けたたましいまでの戦闘が終わりを告げ、静寂が辺り一帯に再び戻ってくる。
どうやら、心配していた自爆による攻撃はないようだ。
ここはある程度の広さを持った空間とは言え、建物内部でのセントリーボットによる自爆攻撃は、ゲームと異なりどんな影響を及ぼすか想像ができない。最悪、爆発の影響で建物が倒壊しないとも限らないからだ。
そんな心配も杞憂に終わり、手にしたM4カスタムの銃口と共に周囲の安全を確認し終えると、ようやく、銃口を床に向ける事が出来た。
さて、これで緊張の糸を緩める事が出来たわけだが。
正直言って、地下に侵入してからというもの、俺は、そこまで緊張していた訳ではなかった。
何故なら、ノアさんの存在が頼もし過ぎたからだ。
というか、ここに来るまでまさにノアさん無双だった。
セキュリティのロボットを切っては投げ殴っては投げ。俺、途中で後ろから数回援護した位で、ほとんどノアさんが片付けてしまっていた。
いやはや、流石は鬼に金棒。いや、この場合はチートにチート、か。
何れにせよ、味方としてはこれほど頼もしいものはなく、敵に回せばこれ程恐ろしいものはない。というのを、再認識させられた。
さて、安全も確認して一息ついた所で、早速お目当てのパワーアーマーを探し始めるとしよう。
「ここも、他同様に置かれているのは毛布や缶詰等だな」
「そうですね」
棚などに置かれた木箱等の中身は、戦前に保管されていたであろう食糧や飲料などだ。
この最深部に来るまでに見て回った部屋等も、同様の中身の木箱などが無造作に置かれていた。
一応、賞味期限が切れてから二世紀近くも経過してはいるものの、食べたり飲んだりしても大丈夫であろう物は選別して回収している。
因みに、中には銃器などの品物も見られたが、どれも粗悪品の為、回収して再利用する気にはなれなかった。
「お?」
そんな物資の山の中からパワーアーマーを探し始めて数分後。
奥にひっそりと隠されるかのように設置されたパワーアーマーステーション、そこに置かれた一台のパワーアーマーを発見する。
史上初の実戦配備型パワーアーマーとして誕生した、T-45。
そんなT-45の後継として開発され、ゲームにおいてはFallout1のパッケージを飾り、シリーズ皆勤賞を誇るパワーアーマー。
避弾経始を取り入れた丸みを帯びた全体像は、後継のT-60よりも人間に近い印象を受ける。
そんなパワーアーマーの名は、T-51。
「これですね」
「うむ、間違いなくパワーアーマーだ。見た所、酷い損傷も見られない、ニコラスが言っていたのはこれで間違いないだろう」
近づいて状態を確認する。
ノアさんの言う通り、特に酷い損傷なども見られず、背部のリアクターに動力源となるフュージョン・コアが差し込まれていない以外、特に問題は見当たらない。
「それじゃ、これを外に持ち出しましょう」
「では、私が担いで……」
「あ、いえ。俺が搭乗して外に運びます」
確かにノアさんの怪力なら担いで外に持ち運べそうだが、通路の幅的にも色々と擦ってしまいそうなので、ここはノーヘッドの搭乗経験もある俺が運ぶ事に。
という訳で、早速このT-51パワーアーマーを外に持ち出すべく、背部のリアクターにフュージョン・コアを差し込む。
なお、使用するフュージョン・コアは、先ほどノアさんが見事に片付けてくれたセントリーボットのものを拝借させていただいく。
無事に接続された事が確認されると、背部の搭乗用ハッチから乗り込む。
あぁ、久々に感じるパワーアーマーの閉塞感。
刹那、眼前のHUDに機体コンディション等が表示される。
──メインシステム、戦闘モード、起動します。
音声が流れると共に、俺は一歩を踏み出し、出口を目指して歩き始める。
久々に太陽の光と外の空気を堪能し終えると、ニコラスさんの待つ詰所へと向かう。
すると、俺の姿、厳密にいえば俺が搭乗しているT-51パワーアーマーの姿を確認するや、ニコラスさんの雰囲気が目に見えて興奮し始めた。
「ニコラスさん、回収してきましたよ、お望みのパワーアーマー」
「ふぉぉぉぉっ!」
T-51パワーアーマーから降りて回収報告をする俺を他所に、ニコラスさんは、早速T-51パワーアーマーに抱き着くと、本物だけが持つその質感に心を奪われていた。
「あぁ、これが本物、これがパワーアーマー……」
「所で、ニコラスさん。ニコラスさん自身はパワーアーマーの操縦を……」
「この形状、これはキャプテン・パワーマン、コミック第11巻第111話『キャプテン・パワーマン、暁の涙』にて初登場したキャプテン・パワーマンの二代目搭乗機、T-51パワーアーマーですね!!」
どうやら、しばらくの間を置いて存分に堪能させてあげないと、ニコラスさんは話を聞いてくれる状態にならないようだ。
凄く目を輝かせキャプテン・パワーマンの話を織り交ぜてパワーアーマーを語るニコラスさんの姿を見て、内心そう思うのであった。
