Fallout THE ORIGIN   作:ダルマ

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第二十六話 最後の一撃は、切ない

 火線が見事な線を描き、その先に佇んでいたそれを反り返らせる。

 ホテルは地獄、と言われた通り、ホテル内は少し歩けばフェラル・グールと遭遇する程、フェラル・グール達の巣窟と化していた。

 

 既に十数体名となるフェラル・グールを片付け終えると、屋上を目指し、老朽化による天井等の崩落で迷宮と化したホテル内を歩き回る。

 

 途中で目にした案内板によると、このホテルは全部で十五の階層からなっているようで、現在俺達がいるのは丁度半分を超えた八階だ。

 そんな八階内を進んでいると、ふと廊下に敷かれているカーペットに、カーペットの色とは異なる赤色を見つける。

 

「血だまり?」

 

 近づいて確かめてみると、それは間違いなく血だまりであった。

 しかも、出来てからまだ時間が経過していないのか、まだ微かに乾ききっていない部分が見られる。

 加えて、その血だまりから何かが引き摺られたのか、血の線が近くの扉の先へと延びている。

 

「開けます」

 

「うむ」

 

「は、はい」

 

 この血だまりの正体を確かめるべく、血の線が続いている扉をゆっくりと開いていく。

 微かな音を立て開いた扉の先には、更に続く血の線と、その終着点である、まるで力尽きたようにベッドにもたれかけている一体の死体の姿があった。

 

「どうやら、血だまりの正体はこの仏様のようですね」

 

「のようだな」

 

 これまで見てきた白骨化した死体とは異なる、まだ生前の姿をしっかりと保っているその死体は、右足や左手などにえぐられた様な痛々しい傷跡が見られる。

 どうやら、血だまりはこれらの負傷によって出来たもののようだ。

 

「あの、この格好、タロン社の社員、ですよね?」

 

「みたいですね。ミロさんと同じ装いですから」

 

 そして、この死体の正体は、一目で判断できた。

 着崩してはいるものの、黒一色に塗装されたコンバットアーマーは、間違いなくタロン社の証。

 

 おそらく、ミロさんの同僚だろう。

 

「力尽きるまで戦い、そして、いったのだろう。勇敢な戦士だ、せめて、最後に敬意を表し、彼の勇気を称えよう」

 

 ノアさんの手に握られていたのは、血で赤く染まったR91アサルトライフルであった。

 負傷してもなお、最後まで戦い抜いたのだろう。

 ノアさんの言葉通り、俺達は敬礼で彼の敬意を表すと、彼の墓標たる部屋を後にするのであった。

 

 

 

 その後、ノアさんの怪力を使って壁をぶち抜いて道を作ったり。

 金庫を抱き抱える様に白骨化している白骨体や、使用済みの注射器が散乱するベッドで横たわる白骨体等の部屋を通り抜け。

 道中諦めの悪いフェラル・グールとの戦闘を繰り広げつつ。

 

 俺達はあと少しで屋上に到着する十三階まで足を運んだ。

 

 十三階へと上る階段を上り十三階へと到着すると、そこは、それまでの階層とは様相が異なっていた。

 この階層から上はスイートなのか、廊下の装飾なども、それまでの階層とは異なり、優美さを漂わせている。

 また、部屋数も少ないのか、扉の間隔もかなりあいている。

 

 そんな十三階の、崩落なく途中行き止まりもない直線の廊下を歩いていると、廊下の先にある角から、不意に巨大な何かが姿を現した。

 

「!?」

 

 一瞬、その輪郭からスーパーミュータントかと思ったのだが、改めて観察すると、それはスーパーミュータントではなかった。

 大きさこそスーパーミュータントに近いが、その肌はグールのように爛れ、アンバランスな程に右腕が異常に発達している。

 

 あれ、あんな外見をしたクリーチャー、フォールアウトのどのシリーズにいなかったような気がするが。

 いや待てよ、フォールアウトのシリーズではいなかったが、別のゲーム、それもゾンビを題材としたFPSゲームに登場していたような。

 

「グォォォォォォッ!!!」

 

