Fallout THE ORIGIN   作:ダルマ

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第三十三話 赤と青とラッキースケベ

 店は戦前にレストランとして使用されていた場所を再利用したのか、店内は思ったよりも小奇麗で、それでいて食事をするのに居心地がいい雰囲気を醸し出していた。

 どうやら、当たりのようだ。

 ただ、店内はほぼ満席状態で、俺とノアさんは、空いている座席を探すべく、店内を奥へと進んでいく。

 

 ノアさんのその巨体故に、他のお客さんに迷惑をかけながらも、何とか角の奥まったテーブル席に空きを見つけると、ようやく腰を下ろす事が出来た。

 

「へいらっしゃい! なんにしやしょう!?」

 

 注文を聞きに店員がやって来ると、俺とノアさんは、壁に架けられているメニューを眺めながら、各々の注文を言っていく。

 

「えっと、俺はイグアナの串焼きとヌードルカップ、それから新鮮な野菜セットとお水を」

 

「へいへい」

 

「私は、腸で暴れる超・モールラットの肉焼きセットを一つ」

 

「……へい?」

 

 ノアさんが注文を告げた刹那、店員は、固まった。

 そして、何故か俺の方に視線を向けると、まるで助けてと言わんばかりに目で訴えかけてくる。

 

 何故、と視線で俺が訴えかけると、店員は視線で壁の一部を示した。

 そこには、ノアさんが告げたメニューが書かれていたが、よく見ると、文字の上から線が引かれ、そのメニューがすでに販売中止であることを示していた。

 

 だが、残念ながら、ノアさんのモールラットの肉愛は、俺では止められない。

 と、店員に目で答えると、店員は、分かりましたと言わんばかりに、覚悟を決めるのであった。

 

「お客様!」

 

「ん?」

 

「ごめんなさい、あちらのメニュー"来世"からなんですよ」

 

「がーん、だな。折角楽しみにしていたのに、これでは、折角立てた就寝までの幸せ計画の出鼻をくじかれてしまった」

 

 どうやら悲しみが声に出てしまう程、ノアさんはあのメニューを楽しみにしていたらしい。

 

「ではあの、腸で暴れる超・モールラットの肉焼きセットを一つ」

 

「ですからごめんなさい、そのメニューは来世からなんですよ」

 

 何故か同じメニューをもう一度注文したノアさんは、当然ながら、再び拒否される。

 すると、刹那、無言で立ち上がったノアさんは、何故か店員をじっと見つめると、その大きな手を、店員に伸ばそうとした。

 

「あ、ノアさん、ここでは駄目です」

 

 その動作から、まさか店員にアームロックを仕掛けるのではと思った俺は、咄嗟にノアさんに思いとどまるよう声をかける。

 すると、思いとどまってくれたのか、寸での所で、その手が、メニューを指し示す動作へと変化する。

 

「ならば、あのヤオ・グアイの肉ステーキセットを頼む」

 

「へ、へい……。や、焼き加減はいかがしやしょう?」

 

「ミディアムで頼む」

 

「へ、へい。ありがとうございます。それじゃ、合計で──」

 

 ノアさんの圧に及び腰になりながらも、店員は俺達の注文を聞き、支払ったキャップを受け取ると、厨房に注文を届けるべくカウンターの奥へと消えていった。

 

「ノアさん、幾ら頼んでも、取り扱いが終了したものは頼めませんよ」

 

「うむ。すまなかった」

 

 その巨大な背中に哀愁を漂わせ、ノアさんは、再び席に腰を下ろす。

 それだけ、モールラットの肉を食べたかったんだな。

 

 俺にはあまり、その悔しさを理解は出来ないが。

 

「それにしても、これだけ人の多い所で食事をするのも久しぶりですね」

 

「うむ、そうだな。他人の他愛ない話を背景音楽に食事をするのは、本当に、懐かしい……」

 

 あ、そうか。

 ノアさんは、スーパーミュータントの身体になってからというもの、他人の目に極力触れられないように生きてきた。

 だから、こうして大人数が集まる場所等、俺と出会う前なら、寄り付こうなど微塵も思わなかっただろうな。

 

「だが、今はこうして、私も立派な一員として輪に加われる。本当に、嬉しい事だ。それも、君のお陰だな」

 

「そんな、……あ、でも、食べる時は気を付けてくださいね」

 

「分かっている。ヘルメットは脱がず、口元だけ出して食べる様にしよう」

 

