俺の重武装が功を奏したのかは分からないが、その後、特に野生動物にもレイダー等のサイコパスにも遭遇する事なく。
無事に、ノース・レイク・サンズを眼前に眺められる距離へとやって来た。
「おーい、止まれ!」
廃材や廃車、木材等々で構築された壁に囲まれた、ノース・レイク・サンズ。
そんな集落の出入り口であるアーチ状の門の前には、門番である自警団と思しきメタルアーマーに身を包んだ若い男性が数人程立っていた。
やはり弱肉強食の世界から故郷を守る使命を帯びているからか、その顔つきは、いずれも鋭い。
その内の一人の静止を促す声に、入植者のグループは足を止める。
「待ってくれ、我々は見ての通りレイダーじゃない! ただの入植希望者だ!」
「入植希望者? 全員か?」
「あぁ、我々全員だ!」
「……よし、では入植希望者は全員首長の邸宅に移動しろ。そこで入植に必要なテストを受けてもらう! それから、入植するならそれは没収だ!」
説明を終えると、自警団員の男性は入植者グループのリーダー格の男性からパイプピストルを取り上げると、仲間に彼らを首長の邸宅と呼ばれる場所に案内させるよう指示を出す。
こうして自警団員と共にノース・レイク・サンズ内へと消えていった入植者のグループを見送ると。
俺は、再び業務に戻った自警団員に近づいていく。
「ん? 貴様もさっきの奴らと同じ入植希望者か?」
「あ、いえ。俺は、ただの傭兵です、個人事業の」
「傭兵? あぁ、成程、だからか」
自警団員は俺を入植者グループの一員と思い込んでいたようだが、俺の言葉に、抱いていた違和感を解消した様だった。
入植者グループの一員にしては、その装備はコンバットアーマー一式にR91アサルトライフル。方や、自警団員はメタルアーマーに10mm短機関銃やパイプ系銃器、それも個々の装備の状態は俺のと比べ良好とはいえない。
しかし、俺が傭兵という立場の人間だと分かれば、様々な違和感が払拭される。
「すると、貴様はさっきの連中の護衛か?」
「そんなものです」
「そうか。で? 貴様はこのまま引き返すのか? それともノース・レイク・サンズに立ち寄るのか?」
「立ち寄ります」
「なら、その手に持ってる物騒なものを安全にしてくれ。そうすれば入れてやる」
自警団員に言われた通り、俺は手にしてたR91アサルトライフルの安全装置を有効にすると、更に背負ってハンドフリーになった事をアピールする。
「よし、いいぞ。では改めて、ようこそ、ノース・レイク・サンズへ」
こうして、許可を得た俺は、門を潜り、ノース・レイク・サンズへと足を踏み入れる。
壁の内側は、荒廃と化した大地に比べれば、リーアには遠く及ばないものの、安全な生活環境が広がっていた。
と言っても、その見栄えは、廃材等で作られたバラックや計画なしの場当たり的な建設のお陰で、お世辞にも綺麗や清潔とは縁遠いものではあるが。
「さてと、何処で情報を仕入れるか……」
とっかかりとしてこの集落にやって来たものの、具体的な情報源などに関しては全くもって不明。
なので、実質浄水チップの件に関しては手探りの状態と変わりない。
さて、何処なら浄水チップに関する情報を知り得る可能性が高いか。
「……ん?」
と、一考していると、視線を感じたので視線を感じる方へと顔を向ける。
すると、一人の男の子が俺のことを不思議そうな顔をして見上げていた。
「こら、来なさい! もう」
刹那、男の子の母親と思しき女性が、男の子の手を引き何処かへと姿を消した。
と、そんな親子の姿を間近で見ていて、ふとある事に気が付いた。
ノース・レイク・サンズの人々が行き交うメイン通りとも呼べる場所で、俺は突っ立って考え事をしていたことを。
「……移動しよう」
更に気が付いたが、先ほどから住民達の視線がいくつか突き刺さっていた。
見慣れぬコンバットアーマー一式を着込んだ男が突っ立ってたら、気にならない訳ないよな。
知らぬ内に恥ずかしい思いをしていた事を若干後悔しつつ、俺はノース・レイク・サンズを歩く。
メガトンやダイヤモンドシティ等のゲームで見る街の景色は、現実で見るとこの様に見えるのだろうか。
そんな事を思いながら歩いていると、ふと、誰かに声をかけられる。
「そこのゴツイ格好のお兄さん」
「へ?」
「こっちだよこっち」
声の主を探すべく顔を右へ左へと振るっていると、とあるバラックの脇に立っている一人の男性の姿が目に留まる。
「見ない顔だけど、旅の人? 商人には、見えないけど」
「傭兵してます。ここには、今日初めてきて」
「あぁ、傭兵、それにここは初めてなんだ。……ならさ傭兵のお兄さん、お腹空いてない? もし空いてるならうちの店に寄ってってよ!」
