最後にちょっとしたトラブルはあったものの、無事に担当した水道パイプの水漏れの修理を終え、一路中間管理施設の前へと戻る俺とマーサ。
中間管理施設の前には、既にナットさんとニコラスさんの二人の姿があった。
「お帰り、無事に修理は終わった?」
「はい、なんとか無事に終わりました」
「こっちも終わったわ。となるとあとは、ノアさんの到着を待つだけね」
ノアさんが修理を担当する箇所は、何れも中間管理施設から最も距離のある場所にあり。
移動だけでも俺達よりも時間がかかるのは仕方がない事であった。
「で、マーサ。ユウと二人っきりの初めての共同作業はどうだった?」
「な! ナットさん! なんですかその言い方!?」
「え~、だってそうでしょ? で、どうだったの? ほらほら、お姉さんに素直に言ってみなさい」
「べ、別になにもありませんでしたよ……」
「ふーん、へぇー、ほぉ~」
「うぅぅ」
「あ、ならユウ本人にも聞いちゃおうっと。ねぇ、ユウー! 実は聞きたいことがあるんだけどさ」
「だ、ダメー!!」
そして、ノアさんを到着を待つ間、他愛もない雑談でもして時間を潰していたのだが。
なんだか女性陣は凄く楽しそうにしている。やっぱり、女性はお喋りが大好きなんだな。
「という訳で、キャプテン・パワーマンの相棒たるボーンの活躍を描いたこの話は、私の中でも一二を争うものでして。特に戦闘シーンの作画などまさに神の領域と言っても過言ではないほどに──」
もっとも、ニコラスさんも、キャプテン・パワーマン談にかけては女性のお喋りにも引けを取らぬ勢いで。
同じ情熱を持っていれば聞いていても楽しいのだろうが、生憎と、今の俺は、少しばかりニコラスさんの話が耳から漏れてしまっていた。
こうして、時間を潰している内に、ノアさんが俺達のもとへと姿を現した。
「待たせたな」
「いえ、それ程待っていませんよ。それじゃ、全員揃ったので、ホーマ主任に修理完了の報告をしに行きましょう」
「あぁ、その前にナカジマ。一ついいか」
「はい?」
そして、ホーマ主任に報告しに行こうとした時であった。
ノアさんが、意味ありげに親指を立てるジェスチャーをしてきたのだ。
「えっと、それはどういう意味ですか?」
「ふふ、さぁ、報告に行こう」
しかし、何故かそのジェスチャーの意味を語ることなく、ノアさんは中間管理施設の中へと姿を消すのであった。
こうして気がかりを残しつつも、兎に角今は修理完了の報告を優先すべく、ノアさんの後に続く。
そして、先ほどと同じように、機械の操作で忙しいホーマ主任に修理完了の報告を行う。
「おぉ! よくやった。これでやっと住民達からの修理の催促に頭を悩ませんですむ」
「では、これで依頼は完遂ですか?」
「あぁ、工具箱等をもとに戻してる間に、依頼を完遂した証明の完遂証明書を書いておいてやる」
そして、元あった棚に工具箱や作業帽子を戻してホーマ主任のもとへと戻ると。
約束通り、ホーマ主任から依頼の完遂証明書を受け取る。
「お前たちは手際が良くて助かる。また、何かあれば何時でも来てもらいたいね」
こうしてホーマ主任に見送られ、俺達は中間管理施設を後にすると、一目散に役所へと赴き。
窓口で、先ほど受け取った完遂証明書を提出する。
「くちゃ、クチャ……。あぁ、あんたらか、クチャ、お? 無事に完遂したんだな、クチャ。ま、これ位の依頼、ガキでもこなせるから、あんたらには楽勝だよな」
相変わらず鼻につく態度ではあるが、俺は穏やかな表情と共に、次の依頼を受けさせてほしいと頼む。
が、返ってきたのは、予想外の返事であった。
「っぺ!! ……あぁ、悪いな。依頼を受けられるのは、一日一件までって決まってるんだ」
「え? でもそんあ事は一言も……」
「聞かれなかったからな、答えなかっただけだ」
「ちょっと! 普通そういう事はちゃんと言っておくべきじゃないの!」
「んぁ? なんだぁ?」
「ま、マーサ!」
「あんたね! あたし達が通行許可証欲しいからってふんぞり返って、横柄な態度とってんじゃないわよ! どうせあんた達なんて、もがもが!!」
「マーサ、落ち着て!」
耐えかねたマーサが決定的な一言を言う前に、なんとか彼女の口元を手でふさぐと、ちらりと担当男性の顔を窺う。
不味い、かなりご立腹のようにも思える。
「すいません、彼女は少し依頼で疲れてて、本当に申し訳ありません」
「……まぁいい、許してやろう。よかったな、今日は俺の機嫌がよくて」