 こうして、ノアさんが感慨に浸りつつ、それを嬉しく眺めていると、食欲を掻き立ててくる香りが俺達の方へと近づいてくる。

 

「へい、お客様、お待ち!」

 

 店員の声と共に、目の前のテーブルに注文した料理が運ばれる。

 皿に盛られた料理は、出来立てを証明するように、湯気が立ち上っている。

 

「それじゃ、食べましょうか。いただきます」

 

「へぇ~、珍しい食前の挨拶ね」

 

 そして、料理にありつこうと思った矢先の事であった。

 不意に、女性の声が、背後から聞こえてきたのだ。

 

「あ、貴女、は?」

 

 声に反応するように振り返ると、そこには、一人の女性の姿があった。

 歳は俺よりも上か、妙齢と称するのが相応しい程か。所謂、大人の女性だ。

 美しい栗色のショートヘアが彩るその顔は、まさに美人に部類されるほど整っている。

 

 だが、それよりも俺が気になったのは、女性の装いであった。

 多少痛みやほつれが気になるが、その名の通り赤が目に付くレッドレザー・トレンチコートを羽織り。

 ジャーナリストの証ともいうべき記者キャップを被ったその姿は、まさに、ゲームでもよく見たキャラクターの装いそのものであった。

 

「あ、食事の手を止めちゃってごめんなさい。私、こういう者よ」

 

 そう言って女性は、胸元のポケットから一枚の名刺を取り出し、俺に手渡す。

 受け取った名刺に書かれた名前を見て、俺は、目を丸くせずにはいられなかった。

 

「ぱ、パブリック・オカレンシズのジャーナリスト、ナタリー・ライト!!?」

 

「あら、そんなに驚くなんて。もしかして、私の書いた記事のファンとか?」

 

「え、あ、まぁ、その……」

 

 実は貴女の幼少期をゲームプレイ時に見ていました、なんて正直に言える筈もなく。

 言葉を詰まらせながら、何とか誤魔化せるように言葉を選んでゆく。

 

「は、はい。そうなんです」

 

「嬉しいわ。大体パブリック・オカレンシズの名前を聞くと姉さんの名前を連想する人が多いから、私の記事なんて、皆あまり興味ないのかしら、なんて、ちょっぴり思ってたのよ。あ、もしよかったら、私の事は気軽に"ナット"って呼んでね」

 

 その美しい顔を更に魅力的に際立たせる笑顔に、俺は少し見惚れながらも、彼女の観察を続ける。

 確かに、先ほど本人の口からも出た、彼女の姉にしてFallout4の仲間の一人、"パイパー・ライト"とは髪の色も顔の造形も異なっている。

 それに、所々、ゲームキャラの一人としてゲーム内で描かれていた、舌足らずな幼い頃の面影も、垣間見える。気がする。

 

 しかしながら、ゲーム内でバニラ状態でもかなりの美貌の持ち主であった姉同様。

 ナタリーさんもかなりの美貌を有しているのは、やはり姉と同じ血を引いているからか。

 

「ところで、えっと……」

 

「あ、自己紹介がまだでしたね! 俺は──」

 

 と、ここでまだ俺の方から自己紹介していない事に気がつき、慌てて立ち上がって自己紹介を行おうとしたのだが。

 慌てていたせいもあり、気づけば、足がもつれ、ナタリーさんの方へと倒れそうになっていた。

 

「っと、大丈夫?」

 

 だが、心優しいナタリーさんは、倒れさせまいと俺を受け止めてくれるのであった。

 

「……は、はい、大丈夫です」

 

 そんなナタリーさんの優しさに感謝する俺であったが、何故か、ナタリーさんの頬が少々赤らんでいる事に気がつく。

 

「あ、あの。できれば、あまり強くつかまないで欲しい、かな」

 

 一体何のことだと、俺がナタリーさんの言葉の意味を理解できないでいると。

 不意に、俺の右手が何か、柔らかいものを掴んでいる事に気がつく。

 

 ナタリーさんの表情や言葉遣い、そして、右手に感じる感覚。

 嫌な想像が頭の中を駆け巡る中、恐る恐る右手の方へと視線を動かすと。

 

 そこには、ナタリーさんの肩を掴んでいたと思った筈が、見事なまでに彼女の左の膨らみを掴んでいる自身の右手の姿があった。

 

「わはは! ここ! これは、ごご、誤解です!!」

 

「そんなに動揺しなくても、大丈夫よ。不慮の事故だって事は分かってるわ」

 

