Fallout THE ORIGIN   作:ダルマ

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第十四話 ノア

 翌朝、身支度を整え、二階の通路で出くわした隣の部屋の利用客に挨拶がてら、ゆうべはお楽しみでしたね、と声をかけた後。

 一階で鍵を返却し、朝食をとると、いよいよ英気も養えたのでスーパーミュータントの討伐に出かける。

 

 昨日と同じく、自警団員に討伐対象のスーパーミュータントが目撃された場所の近くまで案内してもらう。

 

「そ、それじゃ、俺はもう帰るぞ! か、帰りは自分で帰ってこれるよな!? じゃぁな!」

 

 ただ、昨日と違うのは、自警団員が先に帰ってしまった事。

 昨日の人とは違い、何だか終始辺りを見回して落ち着きがなかったので、あまり自警団には向いているとは言えない人のようだ。

 

 と、そんな些細な事はこの際忘れよう。

 

 ノース・レイク・サンズから南へ、戦前は墓地として利用されていた場所の近く。

 廃墟と化した住宅地の中、スーパーミュータントが潜んでいそうな住宅を一軒一軒見て回る。

 接触した際いつでも制圧可能なようにR91アサルトライフルを手にしてはいるが、やはり住宅の中だと取り回しが悪い。

 

 結局、途中で攻撃型カスタムガバメントに持ち替え、捜索を続行していく。

 だが、スーパーミュータントが潜んでいそうな気配は何処にもない。

 

「この辺りじゃないのか?」

 

 目撃されたのは偶々この辺りに出向いていた時だった、となると、潜んでいる場所は別の所か。

 場所を変えての捜索も検討しようとしたその時、ふと、なだらかな傾斜地に開いた穴が目に留まった。

 

「アリの巣?」

 

 近づいて穴の詳細を確認してみると、昨日見たアリの巣の出入り口に酷似していた。

 ジャイアント・アントの行動範囲がどれ程かは定かではないが、この辺りまでなら行動範囲には入っているだろう。であれば、巣を作っていても何ら不自然ではない。

 

 しかし、何故か俺にはこの穴が、アリの巣の出入り口には思えなかった。

 言葉では説明できない、直感のようなものではあるが。

 

「よし」

 

 意を決し、穴の中へと足を進める。

 アリの穴同様、奥に進むにつれ、日の光が届かず暗闇が覆う。

 ヘルメットのライトと攻撃型カスタムガバメントに取り付けたフラッシュライトを頼りに、足を進める。

 

 穴の構造は、アリの巣と異なりなだらかな傾斜で進むにつれて下降していく。

 まるで、地獄へと続いているかのようだ。

 

 加えて、湿気っているのか、足元が滑りやすく、注意していないと滑ってしまいそうだ。

 

「っお!」

 

 等と注意点を挙げていながら、早速足を滑らせてしまいそうになる。

 慎重に進もう。

 

 

 慎重に穴の奥へと進むと、横道を発見する。

 しかし、フラッシュライトで照らしてみると、横道は直ぐに行き止まりとなっていた。

 その後も幾つかの横道を発見するも、どれも直ぐに行き止まりで、実質一本道が続く。

 

 穴に足を踏み入れてからどれ位経過しただろうか。

 体感では、かなり地下深くまで下りてきた感じがするが、果たして、底というものは存在するのだろうか。

 

「……ん?」

 

 今一瞬、奥の方で何か物音のような音が聞こえた気がしたのだが、気のせいだろうか。

 

 更に奥へ、音の方へと近づいていく。

 と、足を踏み出した瞬間、足を滑らせ思い切り転倒してしまう。

 

「のわっ!?」

 

 刹那、転倒する寸前まで俺がいた空間を何かが勢いよく横切る。

 次の瞬間、何かが横切った風圧と共に壁面を何かが叩きつける音が響き渡る。

 

「っ!!」

 

 風圧と音の正体、それは、暗闇の中、ヘルメットのライトに照らされ判明した。

 それは、戦前工事現場などで杭打ち等に使用されていた金槌、現在では強力な鈍器として用いられるスレッジハンマー。

 

 そして、そんなスレッジハンマーを俺目掛けて振るってきたのは、一体のスーパーミュータントであった。

 

「あ! しま!」

 

 文字通り目と鼻の先にいる討伐対象に.45ACP弾をお返ししてやろうとしたのだが。

 転倒した衝撃で攻撃型カスタムガバメントを手放していた事に気が付き、慌てて、脇に落ちていた攻撃型カスタムガバメントを拾い。

 二撃目が来る前に、.45ACP弾をお見舞いすべくトリガーに指をかけた。

 

「待て! 撃つな!!」

 

 その時であった。

 何とスーパーミュータントから思いもよらない言葉が飛び出してきた。

 

「戦う意思はもうない!」

 

 戦う意思がない、一体、何が起こっているというのか。

 あまりの事に、俺は攻撃型カスタムガバメントをスーパーミュータントに向けたまま固まってしまっていた。

 

「すまない、まさか同郷の者だとは思ってもいなかったんだ」

 

 同郷、どういうことだ?

