こうしたマーサの叫びを他所に、俺は、何故ナタリーさんが俺達と同行する事を決断したのか、その理由を考えていた。
とはいえ、まだ知り合って間もないナタリーさんの考えを読むことは難しく。
結局、本人に直接理由を聞くこととなった。
「所でナタリーさん」
「もう、気軽にナットって呼んで。私も、ユウって呼ぶからさ」
「それじゃ、ナットさん。どうして俺達に同行取材すると決めたんですか?」
「実はユウ達の事気になってたのよ。この辺りで面白そうなネタとかないかと探してた時に、タロンの社員達が噂話しているのを小耳に挟んでね。凄腕傭兵三人組が救助作戦に大貢献ってね」
成程、どうやらホテルからの脱出劇の事が、早くも噂話となって広まっていたのか。
そして、それを聞いたナットさんが俺達に興味を持って接触してきたと、そういう流れか。
「所で、ユウと仲間の一人しか見えないけど、後の一人は何処にいるの?」
「あ、後の一人は今所用で席を外してまして、用が終われば……」
と、ニコラスさんの所在について話していると、不意に、聞き慣れた声が聞こえてくる。
「ははは! 待たせたな、諸君!!」
「うわ、なにコイツ?」
「キャプテン・パワーマン、悪のレッド・ドクロとの壮絶な死闘を経て、只今帰還!!」
「ほんと、なにコイツ、頭おかしいんじゃないの?」
マーサの毒舌を他所に、ニコラスさんはそんな言葉を気にする素振りもなく、上機嫌に語り続ける。
「ははは! 今夜は最高の夜になりそうだ!! さぁ友よ、今夜は存分に楽しもうぞ!!」
「……ねぇ、この方は?」
「あ、こちらが、先ほど言っていたもう一人の仲間であるニコラスさんです」
「へぇ、そう、なのね」
想像と違ったのだろうか。
ニコラスさんの様子に、若干引き気味のナットさん。
ま、俺も最初に出会った頃はナットさんのような気持だったので、分からなくもない。
「ニコラスさん、ちょっと落ち着いてもらっていいですか?」
「ん? おぉ、そうだな。他の客もいる事をすっかり忘れていた、ははは!」
そして、俺の注意を聞いたニコラスさんは、いそいそとヘルメットを脱ぐのであった。
「てか、中身普通に"おっさん"だったのね」
「ガーン!!」
すると、ニコラスさんの素顔を見たマーサの口から漏れた衝撃の一言に、ニコラスさんは自ら擬音を言葉として出してしまう程、ショックを受けるのであった。
「う、うぅ、見ず知らずの女性からおっさんって言われてしまった……。ルシンダにしか言われた事ないのに」
あ、ルシンダさんには言われた事あるんだ。
いや、ルシンダさんのあの性格なら、言っていてもおかしくはないか。
しかし、ニコラスさんは黙っていればかっこいい部類に入ると思うのだが、やはり性格も加味して判断されたのか。
それとも、単にマーサの好みじゃなかったか。
「性格は兎も角、顔は、いいんじゃない?」
「えー、ナットさんってあんな濃い顔が好きなんですか?」
「あら? じゃマーサはどんな顔が好みなの?」
「え!? どんなって……」
何だろう、ニコラスさんを慰めている横から凄い視線を感じる気がする。
「あらあら、ふふ、成程ね」
「ちょっと、ナットさん! もーっ!!」
そして、楽しそうな女性陣を他所に。
「成程、これがラッキースケベから始まる恋、というやつなのか」
ぼそっとノアさんも何やら言ってはいるが、ノアさん、一体何処でラッキースケベなんて単語覚えたんですか。
さて、ニコラスさんの心の涙も少しは止まった所で、ニコラスさんの沈んだ気持ちを少しでも引き上げるべく、気持ちが盛り上がりそうな話題を探る。
「所でニコラスさん、至高のオーバーロード・スミスと何を話してたんですか?」
「! そうだ、聞いてください!! 実はあの人、私と同じ"同志"だったんですよ!!」
同志、それはつまり、あの人もまたキャプテン・パワーマンの大ファンだったという事か。
人は見かけによらぬもの、だな。
