Fallout THE ORIGIN   作:ダルマ

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第三話 終末ハッピーバースデー

 ピップボーイ、フォールアウトという作品を語る上で外す事のできないアイテムの一つだ。

 ナンバリングタイトルごとに手持ちや着用型など様々な形状をした各モデルが登場しているが、基本的には個人用の携帯型端末だ。

 所有者当人の健康状態や持ち物の管理、更には位置情報にラジオ、ホロテープの再生等々。多種多様な機能を備え。

 中でも、一番の目玉というべきが『V.A.T.S.(バッツ)』と呼ばれる戦闘支援システムだ。このシステムを用いれば、まさにど派手なアクション映画よろしく素晴らしいバレットタイムを体験できる。

 

 まさにこれ一台でお悩み解決な、万能携帯型端末だ。

 

 

 そんなピップボーイであるが、なんとこのリーアにも存在している。

 ゲームではボルトの住民にのみ支給され、その希少価値を高めるのに一役買っていたが、この世界ではそうではない。

 

 何故リーアにもピップボーイが存在しているのか。これは個人的な推測だが、おそらくピップボーイの高性能故ではないかと考えられる。

 ゲームシステムだからと身も蓋もない話は置いておくが、日常生活から戦闘まで、様々な場面で活躍する程の性能を秘めた物が、お手頃価格な筈はないだろう。

 前世におけるスーパーコンピューター程の超高額ではないにしろ、高性能パソコン以上の製品単価は掛かっていたと思われる。

 

 それをボルト居住者分調達するとなると相応の金額となる事は容易に想像できる。

 しかも、調達側であるアメリカ政府が用意できる予算は当然限りがあり。

 ボルトの建造費や他の備品代等々、関連予算の内訳を想像するに、ピップボーイのみ潤沢に予算を投入することは難しい。

 

 となれば、調達側である当時のアメリカ政府も、製造企業側の言い値でゴーサインを出すとは考えず辛く。価格を抑えるべく様々な努力を行った事だろう。

 ではそれはどんな努力かといえば、利用者の増大だ。

 利用者が増えればその分更なる増産を行わざるを得ない、そうなれば、製品の大量生産により価格は抑えられる。つまり、限られた予算でも調達できる数が増える。

 

 おそらく最初に手を付けたのは、政府の意向を反映しやすい軍からだろう。

 V.A.T.S.を用いれば、当時資源戦争で戦っていた中国軍を一方的に叩ける筈と夢を見るのは想像に難くない。

 だが、現実は政府側の予想以上に、軍にピップボーイが普及することはなかった。

 それは、ピップボーイを用いなくとも、当時配備が始まっていたパワーアーマーが既に期待以上の戦果を挙げていた為。そして、実際装着する兵士たちからの拒絶の声もあったのだろう。

 ゲームでは分からないが、おそらくインプラント手術に似た感覚や、防諜をはじめ様々な対策面からくる専門技師による正規の手順のみでの取り外しといった不便さ、更には拒絶反応等。

 現場レベルでは書類の上では見えなかった様々な問題が噴出し、普及はとん挫。

 

 そこで次に目を付けたのが、コロニーにおける普及だ。

 コロニーの建造は政府が主導的な立場にあるので、ピップボーイを新に導入させる事は難しくない。

 だが、軍と同じ轍を踏むのを避けたい政府側は、二の矢として民間での普及も同時進行で展開したと思われる。

 

 軍用とは異なる、一部の機能を制限した民生用と呼ばれる物を開発させ、導入を促したのだろう。

 しかし、民生用とはいえ、おそらく基を考えるにオーバースペックな性能を誇るものに仕上がっており、結局一般家庭程度では取扱いに困る品物となってしまい、これもまた普及しなかったと思われる。

 

 結局、軍と民間の普及を失敗し、残された選択肢はコロニー一択となってしまったのだろう。

 それでも、ボルトの住民のみに導入するよりは価格を抑えられる効果が多少はある為、コロニーへの導入は続けられ。

 こうして、コロニーの住人も、ボルトの住人同様、ピップボーイを手に入れる事となったものと思われる。

 

 

 

