ノース・レイク・サンズの中心部から少しばかり離れた場所、そこには、周囲に立ち並んでいるバラックとは異なる建造物の姿があった。
戦前事務所或いは営業所として使われていたその三階建ての建物は、戦後二世紀以上もの年月を経てもなお、その重厚な外観を保っていた。
戦後主不在となったこの建物は、現在はノース・レイク・サンズの首長の邸宅兼役所として使用されている。
と、ギルさんの説明で知った。
「こっちです」
会うのにアポイントは必要ないのか、ギルさんは邸宅内にずかずかと足を踏み入れると、勝手知ったる我が家の様に首長のオフィスを目指して進む。
ギルさんの後に付いていき、やがて到着したのは、二階の一室であった。
「失礼します、ラデシュ首長」
ノックの後入室の許可が出たのでドアを開け入室すると、そこには、状態の良い事務机や応接用のソファー等の家具が置かれ。
事務机に向かい仕事に励んでいる一人の男性の姿も見られた。
「あぁ、ケーレさんの店の従業員だね。何用かね?」
「は、はい、実はですね、今回やって来たのはラデシュ首長にお会いしたいという方をお連れしたもので」
「ほう、私に会いたい?」
「さ、ほら」
ギルさんに促され一歩前へと出る俺。
恰幅の良い体系には少々きつそうな戦前のスーツを身に纏い、眼鏡をかけたその表情は知的な印象を与える。
アフリカ系アメリカ人の血を引くラデシュ首長は、そんな外見をしていた。
「初めましてラデシュ首長、俺の名前はユウ・ナカジマと申します。個人事業の傭兵をしています」
「ほう、傭兵。それでミスターナカジマ、君は今回どのような用件で私に会いに来たのかね? 生憎とノース・レイク・サンズの防衛なら自警団で間に合ってる」
「いえ、今回はラデシュ首長にお伺いしたいことがあって足を運ばせていただきました」
「ふむ、一体何かね? 答えられる範囲の事でなら、答えてもいいが」
「では、ラデシュ首長は浄水チップというものをご存じありませんか?」
椅子に背を持たれ考えに耽るラデシュ首長。
そんなラデシュ首長の姿を、俺は直立不動で見守る。
因みに、ギルさんはいつの間にか応接用のソファーにどっしりと腰を下ろしていた。
「……残念ながら、そのようなものについては覚えがない」
「そう、ですか」
「だが、浄水チップについて知っていそうな者の事ならば、覚えがある」
「え、本当ですか!?」
「あぁ、だが……タダで教える事は出来んな」
俺の顔を見ながら、ラデシュ首長は不敵な笑みを浮かべる。
「ミスターナカジマ、君も傭兵ならばこの世の原則を知っていよう、この世は等価交換、何かを得る為には何かを差し出さねばならん」
「キャップ、ですか?」
「いやいや、生憎と金に困ってはいないんでね。……つまり、君は傭兵だ。ならば、私の頼みを聞いてはくれまいか?」
「頼み、ですか?」
「そう。君は私の頼みを聞いて行動してもらう、その代わり、私はその対価として君の欲する情報を提供する。どうだ、立派な等価交換だろ?」
やはりノース・レイク・サンズの長を務めているだけはあって、そう簡単に欲しい情報を開示してはくれないな。
頼みごとがどの様なものかは分からないが、情報を手に入れるのは頼みごとを聞き入れる他ない。
「分かりました。では、ラデシュ首長の頼みを聞きましょう」
「素晴らしい、ミスターナカジマ。君は実に賢明な者のようだ。そこで私の許可もなくソファーに座っている誰かとは違ってな」
自身の事を指摘されたと気づいているのかいないのか、相変わらずギルさんはソファーに座ったままだ。
「では、早速聞いてもらおう。……実はここ最近、ノース・レイク・サンズはある問題に頭を悩ませていてね、君には、是非ともその問題を解決してほしいんだ」
「どのような問題なんですか?」
