Fallout THE ORIGIN   作:ダルマ

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第十七話 シンプル・イズ・ザ・ベスト

 ノース・レイク・サンズを出発し、一部破損しているものの、戦前の姿をほぼ保っている頑丈なコンクリート製の橋を渡り。

 フォックス川を超えオーロラの東側へと到着すると、道なりにシカゴ方面を目指して歩き続ける。

 

 オーロラの東側も、西側同様枯れた草木や朽ち果てた住宅等、不毛な光景が広がっていた。

 

 だが、そんな光景の中、西側では見られない色合いの建造物をお目にかかる事が出来た。

 赤い色合いが特徴的なロケットのモニュメント、朽ち果てた電球看板は、今なおでかでかと店名を示している。

 

 それは戦前の人々の足を支えるべく、日夜営業に精を出していた店。

 レッドロケット社が運営するガソリンスタンドチェーン店、その名を、レッドロケット・スタンド。

 

 因みに、座学で得た情報によれば。

 ガソリンスタンドながら、戦前の石油資源の枯渇問題によりガソリンや軽油の販売が困難となり、核戦争直後などは、同チェーン店は車両用核分裂バッテリーに使用する冷却材の販売に切り替えていたそうだ。

 

「おぉ、レッドロケット・スタンドか。もしかしたら、何か役に立つ物が残されているかもしれないな」

 

 そんなレッドロケット・スタンドの存在に気が付いたノアさんが、店内を捜索しようと提案してくる。

 旅の備えは一応しているが、やはりフォールアウトの旅といえば、それ即ち寄り道。

 ノアさんの提案に賛同し、俺達はレッドロケット・スタンドへと足を運ぶ。

 

 シリーズの一つである4では、同じようなロケーションでシリーズお馴染みの忠犬たるドッグミートと出会える。

 もしかしたらこの世界でも、と少しばかり淡い期待を抱いてはいたものの、結果、出会えたのはドッグミートではなく。

 放射能で変異した巨大ネズミこと、モールラットであった。

 

「ちっ!」

 

「ぬらぁぁ!!」

 

 まるで縄張りであるレッドロケット・スタンドに近づかせまいと、地面から飛び出してくるモールラットの群れ。

 凶暴な二重構造の口の餌食にならぬよう、俺は手にしたM4カスタムをぶっ放し、5.56mm弾をお見舞いしてやる。

 

 一方のノアさんも、自慢のチェーンソードで二・三匹をまとめて肉片へと変貌させていく。

 因みに、その強靭なスペースマリーンパワーアーマーの装甲は、モールラットごときの牙では塗装を剥がすぐらいでしかなさそうだ。

 

 こうして俺が後衛、ノアさんが前衛で戦い、モールラットの群れを無事に殲滅すると、生き残りなどを警戒しつつレッドロケット・スタンドの内部へと足を踏み入れる。

 

 しかし、結果的に言えば、そんな警戒心は全くの肩透かしとなった。

 ついでに言えば、役立ちそうな目ぼしいものも、全く残ってはいなかった。

 

 壁にかけられていた救急箱の中身も空で、机の引き出しや棚の中も、ガラクタばかり。

 冷却材の在庫も、何処にも見当たらない。

 唯一、使い道がありそうな物といえば、寂しさを紛らわせてくれる薄汚れ日焼けした犬のぬいぐるみ位だ。

 

「何もなかったな」

 

「ですね」

 

 最後に付け加えると、モールラットの巣らしき洞窟も見つけられず。

 結局5.56mm弾を消費した位で、収穫はほぼゼロ。どう考えても収支はマイナスだ。

 でもま、これもスカベンジの醍醐味と割り切って、前向きにいこう。

 

 

 

 その後、特に野生動物やレイダーとも遭遇することなく。

 道なりに進むと、ゴーストタウンと化した住宅街を突き進む。

 因みに、ちょくちょく原型を留めている住宅にお邪魔しては、使えそうな物などを物色していく。

 