とすると、あの人も人知れず、一人の時にキャプテン・パワーマンごっこに興じているのだろうか。
あ、駄目だ、想像すると笑いがこみ上げてくる。
「いやー、同志と分かって、すっかりキャプテン・パワーマンの話が盛り上がって、もう白熱ですよ! 特にヒロインであるマリーのチャームポイントは"泣きぼくろ"か"そばかす"かで大論争しまして。あ、因みに私は"そばかす"派です」
先ほどまでの落ち込み様は何処へやら、目を輝かせ、饒舌に思い出を語るニコラスさん。
ま、ファン同士の集いなんてもの、この世界じゃ当たり前にできる訳でもないので、貴重な機会に恵まれたその嬉しさは伝わってくる。
ただ、泣きぼくろかそばかすかの論争は、ちょっと心に響いてこないかな。
兎に角、ニコラスさんの沈んだ気持ちも、再び浮上できてよかった。
「所でナカジマさん、この女性方は何者なんです?」
その矢先、ニコラスさんが思い出したかのようにナットさんとマーサについて、俺に質問してくる。
そういえばまだ、ニコラスさんには二人をまだ紹介していなかったな。
「こちら、ナタリー・ライトとマーサ・ヒコック」
「どうも、私の事は気軽にナットって呼んでね」
「どーも」
「ナットさんはジャーナリストで、マーサはその護衛。それで、突然なんですけど、ナットさんから同行取材の申し込みがありまして」
「えぇ、取材ですか!? どど、どうしよう、私、取材なんて受けるの、人生で初めてですよ! あ! 取材って何を喋ればいいんですかね? キャプテン・パワーマンの好きなキャラクターですか? それとも、好きなストーリーですか? 因みに私、一番好きなストーリーは、コミック第14巻から始まるアラスカ激闘編でして、特に──」
「あの、ニコラスさん、キャプテン・パワーマンの事は、質問されないと思いますけど、ね」
「えぇ、そうね、それは聞いても書けないわ」
「だそうです」
「……そ、そうですか」
「因みに、私はモールラットの肉が好きだ」
感情の変化の差が激しいニコラスさんを他所に、しれっとノアさんが自身の好物について語っているが。
ノアさん、それも聞いた所で、ナットさんは記事に出来ないと思います。
「あ、でも同行という事は、これから二人が私達の旅に同行するって事ですよね」
「んー、それなんですけど」
「あら、ユウは私達の同行を許可してくれたんじゃないの?」
「えぇ、まだ決まった訳じゃないんですか!?」
歯切れの悪くなった俺を見て、ナットさんがすかさず問い詰めてきた。
因みに、声は出していないものの、マーサも俺の事を目を細めて見つめている。あれ、てっきり俺達と一緒に行くのは嫌だと思ってたけど、違うのだろうか。
マーサの心情は兎に角、俺はナットさんに歯切れの悪くなった理由を説明する。
「あの、ナットさん。取材って事は、色々と見聞した事を書くんですよね」
「そうね、基本はそのつもりよ」
「なら、これから提示する条件をのんでくれるのなら、同行取材を許可します」
「条件?」
「はい、俺が指定した事柄を文字に起こさず、ナットさんの記憶の中に留めておいてくださるのなら、同行取材を許可します」
メモされた内容が、いつ原稿となり印刷されるかは分からない。
しかし、それがいつであろうと、俺の生まれ故郷リーアの存在や、俺が帯びている使命、それにノアさんの正体等。それらは不用意に世に広まっていいものではない。
例え、戦前などに比べ情報が広がるスピードが遅かろうと、何れその情報を知った悪意ある者たちの耳に入り行動を起こされないとも限らない。
だからこそ、不安の芽は極力摘んでおくに限る。
ならば条件など出さずに無条件で拒めばいいのでは、と思うかもしれないが。
無礼に扱えば、反発心でどんな尾びれ背びれが付けられるか分からない。加えて、コントロール不能なものほど、将来の不確定要素として恐ろしいものはない。
であれば、適切にこちらでコントロールし、適度な関係を築いた方が、互いの利益になる。