「ノース・レイク・サンズから北に向かった場所に、最近、ジャイアント・アントと呼ばれる巨大アリ共が巣を作ってね。そのお陰で、ノース・レイク・サンズに来る商人や入植希望者、それに家畜などに被害が出ていて困っているんだ」
「自警団を使って対処はしないんですか?」
「自警団は何もジャイアント・アントとばかり戦っているわけではない、それに、対処させるにしても相応の被害も予想される。貴重な防衛力を低下させる馬鹿な真似は出来んよ」
成程、確かにそれなら、ノース・レイク・サンズの治安に何の貢献もしていない俺が仮にアリ退治に失敗しても、ノース・レイク・サンズ側は痛くも痒くもないわけだ。
とはいえ、これもリーアの為、多少不平等ではと感じていても、受けずにはいられない。
「分かりました。では、そのアリの巣を潰してくればいいんですね」
「徹底的に、よろしく頼むよ。あぁそうだ、ついでにだが、もし可能ならばアリの肉なども採取してきてくれると助かるな。ノース・レイク・サンズの食糧事情は、決して良いものではないのでね」
「分かりました」
「アリ共の巣までは自警団の連中に案内させるように伝えておく、準備が整ったら、門の近くにいる自警団員に声をかけるといい」
「では、ラデシュ首長、情報の方、なにとぞ反故にしないようによろしくお願いしますね」
「二言はないよ」
こうしてラデシュ首長からの頼みごとを聞き入れた俺は、半ば眠っていたギルさんを引き連れ、ラデシュ首長の邸宅を後にした。
ラデシュ首長の邸宅を後にした俺は、一旦ケーレのダイナーへと戻り、ケーレさんにアリの巣退治に必要な物を取り扱っている店がないかを尋ねる。
因みに、同行していたギルさんは少し休憩した後、ケーレさんの叱責を受けて三度客引きをするべく店を後にしている。
「店ねぇ」
「銃器や弾薬、それに爆発物等も取り扱っている店です」
「一応、この近くに『サンズ・サイド雑貨店』という何でも屋がある。爆発物は知らんが、弾薬などは取り扱ってたはずだ」
何やらクレイジーで気前のいい女店主が経営していそうな名前の店の名が登場したが、ノース・レイク・サンズで弾薬等を取り扱っているのはその店だけらしい。
ケーレさんにお礼を言うと、店を後に、早速サンズ・サイド雑貨店を探し始める。
ケーレのダイナーから近いと言われただけあって、直ぐに目当ての店は見つかった。
周辺のバラックと大差ない建物だが、出入り口の上にはサンズ・サイド雑貨店との看板がかけられている。
「はぁ~い、いらっしゃい」
店の中に足を踏み入れると、何でも屋と言われただけあり、並べられた棚には様々な品物が陳列されている。
そして、出入り口からすぐのレジカウンターから出迎えてくれたのは、店の店主であろう作業服姿の女性、の心を持った男性であった。
「うふ、初めて見る顔ね。ようこそ、サンズ・サイド雑貨店へ。アタシ、この店の店主のサリーよ」
「ユウ・ナカジマです」
外見は見まごう事なき男性だが、その口調は女性そのもの。
まさか、女性でも男性でもなくそちら側の方が登場するとは、想像していなかった。
「すいません、弾薬と、もしあるならダイナマイト等の爆発物が欲しいんですが」
「弾薬は取り扱ってるけど、ごめんなさい、ダイナマイトも手榴弾もうちは取り扱ってないのよ」
自己紹介を終え、早速買い物をしようと思ったのだが、どうやら爆破物は取り扱っていないようだ。
もしダイナマイトを取り扱っているのなら、Fallout1のサソリ退治のクエストよろしく巣の出入り口を塞いでしまおうとも考えていたが、どうやらそれは無理そうだな。
あ、でも、アリならば出入り口を塞いでもまた別の出入り口を作るかもしれない。
やはり、殲滅するのが一番いいみたいだ。
「それじゃ、5.56mm弾と10mm弾、それに.45ACP弾を……」
巣にどれ程の数のジャイアント・アントが生息しているかは分からないが、相当数を考慮し、弾薬を多めに購入する。