因みに、キャプテン・パワーマンは原作漫画では権利の関係で若干アレンジが施されているものの、Tシリーズのパワーアーマーを乗り換えている。
最初はT-45、次いでT-51、そして三代目としてT-60へとパワーアップしているのだ。
それから暫くして、ニコラスさんが十分にT-51パワーアーマーを堪能し終えたと判断した所で、再びニコラスさんに質問を投げかける。
「所でニコラスさん。ニコラスさん自身はパワーアーマーの操縦をしたことは?」
「すいません、恥ずかしながら一度も……」
すると、案の定な答えが返ってくるのであった。
そこで、しっかりと囮役が務まるように、俺が出来る限りパワーアーマーの操縦を指導していく。
指導を始めた当初はぎこちない動きではあったが、時間が経過していくごとに動かすコツをつかんできたのが、徐々に滑らかで自然なものへと変化していく。
こうして指導を始めて数時間。
気付けば空と大地が暁に染まった頃には、ニコラスさんのパワーアーマー操縦も随分と様になっていた。
「ありがとうございます。これなら、囮役として存分に効果を発揮できそうです」
ヘルメットを脱ぎ、汗だくになりながらもお礼を述べるニコラスさん。
「と言っても、今日はもう日も落ちますから。救出作戦の実行は、明日という事でいいですか?」
「そうですね。無理に強行してルシンダに何かあれば、救出作戦の意味がない」
流石に夜中では物音などで気付かれないとも限らないし、視界が悪い分ニコラスさんの囮としての役割が十分に発揮されないかも知れない。
それらのリスクを考慮し、救出作戦の決行は、明日行う事となった。
そして、今夜は明日の計画実行に向けて英気を養うべく、ジミー村のニコラスさんの実家で一夜を過ごす事となった。
そして翌日。
本日も快晴な空の下、ジミー村から南東へと移動する事数時間。
小さな川の近くに建てられた、戦前何かしらに使用されていた施設、そしてその周辺に設営されたテントの数々。
そここそ、ルシンダさんを借金のかたとして連れていったレイダーグループのアジトだ。
そんなアジトの様子を少し離れた廃墟の住宅から伺いつつ、俺達は救出計画の最終確認を行っていた。
「では、私が連中の気を引いておきますので、その間に、お二人がルシンダを救出してください」
「うむ、分かった」
「……」
「ん? ナカジマ、先ほどからどうしたんだ? 何か考えているようだが」
「あ、いえ、その」
「何か考えがあるのなら言ってみるといい」
実は、ルシンダさんの件を聞かされた時から頭の隅でずっと考えていた事があった。
ノアさんの勧めもあり、その内容を打ち明ける。
「実は、ルシンダさんを連れていったレイダー達とは、ちゃんと話し合えるのではないかと考えていたんです」
「ちょ、ちょっと待ってください! あいつらはルシンダを連れていって、今頃ほっぺにポークビーンズがついてるぞ、なんてやらせてるような連中ですよ!! 話し合いなんて……」
いや、逆にニコラスさんが言うような事をさせているなら、絶対話し合えるような気がする。
と、そこに触れると話が逸れていってしまいそうなので、今回は触れない事にしよう。
「確かに"レイダー"と呼ばれる連中は、傍若無人な無法者です。ですが、今回ルシンダさんを連れていったレイダー達は、わざわざニコラスさんにお金を貸して本人に返済能力がないから"仕方なく"、という正当な理由を得ています。面倒な"手順"なんて力づくですっ飛ばすレイダーにしては、あまりに知的と思いませんか?」
そこに計画的なものがあるにしろないにしろ、ちゃんとした手順や明確な理由付けをしている辺り、とても欲しい物は力づくで奪っていくような一般的なレイダー像には当てはまらない気がする。
その事を、俺は二人に語る。
「一般に想像されるレイダーが物差しなんて死体に添えるアンティーク程度にしか思っていないとしたら、今回俺達が相手にするレイダー達は、少なくとも物差しをちゃんと物を差し計る為の道具として認識しているんだと思います。……なら、話し合いで解決できる可能性も、あるんじゃないかと」
俺の考えを聞き、二人は考えるように沈黙する。
やがて、その沈黙を打ち破ったのは、ノアさんであった。
「確かに、ナカジマの言う事も一理ある」
「えぇ! あ、貴方までそんな!」
「確かに妹を連れていった目の敵かもしれんが、話が通じる相手ならば、先ずは話し合いで解決を図るのも"救出"という点では違いなのではないか?」
「そ、それは……」
「ニコラスさん、先ずは相手と話し合ってみましょう。もしそれで解決に至らないなら、その時は、強硬手段の行使を考えます」
「……分かりました」
完全に納得したとは思えないが、ルシンダさんの身の安全を考え、穏便な解決の為の話し合いにニコラスさんも同意の意思を示してくれた。
「それじゃ、正面から堂々と行きましょう」
こうして、レイダーグループと話をするべく、俺達はアジトの正面から堂々と接触を図るのであった。
