Fallout THE ORIGIN   作:ダルマ

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第三十七話 貢献せぬ者通るべからず

 役所と呼ばれた建物の中は、役所というよりも銀行のような内装であった。

 対応する窓口には、受け渡し用の小さな受け渡し口以外は頑丈そうな鉄格子が設けられ、こちら側と向こう側の行き来は完全に遮断されている。

 

 そんな窓口の内の一つに赴くと、受け渡し口から、職員に用件を伝える。

 

「すいません。センター・ゲートを通行する為の通行許可証を発行してほしいのですが」

 

「あぁ? 通行許可証?」

 

 窓口対応にあたったのは、少々小柄の壮年の男性であった。

 しかし、その対応力は、一見してとても丁寧で気配り上手とは言えなさそうだ。何故なら、風船ガムを噛みながら対応にあたっているのだから。

 

「なに? クチャ、ん、通行許可証? クチャ、っち。っぺ!! あぁ、発行してほしいのか?」

 

 人前で噛んでいた風船ガムを吐き捨てる、もはや、窓口対応関係なく、良識ある対応とは言えない。

 

「はい、そうなんです。どうしても、中心街に行きたいんです」

 

 とはいえ、ここでそんな事を指摘して機嫌を損ねられれば、希望の光を手に入れられない。

 なので、込み上げる感情を押し殺し、穏やかに頼み込む。

 

「あんたらさ、余所者だろ?」

 

「は、はい。この町には、今日来たばかりです」

 

「なら教えてやる。通行許可証を発行するには、二つの内どちらかの条件を満たしてなければ、発行はされない」

 

「条件?」

 

「まずその一、中心街の成人以上の住人の発行推薦状を持ってること。もし持ってるなら、提出すれば直ぐに発行してやる」

 

 生憎と、俺を含め、俺達の中に中心街の住人と交友を持っている者はいない。

 故に、そんな推薦状も、持っている筈がない。

 

「なければ、条件の二つ目。……ま、大抵の奴らはこちらの条件に挑んでるがな」

 

「その条件とは?」

 

「申告者、即ちあんたらが、このVaultシティの為に誠心誠意尽くしたかどうか。その貢献度によって発行の合否を決める」

 

「えっと……、貢献度と言われても、客観的にどうはかるんですか?」

 

「安心しろ、独自のポイントを設定して、基準のポイントに達すれば発行されるようにはなってる」

 

「成程」

 

「貢献度ポイントを得るには、俺達が提示する依頼を受けて完遂する必要がある。ただし、ここで注意点だ。まずその一、依頼は申告者のみで完遂しなければならない。つまり、今回の場合、あんたら以外の第三者の手を借りて依頼を完遂すると、ポイントは無効となる」

 

「ですけど、助けなしに依頼を完遂できないような場合などは」

 

「安心しろ。俺達だってそんなに意地悪じゃない、ちゃんと申告者の人数などに合った依頼を提示している」

 

 と説明する男性スタッフの表情は、とても素敵(不敵)な笑みを浮かべていた。

 

「そしてその二、一度受けた依頼を途中で放棄した場合、次の依頼を受けられるまで一週間の期間を開けるペナルティ期間が設けらる。これは、申告者自身に有利な依頼を無制限に選択されない為の処置だ。あぁ、因みに、累積状態で依頼を途中で破棄した場合、それまでの累積ポイントは全て没収となる」

 

「え!?」

 

「あぁ、だが安心しろ。依頼の遂行に期限は設けていないから、どれだけ時間がかかっても、自分達の手でやり遂げればいいだけの事だ、そうだろ?」

 

 それはつまり、助けもなく依頼を完遂し続けなければならないという事を意味している訳で。

 依頼の内容にもよるのだろうが、場合によっては、一生かかるかもしれないという事だ。

 

 成程、ベルチバードのパイロットが言っていたアドバイスの意味が、理解できたよ。

 

「最後にその三、依頼の完遂を金銭(キャップ)や物品などを送って偽装しない事。もし賄賂なんてもんを渡してると判ったら、即座にブラックリスト入りだ」

 

「ブラックリスト?」

 