「うふ、お買いあげありがとう。また来てね」
支払いを終え、長期戦にも十二分に耐えられる予備弾薬を手に入れた俺は、いざ、アリの巣退治の為に門を目指す。
門へと赴くと、門番である自警団員に声をかけ、事情を説明する。
「あぁ、首長から話は聞いてる。よし付いてこい、巣の近くまで案内する」
ラデシュ首長の言った通り、自警団員に先導され、俺はノース・レイク・サンズから北の方角に向かった場所にあるジャイアント・アントの巣へと向かう。
道中、レイダーや他の野生生物に出会うこともなく、数十分後、俺達はジャイアント・アントの巣の近くにたどり着いた。
「見えるか、あそこの大穴、あれがアリ共の巣だ」
フォックス川の川辺、傾斜地に設けられた戦前の住宅地の一角。
そこに、ジャイアント・アントが住居としているアリの巣が存在した。
傾斜地の一部に開いた巨大な穴、人も簡単に出入りできるほどの大きさを誇るその穴の中には、ジャイアント・アントにとっての楽園が広がっているのだろう。
「それじゃ、俺はここに残って見張っておく。もしお前が日が落ちても穴から出てこなかったら、その時はお前が死んだものとして首長に報告する。いいな?」
「分かりました」
「それじゃ、健闘を祈る」
ここまで案内してくれた自警団員と別れ、穴を見下ろせる住宅廃墟から、いつでも射撃可能なR91アサルトライフルを手に警戒しつつ穴に近づく。
穴の直径は、間近で見ると離れて見るよりも大きく感じる。
しかも、まだまだ日も登っているというのに、穴の奥はまるで真夜中の如く暗い。
まさに穴の奥はあの世にでも通じているのではと思えるほどだ。
「……よし」
深呼吸し気合を入れると、俺はアリの巣へと足を踏み入れ、奥へと進んでいく。
穴の出入り口付近はまだ太陽の光が届き明るかったが、程なくして、コンバットヘルメットに取り付けているライトなしではまともに視界を確保できないほど暗闇が覆い始めた。
神経を研ぎ澄まし、ヘルメットのライトにいつジャイアント・アントの姿を捉えてもいつ何時でも射撃できるように、R91アサルトライフルを構えながら奥へと進む。
まだ、ジャイアント・アントの足音に、気配も感じない。
ピップボーイのレーダーも、同様に反応なし。
臨戦態勢のまま、アリの巣の奥へ奥へと進んでいくと、前方に明かりが見え始める。
「あれは?」
明かりの正体を確かめるべく進んでいくと、それは、蛍光緑に淡く光るキノコ。発光キノコであった。
しかも、発光キノコが自生しているのはこの場所のみならず、この場所から巣の奥へと続いている。
発光量は太陽光程ではないが、発光キノコのお陰で、薄明かりながらも巣の内部が見渡せるようになった。
こうして発光キノコの明かりとヘルメットのライトを頼りにさらに奥へと進んでいくと、程なくして、段差の奥に一匹のジャイアント・アントの姿を捉える。
「ギーッ!」
構えたR91アサルトライフルが火を噴き、5.56mm弾を叩き込む。
幸い巣が一本道であり、横からの強襲等の心配もなく、段差のお陰でいい位置取りが出来ていた為、難なくジャイアント・アントをまず一匹、始末する事ができた。
サンズ・サイド雑貨店で購入していた麻袋に、前世の狩りゲーよろしく上手に採れたアリの肉を収納すると、さらに巣の奥へと進む。
その後、単体で遭遇した数匹のジャイアント・アントを天へと召し、その肉を回収し終え。
さらに奥へと進んだ所で、遂に、このアリの巣の中核というべき巨大な空間に足を踏み入れた。
「どうやら、ここがパーティー会場みたいだな」
発光キノコで薄明かりに照らされたその空間には、十数匹のジャイアント・アントの姿が確認できる。
どうやら女王アリの姿はないようだ。
「さぁ、いくぞ!」
俺の存在に気付くや、俺を自分たちのテリトリーに侵入した敵と認識した十数匹のジャイアント・アントが、我先にと俺目掛けて襲い掛かる。