 ますます混乱する俺を他所に、スーパーミュータントはスレッジハンマーを背負うと、付いてこいと奥へと進んでいく。

 

 相手は背を向けているし武器も持っていない、今がまさに絶好の討伐チャンス。

 

 だが、俺は彼? の言葉が気にかかり。

 攻撃型カスタムガバメントをホルスターに収納すると、彼の言う通り彼の後を付いていく事にした。

 

「あぁ、狭いが、適当な所に座ってくつろいでくれ」

 

 こうして辿り着いたのは、今までの横道よりも広さと奥行きのある場所であった。

 光源に発光キノコも自生しており、一応、生活は可能そうだ。

 

 それを裏付けるように、スーパーミュータントが生活の為に運んできたのだろうか。

 扉の無い冷蔵庫やテーブルなど、生活に必要な家具が置かれ、生活感を醸し出していた。

 

「ん? よく見ると色が違うな……、あの色、確かボルトのターミナルで……」

 

 俺がこの場所の考察をしている間にも、スーパーミュータントはまじまじと俺の事を観察し続けている。

 そして、何かを思い出したかのように声を漏らすと、改めて俺に話しかけてくる。

 

「いや、すまなかった。どうやら同郷というのは私の勘違いのようだ」

 

「は、はぁ……」

 

「あぁ、自己紹介がまだだったな。私の名は『ノア』、ファミリーネームは……、すまない、忘れてしまったんだ。兎に角、よろしく」

 

「ユウ・ナカジマです」

 

 こうして討伐対象のスーパーミュータント、ノアさんとの自己紹介を交わすという、何とも奇妙なやり取りを終えた後。

 ノアさんは自身の事について語り始める。

 

「今は、こんななりをしているが。私も、そう……遠い昔はナカジマ、君と同じように私もただの人間だった。"完璧な世界"の一員でもあった」

 

「完璧な世界?」

 

「そのアーマーの下に着ているジャンプスーツ、それはコロニーのものだろう? 私も、人間だった頃は色違いのものを着ていたよ。今では、ただの下着になってしまったがね」

 

 リーアジャンプスーツの色違い、その言葉が漏れた瞬間、俺の視線は自然とノアさんの下腹部に向けられた。

 確かにそこには、身体が肥大化した影響で短パンや下着の様に破れてしまっていたが、あの鮮明な青色は間違いなくVaultジャンプスーツの一部があった。

 

「もしかして、ノアさんは元ボルトの方、なんですか?」

 

「あぁ、そうさ」

 

 どこか故郷を懐かしむかのように、強張っていた表情が一変、哀愁を漂わせる表情に変化する。

 

 そんなノアさんを他所に、俺は考えに耽っていた。

 スーパーミュータントでボルト出身者と言えば、3にフォークスという名の仲間が登場する。

 が、ノアさんはフォークスとは異なるようだし、一体何処のボルト出身なのだろう。

 

「あの、差し支えなければ、ノアさんのご出身のボルトの事を教えてもらってもよろしいですか?」

 

「いいとも。私の出身地である"ボルト13"はここから遥か西、西海岸に存在していてね。監督官のもと、住民は何不自由なく素晴らしい生活を営んでいたよ。……おそらく、今もまだ、そんな生活を送っているものと思うよ」

 

 ボルト13、その番号を聞いた瞬間、俺は反応に困ってしまった。

 ボルト13はFallout1に登場し、主人公の出身地という設定だ。まさに、フォールアウトシリーズにおける始まりのボルトと言っても過言ではない存在。

 だが、そんなボルト13の未来は、決して明るいものではなかった。

 

 Fallout1の続編であるFallout2では、当時の住民がエンクレイブという敵勢力により拉致或いは殺害され、追い打ちとばかりにデスクローという名の強力な野生動物まで内部に放たれてしまう。

 その後のナンバリングタイトルやスピンオフでは、特に言及される事もないので、その後の詳細については不明だ。

 

 あと、付け加えておくと、Fallout1当時の最高責任者である監督官は、救世主たる主人公をあろうことか追放。

 その事が原因で暴動が発生、当時の監督官は処刑されるという末路を迎える事となる。

 

 因みに、追放された主人公は、その後彼を慕いボルト13を飛び出した住民達と北を目指し、アロヨ村という小さな村を作り上げた。

 後に、この村をスタートとし、彼の子孫を主人公とするFallout2へと繋がっていくことになる。

 

 以上の事から、ノアさんに余計なことを話すのはやめておこう。

 記憶の中の素晴らしいボルト13のままの方が、彼の為だ。

 

「あの、ノアさん、そんなに素晴らしい場所なら、どうしてボルト13から遠く離れたこちらへ?」

 

