Fallout THE ORIGIN   作:ダルマ

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第二十一話 思ってたのと全然違う

「あの……、本当に支払ったら返してくれるんですか?」

 

「えぇ、そりゃもうえぇ! どうぞ! さっさと引き取ってください」

 

 暫くして我に返った俺は、もう一度尋ねてみるも。その態度も返答も、やはり変わる事はなかった。

 しかし、なんだろう。

 例えるなら、まるで抱えてしまった在庫を赤字覚悟でもいいからさっさと処分してしまいたい程の必死さ。

 

 どうしてだ?

 

「あの……、俺からこんな事を聞くのもおかしな話なんですけど。ルシンダさんに、未練とか……」

 

「ありません!」

 

 食い気味で答えるほど未練もなし。

 本当に、一体どうなってるんだ、ますます混乱してきた。

 

 しかし、カウルの妙な必死さは逆に怪しさすら感じなくもないが、これを生かさない手はない。

 

「それじゃ、立て替えますので、額の方を提示していただけますか?」

 

「おぉ、それは素晴らしい! あ、額ですね……。えー、本来なら満額支払って欲しい所ですが、ここは救世し……、じゃなかった、初回立て替えボーナスによる三割引きをしまして……」

 

 途中救世主と聞こえたような気がしたが、それに初回立て替えボーナスってなんだ。

 と、色々とツッコみたい箇所が目白押しではあるものの、それを頭の片隅に置いておくと、カウルの話に再び耳を傾ける。

 

「しめて766キャップ。もしキャップが足りないなら、不足分、或いは全額に相当する品物でも結構です」

 

 ニコラスさんの借金の総額、おそらく利子の分も含めてだろうが、を聞いて二つ返事を躊躇してしまう。

 額としては、払ってもまだまだ当分旅をする間は困らないだけのキャップは残る。

 が、やはり可能ならば、支出は抑えられればそれに越したことはない。

 

「あの……」

 

「ひっ! な、なんでしょ」

 

「ここから、もう少し引いてもらえる事って、可能ですか?」

 

「え、こ、ここから!?」

 

 口を手で押さえ考え始めるカウル。

 やはり、ここから更に割り引くのは難しいか。

 

 そう思っていると、不意に、カウルが小さく手招きを始めた。

 

「ちょい、ちょい」

 

「あ、はい」

 

 それに従うように、俺はカウルに耳を近づける。

 

「いや、本当、これ以上引いちゃうと他からの補填が厳しくて我々としてもけっこう痛いんですけど、でも、今回だけ、今回だけですよ。……特別価格、"355"キャップでご提供」

 

「おぉー」

 

 しまった、ついつられて朝方の通販番組の観客のような声を漏らしてしまった。

 だが、そんな声が漏れてしまう程、思い切った割引価格を提示してくれたのだ。

 

 おそらく、これ以上の引きはないだろう。

 

「では、355キャップを一括キャップでお支払いします」

 

「取引成立、ありがとうございます」

 

 なので、最終提示の355キャップで合意し、支払う事となった。

 ピップボーイから必要な数のキャップを取り出すと、カウルへと手渡す。

 

 受け取ったカウルは、全額揃っているかを確認し終えると、今日一番の満面の笑みを浮かべた。

 

「では、直ぐに連れてきますので、暫しお待ちを。……あぁ、それから、くれぐれも"割引"の件は内密にお願いします」

 

 と言って、施設の方へと向かっていく。

 

「リーダー! 話はどうなったんです!?」

 

「何話してたんっすか!?」

 

「お買い上げだ! 引き渡すからさっさとルシンダとかいう女を連れてこい!」

 

「えぇ!? 姐さんお買い上げされちゃうんですか!?」

 

「いやだ~! そんなの嫌だぁ!!」

 

「つべこべ言うな! キャップはもう貰ってるんだ!」

 

 何だろう、部下のレイダー達と何やら揉めながら施設内へと消えていったカウル。

 内容を聞くにカウルとレイダー達との間には少しばかり認識の違いが生まれているようだ、もっとも、カウルがリーダーとしての威厳を保つ為の尊いズレなのだが。

 

 

 そして待つこと十数分後、施設から、カウル達に連れられて一人の女性が姿を現した。

 美しい金髪を靡かせる、美しい顔立ちを有した女性。

 

「ルシンダ!」

 

 ニコラスさんの声が聞こえてくるに、どうやらあの女性がルシンダさんで間違いないようだ。

 ──にしても、あの格好は本当にレイダーグループに捕まっていた者の格好なのだろうか。

 そう思わずにはいられないほど、ルシンダさんの装いは目を引いた。

 

