Fallout THE ORIGIN   作:ダルマ

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第二十九話 救助 後編

「こちらバッド・ドッグ、聞こえるか? オーバー」

 

 刹那、ピップボーイが反応を示す。どうやら、ベルチバードからの無線を拾ったようだ。

 

「屋上は一面腐った死体だらけでお前らが何処にいるのか分からん、これじゃ制圧射撃も出来ん。オーバー」

 

 どうやら、上からでは陣地と屋上との境目が分からないらしい。

 

「この無線が聞こえているなら、発煙筒で自分達の居場所を知らせろ! 煙を確認し次第、制圧射撃を開始する。オーバー」

 

 刹那、今俺がとるべき行動を理解する。

 この状況下、自由に動けるのは俺だけだ、ならば、やる事は一つ。

 

「ロード・バイロ! 発煙筒は!?」

 

「あそこの木箱だ!」

 

 フェラル・グールと取っ組み合いを繰り広げているロード・バイロから発煙筒の場所を聞き出すと、俺は一目散にその場所を目指し走り出す。

 途中、フェラル・グールの手が俺を捉えようと伸ばされるも、なんとかそれらを躱すと、陣地内の奥に置かれた木箱のもとまでたどり着く。

 

 そして、木箱から発煙筒を取り出すと、直ぐにそれを点火し、大量の煙を吹き上げさせる。

 

「こちらバッド・ドッグ、煙を確認。よーしお前ら、ミンチになりたくなかったらその場を動くなよ。……バッド・ドッグより各機、これより制圧射撃を開始する! ホテルの屋上を石器時代に戻してやれ!!」

 

 なんだかどこかで聞いたことのある様な台詞が聞こえたと同時に、旋回するベルチバードの扉が火を噴き始めた。

 おそらく、制圧射撃の為にベルチバードのドアガンたるミニガンが5mm弾の音楽を奏で始めたのだろう。

 

「ヒィャッフーッ!! 今日は絶好の射撃日和だぜ!!」

 

「おいドゥラァン! 無駄口喋ってないでちゃんと撃ちやがれ!!」

 

「こちらブラック・ルーク、おいドゥラァン、あそこに逃げてる奴がいるぞ、あいつを仕留めたら、後でビールを奢ってやるよ」

 

「よーし言ったな、そらよ、フゥフゥーッ!! ビールはいただきだ!!」

 

「いいぞベイベー! 逃げる奴はフェラル・グールだ! 逃げない奴は、光ってねぇフェラル・グールだ!! ほんと、シカゴは地獄だぜ!! ハッハーッ!!」

 

 5mm弾が奏でる殺戮の音楽を演奏しながら、演奏者たるドアガンナーの方々は、愉快に楽しんでいるようだ。

 

「こちらブラックホーク、おい待て、ありゃ何だ!?」

 

 だが、そんな演奏に一方的に聞き入っているフェラル・グール達ではないようだ。

 気になる無線が聞こえた直後、上空を旋回するベルチバード目掛け、何かが投げられる。

 

 それは、巨大なコンクリートの塊であった。

 

「クソッ! 何だありゃ!? フェラル・グールの親玉か!?」

 

「バッド・ドッグより各機、気を付けろ、回避行動をとりつつ、あの巨人に攻撃を集中しろ!」

 

 攻撃の集中する方へと目を細めると、そこには、下半身に比べ上半身のみが異常に隆起した外見を持つ、謎のクリーチャーの姿があった。

 

「オォォォォオオッ!!」

 

 聞き覚えのある咆哮が木霊すると、その巨大な両腕が屋上の床を引き剥がし、巨大なコンクリートの塊と化したそれを、鬱陶しく上空を旋回するベルチバード目掛けて投げつける。

 

「ハッ! 馬鹿が、んなもん当たるかよ!!」

 

 しかし、ベルチバードは楽々それを避けると、パイロットは余裕綽々と言わんばかりの声を零す。

 だが、その発言は大きな誤りであった。

 

 その直後、あの発言が呼び水となったか、再度投げられた巨大なコンクリートの塊が、遂に一機のベルチバードに命中した。

 巨大な両腕から繰り出される投力は、巨大な質量に更に力を加え、ベルチバードの命ともう言うべきティルトローターを粉砕する。

 

「あぁくそ!! こちらブラックホーク、左のローターが根こそぎもってかれやがった!」

 

「駄目だ、操縦桿が利かん! 墜落する!!」

 

「ブラックホーク・ダウン! 繰り返す、ブラックホーク・ダウン!!」

 

