Fallout THE ORIGIN   作:ダルマ

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第十三話 お使いとホロテープ

 アリの巣のジャイアント・アントを殲滅させられるとは思ってもいなかったのか、アリの巣から戻った俺を自警団員は驚いた顔で出迎えた。

 こうして無事に頼みごとを完遂し、ノース・レイク・サンズへと戻った俺は、ラデシュ首長に報告と麻袋に詰めたアリ肉を手渡すべく、再びラデシュ首長の邸宅に赴いた。

 

 ラデシュ首長のオフィスに足を踏み入れると、ラデシュ首長は満足げな笑みで俺の事を迎え入れる。

 

「いや~、素晴らしい。君が戻ったという事は、無事にあの憎きアリ共の巣を叩き潰してくれたのだね」

 

「はい、お約束通り。それに、こちらの袋の中にはアリ肉が入っています」

 

「素晴らしい、実に素晴らしい。ミスターナカジマ、君は本当に素晴らしい傭兵だよ! では私の方も、その働きに応えなくてはならないな」

 

 受け取ったアリ肉入り麻袋を適当な場所に置くと、ラデシュ首長は俺が欲していた情報を喋り始める。

 

「ミスターナカジマ、君は"シカゴ"をご存知かな?」

 

「えぇ、存じています」

 

 シカゴ、戦前のアメリカでニューヨーク・ロサンゼルスに次ぐ規模の人口を誇り、イリノイ州最大の都市でもあった巨大都市。

 十九世紀後半の大火災からの復興で、アメリカ国内で最初に高層ビル街が出現し、摩天楼の名発祥の地としても知られる。

 

「遠い昔、この辺りがまだ"シカゴ・ウェイストランド"と呼ばれる以前は、それは一日中眠らない煌びやかな街として栄えていたそうですが、今となっては、シカゴ・ウェイストランドに没した者たちの巨大な墓標となり果てています」

 

 しかし核戦争により、他の大都市同様、シカゴもまた過去の栄光と戦後の荒廃を色濃く映し出す場所の一つと化してしまった。

 ただし、シカゴの名は、この辺り一帯の土地を示すシカゴ・ウェイストランドとして存続しているようだ。

 

「そんなシカゴから北西部に位置する場所にアーリントンハイツと呼ばれる場所があるのですが。その場所には現在"Vaultシティ"と呼ばれる町が存在しているのです」

 

「Vaultシティ?」

 

「えぇ、何でも戦前、アーリントンハイツにはボルトと呼ばれる巨大核シェルターが存在し、その住民達がその後アーリントンハイツで旗揚げし出来た町だそうです」

 

 Vaultシティ、確かFallout2にも同名の町が登場していたな。

 もっとも、ゲームの方では北カリフォルニアに存在する設定だったが。

 確か設定では、Vault8の住民達が、同ボルトに備え付けられていたG.E.C.K、テラフォーミング装置を使い周辺の土地をテラフォーミングし、再入植し西海岸でも有数の技術を有する町として成長したとの筈だ。

 

 となると、アーリントンハイツにあるVaultシティも、同様なのだろうか。

 もしそうなら、俺が求めている浄水チップもあるかもしれない。

 

「そこならば、ミスターナカジマ、貴方が探し求めている浄水チップに関しても、何らかの収穫がある事でしょう」

 

 ──ん、でも待てよ。

 確かにアーリントンハイツにあるVaultシティに関しては有益な情報ではあるが、俺が約束したのは、確か浄水チップについて知っていそうな人物の情報だ。

 

「ラデシュ首長、Vaultシティに関する情報は有難いのですが。俺が欲しいのは、ラデシュ首長が仰った浄水チップに関する情報を知り得ているであろう人物の情報です」

 

「ん? ははは、そうだったな。……しかし、ふむ。私は思うのだがね、ミスターナカジマ。先ほど話したVaultシティの情報とアリの巣退治で、既に等価交換は終わっていると思うのだが?」

 

「……では、アリ肉の分の」

 

「いやいや、ミスターナカジマ。これは君が善意で持ってきたものだろう。私はアリ肉に関しては"可能なら"と言っただけで、主目的として発言はしておらんよ」

 