 こうして寄り道しながら道なりに進んでいると、やがて巨大な道路へと突き当たった。

 

 ピップボーイのマップで確認すると、どうやら目の前の巨大な道路はインターステイトの20(州間高速道路20号線)

 ロナルド・レーガン記念ハイウェイと命名された、高速道路のようだ。

 この高速道路を東へと進めば、シカゴの中心部へと向かう事ができる。

 

「どうやらこの高速道路を東に進めばシカゴ方面に向かえるみたいですね」

 

「成程。……しかし、今からこの高速道路を進むのは少し危険ではないか? もうすぐ日も落ちる、夜間の移動は昼間に比べリスクも高い。それに、見たところ、高速道路の両脇からは高速道路内は狙撃の的として格好の餌食になりそうだが」

 

 ノアさんの意見は、まさに的確であった。

 寄り道していた為、既に時刻は夕刻。もう数十分で、完全に太陽は地平線の彼方へと消え、辺りは暗闇が覆い始める。

 夜目が効く訳でもないので、視界は制限され、夜間に活発に活動している野生動物に対しては分が悪い。

 

 そして、遮蔽物のない高速道路上は、まさに狙撃する側にとっては絶好の地形だ。

 一応、放置された自動車などが点在してはいるが、自動車の核分裂バッテリーを撃ち抜かれ爆発に巻き込まれる可能性もある為、うかつに近づけない。

 

 これらの事から総合的に判断し、今夜は、先ほど通って来た住宅街で一夜を過ごす事となった。

 

「しかし、雨風や防寒防音、敵性生物からの視界を遮れるような住宅となると、少し戻らねばならんな」

 

 だが、ノアさんの言った通り。

 高速道路近辺の住宅は、原型を留めているものがなく。完全に倒壊、あるいは屋根がなかったり壁が一面や二面程度しか残っていないもの等。

 一夜を過ごすには適さないものばかりだ。

 

 とはいえ、今から一夜を過ごすに最適な住宅を探していると、見つけた頃には完全に日が落ちているに違いない。

 

 これは多少のリスクを覚悟で戻るしか選択肢はないのか。

 否、あるではないか、もう一つの選択肢。

 俺のピップボーイに収納している、最高の錬金術の力を使えばいい。

 

「ノアさん、それじゃ作りましょう。今晩の寝床」

 

「ん? 作る?」

 

 俺の提案に、素顔は見えないが、おそらくノアさんは眉をひそめているのだろう。

 そういえば、ノアさんってワークショップを使ったクラフトとか知らない可能性が高いんだった。

 

 よし、ではノアさんの為にも、習うより慣れろ。実際に作ってみよう。

 

 とりあえず適当な場所に移動すると、ピップボーイからワークショップver.GMを出現させ、早速使用し始める。

 

「えっと、とりあえず周囲の廃墟を解体して材料を調達しよう」

 

 戦前、ワークショップの開発・販売を手掛けた会社は、当時民間への普及を目指していたピップボーイをタッグを組んで、これ二つで誰でもDIY達人という謳い文句を掲げ、一家に一台の普及を目指していたそうな。

 その為、ワークショップはピップボーイ側から設定を行えば連動する事が出来る。

 ただし、ワークショップをピップボーイに収納している時は、操作を受け付けないようだ。

 

 ピップボーイのモニターに表示されたのは、無事にワークショップver.GMと連動を果たしたメニュー画面であった。

 

 表示されている資材の回収可能範囲を確認しながら、俺はワークショップver.GMの引き出しから取り出したボタンのような物の半分を、ノアさんに手渡す。

 

「これを、向こうからここまでの廃墟に設置してきてくれますか」

 

「何だかよく分からないが、兎に角、了解だ」

 

 身振り手振りでノアさんに範囲を伝えると、俺も残りの半分を手にして早速設置を始める。

 それから数分後、無事に設置が完了すると、同じくノアさんから設置を終えたとの報告が伝えられる。

 

「それじゃ、回収っと」

 

 ピップボーイを操作し、ボタンを押すと。

 