担当男性の嫌みのこもった言葉に、マーサは中指を立てそうなほどの雰囲気ではあったが、先んじて俺の手でマーサの手を制止していたお陰で、なんとか火に油を注ぐことは阻止できた。
「そんじゃ、また依頼を受けたきゃ、明日出直してきな」
「分かりました。では、失礼します」
こうして役所を出た俺達。
案の定、役所を出て暫くした所で、マーサの怒りは爆発するのであった。
「あぁムカつく!! なんなのよあの態度! いっそあの役所ごと爆破してやろうかしら!」
「ならば、私も手を貸そう」
「二人とも、物騒な事言うのは止めてください」
マーサの怒りを鎮めつつ、ノアさんもマーサを焚き付けるような言葉を言わないでと注意する。
はぁ、疲れる。
「で、どうするのユウ。明日まで依頼は受けられないみたいだけど?」
「とりあえず、昼食を食べて、一旦気分をリフレッシュしましょう。お腹が減って、怒りっぽくなる前に」
もう一人なってるけどね、と言いたげな表情のナットさんではあったが、そこは声に出すことなく。
俺達は、とりあえず昼食をとるべく、スラム街にある飲食店を探すべく歩き始めるのであった。
ダイナーを見つけ、少し遅めの昼食をとった俺達は、次に今夜以降の宿探しを行う。
一日一つの依頼しか受けられないとなると、発行可能なポイント数に達するまで、ある程度の長丁場が予想される。
なので、長期滞在可能な宿屋を探すのだ。
因みに、マーサとノアさんの怒りは、ダイナーでそれぞれが豪快に食べたバラモンステーキとモールラットステーキのお陰で、減少する事となった。
特にノアさんは、食べたくて仕方がなかったモールラットの肉を食べられて、極上の幸せと言わんばかりの余韻に暫し浸っていた。
宿屋を探し歩いて数十分、役所やダイナー、酔いどれハンツマンからも均等な徒歩圏内に立地する宿屋を見つけ、直ぐにチェックインを済ませる。
因みに、部屋割りは一人一部屋ずつだ。
こうして宿屋も見つけ、その後は、話し合いの結果、各々自由行動となった。
「ねぇ、これなんてどうかしら?」
「んー、やっぱりこっちの方が可愛いと思うけど」
「そうかしら? あ、ならこれは?」
そして、俺はどうしているかと言えば。
マーサとナットさんの二人の買い物に付き合う事となった、自発的ではなく、半ば強制的に。
マーサ曰く、
ま、特にやりたい事があった訳ではないので、迷惑とは感じていないのだが。
「ねぇ、ユウはどっちが可愛いと思う?」
「正直に答えなさい!」
で、そんな俺が二人と今、どんな店での買い物に付き合っているかと言えば。
所謂、レディースファッションの専門店だ。
社会が荒廃しようとも、女性のお洒落への探求心は、枯れる事無く脈々と受け継がれている。
店内に陳列された女性用の衣類、その一角で、俺は今、ナットさんとマーサがそれぞれ手にしている衣類の、どちらが可愛いのか。その選択を迫られていた。
二人が手にしているのは、どちらも寝間着ではあるが。
ナットさんが手にしているのは、ワンピース型の所謂ネグリジェで、白を基調としたシースルーのキャミソールタイプ。まさにナットさんのような大人の女性に似合う、大人可愛い寝間着だ。
一方マーサの方は、まさに寝間着と言うべき王道のパジャマで、ピンクを基調とした無地のパジャマにショートパンツの組み合わせ。まさにマーサのような女性に似合う、王道可愛い寝間着だ。
この二つの優劣を選択する。
本心を言えば甲乙付け難い、なので、どちらが優れているかなんて決められない。が、それでは二人は納得しないだろうし。
どうしたものか。
「いやー、お客様、どちらもお揃いですよ。それぞれお二人にピッタリです!」
と、悩んでいると。
不意に女性店員が近づいてきて、営業トークを喋り始めた。
「彼氏さんですか? お二人とも抜群のセンスをお持ちで羨ましい。これなら、ベッドウェー開戦も完全勝利間違いなしです!」
「いや、あの……」
「もし、更なる刺激をお求めでしたら。こちらのランジェリーなど如何でしょうか!? こちらを使えば、姉妹の
そして、勘違いしている女性店員がこちらの返事を聞く間もなく持ってきたのは、ほぼ紐と言っても過言ではない、布面積の小さな下着であった。
確かにこれなら、俺の主砲の性能も通常の三倍に──、って、いかんいかん、危うく営業トークに乗せられる所であった。
「あ、あの! 買うかどうかは自分達で決めますんで!」
「そうですか、では、失礼します」
こうして女性店員を退場させた所で、再び究極の選択を開始、した矢先の事であった。
「おい、そこの三人! 待て、早まるな!!」