「そう、もしブラックリストに名前が記載されれば、もう二度と、Vaultシティに足を踏み入れさせない。もし踏み入れば、鉛玉でぼろ雑巾のようにして町から放り出してやる。分かるか、Vaultシティは公明正大な町だ、だから、不正は絶対に見逃さない」

 

 どの口が言っているのか、との言葉が頭を過ったものの。

 表情に出すことなく、了解した旨を男性スタッフに伝えるのであった。

 

「よーし、それじゃ。説明も終わった所で、あんたらに最初の依頼を提示してやろう」

 

 そう言うと、男性スタッフは一旦奥へと姿を消し、程なくして、一枚の紙を手に持って窓口に戻ってくる。

 

「あんたらに受けてもらう最初の依頼はこれだ」

 

 そう言って受け渡し口から手渡された紙には、水漏れ修理との内容と、地図が描かれていた。

 

「我がVaultシティでは、中心街と同様、スラム街にも水を供給している。スラム街への供給は、中心街から伸ばした水道パイプを使い中間管理施設に送られ、そこから、更に街中に張り巡らせた水道パイプを使ってスラム街の各家庭へと送られる。だが、最近各家庭に送る水道パイプで水漏れが発生しているようで、あんたらには、その修理を行ってもらう」

 

「依頼内容は分かりましたけれども、水漏れの個所などは?」

 

「あぁ、それはその紙に書かれている中間管理施設にいる水道技師のホーマに会って聞いてくれ。必要な情報や道具なんかは、向うが用意してる筈だ」

 

 こうして俺達は、通行許可証を得るべく、最初の依頼に着手する。

 

 

 役所を出て、地図を頼りに向かった先は、スラム街の一角に佇む、水道パイプや貯水用のタンクが幾つも目に付く建物、中間管理施設と呼ばれる建物であった。

 

「ごめんくださーい! 誰かいらっしゃいますか!?」

 

 水道パイプから聞こえる水の音と、管理用の機械等から聞こえる機械音が響く施設内に足を踏み入れ、雑音に負けぬように声を張ると。

 程なくして、職員と思しき影が近づいてくる。

 

「当施設に、何か御用でしょうか?」

 

 現れたのは、傷や色落ちが目立つ、一体のMr.ハンディであった。

 

「役所からの依頼を受けて、水道技師のホーマさんにお会いしたいんですけど」

 

「あぁ、役所の依頼をお受けしてくださった方々ですか。でしたら、どうぞこちらへ、ご案内します」

 

 Mr.ハンディに案内され、施設の奥へと足を運ぶと。

 そこには、メーターを眺めながら機械を操作している、オーバーオールを着用した、一人の男性の姿があった。

 

「ホーマ主任、お客様です」

 

「あ? わしに客だ?」

 

 既に還暦を迎えていると思われるその顔には、過ごしてきた年月分のしわが刻み込まれ、頭髪や体毛なども、加齢と共にすっかり色素を失い、白く染まっている。

 だが、その肉体は、年齢を感じさせない程強靭で、佇むその姿勢も、とても還暦を迎えているとは思えぬ程、体幹がしっかりしている。

 

 若い者にはまだまだ負けないと言わんばかりの、ホーマ主任と呼ばれた男性は、俺達の存在に気が付くや、操作の手を止め、俺達のもとへと近づいてくる。

 

「お前たちか、わしの客とは?」

 

 近づかれると、その強靭な肉体に百九十近くはあろう高身長も相まって、少し圧倒されそうになるも。

 俺は、今回尋ねた理由を説明し始める。

 

「あぁ、役所に頼んでたのがやっと来たか。ついてこい、道具を渡す」

 

 と言われ、ホーマ主任の後に付いてゆくと、隣の部屋へと案内される。

 部屋の中は棚で埋め尽くされ、棚には、工具箱や安全ヘルメット等が陳列されていた。

 

「そこの棚に置いてある工具箱に、修理作業に必要な工具と部品が入っている、それを持って、作業帽子を被ったら、さっさと水漏れを直しに行ってくれ。水漏れ発生箇所は、この地図に記している」

 

 そう言ってホーマ主任がポケットから取り出し、手渡したのは、手書きのスラム街の地図であった。

 地図上には、十か所程度、各所にバツ印が描かれている。おそらく、このバツ印の場所が、水漏れ発生箇所だろう。

 

