Fallout THE ORIGIN   作:ダルマ

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第三十二話 じゃじゃ馬ステンバーイ

 シカゴ・ミッドウェー国際空港跡地を出発し、道中、フェラル・グールの眉間や胴体を穴だらけにしながら。

 俺達は、ブラックホークの墜落現場である貨物ターミナルまでやって来た。

 

「まさか、こうなってるなんて……」

 

 貨物ターミナルを見渡せる高架橋から、双眼鏡を使い墜落現場の様子を確認した俺は、ため息交じりにそんな言葉をこぼす。

 動かなくなって久しい貨物車や、放置されて久しいコンテナの中、貨物ターミナルの一角に無残な姿を晒しているブラックホーク。

 機首から地面に突っ込んだ機体は、根元から折れた翼や折れ千切れたプロペラ等、見るも無残な在り様だ。

 

 そんなブラックホークの周囲を、幾つもの人影がうろついている。

 だが、その人影の正体は、百八十センチ以上、三メートルもの巨体を誇り、人間とは異なる肌の色を持つ筋骨隆々の方々。

 スーパーミュータントと一般に呼ばれている者達であった。

 

 お手製の鎧を纏った者や、銃器やスレッジハンマーを手にしている者など。

 何処からどう見ても完全武装したスーパーミュータントが、十体近く、ブラックホークの周囲に確認できる。

 

「はぁ……」

 

 俺は短い溜息を吐き捨てると、どうやってブラックホークまで近づくか、その作戦を考え始める。

 

「簡単な事ではないか? 我々に気付いた奴から切り捨てていけばよかろう」

 

「いや、まぁ、シンプルですけど……」

 

 十体近くのスーパーミュータントの只中に突っ込んでいっても、ノアさんなら確かに生還できるだろうが。

 付いてく俺達、特に俺なんて、パワーアーマーすらも装備していないので、脇からのワンパンでぽっくり昇天する恐れも。

 

 それに、確認できただけで、まだ何処かから増援のスーパーミュータントが現れないとも限らない。

 それ以前に、この状況自体が罠という可能性も──。

 

 駄目だ、考えれば考える程、あの状況の只中に飛び込む勇気が奪われてゆく。

 

「あ、あの」

 

「ん? どうした、ニコラス?」

 

「ここから攻撃できる手段があれば、ここから数を減らしていけばいいんじゃないでしょうか。ここなら高さもあって、スナイパーライフルとかなら狙いやすいと思うんですけど」

 

 ニコラスさんの意見に、俺ははっと気がつく。

 そうだ、戦闘距離はなにも近・中距離ばかりじゃない。

 それに、俺達は絶好の地の利を得ている、それをむざむざ捨てるなんて、愚か以外なにものでもない。

 

 幸い、ヴァルヒムさんから譲り受けた遺産の中に、長距離戦闘にもってこいの銃が存在していたのを思い出した。

 ピップボーイを操作し、それを取り出すと、手にした感覚を確かめる。

 

 その外観は、金属製も相まって、まさに大物を仕留めるに相応しい力強さに溢れ。

 角ばった機関部からは、強力な12.7x99mm弾を手動で装填・排出する為の巨大なボルトが姿を見せる。

 使用弾薬に合わせた太い銃身の先には、戦車の主砲を連想させるマズルブレーキが装着されている。

 

 この銃の名は、PGM ヘカートII。

 フランスのPGMプレシジョン社が開発した、ボトルアクション方式の対物ライフル(アンチ・マテリアル・ライフル)だ。

 

「これなら、面の皮が分厚いスーパーミュータントでも、容易くハチの巣に出来ます」

 

「おぉ、それは頼もしい」

 

「これならいけそうですね」

 

「うむ。では、ナカジマ、君はここから狙撃を頼む。ニコラス、君はスポッター(観測手)兼護衛を頼む」

 

「す、スポッター?」

 