 戦前よりも遥か過去、この大地が南と北とに分かれて戦争を繰り広げていた時代があった。

 その時代に流通し、当時の女性が華やかな場で着ていたであろうドレス。

 そんなドレスが、核戦争以前にリバイバル・ファッションとして流行していた、と座学で学んだのを、ルシンダさんの装いを目にして思い出した。

 

「お待たせした、この女で間違いないな」

 

 傍らに立つルシンダさんを一歩前へ出させ、今一度確認を行うカウル。

 そこには、交渉時の面影はもはやなく、第一印象と同じく堂々たる雰囲気を醸し出している。

 

「えぇ、間違いありません」

 

「では、さっさと女を連れていけ。安心したまえ、姿が見えなくなるまでは、発砲はしないからな」

 

「それでは、失礼します」

 

 ルシンダさんを連れ、二人と度合流すると、俺達はア・カーンズのアジトを去る。

 言葉通り、後ろから撃たれることもなく、無事に安全圏内まで移動する事が出来た。

 

 

 

 特に追手の姿もなく、周囲に危険な野生動物の姿も反応もみられない事を確認した所で、久々の兄妹の再開と相成る。

 

「ルシンダ! ルシンダ! よかった、本当によかった!!」

 

「?」

 

 しかし、T-51パワーアーマーに搭乗している状態では、それが兄のニコラスさんであるとはルシンダは気づいていないようだ。

 

「ニコラスさん、ヘルメットを取るかパワーアーマーから降りてみてはどうですか? その姿だとルシンダさんが誰だか分かっていないようですし」

 

「あぁ、分かりました!」

 

 早く久々の再開を堪能したいのだろう。

 ニコラスさんは慌ててT-51パワーアーマーから降りると、その姿をルシンダさんの目の前に現す。

 

「ルシンダ! 私だよ!!」

 

「……あ」

 

「そうだよ、ルシ……ンダッ!!」

 

 兄妹、感動の再開、そして再開を祝しての抱擁。

 と、思っていたのだが、実際に行われたのは、ルシンダさん渾身の右ストレートがニコラスさんの顔面を襲うといったものであった。

 

「……え?」

 

 なので、思わず声が漏れてしまうのも仕方がない。

 

「こんっのクソアニキ!! あんた! あんたのお陰でアタシがどれだけ迷惑してたと思ってんだよ!!」

 

「ご、ごご、ごめんよルシンダ」

 

「ごめんで済んだら自警団いらねぇんだよ!! このクソアニキ!」

 

 その華奢そうな腕からはとても想像もできない威力を誇る渾身の右ストレートが決まった事により尻餅をついたニコラスさんに畳みかける様に、スカートをたくし上げ、蹴りを入れるルシンダさん。

 その形相、まさに修羅の如く。

 

 ──あれ? 何だが色々と、思っていたのと全然違う。

 

 ニコラスさんの説明や第一印象から、てっきり、おしとやかでおとなしい女性かと思っていたのだが。

 蓋を開ければ、いや、口を開けば、開口一番"クソ"なんて単語が飛び出し、続いて手が出て足が出て。

 

 外見と中身が百八十度違うなんて、唖然とせずにはいられないじゃないか。

 

 あぁ、そうか。こんな内面だからカウルはあれ程必死に自身の手から手放したかったのか。

 

「つかおせぇょ! どんだけキャップかき集めんのに時間かけてんだよ!」

 

「いや、あの……」

 

「アタシだってよ、これでも妹として情けないアニキを更生させられなかった責任ってもんを感じてんだよ。だから、ある程度は言い聞かせて待ってやってたよ。でもテメェ、待てど待てどぜんぜん来ねぇじゃねぇか! 真面目に待ってんの馬鹿らしくなるってもんだろ!!」

 

「ご、ごめんよ」

 

「しかもなんだよテメェ! 一人で来るかと思ったら、なに助っ人連れてきてんだよこの野郎!! そこは男らしく一人で来いよ!」

 

 うーん、これじゃどっちが兄でどっちが妹か分からなくなりそうだ。

 じゃなかった、このままではニコラスさんがルシンダさんに半殺しにされかねない。

 助け舟を出さなくては。

 

「あ、あの……」

 

「んぁ? あぁ、なんだよ」

 

「ニコラスさんも十分反省していると思うので、そろそろ手と足を出すのは……」

 

「……わぁったよ、たく」

 

 俺の言葉に渋々ながらも納得してくれた様で、ニコラスさんへの鉄拳制裁が終わりを告げる。

 

「あ、申し遅れました。俺はユウ・ナカジマ。こちら、仲間のノアさんと共に傭兵をしているもので。今回は、ご縁あってお兄さんのニコラスさんに協力していた次第です」

 

「こんなどうしようもないアニキに協力するなんて、考えられない位御人好しね、あんた」

 