 悪意など毛頭ないと、慌てて右手共々体を離して弁解する俺を他所に。

 ナタリーさんは、レッドレザー・トレンチコートのしわを直しながら、大人の対応をするのであった。

 

 あぁ、それにしても、案外ナタリーさんは着やせする方なのだろうか。

 姉の方も、かなりグラマラスに描かれる事も多かったが、やはり同じ血を引く姉妹。

 見た目はスレンダーに見えても、案外手にした感触からしてかなり夢が詰まった──。

 

 って、俺は何を冷静に分析しているんだ。

 

「すいません! すいません! すいません!!」

 

 声に出した訳ではないが、やましい事を考えて申し訳ありませんでした。

 との気持ちを込めて、少し引かれる位、謝る俺であった。

 

「も、もう気にしてないから、ね」

 

「はい」

 

「それじゃ、気分転換に、自己紹介してくれるかしら」

 

「はい、では。……俺の名前はユウ・ナカジマ、仲間と共に傭兵業を営んでいます。そして、あちらの彼が」

 

 と、ノアさんの事を紹介しようとした刹那。

 俺の後頭部に、冷たく重たい何かが突きつけられる。

 

「動くな、それから、両手を上にあげな」

 

 と同時に、女性の声で指示が飛んでくる。

 

「え? あの」

 

「両手は見えるように上にあげな!」

 

 再度の指示と共に、金属音が聞こえてくる。

 

 そういえば、ガンランナー・シカゴ支店でナタリーさんの事を見た店員が言ってたな。

 連れの青いツナギを着た女性が、ジョーニングの手掛けたリボルバーを所持していたと。

 

 という事は、今俺の後頭部に突きつけられているのは、間違いなく、そのリボルバーという事だろう。

 そして先ほどの音、あれは、発砲準備に必要な位置まで撃鉄(ハンマー)起こした(移動させる)音だ。

 

 それらが意味するもの、それは、下手に動けば容赦なく撃つという、女性の本気度を表している。

 

「ちょっと、マーサ!! どういうつもり!?」

 

「どうもこうも、こいつがナットさんの胸を鷲掴みにして、おまけにまさぐろうとしたからよ!」

 

「あれは故意じゃなくて事故だって聞こえてたでしょ」

 

「どうだか? 口ではそう言っても、本当は下心剥き出しだったのかも」

 

「お、お客様、店内でそういうものを出すのは……」

 

「なに? あんたも風穴開けられたいの?」

 

「ひぃ!」

 

 止めに入った店員もその気迫で追い返す、その口調から、どうやらマーサと呼ばれた女性は相当気が強い女性らしい。

 

「あの! 俺は決して下心なんてありません! 本当です!!」

 

「口だけなら何とでも言えるわ!」

 

「本当で──」

 

 俺の後頭部にリボルバーを突きつける、マーサと呼ばれた女性に誤解を解いてもらうべく、俺は、彼女の目を見て自身の思いをぶつけようと振り向こうとした。

 が、ここでも、俺はまた足をもつれさせてしまう。

 

「あわわ!」

 

「え?」

 

 しかも、マーサの指示に従い両手を上げていたばかりに、途中で倒れる体を止める事も出来ず。

 気づけば、マーサと呼ばれた、青いツナギを着た女性目掛けて、俺の体は倒れこんでいた。

 

「痛ったぁ、もう、なによ」

 

「ご、ごふぇん」

 

「ひゃ! んっ! やだ、喋んないで!」

 

 なので、巻き込んだ事を謝罪しようとしたのだが、何だか、上手く喋れない。

 口、と言うよりも顔全体が何かに包まれるようになっている為、上手く喋れない。

 

 しかも、俺が喋ると、突如、それまでのマーサの口調からはあまり想像できない色っぽい彼女の声が零れる。

 一体なぜだ。

 

 それにしても、顔を包む何かのこの感触、凄く心地いい。

 適度な弾力がありながら、それでいてマシュマロのような柔らかさ。

 ずっと包まれていたい。

 

 が、待てよ。よく考えろ。

 この感覚に、マーサの反応、そして、俺が彼女の正面から倒れこんだ事実。

 これらを計算し、俺は、とある答えを導き出す。

 

 そして、それを確かめるべく、俺は直ぐに行動に移した。

 

「……あ」

 

 直ぐに包まれた何かから顔を引っこ抜くと、そこには、顔を真っ赤にしながら床に倒れこんでいるマーサの姿があった。

 と同時に、顔を引っこ抜いた軌道を思い出し、俺は確信する

 

 俺は、彼女のたわわな二つの山の間にまたがるか狭谷を攻めていたのだと。

 