「わしは機械の操作で手が離せん。修理が終わったら、また戻ってきて報告してくれ。あぁ、そうだ。それから、修理が終わったら、修理した近所の住人に修理完了の報告もしておけ、いいな」

 

「分かりました」

 

「それじゃ、日の出てるうちにとっとと修理を終わらせてこい!」

 

 こうしてホーマ主任に発破をかけられつつ、俺達は工具箱と作業帽子を手に取り、一旦中間管理施設の外へと出る。

 そこで、誰がどの個所の修理に誰が向かうかを決める事にしたのだ。

 地図を見るに、水漏れ発生個所は一部に固まることなく、広範囲にばらけて発生している。

 

「ふむ、この範囲でこの数ならば、三手に分かれて修理を行った方が効率がよかろう」

 

 ノアさんの意見には、特に反論もなく、俺達は三手に分かれて修理を行う事となった。

 

「組み合わせはどうしましょうか?」

 

「私は一人でも大丈夫だ」

 

 提案者であるノアさんは、一人でも大丈夫だと言う。

 確かに、ノアさんなら多少治安が悪い所に一人で行っても、無事に帰ってこられるだろう。いや、そもそも、今のノアさんの姿を見て、不用意に近づこうと考える者が果たしているのだろうか。

 スペースマリーンパワーアーマーにチェーンソードを背負い、ヘルメットの上に乗せただけの作業帽子を被り、その手に対比でおもちゃと見間違う赤い工具箱を持った、そんなノアさんの姿。

 

 うーん、これは別の意味で混沌(ケイオス)に信仰を捧げているな。

 

「じゃ、私は彼と一緒でいいから。マーサはユウと組んでね」

 

「え? ちょっとナットさん!? そんな勝手に!」

 

「別に、俺はマーサとでも……」

 

「あ、あんたも少しは否定しなさいよ!!」

 

 そして、残り四人の組み分けとなり、ナットさんがニコラスさんを相棒として選択した為。必然的に、俺がマーサと組むこととなる。

 なのだが、マーサは顔を赤くして、強引な組み合わせに不満を漏らすのであった。

 

「成程。これが所謂、ツンとデレ、というやつか」

 

 そんな様子を見て、ノアさんが、双子の野ネズミの絵本のタイトルのような口調で意味深な単語を零すのであった。

 それにしても、本当にノアさんは、ラッキースケベなど、一体何処でそんな単語を覚えたのだろうか。

 

 兎に角、組み分けが決まると、俺は地図の内容を自身のピップボーイの地図に書き込み、ナットさんもメモ帳に写し書きする。

 よって、オリジナルの地図は、ノアさんが持つこととなった。

 

「では、担当する水漏れの修理が終わったら、またここに集合という事で」

 

 こうして全ての準備が整うと、俺達は三手に分かれ、それぞれ担当する水漏れ発生個所へと向かうのであった。

 

 

 

 俺とマーサは、ピップボーイの地図に書き込んだ情報を頼りに、水漏れが発生している水道パイプを修理していく。

 一つ目は俺が、そして二つ目はマーサが修理を担当し、修理を終えると、近隣の住民達に修理完了の旨を伝えていく。

 

 因みに。マーサの修理中、バルブの締め付けが緩かったのか、確認の為レンチで軽く叩いた際、再び水が勢いよく漏れ出すというちょっとしたトラブルが起こったのだが。

 その際、水に濡れて色々と情欲をかき立たせるマーサの姿を拝めたので、マーサにとっては災難でも、俺にとっては福眼な出来事があった事をここに記載しておく。

 

 そんなトラブルを経て、俺とマーサは、担当する最後の水漏れ箇所の修理にあたっている。

 修理を担当するのは、順番として俺の番だ。

 

「……これで、よし」

 

 締め付けたバルブを手にしたレンチで軽く叩くと、その音を聞き、適切に締め付けられた事を確認する。

 そして、修理が完了すると、おもむろに立ち上がり、街の風景を見まわす。

 子供たちの駆け回る姿、井戸端会議に白熱する奥様方、日向ぼっこする猫。

 水道パイプの上から見渡せる街の風景は、外敵から身を護る外壁の無い街とは思えぬ程、生き生きとしていた。

 

「ちょっと、終わったんでしょ? なら、さっさと下りてきなさいよ」

 