スナイパー(狙撃手)に目標までの距離や配置状況、風速などの周辺状況を伝えスナイパー(狙撃手)のサポートを行う者の事だ。本来なら、スナイパー(狙撃手)として知識や経験のある者が担うべき所だが、今回はまぁ、主に護衛が主な役割となる」

 

「えっと、つまり……」

 

「ニコラスさんはいつも通り、俺の盾として行動してください」

 

「分かりました。……所で、ノアさんはどうするんです?」

 

「私か? 私の役割は決まっている。囮だ」

 

「大丈夫ですか、ノアさん?」

 

「あの程度の数、マスターの軍団に比べれば容易いものだ」

 

 流石、西海岸のスーパーミュータント軍団を、軍団長たるマスター共々壊滅させた人の言葉は重みがある。

 抜群の安心感だ。

 

「では、お願いします」

 

「任せろ」

 

 こうして、単身スーパーミュータントの只中に向かうノアさん。

 その頼もしい背中を見送ると、俺も、早速準備を始める。

 

 マガジンに12.7x99mm弾が装填されていることを確認すると、俺は、ボルトを操作し、初弾をチャンバー(薬室)内に装填する。

 負担軽減と安定の為バイポッドを立てると、高架橋の欄干に固定する。

 取り付けているスコープを調整し、銃を構える体勢を整え、狙撃の準備が完了する。

 

 あとは、その時がくるのを待つだけだ。

 

「えっと、あ! いました! ノアさんです! コンテナの影に」

 

 渡した双眼鏡を手に、出来る限りスポッター(観測手)としての役割を果たそうとするニコラスさんが声をかける。

 声の誘導に従い視点を移動させると、そこには、威風堂々とスーパーミュータントの集団に近づくノアさんの姿があった。

 

「聞けぇい! 凶暴なモンスター共! 貴様らは、この地に無用の破壊と流血を生み出す権化だ! 故に、この私、ノアは、貴様らを成敗すべく馳せ参じた!!」

 

 少々大根を感じさせる言動と共に、ノアさんはスーパーミュータント達の意識と視線を、自身に集めさせる。

 

「ナンダ、コイツ?」

 

「ナンデモイイ、トニカク、コロセー!」

 

「シネ! シネ! ハハハ!」

 

 刹那、銃器を手にしたスーパーミュータント達の銃口が火を噴いた。

 その弾幕に、ノアさんも手近なコンテナの影に身を潜める。

 

「ふぅ……」

 

 スーパーミュータント達の意識の外に俺が存在していることを確認すると、俺は、深い深呼吸と共に、一体のスーパーミュータントの胸元にスコープのレクティルを合わせる。

 そして、トリガーに指をかけると、短い深呼吸の後、トリガーを引いた。

 

 刹那、周囲に響き渡る、甲高い銃声。銃口から吹き出す、盛大な発火炎(マズルフラッシュ)。そして、全身に伝わる衝撃。

 

 コンマ数秒、瞬きをする間もなく、放たれた12.7x99mm弾は、狙ったスーパーミュータントの胸元に巨大な風穴を鮮血と共にぶち開けた。

 

「beautiful……」

 

 ニコラスさんから、ステンバーイ大尉張りのお褒めの言葉をいただいた所で、俺は空薬莢を輩出すると、次弾を装填する。

 

 こうして再び狙撃の準備が整ったが、やはり、先ほどの狙撃で俺の存在に気付いたのか、スーパーミュータントは周囲を警戒し始めていた。

 同時に、血だまりに沈んだ仲間の二の舞を避けるべく、各々コンテナ等、遮蔽物の影に隠れ始めた。

 

 ただ、幸い、完全に俺の位置を特定するには至っていないようだ。

 

「ドコダー! ダレカイルノカ!?」

 

「オクビョウモノ! デテコイ!!」

 

 見当違いな場所に向かって銃を乱射するスーパーミュータント達。

 そんな彼らを他所に、俺は、二射目のターゲットにレクティルを合わせると、再び、トリガーを引いた。

 

「……あ」

 

 が、再び盛大な音と炎を交えながら放たれた12.7x99mm弾は、狙いとは別の場所に着弾してしまう。

 