条件を出したのは、そんな俺の判断からだ。
「むぅ、そうね……」
見据えるナットさんは俺の条件を聞くや、口角を下げて、俺の条件をのむかどうかを考え始める。
やがて、結論が出たのか、ナットさんが口を開いた。
「いいわ、その条件、のみましょう。誰にだって、知られたくない秘密の一つや二つ、あるわよね。……あ、という事は、必然的に同行するマーサにも、この守秘義務は適用される訳よね?」
「はい、そうなります」
「だそうよ、マーサ」
「しょうがないわね。ナットさんの為だもの」
マーサは渋々と言わんばかりだが、俺の提示した条件を了承してくれた。
「それじゃ、これでオッケーって事?」
「はい。では改めて、これからよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくね」
こうしてナットさんと握手を交わし、それを終えた所で、早速ナットさんが俺の指定する事柄について教えを乞うてくる。
「じゃ、早速だけど、ユウが指定する事柄について教えてくれる?」
「あ、それは、お店の中ではちょっと言いづらくて」
「そうなの? それじゃ、人気のない所に移動してからでいいわ」
「ありがとうございます。それじゃ、夕食、手早く済ませちゃいますね」
「あ! そういえば、まだ私、夕食を注文すらしてません!」
「そんなに焦らなくてもいいわよ、私達はコーヒーでも飲んで待ってるから」
殆ど手を付けず冷めてしまった料理に手を付け始める俺。
一方、ニコラスさんと女性陣は、それぞれ料理とコーヒーを注文し、各々堪能する。
そして、ノアさんだが、どうやら俺がラッキースケベを繰り広げている間に、早々に平らげていたようだ。
気づけば、食後の一杯まで堪能していた。
その後、店を後にした俺達は、シカゴ・ミッドウェー国際空港跡地でも人気のなさそうな場所へと移動し。
そこで、条件である指定する事柄について話を進める。
「じゃ、聞かせてくれる。ユウの守りたいものの事」
「その前に、録音などもしていませんよね?」
「ちょっとあんた! ナットさんが信用できないって言うの!?」
「落ち着いてマーサ。それ程に、これから話す事は"記録"として残しておいてほしくないのよね」
「はい」
「大丈夫よ、録音なんてしてない。何なら、証明の為のここで"全部"脱いじゃう? ね、マーサ」
「ふぇ! あたしも!」
「同然じゃない」
「あ、あの、そこまでしてもらわなくても大丈夫です!」
本当はちょっぴり名残惜しいが、二人の確認が取れた所で、本題を話し始める。
「ナットさんは、コロニーという物をご存知ですか?」
「コロニー……、聞いたことあるわ。確か、ボルトと同様の避難シェルターで、ボルトよりも規模が大きくて、純粋に社会の保全を目的としていた。ただし、その分造られた数はそれほど多くはない。で、合ってるのよね?」
「はい。そんなコロニーの一つに、リーアの愛称で呼ばれるコロニーがあります。……それが、俺の故郷です」
「え! あんたコロニーの出身だったの!? ……へぇ」
「そうだったのね。ピップボーイを付けてるから、てっきりボルトの出身かとも思っていたけれど」
俺の出身に驚きを隠せないナットさんとマーサ。
もしかしたら、コロニー出身の者を見たのは、初めてなのかもしれない。
「それで、そんなコロニー出身のユウが、どうして安全なコロニーからウェイストランドに? 傭兵家業で一儲けする為?」
「傭兵業は、副業みたいなもので……。本命は、とある理由から、ある物を探す為に出てきたんです。浄水チップと呼ばれるものなんですが」
「成程ね……。機械的な事についてはよく分からないけど、この広いウェイストランドの中から、貴重な汚染されていない水を探し出すぐらいの旅に出てきたって事はよく分かったわ」
「では、先ほど言った事は、全て記憶の中だけに留めておいてください」