「おぉ、これは魔法か!?」

 

 何と、先ほどボタンのような物を設置した廃墟が、一瞬で綺麗さっぱり。まるで最初から何も建っていなかったかのように、土台だけになった。

 先ほどのボタンのような物は、所謂回収マーカーで、範囲内にある回収可能な物に設置すれば、一瞬で材料を回収してくれるという便利な品物だ。

 勿論、何度でも使えるので経済的。

 

「えーっと、それじゃこじんまりとした家を……」

 

 さて、材料が揃えば、続いて楽しい建築のお時間だ。

 といっても、俺、そこまで建築デザインのセンスがある訳じゃないんだよな。

 デザイナーズハウスなんて、夢物語だ。

 

 いやだがしかし、男は度胸。習うより慣れろ。考えずに、感じるままに建てればいいんだ。

 

 

 という訳で、真っ新になった土台の一つに、頭の中で思い描いた設計図をもとに今晩の寝床たる住居を作ってみたわけだが。

 

「これは、何ともシンプルな家だな」

 

「あ、あはは……」

 

 出来上がったのは、ノアさんの感想そのまま。

 何のデザイン性もない木の壁に、申し訳程度のガラス窓、そして、赤い三角屋根に木のドア。当然一階建て。

 まさにシンプル・イズ・ザ・ベストを地で行く住居であった。

 

「ふむ、中も外同様に何とシンプルな」

 

 因みに、ワークショップver.GMを収納し終え、玄関を開けて足を踏み入れた自作住居第一号の内装も、外見同様シンプル・イズ・ザ・ベスト。

 パイプ式のシングルベッドが二つに、一時的に物を置いておくのに便利な棚が一つ、食事や休息用に使える椅子が二つにテーブルが一つ。

 そして、外部の小型発電機から供給される電力で室内を明るく照らし、夜中でも安らぎを与えてくれる、電球照明。

 

 まさに必要最低限、一夜を過ごすだけならば最適な内装である。

 

「所で、この家にはキッチンはないのだな?」

 

「……あ!」

 

 一通り自作住居第一号を見たノアさんから洩れた言葉に、俺は致命的な失敗を犯してしまったとばかりに口が開いてしまう。

 今からじゃ、後付けでキッチンを設置しようにもスペースがないので、一から全て作り直さなければならない。

 折角住居を作るのだから、缶詰食糧そのままではなく、ひと手間加えられるようにとキッチンを設置しようと思っていたのに。

 

 あぁ、俺、やっちまった。

 

「まぁ、誰にでも失敗はある。これを糧に成長し、次に生かせばいい」

 

「ノアさん……」

 

 目に見えて落ち込む俺を励ましてくれるノアさんの温かさに触れた所で、気持ちを切り替え、夕食の準備に取り掛かる。

 といっても、買っておいた缶詰を開けるだけなのだが。

 

「そうだ。寝床を作ってもらったお礼ではないが、私の手料理を振舞いたいと思うのだが? どうかな?」

 

「え? 手料理ですか?」

 

「そうだ。保存のきく物は、可能な限り温存しておくのが得策ではないかと思うからだ」

 

「確かに、消費スペースを計算して買ってはいますけど、そのスペースを遅らせるのならばそれに越したことはありません」

 

「よし、では、早速準備にかかろう」

 

「あ、でも、キッチンは……」

 

「安心したまえ、残っている廃墟などで材料をかき集めて焚火を作れればそれでいい。あぁ、食材は既に私の方で確保している」

 

 突然のノアさんの提案に暫し考えを巡らせたが、折角の気持ちなのでと、俺は快くノアさんの提案を受ける事にした。

 すると、ノアさんは早速外に飛び出し焚火の為の材料をかき集め始めると、ものの数分で自作住居第一号の目の前に焚火を完成させる。

 

 そして、確保しておいたと言っていた食材を、自身が持っていた麻袋から取り出すと、どう考えても下ごしらえに不向きなチェーンソードで食材を加工していく。

 やがて、豪快に加工した食材を丁寧に串に刺していくと、躊躇うことなく焚火でそれらを焼いていく。

 