「……まぁ、色々あってね。追放されたんだよ、ボルト13を。その後、慕ってくれた皆と村を作り、厳しいながらも何とか生活していたんだが、その頃にはもう、この身体の変異を隠し通せなくなってしまってね。……だから、家族にも仲間にも、誰にも言わず一人村を離れ、遠くへ行こうと決めたんだ」

 

 懐かしみながら語るノアさんだが、俺はその話す内容が気にならずにはいられなかった。

 あれ? 追放された、村を作った。これって、まさか。

 

 あ、そういえば、Fallout1のエンディングで、主人公の後姿が映し出される場面があるのだが。

 その際、主人公の腕をよく見ると、片腕が肥大化しているのだ。

 Fallout1はスーパーミュータントとの戦いを後半のメインストーリーとしている、その為、主人公が偶然FEVを投与してしまっていても何ら不思議ではない。

 

「長い放浪の末、私は今の姿となってしまった。そして、最近この辺りに流れ着いたんだよ」

 

 そして、スーパーミュータントになれば老死はしない。

 なので、Fallout1のエンディング時の時代背景である西暦二一六二年から現在に至るまで、致命的外傷を負わなければ、生きていてもおかしくはない。

 

 これらの事から、目の前にいるノアさんが、Fallout1の主人公であったとしても、何ら不自然なことはないのだ。

 

「あの……ノアさん、ボルトのご出身なら、ピップボーイはお持ちじゃないんですか?」

 

「あぁ、あれか。あれは残した家族の為に村に置いてきてね。……そういえば、君が腕につけているのも、ひょっとしてピップボーイかい?」

 

「はい、そうです」

 

「コロニーに支給されているピップボーイはこの様な形をしているのか」

 

 そういえば、シミュレーションRPG式の旧作と呼ばれるシリーズではピップボーイは腕に装着するのではなく、完全に持ち運び式の携帯機器だったな。

 物珍しそうに俺のピップボーイを眺め、簡単な俺の解説に耳を傾けるノアさん。その姿に、俺は僅かに優越感に浸るのであった。

 

「さて、私の話も済んだ所で。そろそろ、君の方の話を聞かせてもらえないかね? どうしてここに来たんだい?」

 

 俺は素直に事の経緯を説明すると、どうやら予想していたのか、やはりなという言葉がノアさんの口から洩れる。

 

「薄っすらと勘付いてはいたが、まさか排除してくるとはね」

 

「あの、ノアさん。俺、話を聞いて、ノアさんは悪い人……、危害を加えるスーパーミュータントではないと分かりました。だから、俺からラデシュ首長に話を付けて、誤解だったと知らしめてもらえば……」

 

「気持ちは嬉しいが、スーパーミュータントという存在がウェイストランドの人々から快く受け入れられる存在ではないのは、長い間旅をして理解している。だから、その気持ちだけで充分だ」

 

「ノアさん……」

 

「なぁに、また長く孤独な旅に出るだけさ。……だがその前、君のような心優しい青年に出会えて、本当に良かった。まるで君は、かつて人だった頃の私を見ているようだったよ」

 

 百五十年近く孤独な旅を続け安らぐ場所を得られないノアさんを、俺は救えないのだろうか。

 

「私は荷物をまとめたらここを離れるよ、君は集落に戻って、私を討伐したことを報告するといい」

 

 自身の事を語るノアさんの表情は、永遠に続く孤独に絶望しているように感じられた。

 人間とスーパーミュータントでは寿命という壁が存在する、だが、例え何千年になるかもしれない人生のごく僅かでも、誰かと過ごす幸せな時間があれば、きっと絶望に打ちひしがれ続ける事はなくなると思う。

 

「あの、ノアさん! よろしければ、俺と一緒に旅しませんか? 俺の旅は、今日明日で終わるものでもないですし」

 

 だから、少しでもあの表情に希望の光を湧かせられるように、今俺にできる事を、出来うるだけやってみよう。

 

「君は本当に、心優しい」

 

 俺からの提案を受け入れるべきか否か、ノアさんは口元に手を当て、しばし結論を出すべくを考え始める。

 やがて、結論が出たのか、口元から手を離すと、導き出した結論を述べ始める。

 

「もしかすると、私という存在は君にとって足手まといになるかも知れない。だが、君からの温かい申し入れを無下にしては、私自身の心も痛みを伴ったままだ。だから……、短い間かも知れないが、どうかよろしく頼む」

 

「はい! こちらこそ!」

 

 差し出された手を握り握手を交わす。

 ノアさんが旅の同行者として加わった瞬間であった。

 

 副次的に、ノアさんがこれまでの旅で蓄えてきた知識や経験を活用しようとの魂胆がない訳ではない。

 だが、孤独な彼を救いたい、その気持ちが先行したのもまた事実だ。

 

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