どうやら、この男性は客引きだったようだ。
彼が寄ってくれと誘ったのは、どうやらダイナー、前世の日本におけるファミレスにあたる飲食店だ。
店の看板と思しき木の板には、ケーレのダイナー、という店の名前が書かれていた。
「ん~」
立ち寄るかどうか、一考しようとした刹那、腹の奥から立ち寄れと言わんばかりの主張が始まる。
そういえばと、ふとピップボーイで現在時刻を確認してみると、昼を少し過ぎた頃であった。
確か、ウェイストランドに始めの一歩を踏み出したのが夜明けから少し経った頃で、出発地点から道草食わずに行けばノース・レイク・サンズまでは昼前には余裕で到着できる移動距離の筈だ。
そう考えると、俺、大分道草食ってたんだなと痛感する。
支給品で貰った缶詰を食べるという選択肢もあるが、数に限りがあるし。
それに、今持っているキャップの数なら、別に少しくらい無駄遣いしても問題ない。
「それじゃ、お邪魔します」
「一名様ご案内!」
客引きの男性に誘われ、ケーレのダイナーへと足を踏み入れた俺が目を引かれたのは、カウンター席やテーブル席が置かれた飲食店の内装、ではなく。
酒類や飲料の置かれた棚の前、カウンターの奥でコップを磨いている一人の男性店員であった。
「ん? いらっしゃい」
男性店員は来店歓迎の意思を伝えると、次いで俺を見事に来店させた客引きの男性に声を飛ばす。
「おい、ギル! なに休んでんだ、さっさと次の客を勧誘してこい!」
「えぇ、でもケーレさん。今日お客さんの通りが少なくて、なかなか勧誘が……」
「ガタガタ言い訳してねぇでさっさと客引きしてこい!」
「ひぃー!」
ギルと呼ばれた客引きの男性は、この店の店主であろう男性店員、ケーレさんの圧に押し出されるように、店から出ていく。
「あぁ、すいませんね、見っとも無いところを見せて。さ、どうぞ」
そんな一幕を経て、俺はケーレさんに誘導されるがままに、彼と対面できる位置にあるカウンター席へと腰を下ろす。
「"グール"を見るのは初めてですか、お客さん?」
と、腰を下ろした直後、ケーレさんから核心を突かれる発言が飛び出し、返答に詰まってしまう。
そう、この店の店主であろう男性店員のケーレさんは、一目で、俺やギルさんのような人間とは異なる人間であると判断できる見た目を有している。
皮膚は腐敗し髪の毛もほとんど抜け落ちている、その外見は、まさに前世ホラー映画の定番であるゾンビのようだ。
だが、このウェイストランドではゾンビなどとは呼ばれない。
ケーレさんのような見た目の者は、ウェイストランドではグールと呼ばれる。
核戦争の影響で大量の放射線を浴びて、見た目のみならず、寿命も人間だった頃より遥かに長い時を得た、そんな者たちの総称だ。
因みに、ゾンビのようだといっても、グールは見た目は変わったが理性等は人間の頃と全く変わっていない為、凶暴ではない。
しかし、理性を忘れ本能の赴くままに生きるグールも存在し、そちらがゾンビに近いと言える。
なお、そうした本能のまま生き、凶暴になったグールの事を、フェラル・グールと呼ぶ。
「ま、この辺りじゃグールは殆どお目にかからないからな、初めて見ても不思議じゃない。特に、"コロニー"から出てきた人間なら尚更だ」
「っ! 知ってるんですか!? リーアの事!?」
コロニーという単語がケーレさんの口から洩れた途端、俺はカウンターから身を乗り出しそうになる程の勢いでケーレさんに詰め寄る。
「あぁ、知ってるさ。俺がまだ、お客さんと同じ見た目をしていた頃、コロニーやボルトは羨望の的だった。だから、そのアーマーの下に着ているインナーを着ている所を、勝手に想像したりもしたもんだ」
どうやら、俺がリーア出身者であることは、インナーに着ていたリーアジャンプスーツで気づいたようだ。
「ま、個人経営の小さなバーの店主だった俺には、コロニーやボルトは縁遠い存在でもあったがな。核が落ちてきた時も、結局入れてもらえないと半ば諦めて店に籠ってたんだ。だが、そのお陰でこんな見た目になったものの、生き残れたよ」
ケーレさんは核戦争以前からこの辺りで生活していた人で、核戦争後、紆余曲折を経てこのノース・レイク・サンズへと流れつきこの店を開店させたそうな。
東海岸にはグールの天国があると風の噂で聞いたと話していたが、それってアンダーワールドの事だろうか。
現時点では確かめる術がないので分からない。
「おっと、あまりに懐かしい物を見たんで、つい話し込んじまった。あぁ、そういえば自己紹介がまだだったな、俺はケーレ、この店の店主をしている」
「ユウです、ユウ・ナカジマ。今は、一応傭兵やってます」
「良い名前だ。……ではユウ、ご注文は?」