 パイロットの制御を失った機体は、彼らの奮闘も空しく、黒煙をあげ機体を激しく錐揉みさせ、強力な遠心力でキャビンから乗員を振り落としながら、落下防止用の柵の向こう側へと姿を消した。

 

「バッド・ドッグより各機、ブラックホークの弔い合戦だ。さぁ、いくぞ野郎ども!」

 

 ブラックホークがやられ、一時攻撃の手が緩められたが、指揮官の号令と共に、再び熾烈な攻撃が再開される。

 その熾烈さに、流石の謎のクリーチャーも命の危機を感じたか、先ほどまで攻撃に使用していた巨大なコンクリートの塊を、盾として使用し始めた。

 

「っち! あのデカブツ野郎、一丁前に頭使ってやがる!」

 

「Shit! むかつくぜ!」

 

 巧みな盾さばきで、自らに飛来する5mm弾の嵐を防ぐ謎のクリーチャー。

 このままでは、折角のベルチバードからの制圧射撃があの謎のクリーチャーに釘付けにされてしまい、本来の効果が生かされない。

 

 俺は急いで土嚢脇にまで駆け寄ると、構えたM4カスタムのリアサイトを覗き込む。

 

 サイト越しに狙いを定め、そして、指をかけたトリガーを引く。

 刹那、M4カスタムの銃口から放たれた5.56mm弾は、狙い通り、謎のクリーチャーの腕に命中する。

 だが、放つのはその一発だけではない。

 続けざまに5.56mm弾を謎のクリーチャーの腕に叩き込んでいくと、やがて、糸の切れた人形のように、謎のクリーチャーの腕が力なく垂れ下がる。

 

 すると、片腕だけでは支えきれなくなり、巨大なコンクリートの塊の盾が、空しく床に倒れ落ちる。

 

 刹那、盾を失い無防備となった謎のクリーチャー目掛け、5mm弾の嵐が降り注ぐ。

 

「オォォォォ……」

 

 やがて、悲痛な断末魔をあげ、謎のクリーチャーは自らの血で染まった巨体を、床に没した。

 

「バッド・ドッグより各機、脅威は排除した。さぁ、いよいよフィナーレを飾ろうじゃないか!!」

 

 こうして一番の脅威を排除したベルチバード達は、やがて、強力なダウンウォッシュを発生させながら、次々に屋上へと着陸していく。

 どうやら、残敵を掃討すべく、より小回りの利く人員投入を行うようだ。

 

 着陸を果たしたベルチバードから、黒一色に塗装されたコンバットアーマー一式を身に纏った、或いは黒一色に再塗装され北国製の戦車の如く爆発反応装甲が追加で施された、タロン社専用T-45パワーアーマーともいうべきものを身に纏ったタロン社の社員達が次々と降りてくる。

 

「タロン社だぁー!!」

 

 自らの社名を大々的に告知する新手に退路を断たれ、挟撃を受ける形となった残りのフェラル・グール達の運命は、もはや決まったも同然であった。

 

 

 

 それから程なくして、ホテルの屋上に、再び静寂が舞い戻った。

 ただし、代わりに屋上には、血と硝煙の臭いが蔓延する事となる。

 

「んー、はぁーっ! やはり、コーヒーブレイク香る硝煙の匂いはいいものだ。だが、やはりナパームの匂いに勝る勝利の匂いはない! そう、思うだろう、諸君?」

 

「サーイエッサーッ!!」

 

「諸君、ミシガン湖の腑抜けた波にしか乗った事のない連中など、我々イーストコーストの敵ではない、そうだな?」

 

「サーイエッサーッ!!」

 

「結構」

 

 その原因たるフェラル・グール達の骸を踏み歩き、バッド・ドッグのコールサインで救助隊の指揮を執り行っていた人物が、陣地へと近づいてくる。

 戦前の米軍が採用していたい軍用戦闘服を身に纏い、湯気の立つカップを片手に、テンガロンハットにサングラスをかけた中肉中背の男性は、やがて陣地に到着すると、腰に空いている手を当て、その白い歯を輝かせながら言葉を発した。

 

「ロード・バイロ、生きてるかね? もし死んでいるのなら、返事はしなくていい!」

 

「サー、オーバーロード・デュバル!」

 

「ははは! 冗談だ。よく無事だったな! ん? 足をやられたか?」

 

「これ位、ヌカコーラをすぐ飲めば治ります」

 

「ははは!! そいつは結構だ。だが、君の班は当分活動停止だな、人員補充やら練度向上などをしなけりゃならん。ま、暫くは貴重な休暇を楽しむんだな」

 

「サーイエッサー」

 

「あぁ、そうだ。負傷して吐いちまうほどまで戦った君には、私のコーヒーを飲む権利をやろう! おい、彼にコーヒーを!!」

 