「あ、うん」

 

 マーサの声に、風景観賞を終えると、軽やかに水道パイプから下り、工具を工具箱へと収納する。

 

「それじゃ、ご近所さんに修理完了したと伝えてくる」

 

「早くしなさいよ」

 

 マーサをその場に残し、近隣住民の方々に修理が完了した旨を伝えて回る。

 

「本当に、ありがとうね」

 

「いえ、それでは、失礼します」

 

 やがて、最後の住民に伝え終えた所で、マーサのもとへと戻る。

 すると、角を曲がろうとした所で、マーサが誰かと言い合っている声が聞こえてきた。

 

「何だ?」

 

 気になって、角から声の方向、マーサが待っている方を覗いてみると。

 そこには、三人組の男性達が、マーサと言い合っている様子が見えた。

 

「てめぇだよな、オレ達の仲間の指を切り落としたって女は?」

 

「顔は割れてんだよ!」

 

「そだそだ!」

 

「あら、だったら何よ? あんた達も指、切り落として欲しい訳?」

 

 耳を立てて会話の内容を聞くに、どうやらあの三人組は、マーサが指を切り落としたチンピラの仲間のようだ。

 

「っは! 本当に気の強えぇ女だな。……だがよ、そんなに気が強えぇと、それだけ泣かせ甲斐があってもんだ」

 

「げへへっ、その身体、たまんねぇなぁ、おい」

 

「そだそだ!」

 

「あら、泣かせられるのはあんた達の方じゃないの? それとも、女に泣かせられるのは初めてとか?」

 

 相手の感情を逆なでするマーサの煽り言葉は、予想通り、チンピラ達を激怒させる。

 

「てめぇ! このアマッ!! 言わせりゃ言いたい放題言いやがって!」

 

 刹那、チンピラの一人が、ポケットから折り畳みナイフを取り出し、刃を立てる。

 

「あんた達って、本当にワンパターンね。それを出せば、誰でも言う事聞くようになると思ったら大間違いよ」

 

「っ! このアマァ!! てめぇの減らず口もここまでなんだよ!!」

 

「っ!? くっ!」

 

「へへへっ! 捕まえたーぁ」

 

「そだそだ、もう逃げらんねぇ」

 

 あ、そだそだ以外にもちゃんと別の言葉言えたんだ。なんて、暢気に観察している場合ではない。

 不意を突かれ、マーサはチンピラ二人に羽交い絞めにされる。

 これは、早く助けなければ。

 

「この! 離しないさよ!!」

 

「っ、くそ、なんて馬鹿力なんだよこのアマ!」

 

「諦めろ、そだそだ」

 

「っ! にゃろ!!」

 

「へへへ、おいおい、さっきまでの威勢はどうした? 子猫ちゃん?」

 

 俺は物陰などを利用し、チンピラたちに気付かれないよう、近づいてゆく。

 その間に、折り畳みナイフを持ったチンピラは、自信が有利となった状況を楽しむかのように、ゆっくりした動作で徐々にマーサに近づく。

 

「へへ、怖いのか? ならパパとママに助けてー、って叫んでみな、どうせ、誰も助けに来ねぇけどな」

 

「ふん、誰がそんな事、言うわけないでしょ」

 

「本当に、このアマ! てめぇのその身体、今すぐ傷ものにしてやんよ!!」

 

 チンピラが、手にした折り畳みナイフの刃をマーサ目掛けて切りつけようと振り上げた、その時。

 一気にチンピラの背後へと駆け寄った俺は、チンピラの両足の付け根、男性特有の弱点の一つである神秘の場所目掛け、蹴りを入れる。

 

「────っっっ!!!!」

 

 声にもならない声をあげ、チンピラは、受けたダメージが脳の許容範囲を超えたのだろう。崩れるように、その場に倒れこんでしまう。

 

「な! なんだテメェ!? なにしやがる!!」

 

「そだ! そだ!!」

 

「っ、このっ!!」

 

「へ? あばっ!」

 

「そばっ!」

 

 仲間が倒され、羽交い絞めにしていた二人の注意がそれたその一瞬を、マーサは見逃さなかった。

 お返しとばかりに、羽交い絞めにしてた二人の顔面にエルボーをお見舞いすると、俺の傍まで避難する。

 