「イタゾー! アソコダー!!」

 

「ニンゲンダ!!」

 

「グランドウォーカーダ!!」

 

「ウラミヲハラセ!!」

 

「見つかりました!」

 

「っち!」

 

 あれだけの音と炎を発生させるのだ、俺達の居場所は、あっさりと特定されてしまった。

 数体のスーパーミュータントが、俺達の方へと近づいてくる。

 

「この!」

 

 輩出・装填、そして、発砲。

 だが、三射目も、ターゲットを捉える事は出来なかった。

 

「ぬぉぉぉっ! 私を忘れるな!」

 

 と、この状況に、ノアさんがコンテナの影から飛び出し、自慢のチェーンソードを振るい戦闘を挑み始めた。

 だが、スーパーミュータントも知恵を働かせ、近接武器を持った者がノアさんを引き受けている間に、残りの者が俺達の方へと近づいてくる。

 

「ニコラスさん、ヘビー・アサルトライフルで奴らをけん制してください、その隙に俺が仕留めます!」

 

「りょ、了解!」

 

 コンクリート製の欄干に敵弾が次々と弾着する中、俺は身をかがめ、ニコラスさんに指示を飛ばす。

 ホテルで手渡されてから、ニコラスさんの装備となったM199 ヘビー・アサルトライフルが、軽快な音と共に5.56mm弾を放ち始める。

 だが、スーパーミュータントは戦場での鉄則たる"カバー命"を厳守し、コンテナの影に身を隠すと、飛来する5.56mm弾の雨から身を守る。

 

 5.56mm弾ではコンテナは身を守る盾となろう。

 しかし、12.7x99mm弾では、その限りではない。

 

「ウワァァァ! ウタレタ!」

 

 コンテナに着弾した12.7x99mm弾は、コンテナを容易く貫通すると、その向こう側にいるスーパーミュータントの右腕を、二の腕から先を引き千切るように貫いた。

 右腕のほとんどを突如失ったスーパーミュータントは、その衝撃から混乱し、コンテナの影から身をさらけ出す。

 

 刹那、飛来した5.56mm弾の雨がスーパーミュータントに降り注ぎ、命の炎をかき消した。

 

「タマヨケダ!」

 

 だが、そんな動かぬ巨体も、スーパーミュータントにとっては丁度良い弾避けの道具となるようだ。

 死んだ仲間の死体を手にすると、肉盾とばかりに活用し始める。

 

 そんな姿に同様した訳ではないが、再び放った12.7x99mm弾は、またしても狙いを外してしまう。

 

「く!」

 

 一応、ライフル系の使い方は理解してはいるのだが、閉所空間のコロニーでは実際にライフルが活躍する局面など訪れる事はなかった。

 故に、ライフル系の扱いは慣れているとは、自分自身でも言い難いと思う。

 

 だからか、だからなのか、こんなに狙撃が下手なのは。

 

 あ、そういえば、なんでこんな時に思い出したのだろうか。

 PGM ヘカートIIの名では登場していないものの、ニューベガスにおいては、同銃をモデルとしたライフルがアンチマテリアルライフルという名称で登場しているのだが。

 このアンチマテリアルライフル、ゲームの仕様では、使用する際にスキルが必要数値に達していないと、照準がブレたり、V.A.T.S.使用時も一回分しか撃てなかったりと、かなりのじゃじゃ馬っぷりを発揮する。

 

 という事は、今の俺は、数値化すると必要数値に達していないのか。

 だから、こんなに振り回されているのか。

 

 考えすぎるな、俺。

 集中だ、今は兎に角集中して当てる事だ。

 

「っち!!」

 

 が、そんな気持ちとは裏腹に、またしても外してしまう。

 

「ヘタクソー!」

 

「ガハハハハッ!」

 

 挙句の果てには、スーパーミュータント達にまで狙撃の腕前を笑われる始末。

 

「こん畜生!!」

 

 結果、気付けば、俺はPGM ヘカートIIを脇に置き、いつものM4カスタムを手にして5.56mm弾をぶっ放していた。

 