「な、ナカジマさん達はとても……」

 

「アニキは黙っとけ! 今アタシが喋ってんだよ」

 

「あ、はい」

 

 叱責され縮こまるニコラスさん。

 あぁ、兄として、いや男としての色々なものが萎縮してしまっているのが目に見えて分かり、哀愁を感じずにはいられない。

 

「所で、もしかしてアニキが乗っていたあのゴツイスーツみたいなの、あんた達が見つけてきたの?」

 

「えぇ、情報はニコラスさんのご提供ですが、回収は俺達が」

 

「……はぁ。まさか、見ず知らずの他人にここまでさせる程落ちぶれてるとは思わなかったわ。アニキ! この人らにどんだけ助けられてんのか自覚してんのか、あぁ? てか、これウチに置いとくつもり?」

 

「え、だだ、だって。折角使えるんだし、これなら農作業なんかも大分楽に……」

 

「んなこと言って、どうせあの変なヒーローごっこに使い倒すんだろうがぁ!」

 

 流石は妹さんだけあって、ニコラスさんの趣味趣向を熟知していらっしゃる。

 

「あの、ですが今回の件を切っ掛けに、ニコラスさんは改心して真面目に農作業に勤しむと約束してくれましたし、その辺で……」

 

「甘い! 甘いよ、あんた!! アニキは今までだってアタシに散々、それこそ何百何千と"真面目になる"だの"ちゃんと働く"だの言って、結局口から出まかせばっかなんだ」

 

「そうなんですか? ニコラスさん」

 

「ち、違います! 今回は、今回は本気です!! 信じてください!!」

 

 足元に近づき信じてほしいと必死に懇願するニコラスさん。

 その姿を見ていると、今回も口から出まかせとはとても思えない。

 

「はぁ……、まぁいいわ。何だかんだ言っても今回はちゃんとキャップをかき集めて借金清算したし、今回ばかりは信じてあげるわ」

 

 それはルシンダさんも感じたのだろう。

 今回ばかりは信じてあげる事にしたようだ。

 

「……へ? 借金清算? 何のこと?」

 

 だが、次いで発せられたニコラスさんの言葉に、ルシンダさんの態度は再び急変した。

 

「はぁ? 何言ってんのアニキ。アニキが借金の分、キャップをかき集めて支払ったからアタシが解放されたんだろ」

 

「えっと、……私、借金清算する為のキャップ、かき集めてないんだけど」

 

「……はぁぁぁぁっ!!?」

 

 もしここで、話を合わせてくれていたのなら、どれ程穏便に事が済んだだろうか。

 だが、ニコラスさんの真面目さが、話を煩わしくさせていく。

 

「何言ってんの!? アニキが用立てて支払ったんじゃなかったとしたら、一体誰が支払ったって言うのよ!?」

 

「えっと、ね」

 

 目線で俺が払ったのではないかと訴えるニコラスさん。

 すると、ルシンダさんの鋭い視線が俺に注がれ、真実を話さずにはいられない雰囲気となる。

 

「ルシンダさんの身を案じて、安全に事が解決するならと、代わりにお支払いしたんです」

 

「こぉぉぉぉぉんの、クソアニキ!!!」

 

「あべば!!」

 

 刹那、再びルシンダさん渾身の右ストレートがニコラスさんを直撃した。

 勢いで数回空中回転した後、地面に突っ伏したニコラスさん。その威力を物語るように、その身体は痙攣を起こしている。

 

「あれだけ助けてもらっといて、あまつさえ借金まで立て替えてもらうだぁ!? どんだけ助けてもらってんだよ、このクソアニキ!!」

 

「あぶ、あぶ……」

 

 もうやめて、ニコラスさんの体力はとっくにゼロだ。

 と叫びたくなる程に、倒れたニコラスさんに対して足で追い打ちをかけるルシンダさん。

 

「あ、あの。立て替えは俺の好意もありますから、一方的にニコラスさんに当たるのは……」

 

「……はぁ。あんた、ほんとどうしようもない位の御人好しね。まぁいいわ、もう支払っちゃったんだし、アニキに当たってもあんたの立て替えたキャップが戻ってくる訳じゃないし」

 

 こうして呆れ顔のルシンダさんの魔の追い打ちから解放されたニコラスさんは、安らかに天へと……。

 いや、単に動ける程の体力もなく動かなくなっただけだろう。

 

「でも、これだけあんたに借り作って、はいさよなら、なんて言ったら、アタシら兄妹の名が廃るわ」

 

「そんな、見返りなんて別に求めては……」

 

「いいえ、返さなかったらアタシが納得しないのよ! ……うーん、そうね」

 