 等と俺の推測をつらつらと書き記したが、もはやそんな背景は今はどうでもいい。

 大事なのは、このリーアにもピップボーイが存在し、それが住人に支給されているという事実だ。

 そう、このリーアの住民であれば、誰もがVaultの住人に、選ばれし者に、孤独な放浪者に、或いは運び屋や唯一の生存者になれる権利を持っているのだ。

 

 そしてその権利は、この俺も有している。そう、俺もだ。

 

 その権利が有効となるのは、支給対象者が満十歳となる事。

 そう、ボルト101と同様、このリーアでも十歳となるとピップボーイが支給され大人の仲間入りとなる、故に、大人と同じくリーア内で仕事に就く事ができる。

 のだが、どうやら仕事に就くとの規約はすでに形骸化しており。

 実際に仕事に就くのは、高校を卒業してからとなるようだ。

 

 尤も、ピップボーイを受け取れる事実に比べれば、取るに足らない事だ。

 

 

 さて、時の流れは早いものである。

 ついこの間まで九歳であった筈の俺の新たな肉体は、今日この日、満を持して十歳の節目を迎えた。

 

 それこそ、嬉しさのあまり昨夜などなかなか寝付けなかったほどだ。

 お陰で、学校での授業中に襲い来る睡魔との戦いは熾烈を極めた。

 だが、そんな戦いに勝利し、俺は意気揚々と栄光のロード(帰り道)を歩む。

 

 さぁ、時は満ちた。

 いざ今こそ、栄光の自宅に向かってまっしぐらだ。

 

 因みに、ピップボーイの受領はボルト101のように最高責任者から受け取るのではなく、支給対象者の親から受け取る事になっている。

 尤も、今の俺には誰から受け取った所で違いなどない。

 

「ただいまー」

 

 自宅の玄関を潜ってリビングキッチンへと繋がる扉を開けると、次の瞬間。

 

「せーの、おめでとー!」

 

「おめでとう!」

 

「おめでとうございいます! ユウ坊ちゃま!」

 

 そこには、今朝までとは違った世界が広がっていた。

 天井を覆う色とりどりのフラッグガーランドに、カラフルなバルーンの数々。更には、『ハッピーバースデー・ユウ』と書かれた垂れ幕に、美味しそうなケーキや料理の数々。

 そして、カラフルな三角帽子を被り、クラッカーを鳴らす両親やオネット。そして、決定的瞬間をカメラで撮影するグレッグの職場の同僚の姿。

 

 数時間前の見慣れたリビングキッチンは、今や俺の誕生日を祝うパーティー会場へと変貌していた。

 

「あ、あ」

 

「ははは、驚いたか? ユウ。実はな、ユウには内緒でこっそりとパーティーの計画を立ててたんだ」

 

「凄い! ありがとう!!」

 

 前世でも、お祝いこそされど、パーティーなんてしてもらった事はなかった。

 故に、俺は心の底から感謝の言葉が漏れる。同時に、屈託のない笑顔も。

 

「わたくしも、飾り付けのお手伝いを致しましたんですよ」

 

「オネットも、ありがとう」

 

「いえいえ、記念すべきユウ坊ちゃまの十歳のバースデーです。わたくし、張り切りました」

 

「アントムも、来てくれてありがとう!」

 

「ははは、一生に一度しかやって来ないユウの大切な日だからな。仕事を休んででも駆けつけねぇと」

 

 赤い縮毛を揺らし白い歯を見せて祝福してくれるのは、グレッグの同僚でグレッグが班長を務める班の一人でもあるアントム・ラッセルだ。

 

「にしても大きくなったよな、ちょっと前まではこんなに小さかったのに、本当、子どもが育つのはあっという間だな」

 

 アントムは俺が生まれて間もなくの頃から俺の事を知っており、俺の事を我が子のように可愛がってくれている。

 だがこれは、俺が上司のご子息だからという訳ではない。

 というのも、アントムは結婚こそしているが、残念なことに子供に恵まれず、だからこそ俺に対して我が子のように愛情深く接してくれる。

 そんな彼の気持ちに応えるべく、俺も、彼の事は年の離れた兄弟のように接している。

 

「さぁ、そろそろ美味しい料理を食べましょう。冷めない内に」

 