「ちょっと、遅いじゃない! もっと早く助けに来なさいよ!!」

 

「あ、ごめん」

 

「いっつ、よくもやったなこのアマ! てか、テメェ誰だ!? このアマの彼氏か!?」

 

「そばそば!!」

 

「か、彼氏なんかじゃないわよ!! たた、ただ成り行きで仲間になっただけなんだからね!! 勘違いするな!!」

 

 マーサのエルボーで鼻の骨が折れたのか、チンピラの一人が先ほどまでと意味の異なる言葉に変化しているが。

 そんな些細な事よりも、今は顔をリンゴのように真っ赤に染め上げたマーサの安全を最優先に行動しよう。

 

「マーサ、少し下がって、ここは俺一人で片付けるから」

 

「ちょっと、あたしだってこんなチンピラ位、素手でも大丈夫よ!」

 

「あぁ、こら! 女の前でカッコつけてんじゃねぇぞこら!!」

 

「もりそば! かけそば!!」

 

「マーサ、俺を信じて、頼む」

 

「……まぁ、そこまで言うなら」

 

「おいこら!! 俺らを無視していちゃついてんじゃねぇぞ!」

 

「ざるそば! ざるそば!」

 

 そして、マーサが距離を取った所で、チンピラ二人との直接対決の幕が上がる。

 

「女の前でボロボロにしてやるよ!」

 

「そばそば!!」

 

 威勢のいい声と共に、分かりやすいパンチの予備動作で間合いを詰めるチンピラ。

 当然、そんな予測しやすい予備動作をしていれば、躱すことなく造作もなく。

 軽々とチンピラのパンチを躱すと、お返しとばかりに、みぞおち目掛け、重たい拳をお見舞いする。

 

「そばやろー!!」

 

 これで片方を片付けると、勝負の成り行きを見守っていたもう片方が、これまた分かりやすく一直線に突っ込んでくる。

 なので、俺は手よりもリーチの長い足蹴りをお見舞いする。

 

「十割!!」

 

 すると、妙な断末魔と共に、地面に倒れこむのであった。

 

「ふぅ、これでよし」

 

 こうして、チンピラ三人を撃退し終えた俺は、マーサのもとへと駆け寄る。

 

「マーサ、本当にどこも怪我してない?」

 

「大丈夫よ。全然……、! ユウ、後ろ!」

 

「死ねぇ!!」

 

 刹那、マーサの声に後ろを振り向くと、そこには股間蹴りで倒したと思い込んでいたチンピラが、再び折り畳みナイフを手に、背後から俺を襲おうとしている姿があった。

 油断していた俺だったが、マーサの声のお陰で、間一髪のところで首筋目掛けて突き刺そうとした折り畳みナイフを避けると、手刀で折り畳みナイフを叩き落とし。

 そのままチンピラが突き出した腕を掴み、体を沈め、チンピラを背負い上げると、最後は眼前の地面目掛け引いて投げる。

 

 見事な一本背負いを決められたチンピラは、地面に倒れこんだまま起き上がる気配はなかった。

 

「凄い……。ねぇ! もしかして今のが、伝説の忍法の一つ、一本背負いなの!?」

 

 すると、先ほどの一本背負いを見ていたマーサが、目を輝かせながら妙な事を尋ねてくる。

 

「えっと、マーサ、今のは"忍法"じゃなくて"柔道"なんだけれども」

 

「え? でもあたしがサンクチュアリにいた頃、ナットさんの姉のパイパーさんが、その昔ウェイストランド中にその名を轟かせた伝説のファイターが使った"ヤーパン・ニンポー"の源流は投技・固技・当身技の三技一体を誇る"忍法"だって聞いたんだけど」

 

 それ、絶対パイパーさんにからかわれているよ、マーサ。

 そもそもヤーパン・ニンポーの使い手って、一体何処の北国からエクソダスしてきたんだ。

 この調子じゃ、ライバルにゲルマン忍法の使い手がいたなんて展開があってもおかしくはないな。

 

 色々と頭が痛くなりつつも、パイパーさんの作り話で誤った認識をしているマーサに正しい情報を教えるべく。

 俺は、マーサと合流場所の中間管理施設へと移動するまでの間、マーサに忍法と柔道の違いを教えるのであった。

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