Fallout THE ORIGIN   作:ダルマ

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第三十九話 期限を過ぎたら払いましょう

 酔いどれハンツマンへとやって来た俺達は、早速、今日もカウンターで黙々と仕事に勤しむバーテンダーに話しかけ、用件を伝える。

 

「そうか……。少し、待っててくれ」

 

 すると、バーテンダーは客の注文を手早く処理し、程なくして、他の店員に対応を任せると、俺達をバックヤードへと案内する。

 そして、店の事務所へと足を運ぶや、早速依頼内容を話し始める。

 

「最初にやってもらうのは、客のツケの回収、だ」

 

「ツケの回収、ですか?」

 

「相手は、こいつだ」

 

 手渡されたのは、似顔絵の書かれた一枚の紙。

 似顔絵の下には、似顔絵の主の名前と、ツケの総額が記入されている。

 

「名前は、エドザック。店の常連の一人だが、もう半年分、支払いもせずにツケをため込んでる」

 

 確かに、ツケの総額はウェイストランドでも危ない橋を渡って一発当てでもしなければ、直ぐに支払えるような額ではない。

 

「だが、噂では、あいつは最近遊技場のカジノで当てて、ツケを払えるだけの大金を手に入れたと聞く」

 

「それで、俺達が回収に、ですか」

 

「そうだ。あいつは自発的にツケを払うような奴じゃない。だから、回収しに行ってくれ」

 

 しかし、どうやらエドザックと呼ばれる常連は、幸か不幸か。一発当ててしまったようだ。

 だが、本人は手に入れた大金をツケの清算に使う気はさらさらないようで。店側は、強硬手段を選んだ、という訳だ。

 

「幸い、あいつはまだスラム街から逃げ出したとは聞かない。あいつが大金共々スラム街から逃げる前に、何としても、ツケの分、回収してくれ」

 

 こうして以来の内容を確認した俺達は、店を後に、エドザックのもとを訪ねるべく、彼の住所の聞き込みを開始する。

 担当は勿論、ナットさんである。

 

「分かったよ、ターゲットの住所。このスラム街でも、治安の悪い区画に住んでるみたい」

 

「なら、少し警戒して行きましょう」

 

「その方がいいわね。私達にとっても因縁のある、あのチンピラ達も、その辺りを根城にしているらしいし」

 

 ナットさんの追加情報に、少し気が重たくなる。

 まさか、エドザックがあのチンピラ達の仲間、なんてことはないよな。

 もし本当に仲間だったら、考えただけでも面倒なことこの上ない。

 

 しかし、今はそんな余計な事は考えない様にしよう。

 今は、エドザックからツケの回収を行う事だけに集中しよう。

 

 

 

 それから暫くして、俺達の姿は、スラム街でも特に治安の悪いと言われる区画にあった。

 スラム街と言われるだけでも、その治安は良いとは思えないのに。その中でも更に治安が悪いと言われるこの区画は、まさに底の底と言わんばかりの無法さを現していた。

 道の脇に置かれたドラム缶の焚き火の周りには、汚れ・擦り切れ・破損した衣服を身に纏い、とても栄養が足りているとは思えぬ程痩せこけたた人々が暖を取っている。

 また、別の方へと目を向けると、名も知らぬ住民の死体が、道端に転がる石のように転がり。そして、そんな死体に、他の住民達は気にする素振りもなく素通りしている。

 

 まさにここは持たざる者の中でも更に持たざる者が集まる、人間の欲が生み出した地獄の一つであった。

 

 そんな人々が暮らす区画を進む幾分。

 途中聞き込みを挟みつつ、俺達は、エドザックが暮らす彼の自宅前に到着する。

 廃材等で造られた住居は、各所に痛みや破損が目立ち、長らく手入れもされていないのが感じられる。

 

「すいませーん、エドザックさん!」

 

 そんな住居の扉を叩いて呼び出してみるも、特に反応は返ってこない。

 念のため、もう一度叩いてみたものの、結果は変わらず。

 

「いないのかな?」

 

 二度も呼び掛けても反応がないという事は、留守なのか。

 そう思った矢先、ナットさんが待ったをかけた。

 

「ちょっと待ってて」

 

 そう言うと、ナットさんは近所の住民に聞き込みを始め。

 やがて、一通り聞き込みを終えると、その結果を報告する。

 

「彼が帰宅している事は確認できたし。加えて、彼はまだ自宅から出てきてないみたいね」

 

「という事は」

 

「えぇ、居留守を使ってるわ」

 

 そのお陰で、エドザックが居留守を使っていることが判明した訳だが。

 問題はその先だ。居留守を使っている彼と、どうやって接触しよう。

 彼が自宅から出てくるまで待つか、ローテーションで張り込めば、何れ彼は自宅から出てくるだろう。

 