「そうだな。ユウ、手を洗っておいで、ユウの為にメリッサが腕によりをかけた美味しい料理を食べよう」

 

「うん!」

 

「いや~、メリッサさんの作る料理は最高ですからね。そんな料理を食べれるなんて、やっぱり来て正解だったな!」

 

「アントム、もしかして僕の誕生日よりお母さんの料理が目当てだったの?」

 

「え、んなわけないだろ。ユウの大切な日を共に祝える方が一番に決まってるだろ。で、二番目がメリッサさんの料理だな」

 

「じゃ、リリアナさんの料理は何番なの?」

 

「……、そりゃ、あれだ。……順位なんてつ、つけられねぇよ! あぁ、そうだ、うん」

 

 因みに、アントムの奥さんであるリリアナの料理の腕前は、彼の反応から察せられるように、あまりおい──否、個性的であるのだ。

 そう、個性的なだけなのだ。

 先月、アントムの誕生日に家族でお祝いに駆け付け、そこで振舞われたリリアナさんの料理の味は、今でも思い出すと、いややめておこう。

 

 

 さて、アントムとのやり取りもそこそこに切り上げ、グレッグに言われた通り手洗いうがいを済ませると、楽しいバースデーパーティーが幕を開ける。

 

「ユウ。お前が喜ぶプレゼントがあるんだが、なんだと思う?」

 

「んーとね、『ヌカコーラで学ぶマクロ経済学』かな。それとも、『プロテクトロン式プログラミング教本』とか? もしかして、『ボクシング入門』?」

 

「……、ははは! ユウ、お前は相変わらず勉強熱心だな!」

 

 おそらく、アントムはもっと年相応の答えを期待したのだと思うが、俺の口から出た予想外の答えに一瞬言葉を詰まらせる。

 

 前世では、あまり勉強なんて積極的にやりたいとは思わなかったが、この世界では、前世以上に知識は何物にも代えがたい貴重な財産だ。

 特に、リーアの外の世界は教養なんて言葉とは縁遠い世界だ。

 故に、俺は転生した翌日から、可能な限りの書物を読み漁り知識を蓄えている。

 といっても、やっぱり得意不得意はあり、苦手な分野もあるのだが。それでも、この世界でより良い未来を選択できる可能性のため、日夜励んでいる。

 

 因みに、俺が転生する以前から、この肉体の持ち主は勉強を疎かにするタイプではなかったらしく。

 急に学ぶことの楽しさに目覚めたと、周りの人々に怪しまれる事はなかった。

 

「そんな勉強熱心なユウにぴったりな、息抜きできるプレゼントだ」

 

 開けてからのお楽しみとばかりにアントムから手渡されたラッピング袋。

 留め具を外し、中身を取り出すと、それは、一冊の漫画であった。

 星条旗カラーに塗装されたパワーアーマーが、勇ましいポーズで表紙を飾る。

 

「どうだ? 嬉しいだろ!? 『キャプテン・パワーマン』のコミック創刊号だ! しかもオリジナルだぞ!!」

 

 キャプテン・パワーマンとは、戦前に存在していたハブリス・コミック社という出版社から発売されていた漫画の一つである。

 その内容は、宇宙人の侵略に際して危機に陥ったアメリカを救うべく、超人兵士血清を投与され、高い知能と強靭な肉体を経た主人公が、星条旗カラーに塗装されたパワーアーマーを装備し宇宙人と戦うというもので。

 前世の記憶を持つ俺からすれば、その内容はまさに、前世のアメリカで絶大な人気を誇っていた某漫画出版社の漫画の内容が入り混じったものと言えた。

 

 因みに、ボルト同様に娯楽文化が乏しいリーアであるが、最初の居住者が持ち込んだのか、それなりに娯楽用の書物は存在している。

 だがやはりというべき、刊行ものは不揃いなものが多い。

 しかし、抜けた物語の部分を各々が想像し、更に楽しむという新たな娯楽を生み出している。

 

 そんな中で、何故かキャプテン・パワーマンに関しては創刊号から最新刊まで揃っており。

 しかも、状態が良かったからか、或いは持ち込んだ当人の熱意が当時の人々を突き動かしたのか。何故か複写され、ある程度の数がリーア内で今なお現存している。

 