「了解」
マーサも首を縦に振った所で、これで俺に関する事柄については話し終えた。
「それじゃ、これで話は終わりかしら?」
「いえ、まだもう一つ。……ノアさんの素顔についてです」
そう、まだ話は終わっていない。
次は、ノアさんの素顔を二人に見せるのだ。
「この人の、素顔?」
「どうせ、そっちの痛いおっさんと一緒で、その人もおっさんでしょ」
予期せぬ流れ弾に肩を落とすニコラスさんを他所に、二人の前に立ったノアさんは、ゆっくりと自身のヘルメットに手をかけ。
そして、被っていたヘルメットを、ゆっくりと脱ぎ、素顔を曝け出すのであった。
「ノアさんって、スーパーミュータントだったのね」
「なーんだ」
「む? 二人は私の素顔を見ても驚かないのか?」
「えぇ。知り合いね、素行はちょっと悪いけれど人間に露骨な敵意を持たないスーパーミュータントがいたから」
「名前はストロング。でもあの人、パワーアーマーは嫌いみたいで、サンクチュアリにいた頃、偶にあたしが装備していると露骨に嫌な顔するのよ」
予想外の反応に一瞬肩透かしを食らったが、ストロングの名前が出た途端、二人の反応の薄さも納得した。
ストロング、ナンバリングタイトルの3以降、仲間として連れ歩けるようになったスーパーミュータント枠の一人で、その性格は、野生のスーパーミュータントと大差ないと言っていい。
この世界の彼が一体どんな感じなのかは分からないが、二人の話を聞くに、少なくとも、マーサの両親を偉大な戦士と認めてはいそうだ。
「そうか、私のように理性あるスーパーミュータントの知り合いがいたのか。なら、同行しても安心できそうだ」
こうして、ノアさんの素顔も明かした所で、以上が条件となる守秘義務であると告げる。
「所で、一つ質問してもいいですか?」
「ん? 何かしら?」
「ナットさんは、どうして取材旅を?」
「簡単な事よ、姉さんを超える為。連邦一のジャーナリストと呼ばれた姉さんを超えるには、同じ土俵じゃ勝てない、だから、姉さんもまだ行った事のない土地での事を記事にした本を出せば、姉さんを超えられるんじゃないかって、そう思ったから、旅を始めたの」
そこで一旦息を整えると、ナットさんは再び言葉を紡ぎだす。
「因みに。マーサを連れてきたのは、彼女の腕が立つのもあったけど、彼女の両親に頼まれたからよ。例え文明が滅びようと、それでも美しいこの世界をもっと見せてあげてほしい、サンクチュアリを離れられない自分達に代わって。ってね」
「いいご両親だね」
「あ! あんたに言われるまでもなく分かってるわよ!!」
こうして、取材旅をしていた理由も分かった所で。
今晩は一旦解散し、明日、再び集合場所で待ち合わせる事となった。
二人と別れた俺達は、その後今晩の寝床を探す事となるのだが。
シカゴ・ミッドウェー国際空港跡地の一角に設けられていた手作りテントの宿屋街は、思いのほか割高であった。
そして、翌日。
待ち合わせ場所で二人と合流し、その後必要な準備を整え終えると、至高のオーバーロード・スミスの執務室へと足を運ぶ。
そこで、少し見ない間に二人も女性を引き入れた事を茶化されつつ、その後俺達は、滑走路の一角へと案内される。
そこに待っていたのは、送迎用に用意された、アイドリング状態の一機のベルチバードであった。
「短い間ではあったが、君達には大変世話になった!」
「こちらこそ、ありがとうございました!」
「また立ち寄る事があったら、いつでも歓迎する!」
「はい! ありがとうございます!」
「君達の旅に幸あれ!!」
回転数を上げたプロペラが発する風切り音に負けぬよう、声を張り、至高のオーバーロード・スミスとの別れの挨拶を終えると。
やがて、俺達を乗せたベルチバードは緩やかに上昇を始める。
そして、十分に上昇を果たすと。
吊り下げられたノアさん共々、俺達を乗せたベルチバードは、一路北を目指し、機首を進めるのであった。