 刹那、暢気に記憶の棚を開け閉めしている俺の意識を現実に呼び戻すように、謎のクリーチャーは咆哮をあげる。

 

 次の瞬間、謎のクリーチャーは異常に発達した右腕を構えながら、俺達目掛け、直線の廊下を猛スピードで突進してきた。

 逃げ場のない廊下、部屋に退避しようにも、丁度扉と扉の間の空間に立っている俺達。もはや、絶体絶命か。

 

「私の後ろに隠れろ!」

 

 と思われた瞬間、ノアさんが声をあげる。

 それに従うように、先頭を歩いていた俺は、ノアさんの後ろに急いで隠れる。

 

「どうするんですか?」

 

「決まっている……」

 

 何か妙案があるのかとノアさんに尋ねてみると。

 ノアさんは、その巨大な両腕を広げる。

 それはまさに、あの謎のクリーチャーの突進を受け止めんと言わんばかりに。

 

「え、ノアさん!?」

 

「さぁ、こい!!」

 

「グォォォォォォッ!!!」

 

 再び響く謎のクリーチャーの咆哮。

 

「ウォォォッ!!」

 

 そして、負けじとノアさんの雄たけびも響き渡る。

 

「ぬぅぅっ!!」

 

 刹那、巨体と巨体がぶつかり合い、ノアさんの巨体が揺れる。

 

「ぬぅぅぅ!!」

 

「オオオォォォ!!」

 

 互いに力は拮抗しているのか、互いに一歩も引くことなく、まさにがっぷり四つの如く動く気配がない。

 しかし、そんな状態が数分続いた後、遂に動きがあった。

 

「貴様は何の為に自ら前へと進む?」

 

「オ?」

 

「……判らぬか。では、この勝負」

 

 刹那、謎のクリーチャーの勢いを跳ね返すように、ノアさんが一歩を踏み出す。

 

「私の勝ちだぁぁぁつ!!」

 

「オォ!?」

 

 次の瞬間、ノアさんは謎のクリーチャーを押し出しながら、走るスピードを上げていくと。

 やがて、勢いよく謎のクリーチャーを廊下の先の壁へと押し付ける。

 

「ぬぉぉぉぉっ!!」

 

 しかし、押し付けただけでは終わらない。

 それを物語るように、謎のクリーチャーが押し付けられた壁には、徐々に亀裂が走っていく。

 

「おぉぉぉぉっ!!」

 

 やがて、ノアさんの雄たけびが響き渡ると同時に、遂に、壁がかかる力に耐えきれず、崩壊する。

 そして当然、壁に押し付けられていた謎のクリーチャーは、支えとなる壁が崩壊し支えがなくなった事で、そのまま壁の向こう側へと姿を消す。

 

 当然ながら、ここは十三階。壁の向こう側に、地面などある筈ない。

 

 急いで崩壊した壁の傍まで駆け寄ると、ぽっかりと穴の開いた壁の向こう側の状況をのぞき込む。

 どうやらホテルの正面側にあたるようで、四十メートルほど下に見下ろせる大通りには、先ほどまで俺達に突進を仕掛けてきた謎のクリーチャーが、大量の血だまりと共に物言わぬオブジェクトと化していた。

 

「護るべきもののない者に、私は負けん」

 

 謎のクリーチャーとの戦いを経て、ノアさんは、独り言のようにそう呟くのであった。

 

「では、行くとするとか、屋上はもうすぐの筈だ」

 

 こうして、謎のクリーチャーの脅威を排除した俺達は、再び屋上を目指して歩き始めたのだが。

 その矢先、ノアさんが複数の音が聞こえると口にする。

 どうやら音の発生源は、俺達が上ってきた階段かららしい。

 

 なんだか嫌な予感を覚えつつ廊下の先、階段の方を眺めていると、次の瞬間、フェラル・グールの集団がその姿を現した。

 

「に、ニコラスさん! 撃って、撃ってください!」

 

「は、はい!」

 