「よし、出来たぞ」

 

 こうして数分後、用意した食器に山盛りに乗せられて姿を現したのは、ノアさんお手製の串焼きであった。

 

「あの、これって何のお肉ですか?」

 

「あぁ、これはモールラットの肉だ。レッドロケット・スタンドで倒した時に回収していたんだ」

 

 目の前のテーブルに置かれた串焼きの正体を恐る恐る尋ねると、どうやらその正体は、お腹の中で捻じれて動き回るともっぱらの評判なモールラットの肉であった。

 

「さぁ、たくさん作ったから遠慮せずにどんどん食べてくれ!」

 

 ヘルメットのお陰で表情は窺い知れないが、おそらく、ノアさんは白い歯がのぞいているような笑顔を浮かべている事だろう。

 一方、俺はといえば。

 若干引き攣った笑みを浮かべずにはいられなかった。

 

 何故かって?

 それはもう、この世界に来てから実物を食した事はないものの、ゲームではモールラットの肉といえば"不味い"の代名詞とされているからだ。

 不味いと分かっている物を進んで口にしたいと誰が思うだろうか。出来る事ならば避けたい、そう思うのが自然の流れだ。

 

 

 ──いや、だがしかし。

 下手に誤魔化して食べないなんて選択を選んでは、折角作ってくださったノアさんの気持ちを踏みにじる事になり、大変心苦しい。

 

 それに、もしかしたら、もしかしたら、ゲームと現実は違うかもしれないじゃないか。

 

 そうだ、可能性を信じて、いざ、実食。

 

 

 

 ──もしかしたら、美味しいという可能性が微粒子レベルで存在しているかもしれない。

 ──そんな風に考えていた時期が、俺にも、ありました。

 

 

 

 そういえば、シリーズ内でモールラットの肉を何とか食べれるレベルまで昇華させた事例がいくつかあった。

 ただし、異様に手間のかかったり、良い子の皆は決して真似してはいけないようなものであったり。

 まさに、言い換えればそれほどまでに手間と危険を冒さなければ食べられるレベルにまで昇華しない素材ともいえるのだ。

 

 そんな素材を、調理過程を見学した限り特に下味などもつけず、無謀にも素材そのままの味で勝負した今回の串焼き。

 

 美味しい、などという評価を付けられようか。否、断じて、否。

 

「うむ、やはり焼き立ては美味いな!!」

 

 ヘルメットを外して美味しそうに串焼きを頬張るノアさん。

 あぁ、どうやらノアさんの味覚というものは、長年のウェイストランド生活で相当鍛えられていらっしゃるようだ。

 

 いや、それを言うならば、ケーレさんだって長年ウェイストランドで生活していた。

 にもかかわらず、ケーレさんの作ってくれた料理は、申し訳ないがノアさん程壊滅的ではない。

 

 無論、ケーレさんの場合、生業としているという点もあるだろう。

 しかし、思うに、おそらくケーレさんは"食の喜び"というベクトルにおいて、俺と同じものを持っていたのではないか。

 だからこそ、マイナスになるほどの料理の質はなかったのだろう。

 

「ん? 遠慮しているのか? これは君へのお礼なんだから遠慮しなくてもいい、さぁ、どんどん食べてくれ!」

 

 そして、どうやらノアさんの食の喜びというベクトルは、完全に俺やケーレさんのとは別のものを持っているようだ。

 

 だからだろう、漂う臭い、噛み千切れぬほどの肉の固さ、地獄のような苦み。

 一体これは何の拷問だと言わんばかりに、食事が苦行と化している。

 

 あぁ、何故だろう。自然と、目頭から一粒の涙が。

 

「おぉ、そうかそうか。涙を流してくれる程美味しいか! うむ。これは作った甲斐があったというものだ! ……そうだ、では、今後も定期的に私が料理を作るというのはどうだ?」

 

 やめてください、俺の胃袋が死んでしまいます。

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