 どうやら、俺はウェイストランドの厳しさをかなり過小評価していたみたいだ。

 このラデシュ首長、どうやら相当の切れ者のようだ。

 

 これはうまい具合にこき使われそうだ。

 

「新しい頼み事ですか?」

 

「ははは! ミスターナカジマ。やはり君は物分かりがいい。その通り、問題はまだある」

 

「ではその問題を解決したら、今度こそ、人物の情報を教えてくれますか?」

 

「あぁ、約束しよう」

 

 今度は一体、どんなお使いを頼まれるのやら。

 レイダーの殲滅か、それとも他の野生動物の駆除か。或いは、探し物か。

 

「実は、最近住民達から聞き捨てならない情報が舞い込んできてね。ノース・レイク・サンズから南に向かった場所で"スーパーミュータント"を見たとの目撃情報があったのだよ」

 

 あぁ、まさかのスーパーミュータントかよ。

 

「どうやら数は一体だけらしいのだが。しかし、相手はあのスーパーミュータントだ。単体と言えど油断はできん」

 

 スーパーミュータント、それはFEV、正式名称Forced Evolutionary Virus(強制進化ウイルス)を人間に投与し変異した生命体である。

 戦前の米軍が中国軍のウィルス兵器に対抗できるワクチンとして開発されたが、開発の過程で驚異的な副作用が発見され、軍事目的、即ち強力なバイオソルジャーを作り出すためにの計画に変更された。

 しかし、大戦中に研究施設に爆弾が落ちた事を切っ掛けに、FEVはアメリカ中にばら撒かれることとなる。

 

 こうしてアメリカ、否、ウェイストランドにスーパーミュータント誕生の土台が出来たわけだが、その後、西海岸と東海岸とでスーパーミュータントは互いに独自の勢力拡大を行っていくことになる。

 

 ではスーパーミュータントの出生秘話を語った所で、スーパーミュータント自身の特徴を語ろう。

 その性格は一言で言って凶暴・凶悪に他ならない。しかし、ごく一部には人間だった頃の理性を残している個体もおり、必ずしも分かり合えない訳ではない。

 人間と比べ非常に体格が良く、その身長は平均三メートル程。比例してその体重も人間の三倍から四倍ほどを誇る。

 肌の色は出生により緑や黄、灰など様々あるが、各種の病や、放射能に対して免疫を持ち。さらに上記の体格から繰り出される怪力と、鋼と呼んで差し支えない頑丈さを誇る。

 

 またFEVの作用で、基本的に老化による死は訪れない。

 ただし、外傷、即ち脳幹に鉛弾を二発もぶち込めば、流石に死ぬ。

 なお、老死はないが、脳に障害は現れるのか呆け等の認知症状態にかかり易い。

 

 そして、FEVの副作用により、スーパーミュータントは子孫を残せない。

 種の継続ができないという重大な欠陥を有しているにもかかわらず、戦後二世紀を経てもなおスーパーミュータントがウェイストランドから絶滅しないのは、そこに様々な思惑が働いているに他ならない。

 

 スーパーミュータントもまた、戦前の罪による罰を受けた、被害者なのかもしれない。

 

「今はまだ被害の報告もないが、やはり今後を考えると、早めに不安の芽は摘んでおきたい」

 

「スーパーミュータントを討伐しろという事ですか?」

 

「その通りだ。もし討伐した暁には、今度こそ、浄水チップについて知っているであろう人物の情報を教えよう」

 

 こうして、再びラデシュ首長のお使いを頼まれた訳だが、流石に日も落ちてきて、夜に戦うのは分が悪いと判断し、決行は明日行う事となった。

 

 そこで、今晩はノース・レイク・サンズで一夜を過ごす事になったのだが。

 ケーレさんの言葉を思い出し、俺はケーレのダイナーへと足を運ぶと、昼とは異なり賑わいを見せ始めた店内で、忙しそうに動き回るケーレさんに二階の空き状況を確かめる。

 

「何処でも好きな部屋を使ってくれ! 一晩八十キャップ、鍵はギルから受け取ってくれ!」

 