まず最初に俺達の事に気が付いたのは、アジトの見張りを務めるレイダー達であった。
俺達の存在に気が付くや、彼らが放ってきたのは粗悪な鉛弾ではなく、警告の言葉であった。
「おい止まれ! ここは俺達"ア・カーンズ"のアジトだぞ! 死にたくなけりゃ、よそ者はさっさと立ち去れ!」
「どこか懐かしい名前だ……」
聞こえてきたノアさんの呟きは、この際隅に置いておくとして。
その見た目こそ他のレイダーとあまり変化はないが、どうやら中身に関しては、少々異なっているようだ。
そして、確信した、彼らとは話し合える余地があると。
「すいません、俺達は借金のかたに連れてこられた女性の事で話をしに来たんです。だから、話の分かる方を呼んできてほしいんですけど……」
一応、敵意がない事をアピールしつつ、リーダー辺りの人物を連れてきてほしいと頼んでみる。
すると、見張りの数人が集まり何かを話し合い始める。
暫くすると、その内の一人が再び声を挙げた。
「今リーダーを呼んでくる、ちょっと待ってろ」
そして、その者はリーダーを呼ぶべく小走りに施設の中へと姿を消した。
さて、どうやら話し合いによる解決の第一段階は無事にクリアしたと思っていいだろう。
しかし、問題はここからだ、グループのリーダーといかに穏便に話し合いで解決を図れるか。
俺の話術の問題もあるが、相手となるリーダーが俺以上の狡猾さを身につけている人物だと、一筋縄ではいかない可能性もある。
鬼が出るか蛇が出るか、と考えていると、レイダーに連れられるように、施設から一人の白人男性が姿を現した。
恰幅の良い体格の為か、身に着けた戦前のビジネスウェアはボタンが留められず、その姿はだらしがない。
しかし、そんな事など生え際が大分後退している事実と共に意に介さない様子の男性。
やがて、俺達の前までやって来ると、口を開く。
「さて、初めまして。貴方が、我々が借金のかたに連れてきた女の事で話がしたいという者か?」
初老位であろうか、リーダーの男性は、やはりレイダーグループの長を務めているだけあって、その雰囲気は堂々としている。
「はい。……その前に、自己紹介をよろしいですか? 俺の名前はユウ・ナカジマと申します。仲間と共に傭兵家業を営んでいます」
「ご丁寧に自己紹介されたら、こちらも返さずにはいられないな。……私はレイダーグループ"ア・カーンズ"のリーダーを務める"カウル"だ」
カウルと名乗ったリーダーの男性は、チラリと俺の後ろに立っているノアさんとニコラスさんの姿を確認するも、特に取り乱す様子もない。
これは、もしかしたら強敵かも知れない。
「では、自己紹介を終えた所で早速本題ですが……」
「その前に、お互い部下と仲間が近くで聞き耳を立たれていては話し難い事もあろう。どうだ、ここはお互いに距離を取らせて一対一で話をしようじゃないか?」
「え?」
突然の申し出に、俺は少々困惑する。
まさか、それ程話術に自身があるというのか。だとすると、少々雲行きが怪しくなってくるぞ。
パワーアーマーを装備している二人の圧を、特にノアさんの圧倒的な存在感を盾に話し合いを有利に進めようと考えていたが、離されては、その効果もいか程になるか。
いや、少しばかり離された所で、効力が激減する事はないとは思うが……。
「では、私の方から下がらせよう。おい、お前たち!」
と、こちらが答えを出しあぐねている間に、相手が先に動き出してしまう。
素直に指示に従うように下がっていくレイダー達。
不味い、これでは、こちらも二人を下がらせずにはいられない。
「あの、お二人とも……」
「私はナカジマさんを信じてます! 必ず、ルシンダを取り返してください!」
「私も、君の話術を信じている」
「……分かりました。では、お願いします」
二人の言葉を聞いて決心した俺は、二人に下がってもらう。
こうして、互いに距離を取らせ、文字通り一対一での話し合うには格好の状況となった所で、再び本題を切り出す。
「ニコラス・ロバートソンという名前の男性をご存知ですよね。その方の借金のかたとして、あなた方は妹のルシンダ・ロバートソンという女性を連れ込んだはずです。俺達は、そのルシンダさんを解放してもらうべく、こうしてやって来ました」
さて、相手はどんな言葉を返して来るのか。
一対一での状況を自ら提案してくる程だ、どんな言葉でルシンダさんの事を諦める様に言いくるめてくる。
内心身構えていると、ゆっくりと、カウルが口を開き始める。
「それマジですか? いや願ったり叶ったり。どうぞどうぞ、もうさっさと連れ帰ってください……、あーでもそれじゃ、借金分我々が損を……。あ、どうでしょ、二・三割引きますんでそちらが立て替えてくれれば直ぐにでも娘は引き渡します」
だが、つい先ほどまでの威厳に満ち溢れていた雰囲気は何処へやら。
小物臭ささえ漂わせてくる態度の急変に、俺は唖然とするほかなかった。
──あれ? 何だが思っていたのと全然違う。