あの後、なんとかフェラル・グールの群れに見つかることなく逃げ切れた俺達は、再びピップボーイの地図を頼りに目的地を目指し歩き続け。
数十分後、遂に、目的地のノブレス・ザ・ホテルを眺められる距離までやって来る事ができた。
「やはりあの者の言っていた通り、ホテルの正面出入り口は見事に塞がれているな」
大通りに面した一角に建てられているノブレス・ザ・ホテルは、戦前はシカゴなどを訪れる観光客やビジネスマン等に利用されていたのだろう。
前世に存在していたガラス張り、或いはデザイン性重視の外観とは異なり。クラシカルで重厚な外観を、戦後二世紀以上経過した現在でも綺麗に保っている。
だが、そんなホテルの正面出入り口は、廃車や廃材、或いは瓦礫等。様々な物で作られたバリケードが、何人も侵入を許さぬ状態を作り上げていた。
「言われた通り、隣のデパートから連絡橋を使って侵入しましょう」
横道を一本隔てて隣接する、同じくクラシカルで重厚な外観を有するデパートには、三階部分から伸びている連絡橋の姿が見られる。
どうやら見た感じ、連絡橋自体に酷い損傷等は見られないので、今でも利用は可能な筈だ。
「では、行きましょう」
「うむ」
「は、はい!」
幸い、目に見える大通りの範囲内にはフェラル・グール等の敵対生物の姿は見られない。
なので、俺を先頭に、様子を窺っていた建物の影から駆け抜ける様に大通りを突っ切ると、デパートの正面出入り口に飛び込む。
「クリア!」
「クリア!」
「く、くりあ!」
戦前は近隣、或いはノブレス・ザ・ホテルの宿泊客等で賑わっていたであろうデパート内は、今やそんな賑わいが嘘のように静寂に包まれている。
そんなデパートの、エントランスの安全を確認すると、近くに設置されていた案内板を確認し、連絡橋のある階を確認していく。
「三階ですね、行きましょう」
やはり三階から連絡橋を使えるようだ。
確認を終えると、客足がなくなって久しいデパートの内部を警戒しながら進んでいく。
クラシカルな外観同様、内装も、近代的でお洒落なショールームというよりも、何処か古臭さを感じられる。
化粧品店や雑貨店等が並ぶ一階フロアを進み、上層階へと続くエスカレーターを目指す。
一階中心部に設けられているエスカレーターは、デパート自体に電力は供給されてはいても、エスカレーター自体は動かず止まったままであった。
戦前は、左右どちらかが上昇で、どちらかが下降であった筈のそれを、構わず自力で上っていく。
「クリア!」
構えたM4カスタムの銃口と視線を同調させながら、周辺の安全を再び確認すると、残る二人も二階へと昇ってくる。
「三階に上るエスカレーターは、別の場所のようだな」
二階へと昇ってきたノアさんが言う通り、このエスカレーターが設置されているのは、この二階までであった。
三階へと昇る為のエスカレーターは、どうやら二階フロア内の別の場所に設置されているようだ。
「それじゃ、行きましょう」
二階は主に婦人服売り場のようで、区間という区間に、女性用の衣類が陳列されている。
また、見本として全身コーディネートされたマネキンの数々も目に付く。
そんなフロア内をエスカレーターを捜索しながら進んでいると、ふと、とある店の奥まった場所に置かれた一体のマネキンに目が留まる。
「あれ? あのマネキン、表面が妙にボロボロだけど……」
小奇麗な状態の、戦前のデニムのドレスを着込んだそのマネキンは、零れた言葉通り、何故か表面が他のマネキンと異なり変色したり傷ついてボロボロのようにも見えた。
そんなマネキンもあるだろうと、気にしない事も出来たが、何故か気になり、目を細めて更に観察する。
「ん?」
すると、次の瞬間、少しだけ、腕が動いたような気がした。
「まさかな……」
それで更に気になったので、フェイントをかけてみる事にした。
俺が気にしなくなったふりをして、その場を立ち去ろうと見せかけて、実際には素振りだけで立ち去る事はない、というものだ。
「お」
すると、俺のフェイントにつられる様に、謎のマネキンの両手両足が見事なまでに動く。
そして、確信する。あれはマネキンではないと。
ではあれは一体何なのか、と問われれば、答えは決まっている。
「ガァァァッ!!」
もはや隠す気もなく本能のまま襲い掛かってくる、フェラル・グール、だ。
「この!」
構えたM4カスタムの銃口が火を噴き、火線が鮮やかな衣服の間を通り抜け、マネキンに擬態していたフェラル・グールを貫く。