「こいつも取っとけ!!」

 

「ナンダ?」

 

「ソレ、ドカーン! トスルヤツ」

 

「ゲェェッ!」

 

 加えて、オマケとばかりに、複数のM26手榴弾がその汚い花火をスーパーミュータント達を巻き込みながら咲かせるのであった。

 

「はぁ、はぁ……」

 

「な、ナカジマ、さん? とりあえず、こちらに向かってきていたスーパーミュータントは、倒せたみたい、ですよ」

 

「あ、そうですか」

 

 高ぶった感情を落ち着かせるように、深い深呼吸を一つ。

 徐々に感情が落ち着き、脳が冷静さを取り戻し始めると、頭の中に、一つの教訓が生まれる。

 

 慣れる過程を、本番で行ってはいけない。

 

 やはり、ある程度練習をこなしてから、本番に臨むのが一番いいのだ。

 

「そういえば、ノアさんは?」

 

「えっと、あ! いました。最後のスーパーミュータントと対峙してます」

 

 こうして教訓を心に刻み終えると、ノアさんの事を思い出す。

 再びPGM ヘカートIIを手に取り、ニコラスさんの指示する方へとスコープを向けると、確かにそこには、周囲に広がるスーパーミュータントの死体の中、ノアさんと、最後の一体となったスーパーミュータントが一対一で対峙していた。

 

「コロシテヤル! ナカマナンテヒツヨウネェ、ヘヘヘ、ハジキモヒツヨウネェ!! ダレガテメェミタイナヤツコワイモンカ!!」

 

 最後の一体となったスーパーミュータントは、手にした小型チェーンソーことリッパーを突き立てながら、勇ましい台詞を吐いている。

 対してノアさんは、空いている手で挑発するのであった。

 

「ヤロウ!! ブッコロシテヤァァァアァァ──」

 

 刹那、勇ましい台詞を吐いていたスーパーミュータントの恐怖に滲んだ顔が、風船の如く弾き飛んだ。

 何故、決まっている、最後の最後で俺がヘッドショットを見事に決めたからだ。

 

「beautiful……」

 

 さて、再びニコラスさんからお褒めの言葉をいただいた所で、スーパーミュータントも片付けたので、ノアさんと合流を果たすべく移動を開始しよう。

 

 

「むぅ、出来れば最後の奴は邪魔してほしくなかったが……」

 

「あ、そうだったんですか」

 

「まぁいい、しかし、もう少し狙撃の腕前は練習して向上させた方がいいだろうな」

 

「……努力します」

 

 その後ノアさんと合流すると、ブラックホークの中で眠るパイロット達のドッグタグを回収し、お言葉に甘えようかとも思ったが、パイロット達の装備は彼らの死に装束として手は付けなかった。

 ただ、機体に取り付けられていたミニガンは、回収させてもらった。

 そして最後に、ピップボーイから取り出した爆破用ミニ・ニューク装置が、ノアさんの手によって最適と思われる場所に設置される。

 

「よし、これで完了です。さ、爆発する前に離れましょう」

 

 手順通り赤いボタンを押し、タイマーが作動したのを確認すると、俺達は爆発する前にその場からなるべく遠くに移動し始める。

 こうして、爆発による影響を受けない距離まで足を運ぶと、あとは、その時がくるのを待つのであった。

 

「5、4、3、2、1、……今」

 

 刹那、フェンスに遮られた貨物ターミナルの中から、音と共にキノコ雲が姿を現した。

 どうやら、無事に爆破成功のようだ。

 

「これで依頼完了です、さ、帰りましょうか」

 

 爆破も見届け、あとは無事にシカゴ・ミッドウェー国際空港跡地に帰るだけだ。

 

「……ん?」

 

「どうした?」

 

「あ、いえ、誰かに……見られている気がして」

 

「え? だだ、誰ですか!?」

 

「いえ、気のせいかも知れません」

 

