いし。
だが悲しい事に、勘違い。これだけは未だに起こる。いや、言語補正がマシになったおかげで前よりは少なくなったんだけど、それでも起こるんだわ。もうね、どうしようもないの。既に諦めてる。俺に出来る事は、これ以上起こさないように努める事しか無いの。既に起こってしまっている事は変えようが無いので、そのまま通す事にしたけど。勘違いの被害者である彼を騙すような事して申し訳ないが、俺はそう決めたのだ。
今のところ、特に悪い方向には作用してないし。
とまあ色々述べたのだが、コレに気付かせてくれたのはオーウェン君がいたからこそだ。多分彼が居なかったら、間違いなくずっと気づかなかっただろうし。とにかくお礼を言わないとね。
「何、お前のおかげさ。俺が変わる事が出来たのは」
「私の……ですか? 何も大した事をした覚えは無いのですが……」
「お前が俺の友人になってくれた。その事はお前からすればそこまでの事じゃないかもしれん。だが、俺からすれば、間違いなく大きなことだ」
「……それはこちらもですよ。貴方と友になる事が出来たからこそ、私にも目標が出来たのですから」
「お互い様、ということか」
「ええ」
そう言った後、二人で笑いあう。……うん、やっぱりめっさええ子や。そこは七年経っても変わって無いというのが分かる。あの頃だって普通に接してくれたし。話していても楽しいし。いやぁ、色々な事を語りたいですね~。互いに何をやっていたのかとか何があったとか。そう思っていると、向こうも同じことを考えたのだろうか。話を切り出してきた。
「何はともあれ、共に過ごせる事を喜ばしく思います。宜しければ、この後私の部屋に来ませんか? 積る話もありますでしょうし」
「いいのか?」
「はい。私も是非話したい事がありますので」
「……分かった。そうするとしよう」
そう言った後、オーウェン君の部屋へと向かった。
Q.別にオーウェン一人でいけたんじゃね?
A.二人の活躍が見たかったからさ!
補足説明
・ジャージ
『グラブルジャージ部っ』より。というか、マナリアの制服がリアルのそれとあまり変わらないなら、ジャージだってあるよねという判断で出しました。『蒼空の向こう側』でもパー様が着てたし。
・当作品のオーウェンについて
基本設定等はグラブル準拠ですが、友人が同級生という事が嬉しいのかそれともレイが関わったせいなのか、原作よりも少しはっちゃけている模様。
それと武器に関しては、覚醒時の立ち絵にて解放武器を構えていたのでそれに準ずる事にしました。分かりやすいし。
・マンティコアとフレイムドレイク
グラブルの属性試練の最終ウェーブにて待ち受けるボス。それぞれ土属性と火属性。しかしマンティコアはゲームの都合上、尻尾による攻撃と魔法しか使わない。おい、爪とか使えよ。勿体無いなので、肉弾戦も出来る仕様に。生息地? シラネ。
実を言うと、当初の予定では大量の魔物を相手にさせようと思っていました。しかし、最初からそんな世紀末な惨状にするのもあれだったので急遽変更に。
・旋牙突
ロックマンゼロ2において、ランクA以上でクワガスト・アンカトゥスが使用してくる技【スピニングブレード】をキャプチャーする事で習得するEXスキル。(EXスキルとは、ミッション終了後に確定するゼロのランクがAかSの時にボスを倒すと獲得する事の出来る特殊な技。簡単に言えば、Xシリーズのラーニング技と同じ)
走りながらセイバーを前に突きだす事で、突進の加速力が突きに加わり、通常のそれよりも増した威力となる。レイが使う場合は風魔法を追い風とする事で、威力をさらにアップさせる若干のアレンジが加わっている。
余談だが、次作に当たるゼロ3にも同じ様な技である【烈風撃】が存在する。が、その実態は旋牙突には無かった連続ヒット性能を付与という魔改造が施された、最早別物と言える技に。これとラスボスのノックバックを活かした通称飯屋いじめというものが一時期流行った。(ちなみに他の技や三段斬りでもいじめは可能)
尚、某明治剣客浪漫譚のとある人物の使用技と攻撃方法や名前が一部被っているが、それが元ネタなのかは定かでは無い。所謂公式のみぞ知るというやつである。
第一話を仕上げるのに一ヵ月近くかかってしまい、申し訳ありませんでした。平日はレポートの為に図書館に籠り、土日も課題で潰れるという散々な日が続いた為にこの様な事になってしまいました。私生活の方はこのまま変わらない為に、更新は早くても二週間に一本ぐらいになりそうです。ですが、書く意欲が無くなったという訳ではないので、ゆっくりとですが更新は続けていく予定です。
余談ですがサイゲよ、マナリアフレンズ放送とはグッジョブである。おかげでモチベーションが上がる事この上なしです。ただ時間が無いせいで、放送までに当作品が孤独の竜姫に入れるかどうかが物凄く怪しく感じるこの頃。