 いやしかし、いつ出てくるかも分からぬ事に加え、ここで時間を無駄に浪費している場合ではない。

 今の俺にとっては、一分一秒でも早く浄水チップを見つけて、リーアに持ち帰る。それが使命だ。

 

 ならば、少々強引にでも、彼と会う事にしよう。

 

「なら、扉の鍵をピッキングで強引に開けて、踏み込みましょう」

 

「あら、ワイルドね。そういうの、嫌いじゃないわよ。……それじゃ、ピッキングは任せてくれる?」

 

「え?」

 

「ジャーナリストだもの。ピッキングには長けてなきゃね」

 

 と言ってウインクするやっぱりナットさんも、お姉さん同様、ピッキング行為に対してそこまで嫌悪感を抱いていないようだ。

 

「いや、ピッキングの必要はあるまい。私に任せてくれ」

 

 こうして、ヘアピンとマイナスドライバーを手にしたナットさんが扉に近づこうとした矢先。

 ノアさんが、急にナットさんの行く手を塞ぐと、自分が代わりにピッキングを行うと言い出した。

 

 なのでとりあえず、事の行方を見守る事にしたナットさんと俺達。

 しかし、ノアさんの手には、ヘアピンやマイナスドライバー等。道具は何も持っていない。

 一体どのように扉の鍵を開錠するというのか。

 

 扉の取っ手に手をかけたノアさん、果たして、どうなるか。

 

 刹那、まるでカバーを外すかのように軽々と、枠ごと豪快に外し取るのであった。

 

「うむ、この手に限る」

 

 そんな光景を目にし、改めて、ノアさんの馬鹿力というものを痛感した。

 そして、そんな手を使えるのはノアさん位ですよ、と心の中で突っ込みを入れるのであった。

 

「ニコラスさんとノアさんは、万が一逃げ出した時に備えて、外で待機していてください」

 

 二人に外での待機をお願いし、俺は、マーサとナットさんの二人と共に、エドザック自宅へと足を踏み入れる。

 

「うわ、くさーい」

 

「これはなかなかの臭いね」

 

 自宅に足を踏み入れると、なんとも形容し難い臭いが鼻を突き、たまらず女性陣二人が声を漏らす。

 廊下や部屋の脇に置かれたゴミ等が臭いの原因と思われるが、よくこんな不衛生な環境で日常生活を送れるものだと、まだ会った事のないエドザックに、妙な感心を覚えるのであった。

 

「エドザックさん、すいません! いるのなら返事をしてもらえませんか?」

 

 悪臭漂う自宅を進みながら、声をかけるも、全く反応はない。

 そして、一階の部屋を全て見て回ったものの、エドザックの姿は何処にも見当たらなかった。

 

「となると、二階か」

 

 自宅は二階建て。

 階段を使い、二階部分へと足を運ぶと、再び声をかける。

 だが、結果は同じ。反応は全くない。

 

「うわぁ……」

 

 なので、一階同様、部屋に踏み込んで中を確認する事にしたのだが。

 扉を開けた瞬間、目に飛び込んできたのは、部屋を占拠する大量のゴミの山であった。

 流石にこの光景には、思わず声が漏れてしまう。

 

「本当になにここ、人の住む所じゃないわ。ラッドローチの巣よ!」

 

 更に、同じく部屋の様子を目にしたマーサから、辛辣な言葉が飛び出す。

 

「兎に角、他の部屋も探そう」

 

 ゴミの山以外特に見当たらず、二階の他の部屋を捜索し始めたのだが。

 結局、二階の部屋を全て確認したものの、エドザックの姿は何処にも見当たらなかった。

 

「ねぇ、もしかして近所の人も知らない間に、こっそり家を出てたんじゃないの?」

 

「確かに、その可能性は無きにしも非ず……」

 

 確認した所、本人の姿も、カジノで当てたと言われる大金らしき物も確認できなかった。

 となると、俺達が尋ねる以前に、人知れず大金共々自宅を出ていたとしても不自然ではない。

 

 大金を当てた人物は周囲にその事を気取られまいと、それまで同様、いつも通りの日常を装うと前世では聞いたことがあるが。

 やはり、現世では、特にこの様な場所に住まう者ならば、大金を手にした瞬間、一目散に大金と共に姿をくらませるのが定説なのだろうか。

 

「でも待って。まだ目視で確認しただけで、もしかしたら、家の何処かに隠れているのかもしれないわよ?」

 

「確かに、その可能性は無きにしも非ず……」

 

「ちょっとユウ! あんた、あたしとナットさんのどっちの言う事を信じるのよ!?」

 

「いや、どちらも可能性としては考えられるから、どちらかを信じているという訳じゃ……」

 

「あらあら? マーサ、何時からユウの事をユウって呼ぶようになったの? 確か前はあんたって呼んでた筈だったけれども?」

 