「い、今のは一体?」
「マネキンに擬態したフェラル・グールのようです」
「むぅ、それは少し厄介だな」
倒れた拍子に商品が巻き上がり、衣服の墳墓に埋まったフェラル・グールを他所に。
俺達はマネキン擬態を行うフェラル・グールの登場に対して話し合う。
といっても、具体的に効果的な対応策も思いつかないので、結局臨機応変に対処する、という事で再びエスカレーター捜索を再開する。
こうして捜索を再開して暫くした頃、目当てのエスカレーターを発見したのだが。
「困りましたね」
「うむ、これでは三階に上がれん」
「ど、どうしましょう」
発見したエスカレーターは、何と瓦礫で通行不可能となっていたのだ。
デパートの外観からは核戦争の影響をさほど感じなかったが、経年劣化によるものか、戦後二世紀以上にわたり保守点検が行われていない事実とその影響を、まざまざと感じずにはいられない。
「まだ電気が通っているなら、エレベーターが使えるかもしれません」
「いや、エレベーターはやめておいた方がいいだろう。今の私やニコラスでは重量オーバーで、乗った途端に落下しかねん」
「確かに、そうですね」
「それよりも、非常階段なら、確実に三階へと上がれる筈だ」
こうして、非常階段を使って三階へと向かう事になったのだが。
その矢先、ふと足音のようなものが聞こえたので、音の方を振り向いてみると。
「あ……」
そこには、まるでだるまさんが転んだの如く、動きを止めて、自らをマネキンに擬態させた色とりどりの衣服に身を包んだフェラル・グール達の姿があった。
フェラル・グールに変わる前は全員女性だったのか、或いは婦人服売り場だから仕方がないのか、全員もれなく女性用の衣服を着込んでいる。
殆どは常識的なコーディネートなのだが、一部、常識の範囲外のコーディネートが見られる。
カジュアルな服の上から下着を着込んだり、下着のみでストッキングにブーツを履いていたり、更には際ど過ぎる下着に加え、本来被るものではない筈の下着を被っている個体までおり。
別の意味で恐怖を感じずにはいられない。
「あれって、やっぱり」
「だろうな」
「ヤバいです、色々とヤバいです」
とはいえ、このまま動かないでは非常階段も探せない為。
ここは、強行突破させてもらうとしよう。
「グレネードで突破します!」
久々にV.A.T.S.を発動させえると、手にしたM26手榴弾の安全ピンを抜き、それをフェラル・グール達目掛けて放り込む。
フェラル・グール達から見ると、高速で放り込まれたM26手榴弾は、回避行動を十分に起こす間もなく、爆破エネルギーを放出させる。
爆破の影響で引き裂かれる身体に衣類、しかし、何故か被った下着だけは、裂かれる事なく残っているのであった。
「行きましょう!」
「え!? い、今、何が起こったんですか!?」
「……兎に角行くぞ!」
初めてV.A.T.S.を目の当たりにしたニコラスさんは、そのあまりに一瞬の出来事に、困惑を隠せない様子。
しかし、ノアさんは、かつて自身も使用した事があるのか、何が起こったのかを察すると、ニコラスさんに移動を促すのであった。
「ま、まだ来ます!」
こうして強行突破したのもつかの間。
一体何処に隠れていたのか、フェラル・グール達が次々と姿を現し、俺達に襲い掛かってくる。
「む、あったぞ、あそこだ!」
襲い来るフェラル・グール達に応戦しつつ、ようやく非常階段を見つけた俺達は、急いで非常階段を駆け上ると、三階に飛び込む。
「おいおい、冗談だろ……」
が、飛び込んだ三階、紳士服売り場も。
紳士な服装、或いは"変態"紳士な服装に身を包んだフェラル・グール達の巣窟であった。
「兎に角、連絡橋まで突っ切るぞ!」
終わらないフェラル・グール達との命を懸けた追いかけっこを繰り広げつつ、俺達はノブレス・ザ・ホテルへとつながる連絡橋を目指して突き進む。
襲いくるブリーフ一丁にネクタイを結んだ変態フェラル・グールの眉間に5.56mm弾を叩き込み。
パンツ一丁にコートといういで立ちの変態フェラル・グールを、ノアさんが自慢の拳で吹き飛ばしたり。
ニコラスさんが慌ててマネキンに10mm弾を撃ち込んだりと。
色々とありつつ、俺達は何とか連絡橋へと続く扉をぶち破るように飛び込むと、そのまま連絡橋から見える風景を楽しむ間もなく、ノブレス・ザ・ホテルの出入り口に飛び込んだ。