 その為、我が家にも、グレッグが愛読していたキャプテン・パワーマンの各巻が本棚に収納されている。

 ただし、全部複写版ではあるが。

 

「俺のお古だが、どうだ、気に入ってくれたか!?」

 

「凄い! ありがとう、アントム!!」

 

「ははは、おうよ!」

 

 因みに、オリジナルというべき持ち込まれたキャプテン・パワーマンに関しては、各巻三冊ずつ存在しており。

 どうやら持ち込んだ人物は、相当の熱意の持ち主であったことが伺える。

 

 さて、貴重な漫画をプレゼントされ満面の笑みを浮かべる俺に、更に嬉しい知らせが届く。

 というよりも、こちらの方が本日のメインというべきものだ。

 

「よかったなユウ。あ、後でパパにも見せてくれるか? オリジナル版は見たことないんだ」

 

「うん、いいよ」

 

「よし、約束だぞ。……と、それじゃ、んんっ!! 今度は、パパからユウに、大切な贈り物だ」

 

 対面に座るグレッグの背筋と共に表情が引き締まると、次いで真剣な雰囲気が流れ始める。

 それに応えるように、俺も、表情を引き締めグレッグの顔を見据える。

 

「ユウ、知っているとは思うが、このリーアでは満十歳となるとピップボーイが支給される」

 

「はい」

 

「つまり、ユウがリーアの大人の仲間入りを果たすという事だ。……だがそれは同時に、大人と同様に自身が責任を負うということも意味する。分かるな?」

 

「はい!」

 

「いい返事だ。……よろしい、では、ユウ・ナカジマ、こちらに」

 

「はい!」

 

 席を立つグレッグに誘導され、他の皆が見守る中、俺のピップボーイ支給式が行われる。

 

「さぁ左腕を手を出して、……よし」

 

 グレッグが手にしたピップボーイを、俺の左腕に優しく装着する。

 装着が完了すると、俺の腕周りに合わせるように保護パッドが調節され、適度な圧迫感を感じる。

 同時に、ピップボーイのモニターに光が宿り、ボルトテックのマスコットキャラクターにしてフォールアウトという作品そのもののマスコットキャラクターでもある、ボルトボーイのアニメーションが映し出される。

 

 メインのモニターに各種調整ダイヤル、更には各種メーターにホロテープ挿入口等々。

 正式名称『Pip-Boy 3000 Mark IV』、機能制限を施した民生用のピップボーイながらも、ピップボーイの名を持つだけはありその利便性は他の型に引けを取らない。

 

「ユウ、これからは、自分がリーアの一員として責任ある行動に努めると共に、勉学に励み、そして、恥じることのない真の大人を目指して頑張るんだぞ!」

 

「うん、僕、頑張る!!」

 

「よし、いい返事だ」

 

 俺の決意のこもった返事を聞き、グレッグの表情が再び柔らかなものへと変化していく。

 それにつられて、俺の表情からも、緊張の色が消えていった。

 

「さぁ、ピップボーイの受け渡しも終わったし、私達からのプレゼントもあげましょう」

 

「あぁ、そうだな。オネット、プレゼントを持ってきてくれるかい?」

 

「あー、その前に、一枚記念写真を撮らせてください班長。ユウのピップボーイ支給記念って事で、班長達家族の写真を」

 

 そして、続いて両親からのプレゼント贈呈というタイミングで、アントムから記念写真のお願いが聞こえてくる。

 

「分かった。それじゃ、メリッサ、ユウ、おいで」

 

「オネットもいらっしゃい」

 

「え、奥様、わたくしもですか?」

 

「えぇ、オネットも家族の一員ですもの、ね、ユウ」

 

「うん、オネット、はやくはやく」

 

「待ってください! 今行きます!」

 

 俺を中心に、グレッグとメリッサが左右に、そしてオネットがさらに外側に浮遊停止している。

 

「それじゃ、撮りますよ。笑って、はい」

 

 アントムの合図と共に、カメラのフラッシュがたかれ、記念すべき一日の家族の様子が切り取られた。


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