突然、薄汚れたつぎはぎだらけの布製の衣服を身に纏い、その手にパイプピストルを持った無精髭の男性が店内に押し入ってると。
俺達の事を指さしながら、怒鳴り始めた。
俺は咄嗟に、レッグホルスターに収まっている攻撃型カスタムガバメントに手を伸ばしたが、彼の動向を見極める為、即座に構える事はなかった。
「そこの二人、お前らが持ってるもんを今すぐよこせ! キャップなら払う!」
「貴方が誰だが知りませんが、商品を購入したいのなら、ちゃんと手順を踏んで購入すればいいのでは?」
「うるさい! 俺は二人が持ってるもんが欲しいんだ! 早くよこさねぇと」
「よこさないと?」
「この──」
刹那、支離滅裂な言動の男性が手にしたパイプピストルの銃口を俺達に向けるよりも早く、俺が抜き構えた攻撃型カスタムガバメントの銃口が、男性の顔に向けられる。
「この? なんですか?」
「うっ」
俺の銃を抜く速さに圧倒されたのか、男性のパイプピストルの銃口は、呆気なく床を向ける。
「くそう! 一攫千金のチャンスだったのによ!!」
そして、意味ありげな捨て台詞を吐きながら、男性は店から逃げるように去っていくのであった。
「今のは、なんだったんだろう?」
「さぁ?」
「ただの強盗、にしては変わってたわね」
妙な強盗を撃退した俺達は、その後、迷惑料を兼ねて、結局二人がそれぞれ選んだ寝間着を購入する事となった。
因みに、あの刺激的な下着は、悩みに悩んだが、結局購入はしなかった。
その後、数件のショッピングを楽しみ、夕食を揃って食べるべく待ち合わせをしていたノアさんとニコラスさんの二人と合流すると。
自由時間中の行動など、会話を交えながら、楽しい夕食の時間を過ごす。
「ほぉ、それは変わった強盗だな」
「でもよかったですね、被害がなくて」
「うむ。姫を守る騎士たればこそ、当然の事だな」
「そんな……。あ、所で、ノアさんとニコラスさんのお二人は、何処で時間を潰してたんですか?」
「ん? 我々か。実はな、水漏れ修理の現場に向かう途中、丁度時間を潰せそうな場所を見つけたので、そこに行って時間を潰していた」
「遊技場と言って、スロットとかビリヤードとか、色々と楽しめるものがありまして」
「そこで、ニコラスと二人、ビリヤードを楽しんだのだ」
「私も、ビリヤードなんて生まれて初めてプレイしましたけど、結構激しい球技なんですね!」
「え? 激しい?」
「ナカジマはビリヤードをした事はないのか?」
「いえ、コロニーにいた頃に、何度かやった事はありますけど」
リーアセキュリティの一員として、まだリーアで過ごしていた頃、先輩隊員達に連れられ、大人の社交場で何度かプレイした事がある。
だが、ビリヤードって、そんなに激しい球技ではなかった筈だが。
「因みに、お二人がプレイしたビリヤードとは、どんなものだったんですか?」
「ん? どんなもなにも。ビリヤード用のテーブルの各所に開けられた穴に、用意されたボールをキューを使って落としていくのだろう?」
「え、えぇ」
あれ、俺の知っているビリヤードと同じだ、と思っていた刹那。
「まず、用意したボールをテーブルの中心付近に円形上に配置し、次に、中心部に置いたブレイクボール目掛けキューを突き、粉砕したブレイクボールの破片が周囲のボールを突き出し、そして穴にどれだけのボールが入ったか。その入ったボールの数を競う競技、で合っているだろう?」
「私も、ノアさんのお手本のようにと頑張ったのですが、やっぱり初心者の私では、なかなかブレイクショットというのは難しいものですね。どうしてもボールを突き出すだけになってしまいます」
二人がプレイしたビリヤードが、俺も知らない超次元スポーツであると判明したのであった。
手球を粉砕した破片で的球を動かす、まさに文字通りの
こうして、ノアさんとニコラスさんの間違ったビリヤードプレイ話を交えつつ、楽しい時間はあっという間に過ぎてゆき。
そして、翌日。
全員揃って再び役所の窓口を訪れた俺達は、今日の依頼を受ける。
「そんじゃ、これがあんたらに今日受けてもらう依頼だ」
そして受け取った紙には、酔いどれハンツマンの名前と店の場所の地図が描かれていたが、依頼内容の部分については白紙であった。
「あの、依頼の内容は?」
「あぁ、それは店に行って聞いてくれ。なんでも、今回の依頼主は色々と"お手伝い"してほしいみたいだからな」
こうして、今回の依頼を受領した俺達は、酔いどれハンツマンへと足を進めるのであった。