 迫りくるフェラル・グールの集団に、俺とニコラスさんは手にしている銃器を発砲する。

 しかし、数体倒れた所で、まるで開いた穴を塞ぐかの如く、新しいフェラル・グールが次から次へと姿を現す。

 

「ノアさん、先に行って通路の確保を!」

 

「分かった!」

 

 これは戦っていてもきりがないと判断し、ノアさんに先行して通路の確保を行ってもらうよう指示を飛ばす。

 

「む! これでは進めんぞ!」

 

 すると、ノアさんの嫌な声が聞こえてくる。

 角を曲がったその先、ノアさんの巨体で全体像は見えないまでも、隙間から微かに見えるのは、崩落の瓦礫により途中で通行止めとなった廊下の様子であった。

 

「ノアさん! その横の扉を!」

 

「おぉ、分かった……ん?」

 

「どうしたんです!?」

 

「鍵は開いているが、扉が開かん。……何かが引っ掛かっているようだ」

 

 しかし、ノアさんのすぐ横に扉を発見し、まだ活路は見いだせると思った矢先。

 ドアノブに手をかけたノアさんから、またも嫌な言葉が漏れる。

 

「ノアさん、力づく! 強引に開けてください!!」

 

 が、何の為の巨体だ、何の為のスペースマリーンパワーアーマーだ。

 俺の言葉に、壁を容易くぶち抜いた事を思い出してくれたのか、ノアさんは扉に向かい体を構えると、次の瞬間、扉を、その枠ごと豪快にぶち破るのであった。

 

「いいぞ、早く!」

 

「ニコラスさん、行きますよ」

 

「は、はい!」

 

 新たな活路が開かれたのを確認すると、俺とニコラスさんは、銃撃の手を緩める事無くぶち破られた扉の方へと移動していく。

 こうして、ぶち破られた扉の前までやって来たのだが、ぶち破られた扉の先に広がる光景を目にして、思わず二度見してしまった。

 

「な!?」

 

 そこには、豪華なスイートルームのリビングの床に大きく開いた、大穴の姿があったからだ。

 大穴はリビングの大部分を占める為、迂回路など見当たらない。

 だから架けられたのか、大穴には、鉄板で出来た橋が架けられていた。

 

 ノアさんが架けた、訳ではないだろう。架ける時間などないに等しいのだから。

 では誰が、おそらく、俺達が救助に向かっているタロン社の社員達だろう。

 

「な、ナカジマさん、ここ、ここは私が引き留めておきますから! お先に!」

 

 と、考察していると、不意にニコラスさんから意外な言葉が飛び出す。

 

「え!? ですけど……」

 

「わ、私は大丈夫です! だからナカジマさん、早く!」

 

 専用ドアシールドでフェラル・グールの猛攻を受け止めている、ニコラスさんの覚悟を無下にする訳にはいかない。

 俺はニコラスさんに背中を任せると、隙を見て橋の前まで移動する。

 

「早く!」

 

 橋の対岸には、既に橋を渡ったノアさんの姿があった。

 ノアさん程の巨体でも渡れるのだから、強度は問題ないだろう。

 

 ──本当に渡ったんだよね。

 ノアさんの身体能力なら、これ位の直径の大穴、飛び越えられない事もない気がするが。いや、余計な考えは止めておこう。

 

「……うわ」

 

 こういう高い所に架けられている橋を渡る場合、あまり下を見ない方がいいと言われるが。

 人間には、怖いもの見たさ、という好奇心に駆られ怖いものでもつい見てしまいたくなる衝動が存在する。

 

 そして、俺は今まさに、そんな衝動に駆られ、大穴の下をのぞき込んでいる。

 

 まるで吸い込まれるかのように広がる大穴の底、下層まで突き抜けたその高さは、おそらく十階相当だろう。

 足を滑らせ落ちてしまえば、ひとたまりもない。

 

「何をしている、早く渡るんだ!」

 

 と、橋を渡る途中で暢気に大穴をのぞき込んでいた俺の意識を呼び覚ますように、ノアさんの声が耳に届くや。

 俺は意識を再び現実へと引き戻し、足早に橋を渡るのであった。

 

「ニコラスさん、ニコラスさんも早く!!」

 