 顔に手を当て考え始めるルシンダさん。

 程なくして、倒れているニコラスさんをじっと見つめると、やがていい考えが思い浮かんだのか、口を開いた。

 

「よし、そうだわ! アニキ! この人達についていってこの人達を助けてあげなさい」

 

「え?」

 

「る、ルシンダ。なに言ってるんだ、私がいなくてもいいっていうのか、二人で協力して生活を……」

 

「別にアニキがいなくても生活していけるし、てか、アニキがいない方が生活していける自信があるし」

 

 衝撃的な発言に、ニコラスさんは文字通り心身共にゲージがゼロを割ってしまったようだ。

 目に見えてショックを受けている表情をしている。

 

「つか、受けた恩を体で返す、それが人情ってもんでしょうが! 弾よけでもなんでもこの人達の役に立って、受けた分倍返しにしてこいよ。それ位しねぇと見合わないだろうが」

 

「そ、それは……。そうかもしれないけど」

 

「はい、じゃぁ決定! つーわけで、アニキの事、手取り足取りこき使ってくれていいから。あ、もし途中でもう十分だって思ったらいつでも解雇しちゃっていいから」

 

「は、はぁ……。分かりました」

 

 何だか、ニコラスさんの意見を無視して、勝手にニコラスさんが俺達の仲間に加わる事が決定されてしまった。

 

 しかし、ルシンダさんの勢いに押されて返事をしてしまったが、よく考えてみると、これってルシンダさん側へのメリットが多いような気がする。

 ニコラスさんがいなくなる分、その分の食費などが浮くし、改心したとしてもいつまた趣味にかまける癖が出るかもしれない不安を気にする必要もないのだから。

 

 もちろん、俺の側にしてみても、仲間が増えるのはいい事だ。

 ただし、出費分以上の働きをするとの確信もなく、不安を払拭しきれていない分、やはり俺の側の方がデメリットが多いような気がする。

 無論、今後の働き次第では、そんなデメリットもメリットに変わる可能性は十分にある。

 

 というか、これって何だかんだ、ていよく口減らしに俺達を利用しただけじゃないのか。

 ──ルシンダさん、なんて恐ろしい人。

 

 

 

 こうしてニコラスさんが仲間に加わる事が半ば強制的に決定した後、ジミー村のニコラスさんの実家へと戻ってきた俺達。

 既に日も落ちかけている時間帯だったので、出発は明日となり。今夜も、ニコラスさんの実家にお世話になる事となった。

 

「んじゃ、ちゃちゃっと作るから、待っててくれよ」

 

 その為、ルシンダさんが腕に縒りを掛けて夕食を作ってくれる事になったのだが。

 当初、俺はその味にそこまで期待はしていなかった。

 ウェイストランドの食文化もさることながら、あの性格を鑑みるに、ノアさん程ではないものの、食の喜びとは無縁ではないか。

 

 出された料理を実際に口にするまでは、勝手に思い込んでいた。

 

「……うまい!」

 

「そうでしょ、ルシンダは料理の腕前に関しては村一番ですから」

 

「ほら、どんどん作るから遠慮なく食えよ!」

 

 所が、現実は何と奇妙で面白い事か。

 あの性格からは想像もできない繊細な味付け、丁寧な下ごしらえも相まって、まさに美味という感想以外最適な言葉が思いつかない。

 

 加えて、料理を運ぶ手も止まらない。

 

「うむむ、あの性格は家庭を築くのに難儀かとも思ったが、この腕前があるならば、よき家庭を築いていけそうだな」

 

「これでも一応、村ん中じゃ嫁にしたい候補ナンバーワンって言われてんだわ。……てか、ノアさんってスーパーミュータントだったんだ、どうりでデケェわけだ」

 

 一応、ニコラスさんとルシンダさんには、ご縁もあったのでノアさんの正体について明かしたのだが。

 ニコラスさんは案の定驚きを隠せない反応を示したのに対して、ルシンダさんはさほど驚いた様子はなかった。

 

 うむ、やはりルシンダさんは只者ではない。

 

 

 こうして美味しい夕食を済ませ、満足感に浸りながら一夜を過ごした翌朝。

 新たな仲間であるニコラスさんを連れて、俺達はジミー村を出発する。

 

「所でニコラスさん、その塗装は?」

 

「ははは! キャプテン・パワーマンの愛機たるもの星条旗カラーにせずしてなんとする!!」

 

「そういえば昨晩、コソコソ何かをやっていたと思っていたが、まさかこれだったとは」

 

 呆れ声のノアさんを他所に、ニコラスさんは大変満足そうな声を漏らす。

 

「アニキー! ユウー! ノアさーん! 元気でなー!!」

 

 そして、ルシンダさんの声に見送られながら、俺達三人は、一路東を目指して歩み始めるのであった。

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