 オーバーロード・デュバルと呼ばれた男性は、ロード・バイロと暫し言葉を交わすと、やがて部下の社員に後を任せ、俺の方へと歩み寄ってくる。

 

「さて、君が、ミロという社員が言っていた、我々の同業者かね?」

 

「はい、ユウ・ナカジマと申します」

 

「三人だけの小さな傭兵屋、しかし、その実力は数以上のものらしい。なんせ私達が到着するまで、ロード・バイロ達を腐った死体どもの腐った魔の手から守ったのだから、な」

 

「お褒めに預かり光栄です」

 

「しかも、こんなご時世にも関わらず大層な教養まで身につけている! ははは、こいつは素晴らしい! どうだ? 君達さえよければ、タロン社に入社しないか? ウチは見ての通りアットホームで明るい会社だ、未経験者でも優しい先輩たちが丁寧に教えてくれるし、頑張り次第で役職アップも夢じゃない! 無論、各種保証もしっかり完備、どうかね?」

 

 その謳い文句って典型的な型にはまった謳い文句じゃないですか。やだー。

 あ、そうか、会社のイメージカラーが(ブラック)なだけに、か。

 

「……申し訳ありません。有難い申し出なのですが、今はまだ、そうした考えは持っていないので」

 

「あぁ、そうか。いや、すまない。答えてくれて感謝するよ。……あぁ、そうだ、もしも、今後君達の気持ちが変わった時は、いつでも連絡をくれ。私達は、いつでも君達の入社を歓迎しよう!」

 

 こんな世の中じゃブラックもへったくれもないが、俺達にはやるべきことがある。

 なので、やんわりと断りを入れると、どうやら向こうも察してくれたのか、勧誘の話はこれにて終わりとなった。

 

「あぁ、そうだ。連絡先を教える意味も込めて、これを渡しておこう、さぁ、どうぞ」

 

「あ、ご丁寧にどうも」

 

 軍用戦闘服の胸ポケットからカードを取り出すと、丁寧にそれを渡してくださる。

 受け取ったカードは、オーバーロード・デュバルの肖像入り名刺であった。

 まさか、こんな世紀末の世界で、再び名刺を見る事になろうとは、思ってもいなかった。

 

「これでも私は、シカゴを中心とする一帯を担当しているシカゴ支店の副支店長をしていてね」

 

「そんな偉い方が、まさか救助部隊の指揮官として現場にやって来るとは……」

 

「ははは、タロン社は幹部社員と言えど、時に平社員達と共に銃を手に、最前線を駆け巡る、そういう会社だよ。あぁ、もしよければ、私がスプリングフィールドに屯していたレイダー野郎どもをベルチバードの絨毯爆撃で消し炭にしてやった時の話をしようか? あの時嗅いだナパームの匂いは、今でも昨日の事のように思い出せる!」

 

 自身の特殊な感性と体験談を暫し語った所で、オーバーロード・デュバルは手にしていたカップを口元へと近づける。

 どうやら、喋って乾いた喉を潤しているようだ。

 

「っぁー! やはり血と硝煙の中で飲むコーヒーの味はいいものだな! どうだ? 君も一杯、飲むかね?」

 

「あ、その……」

 

 そして、爽やかにそんな申し出を出してきたのだが。

 この申し出、どうすべきか。

 正直言って、こんな環境で珈琲を飲みたいとは微塵も思えないのだが、ここは無理してでも飲むべきか。

 

 またしてもセルフV.A.T.S.状態に陥っていると、不意に、助け舟が現れる。

 

「副支店長! あまり時間をかけていますと、また腐った死体どもがやって来ます」

 

「ん? あぁ、そうだったな。おい、負傷者の積み込みは終わっているな!?」

 

「サーイエッサー!」

 

「なら全員さっさとケツを上げてベルチバードに乗り込め! 本部に帰るぞ!」

 

「サーイエッサー!」

 

「あぁ、君達もベルチバードに搭乗してくれ、本部で、ボスである支店長から直々に感謝の言葉を伝えたいそうだからな」

 

「分かりました」

 

 こうして、なんとか気持ちの湧かない環境で珈琲を飲むことを回避できた俺達は、救助されたバイロ班や救助部隊の方々と共に、ベルチバードに搭乗すると。

 一路、タロン社シカゴ支店本部であるシカゴ・ミッドウェー国際空港跡地を目指す、空の旅に出掛けるのであった。

 

 因みにその際、キャビンスペースの関係で搭乗が困難であったノアさんが、吊り下げられる形で空の旅を楽しむことになったのは、ここだけの話。

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