「は、はいぃ!」

 

 隙を見て、フェラル・グールの猛攻をはねのけたニコラスさんも、急いで橋を渡り、こうして全員が無事に橋を渡りきる。

 

 だが、それでフェラル・グールの猛攻から逃れられた訳ではない。

 フェラル・グール達もまた、橋を渡り俺達に追いつこうとする。

 

「ふんっ!!」

 

 が、それは叶わなかった。

 何故なら、ノアさんがその脅威の怪力で鉄板の橋を持ち上げ、橋を渡れなくしたからだ。

 

 渡るべき橋がある前提で、勢いよく渡ろうとしていた矢先に橋が持ち上げられたものだから。

 フェラル・グール達は急ブレーキをかけたものの、勢い余って次々に大穴の底へと姿を消していく。

 

「あ……」

 

 が、最後尾に位置取っていたフェラル・グールは、ギリギリの所で落下を免れたものの、踏ん張りをなくせば今にも落ちそうなほどだ。

 

「お?」

 

 このまま放っておいてもいいが、やはり後々の為にも、一体とはいえ片付けない訳にはいかない。

 なので、足元に落ちていた、丁度いいサイズのコンクリートの破片を拾うと、それを、踏ん張っているフェラル・グール目掛けて投げる。

 

「ガァァァァァァ……」

 

 切ない最後の一撃を受けたフェラル・グールは、断末魔をあげながら、大穴の底へと姿を消すのであった。

 

「……ふぅ、では、行くとするか」

 

 こうしてフェラル・グール達が姿を消し、再び橋を架けなおしたノアさんを先頭に、俺達は再び屋上を目指して足を進め始める。

 

 

 

 そして、残りの階層も無事に突破し、俺達はようやく、屋上へと続く階段へとたどり着いた。

 一歩一歩、階段を上り、屋上へと繋がる扉を開けた俺達を待っていたのは、突然の銃声であった。

 

「ぬ!?」

 

 刹那、先頭を歩いていたノアさんのスペースマリーンパワーアーマーに対し、幾多もの銃弾が叩きつけられる。

 

「ま、待って下さい! 俺達は人間です! 敵じゃありません!!」

 

 枯れんばかりに叫んだ俺の声が届いたのか、不意に、銃声が止み静寂が訪れる。

 

「ノアさん、大丈夫ですか!?」

 

「これ位、どうという事はいない」

 

 ノアさんの無事も確認し終えると、俺達の方へと歩み寄ってくる人影に気が付く。

 

「すまなかった、フェラル・グールの襲撃に怯え、神経質になり過ぎていたようだ」

 

 黒一色に塗装されたコンバットアーマーの節々から鍛えられた肉体を覗かせ、立派に蓄えられた髭を整え、頭頂部に燦然と輝くモヒカン刈りを備えたその男性は。

 次いで自らの自己紹介を始めた。

 

「私はタロン社の社員で、"ロード・バイロ"、バイロ班の班長をしている」

 

 ロード・バイロと名乗った男性こそ、ミロさんの上司である班長のようだ。

 ロード・バイロと握手を交わし、俺達も自己紹介と共に、ここまでやって来た目的を伝える。

 

 まさか伝令に出した部下が、途中で出会った見ず知らずの俺達に自分達の救助を求めた事には呆れずにはいられないようだったが。

 

「君達があの地獄を突破し、ここまでやって来れた事を考慮すると、君達の戦闘力の高さは本物であると認めざるを得んな」

 

 逃げ出す事もなく、俺達が実際にここまで足を運んだ事実から、俺達の事は信頼してもよいと判断してくれたようだ。

 

 

 因みに、信頼を深める一環で、ロード・バイロというのは本名かどうかを尋ねると、どうやら"ロード"というのはタロン社内の役職のようなもので。

 上から、究極のエクストラロード、極上のオーバーロード、至高のオーバーロード、オーバーロード、至高のロード、ロード、そして平社員となる。

 

 この衝撃の事実を聞いた俺は、流石は伝説のジャブスコ司令を輩出した会社だ。と内心感心するのであった。

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