 注文の処理で忙しいケーレさんにキャップを払い、ギルさんから鍵を受け取ると、俺は店内の一角に設けられた二階へと続く階段を使い、二階へ足を運ぶ。

 幾つかの部屋の中から、受け取った鍵を使える部屋に鍵を使い足を踏み入れると、そこは、ベッドに最低限度の家具が揃えられた簡素な宿泊部屋であった。

 

「ふぅー」

 

 リーアを出てからまだ一日と経過していないのに、倒れこんだベッドの感覚は、何故かそれ以上の時間が経過したのではと思わずにはいられない程久々に感じた。

 それだけ、今日一日がリーアでの日常以上に濃いものだったという事か。

 

 だが、浄水チップを見つけるまでは、こんな一日がずっと続くのだ。

 

 画面を通しては感じられない、肌で感じるウェイストランドの様々な感情の渦に、果たして俺は耐えきれるのだろうか。

 

「っ! 駄目だ、駄目だ! 弱気になるな!」

 

 刹那、起き上がり、気合を入れなおす為に頬を数度叩いて気持ちを引き締め直す。

 と、気持ちは引き締まったが、お腹の方はすっからかんになってしまったようだ。

 

 とりあえず、一階でお腹を満たして、その後、ベッドで明日への英気を養うことにしよう。

 

 

 

 二度目となるウェイストランドの味を堪能し、再び今晩の宿泊部屋へと戻ると、コンバットアーマー一式を脱ぎ、緊張の荷を下ろす。

 ベッドに腰かけると、まるで疲れた脳を休めるかのように、特に何を考えるでもなくぼーっとする。

 

「……あ」

 

 しかし、放心状態も長くは続かなかった。

 脳を休めるつもりが、脳は俺の意識とは関係なく記憶の棚に眠るとある記憶を取り出してきたのだ。

 

 それは、ヴァルヒムさんから貰ったスペシャルな贈り物に関する記憶。

 

「何なんだろうな、これ?」

 

 ピップボーイに収納していたものを取り出し、まじまじと考察する。

 謎のホロテープと謎の鍵。この二つは一体何を意味するのか。

 

「ま、再生すれば分かるか」

 

 ウェイストランドに出てからのお楽しみと言われたので、ウェイストランドに出るまで再生していなかったが、今なら再生しても問題ないだろう。

 手にしたホロテープを、ピップボーイのテープドライブ挿入口に挿入すると、早速再生ボタンを押す。

 

 ──あ~、テスト、テスト。よし、録音されてるな。ん、んっ、初めまして、かな? 一応自己紹介しておこう、俺の名前はヴァルヒム。

 

 そして、流れてきたのはヴァルヒムさんの録音した音声データであった。

 

 ──この録音を聞いているという事は、聞いているお前さんにオレの残した"遺産"を全て相続させてやるとオレ自身が決めたからだろう。

 ──遺産の使い方は、託したお前さんに一任する。売ってもいい、使ってもいい。ただし、これだけは守ってくれ、決して、お前さん自身が後悔しないように使ってくれ。

 ──遺産を隠した場所については、再生後地図に表示される。という訳で、短いながら、オレからオレの遺産を託したお前さんへのメッセージを終了する。じゃぁ。

 ──おおっと、忘れるところだった。ロックのパスワードは"1997"だ。覚えとけよ。それじゃ、今度こそメッセージを終了する、じゃぁな。

 

 再生が終了し、ピップボーイのモニターを見ると、確かに、地図にマーカーが表示されている。

 場所はノース・レイク・サンズから南方、討伐対象のスーパーミュータントも南の方と言っていたし、討伐後に足を運んでみようか。

 

 それにしても、メッセージにあった遺産とは、一体どんなものだろう。

 それに、結局鍵については特に言及もなかったので、鍵の使い道については謎のままだ。

 加えて、新たに何かのロックのパスワードも登場した。

 

 いや、もしかしたら鍵やパスワードは遺産を隠した場所で使うのかもしれない。

 何れにせよ、隠し場所に赴けば色々と分かるだろう。

 

「ふぁ……」

 

 夜も更け、眠気も増してきたので、考えるのはこれ位にして、ベッドに横になろう。

 ウェイストランドで過ごす初めての夜は、隣の部屋から聞こえてくるスプリングのきしむ音が印象的だった。

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