 しかし、よかった、こんな時の為にエース必修科目を履修しておいて。

 

「──っな」

 

「あ、あの、大丈夫?」

 

「ふ・ざ・けん・なぁっー!!」

 

 だが、感無量な俺に対して、狭谷を攻められたマーサは、更に顔を真っ赤にし、空いている手で拳を作る。

 そして、その拳を、俺の顔目掛けて振るう。

 

 ──あ、せめて打つなら拳じゃなくて平手で。

 

「あ、ちょ──」

 

 という間もなく、次の瞬間、俺の視界は揺れ、僅かに遅れて頬を痛みが走るのであった。

 

 

 

「本当にごめんね。ほらマーサ、貴女も謝りなさい」

 

「ふん!」

 

「い、いえ、俺にも原因はありますから……」

 

「じゃ、お相子って事で、この件は片付けましょう。いいわね、マーサ」

 

 その後、マーサも少しばかり冷静さを取り戻し、俺の殴られた頬の痛みも少しばかり引いた所で、俺とノアさんが元々座っていたテーブル席に二人が相席する形で、座っての会話を始めた。

 

 先ほどマーサによって遮られたノアさんの紹介を済ませると、ナタリーさんもマーサの紹介を行う。

 

「彼女はマーサ・ヒコック、私の姉の親友の子で、今は私の取材旅の護衛をしているの」

 

 多少冷静さを取り戻したとはいえ、まだ俺が自身の胸に顔をうずめた行為を許せないのか、時折凄く睨みつけてくるマーサ。

 そんなマーサだが、ナタリーさんの紹介によれば、どうやら彼女は俺とそう歳が変わらないようだ。

 少し釣り目気味ながらも、全体としては美しさを兼ね備えた顔、セミロングの美しい金髪が、その白く輝く素肌と相まって更に美しさを際立たせる。

 そして、あまり年齢差がないと言いつつ、女性の特徴たるある部分は、俺の知る限り、かなり大きな部類に属していると思う。

 

 無論、俺の知る同年代の女性というのは、殆どリーア内の女性ばかりだが。

 健康的な生活環境を送れるリーアの女性であっても、ブラッドが言っていた通り、溢れんばかりに夢一杯に実る方なんて、数えられる程しかいなかった。

 

 いや待てよ、もしかしたら、服装によって強調されているから、より大きく見えるのかもしれない。

 マーサの格好は、確かに青いツナギこと、Vaultジャンプスーツだ。

 しかし、その見た目は、俺の知るものとはかなり異なる。おそらく、彼女自身の手によって改造されたのだろう。

 本来足全体を覆っていた筈のズボンは、ホットパンツのように大部分を切り取られ、魅惑のストッキングとの間に絶対領域を形成している。

 さらに上半身部分も、アーマード・ジャンプスーツよろしく廃材を利用した鎧を纏ってはいるが、スーツ自体は袖を完全に取り去った、所謂ノースリーブとなっている。

 

 そして、最大の特徴にして最も目を引くのが、胸元をざっくりと開いている事だ。

 

 

 ナタリーさん曰く、手に装備しているピップボーイ共々出所が気になるマーサの改造Vaultジャンプスーツは両親のお下がりだという事だが、ご両親は、娘のこの格好を思い悩んでいるのだろうか。

 でも、名も顔も知らぬマーサのお父さん、お母さん。俺は、彼女のセンスは素晴らしいものだと思います。

 

「所で、マーサは、ボルトの出身なんですか?」

 

「違うわ、マーサは連邦の特別区である"サンクチュアリ"の出身よ。それと、ここだけの話だけどね、マーサの両親は、特別区の代表で。しかも、両親は二十年ほど前まで二人ともボルト111で冷凍保存されてたんだって、だから、戦前から生きているグール同様、実年齢は軽く二百歳を超えてるの」

 

「ちょっと、ナットさん! なんでこんな奴らにそんな大事な事喋ってるの!?」

 

「え、だって、私決めたから。この人達に同行取材するって。これから同行するんだから、お互い素性は知っておいた方がいいでしょ」

 

「えぇぇぇっ!!」

 

 軽い気持ちで質問したら、とんでもない事実が返ってきた。

 え、マーサのご両親って、まさか唯一の生存者なのですか。しかも、ナタリーさんお話から察するに、ご両親二人とも冷凍睡眠から生存した様で。

 ということは、マーサはショーンの二百歳以上年の離れた妹という事か。

 

 マーサ、叫びたいのは俺の方だよ。

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