 と、帰り始めた矢先、ふと視線のようなものを感じ、周囲を見渡し原因を探す。

 だが、特に人影らしきものも見当たらず、ピップボーイにもそれらしい反応はなかった。

 なので結局、気のせいだったと結論付け、再び歩き始めるのであった。

 

 

 

 俺達がシカゴ・ミッドウェー国際空港跡地へとたどり着いた頃には、既に、太陽は地平線の向こう側へと沈んでいた。

 日没直後の黄昏時、俺達は、明かりの消えたシカゴの地で、唯一明かりに照らされたシカゴ・ミッドウェー国際空港跡地へと再び帰ってきた。

 

「やはり君達に頼んだのは正解だった」

 

 そして、再び訪れた至高のオーバーロード・スミスの執務室で、回収したドッグタグや残骸の爆破など、依頼の成功を報告するのであった。

 

「では、報酬はご希望通り?」

 

「あぁ、送迎用のベルチバードを用意しよう。……と言っても、今日はもう遅い。出発は明日の朝でも構わないかね?」

 

「はい、ありがとうございます」

 

「では、明日の朝、また私のもとを訪ねるといい。今晩は、明日に備えて十分に英気を養ってくれ。幸い、ここ(シカゴ支店本部ビル)には、旅の者やトレーダー等を相手に、地元の住民達が各々宿屋や酒場を開いている。食うや寝るやにはさして不自由はしないだろう」

 

 こうして、報告を終え明日に備えて英気を養いに行くべく、執務室を後にしようとした矢先。

 不意に、至高のオーバーロード・スミスが俺達を呼び止める。

 

「少し、いいかね?」

 

「はい、なんでしょうか?」

 

「そこの派手なペイントのパワーアーマーを着ている彼、ニコラスと言ったか。彼と、少し話がしたいのだが、いいかな?」

 

 呼び止めた理由を聞き、俺達は顔を見合わせる。

 何故、荒くれ傭兵集団の幹部社員がニコラスさんと話がしたいのか、申し出の意図を図れず困惑する俺達を他所に、至高のオーバーロード・スミスは再び口を開く。

 

「ただ話がしたいだけだ、駄目かね?」

 

「いえ、駄目な事は、ありませんが……」

 

「安心したまえ、個人的に勧誘する訳ではない。ただ純粋に、彼と話がしたいだけだ」

 

「……分かりました。ではニコラスさん、俺達は先に夕食を食べに行ってますので、話が終わったら追いかけてきてください」

 

「はい」

 

 黒縁の眼鏡の奥に光る瞳は、嘘をついているようには見えなかった。

 なので、ニコラスさんを執務室に残し、俺とノアさんは退室すると、夕食を食べるべく本部ビル内のショップ街へと繰り出すのであった。

 

 

 立ち並ぶ商店の中に幾つか確認できたレストランや酒場等、飲食店の内、どの店で食事をするかをノアさんと相談する。

 

「ノアさんは食べたいもののリクエストとかってあります?」

 

「私か? そうだな、私はモールラットの肉を提供している店で食事がしたい!」

 

「……え」

 

「自身で調理したモールラット料理を食うのも楽しいが、偶には、他人が調理したモールラット料理を食うのも面白いとは思わんか? なんせ、モールラット料理は奥が深いからな」

 

 実は最初は、こんな肉の形をした食べ物とも呼べん物、と思っていたが。

 長い放浪の最中に食べ続けていると、知らず知らずの内にやみつきになって、今ではこの奥深い魅力の虜となってしまった。

 焼き加減によって変化する旨味、噛み続けるとほのかに感じられる甘味、熟成させると際立つ香り等々。

 

 と、俺の心に全く刺さらない、ノアさん熱弁のモールラットの肉愛を他所に、俺は、いい香り漂う店を見つけるのであった。

 

「あ、ここに良さそうな店がありますよ」

 

「ん? おぉ、そうだな。ここはいいかもしれん」

 

 こうして、店に足を踏み入れた俺とノアさん。

 まさか、何気なく入ったこの店で、衝撃的な出会いが待っていたなど、この時は、露程も思っていなかった。

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