ノブレス・ザ・ホテルへと飛び込んだ俺達を出迎えたのは、散らかった様子のラウンジであった。
ここに逃げ込んできたタロン社の方々が散らかしたのか、それともそれ以前にやって来た者たちが散らかしたのか。
何れにせよ、戦前製の高価な家具や救急箱等が、無造作に散らかっている様は、もはやこの建物がホテルとしての機能を喪失している事を理解させる。
「うむ、よし、これでいいだろう」
「ノアさん、何をしているんですか?」
「この椅子を使って扉を塞いでいるんだ」
ノアさんは、片手で軽々と持ち上げた椅子を出入り口の取っ手下に置くと、簡易的なバリケードを完成させる。
ホテルに入り込む時にフェラル・グールの追ってくる姿は見えなかったが、あるに越したことはない。
こうして後方の安全を確保すると、ここから屋上に向かうまでのフェラル・グールとの遭遇に備えての準備を整える。
空マガジン回収用のダンプポーチに入れていた空マガジンに弾を込めていくと、再度利用可能にし、マガジンポーチに収納していく。
ノアさんもニコラスさんも、各々準備を整え、こうして全員の準備が整うと、いよいよホテルの屋上を目指しラウンジを後にする。
「うむ、少し狭いな……」
ホテルの廊下は、お洒落なカーペットやランプ等で装飾されてはいたが、その幅は、先ほどのデパートに比べると、ノアさんにとっては少々窮屈な程度であった。
そんな廊下を歩き、四階へと上る階段を上り四階に到着すると、更に上階へと上る階段を探すべく廊下を進む。
と、進むべき廊下が、瓦礫で塞がれ進めなくなっている。
どうやら、デパート同様、このノブレス・ザ・ホテルもまた、核戦争の影響を間接的に受け、内部は戦前通りに通行できる状態ではないようだ。
「どうしましょう、これじゃ屋上に行けないんじゃ……」
「ニコラスさん、まだ諦めのは早いかと。他の道を探しましょう」
「そうだな。……なに、もし迂回路が見つからなければ、私のこの拳で、無理やりにでも道を作ってやろう」
確かに、ノアさんの圧倒的なパワーなら、壁をぶち抜いて抜け道を作る事ぐらい造作もなさそうだ。
そんな事を思いつつ、迂回路を探し四階内を歩き回る。
「クリア!」
「うわぁぁ! は、白骨体! タロン社の社員のでしょうか?」
「もしそうなら、白骨化するまでの時間が短すぎますから、おそらく戦前の利用者か従業員でしょう」
迂回路を探す為に扉を蹴り破って入った部屋には、見事に白骨化した白骨体が一体、床に倒れていた。
「どうやらこの白骨体の正体は、宿泊客のようだぞ」
部屋のテーブルに置かれていた物をのぞき込んでいたノアさんの言葉が気になり、俺もテーブルに置かれていたある物をのぞき込む事にした。
のぞき込んだそれは、どうやら白骨体が書いたと思しき日記であった。
──このホテルのアメニティグッズはどうなってるんだ、シャンプーを使おうとしたら中身は水みたいに薄い、おまけに石鹸は全然泡立たない。
──アメニティグッズだけじゃない、このホテルはサービスも最悪だ。宿泊客は無料でソフトクリームを食べられると謳っていたのに、今は機械が壊れていてサービスを受けられないと言いやがる。
──それに加え、荷物持ち用のMr.ハンディまでも、メーカーで点検中でいないので、自分で部屋まで荷物を持って行けと言われた。
──くそ! これも全部、戦争のせいなのか。戦争のお陰で、最近じゃ物資の値上がりや品質の低下が著しく感じる。
──あぁ、どうにもならないこの怒りを日記に書き綴った所で、この怒りは収まりそうもない。こうなったら、ビールでも飲んでさっさと忘れるに限るか。
書かれた内容を目にし、今なお残る戦前の豊かさの陰に隠れた部分を垣間見つつ、俺は仏様に対して静かに手を合わせる。
「さぁ、捜索を再開しましょう」
その後部屋の隅々で迂回路を探したが、特にそれらしいものもなく。
この部屋を後にすると、別の部屋へと入る。
そこでは、壁に不自然に開いた人が通れるほどの穴を発見し、穴の奥へと進む事ができた。
穴の奥は、更に別の部屋につながっており、その部屋の壁にも、人が通れるほどの穴が確認できた。
こうして穴を通って部屋を通り抜けると、やがて穴の開いていない部屋に突き当たり。
その部屋から廊下へと出た時、そこが、先ほど俺達が通れずに立ち往生した瓦礫の向こう側。即ち迂回路を通ってきたのだと理解する事が出来た。
さて、この迷宮と化したホテルの屋上を目指し、更に進んでいこう。