そういって、ケーレさんは角が破れ虫食いの跡も見られるメニュー表を手渡してくれる。
受け取ったメニュー表には、ヌードルやイグアナの串焼き、リスシチュー等の、フォールアウトシリーズでは馴染みの品名が並べられている。
一瞬『謎の肉』や『奇妙な肉』の文字を懸命に探してしまったが、どうやらその類の肉が使われているメニューはなさそうだ。
「それじゃ、イグアナの串焼きとリスシチュー、それとマットフルーツにお水を」
注文後、前払いでキャップを支払い会計を済ませると、カウンターの奥でケーレさんが調理を始める。
イグアナの焼けるにおい等、食欲をそそらせ、お腹の主張も激しくなる。
「お待たせ」
やがて、目の前のカウンターに皿に盛りつけられた料理が並ぶ。
「いただきます」
リーアでの料理は、前世とは違うとはいえ、戦前から続く社会の中で継承されてきた本当の料理とも言えた。
一方、今しがた目の前に置かれたそれは、一旦継承されてきたものを断ち切り、新たに作り出されたもの。
これが本当の、この世界の料理とのファーストコンタクトだ。
串に刺さった程よく火の通ったイグアナの肉を口にし、その味を噛みしめる。
スプーンですくったリスシチューをすすり、その味を堪能する。
手にしたマットフルーツをほうばり、その味を確かめる。
最後に、おそらく汚れた水であろう水で喉を潤す。
うん、まぁ、大味ではあったが、食べられないでもない。
むしろ、空腹の為か美味しくも感じた。
「ごちそうさまでした」
「変わった挨拶だな? コロニーの連中は、皆食べる時はそんな挨拶をするのか?」
「あ、これは俺の家系の挨拶で、リーアの住民全員が行ってる訳じゃないんです」
「ほぉ、そうなのか」
空になった皿を片付けながら、ケーレさんは話を続ける。
「所で、ユウはどうして
ケーレさんにどこまで真実を話すべきか。
リーアが水面下で存亡の危機に瀕している、この話がウェイストランド中に広まれば、それこそ滅亡への道を転げ落ちる事になるかもしれない。
だが、浄水チップを探し出すためには、ある程度の情報は開示していかなければならない。
「……ある物を探し出すために出てきたんです。ケーレさん、浄水チップというものをご存じありませんか?」
「浄水チップ?」
結局、リーアの現状自体は明言を避け、浄水チップを探しているという目的のみを話す事とした。
しばらく考えるようなそぶりを見せた後、ケーレさんはゆっくりと答えを返す。
「悪いが、聞いたことないな」
「そうですか……」
どうやら、二世紀以上にわたるケーレさんの記憶の中に、浄水チップに関するものはなかったようだ。
「だが待てよ、浄水チップについて知っていそうな奴についての心当たりならあるぞ」
「本当ですか!?」
だが、どうやらまだ諦めるには早いようだ。
「あぁ、首長なら、浄水チップについて何か知っているかもしれない」
首長、というと、ノース・レイク・サンズの頂点に立つ人物だ。
成程、確かに集落の長ならば、一般の住民よりも何かしらの情報を収集している可能性はある。
「貴重な情報ありがとうございます。早速、首長に会いに行ってきます!」
「あ~、待て待て。ユウ、お前さん
「あ……」
お礼を言って早速会いに行こうと立ち上がった瞬間、ケーレさんからの言葉に、俺はぴたりと足を止めた。
確かに、首長が何処にいるかなんて存じていない。
「まぁ落ち着け、もうすぐお前さんを道案内させてやるから」
「え? でもケーレさん、お店を留守にして大丈夫なんですか?」
「心配は有難いが、案内するのは俺じゃない」
では誰が、と声に出そうとした瞬間。
店の出入り口が開かれ、誰かが店に入ってくる。
「ケーレさ~ん、やっぱり今日はお客の通りが少ないですよ~」
「おう、いいタイミングで帰ってきたな、ギル」
それは店の客引きであるギルさんであった。
「へ?」
「ギル、お前今からユウを首長の所まで案内してやれ」
「……えぇ! 何ですかそれ、てか俺、今戻ってきたばっかで」
「ガタガタ言い訳してねぇでさっさと案内してこい!!」
「ひぃーっ!」
ケーレさんの剣幕に押し出されるように、ギルさんは再び店から飛び出ていく。
あれ、このやり取り、既視感を感じずにはいられない。
「さ、ユウ、ギルについてけば首長の所まで行ける筈だ。……がんばれよ」
「色々とよくしていただき、ありがとうございます!」
「はは、いいさ。だが、まぁ、どうしてもお礼がしたいっていうんなら、店の二階はモーテルになってるから、是非とも今晩のお泊りをお考えの際はご愛顧のほど宜しくお願いします」
やはり経営者、ケーレさんも抜け目ない。
こうして店を後にし、外で待っていてくれたギルさんの案内のもと、俺はノース・レイク・サンズの首長のもとへと向かう。