強靭な顎の餌食にならぬよう、構えたR91アサルトライフルから5.56mm弾をばら撒きつつ、ジャイアント・アントから距離をとる。
一匹、一匹、命がけの追いかけっこをしている内に落後するジャイアント・アントの亡骸が空間内に現れるも、まだ俺を追いかけてくるジャイアント・アントの数は十匹以上を数える。
流石に、このまま距離を保ちつつ数を減らすのは厳しくなってきた。
徐々に互いの距離が詰められているのを感じる。
「っ! この!」
「ギッ!」
しかも、ジャイアント・アントも馬鹿一辺倒に俺を追いかけるだけでなく、伏兵を使い俺の足を止めようとしてきている。
先ほども、一匹のジャイアント・アントが仲間の死骸の影から俺に襲い掛かってきた。
幸い、強靭な顎が俺を捉える前に
「……ん?」
この状況をどうすれば打開できるか、マガジンを交換しながら一考していると、ふと空間の端に何かが積まれているのに気が付く。
交換し終えたマガジンの5.56mm弾をばら撒きつつ、その積まれているものに急いで近づき正体を確かめると、それは、人の白骨体であった。
ジャイアント・アントが餌として食した食べ残しだろう数々。
状況が切迫していなければ手を合わせたい所だが、生憎今はそんな余裕もない。
と、白骨体の脇に落ちていた物に目が留まり、俺は目を見開いた。
レモンを彷彿とさせる楕円形に安全レバーに安全ピン。
それは、M26手榴弾、戦前の米軍が採用しレモンの愛称で親しまれていた
「ありがとう」
予期せぬ贈り物に短く感謝の言葉を述べると、俺は落ちていたM26手榴弾を手に取り。同時に、ピップボーイを操作しあのシステムを起動させる。
刹那、襲い来るジャイアント・アントの群れの動きが、まるでスローモーションの如く緩やかなものへと変貌する。
それに対して、俺の動きは先ほどと変わらず。ジャイアント・アント側からすれば、まるで俺の動きが早送りされている様にも感じる事だろう。
M26手榴弾の安全ピンを抜き、ジャイアント・アントの群れ目掛けて投擲する。
緩やかな放物線を描き投げられたM26手榴弾は、見事に群れのど真ん中へと放り込まれた。
ピップボーイには九割もの高い成功率が映し出されていたのだ、当然だろう。
やがて、緩やかな時間の群れの中に放り込まれたM26手榴弾は、群れの時間の影響を受ける事無く、内部で発生された爆発エネルギーを外部へと放出させた。
内部に敷き詰められた破片物をジャイアント・アントの群れにまき散らしながら。
「ギーッ!!」
断末魔を上げ、天へと召されるジャイアント・アント達。
この頃には、既にジャイアント・アントの時間の流れも元に戻っていた。
「これが、V.A.T.S.か……、慣れるまで少しかかりそう」
初めてV.A.T.S.を使いバレットタイムを体感した感想は、まだまだ不慣れという事に尽きた。
あの超感覚を使いこなすには、回数をこなしていくしかないだろう。使用後の気持ち悪さを克服する事も含めて。
「さて、肉を回収……」
少し休憩し気持ち悪さも収まった所で、アリ肉の回収作業に入ろうとしたその時であった。
「ギッ!」
「っ! うぉ!」
ジャイアント・アントの死骸に身を潜めていた最後の一匹に気付かず、あわや強力な顎の餌食になるかと思われた。
しかし、驚いてバランスを崩したお陰で、尻餅こそついたものの、何とか不意の一撃を食らわずには済んだ。
「この!!」
そして、お返しとばかりに。
ホルスターから攻撃型カスタムガバメントを抜きドットサイトのレティクルを襲ってきた個体の頭部に合わせると、数発の.45ACP弾をお見舞いする。
こうして、最後の一匹を仕留めると。
確認を怠らないようにと肝に銘じつつ、アリの肉を回収し、ラデシュ首長に報告すべく出口に向かい歩み始めた。