「ふぇ!? な、ナットさん! 今そんなのは関係ないでしょ!」

 

「うふふ、赤くしちゃって、マーサったら、可愛い」

 

「もう! からかわないでください!」

 

 なんだか知らぬ間に蚊帳の外に置いていかれたが、マーサの機嫌も落ち着いた所を見計らい。

 俺達は手分けして、家の中の何処かに隠れていないかを捜索する事にした。

 一階をマーサとナットさん、二階を俺が担当する。

 

「さてと……」

 

 で、そうなると必然的に、あのゴミ部屋と言うべき大量のゴミの山が占拠する部屋の捜索も行わなくてはならない訳で。

 改めて見ても、見るだけで億劫になってしまう。

 

 だが、ゴミの山程度で億劫になっていては、浄水チップにはたどり着けない。

 自分自身を奮い立たせ、気合を入れると。いざ、ゴミの山に手をかけ始める。

 

 それから暫く、ゴミの山をかき分けるも、ふと思う。

 こんなゴミの山の中になんて、隠れようと思わないんじゃないだろうかと。

 そんな虚無感と戦いつつも、ゴミをかき分けていると、ふと、ゴミの奥から何かが俺の方を見つめている事に気が付く。

 

「ん?」

 

 まさか本当に、このゴミ山に住み着いたラッドローチか。

 レッグホルスターに収まっている攻撃型カスタムガバメントに手を伸ばそうとした、まさにその時。

 

「っわ!!」

 

「どけっ!!」

 

 ゴミの山から、一人の男性が飛び出してきて、俺を押しのける。

 もはや原色が何色だったかも分らぬ程汚れ切り、破損した衣服を身に纏ったスキンヘッドの男性は、一目散に部屋を出ると、そのまま階段を目指す。

 

 刹那、俺は、その男性が、直感的にエドザックであると確信し、急いで後を追いかける。

 

「まてっ!!」

 

「ちょっと、騒がしいけど、何かあったの?」

 

「っくそ!」

 

 階段を降りようと足をかけたエドザックだが、どうやら騒動に気付いたマーサが様子を見に階段を塞いだらしく、エドザックの動きが止まる。

 

「え? ちょっと、誰よあんた!」

 

「マーサ、そいつが探してたエドザックだ!」

 

「くそ! 来るんじゃねぇ!」

 

「待ちなさい!」

 

 階段を駆け上がる音、奥の部屋へと逃げるエドザック、それを追いかける俺。

 やがて、俺とマーサは、奥の部屋にエドザックを追い詰める。

 

「なんだテメェら! 勝手に家に上がり込んで、なんなんだ!?」

 

「あたし達は酒場のツケの回収に来たのよ、さ、さっさと総額分、払いなさい!」

 

「ツケの回収だと? は! そうかよ、あのバーテン野郎、実力行使って訳か」

 

「分かったんなら、さっさと大金出しなさい!」

 

「るっせぇ! あの大金は俺のもんだ! 誰にも渡さねぇ!」

 

「あっそ、なら、ちょっと痛い目を見てもらうしかないわね」

 

「くっ……、くそったれがぁ!! 誰がお前らなんかに捕まるか!!」

 

 刹那、マーサの脅しに臆したエドザックは、次の瞬間、ありえない行動を取った。

 なんと、近くの部屋の窓から、ガラスを突き破りその身を投げ出したのだ。

 

「な!」

 

 二階とはいえ、あんな裸同然な格好では大怪我は必須、自暴自棄になったからとそこまでするとは。

 

 と、慌てて窓から身を投げたエドザックの様子を、彼が突き破った窓からのぞいて確かめると。

 なんと、彼は二階から身を投げたにもかかわらず、平然と立ち上がると、そのまま何処かへと走り去っていく。

 

「嘘、二階から飛び降りてあんなに平然と……。って! マーサ!?」

 

「何してるのよ! さっさと追うわよ!!」

 

 その身体能力の高さに唖然としていると、なんと、エドザックの後を追うように、マーサも同じ窓から外目掛けて飛び出すと、綺麗な受け身を経て、流れるようにエドザックの後を追いかけ始めた。

 え、お二人とも、なんでそんなに凄い身体能力をお持ちでいらっしゃるんですか。

 

「ちょっと、凄い音がしたけど、何があったの?」

 

 と、一連の出来事に唖然としてたが、一階から聞こえたナットさんの声に我に返ると。

 急いで一階へと降り、二人の後を追いかけようとする。

 

「ユウ、何があったの!?」

 

「今説明している時間はあまりないんですけど──」

 

「大変です! ヒコックさんが二階の窓から飛び降りてきたかと思ったら、先に飛び降りていた男を追って走っていったんです!」

 

 だが、ナットさんに捕まり、手短に事情を説明しようと思ったその時、タイミングよく、一連の出来事を外から目の当たりにしていたニコラスがやって来る。

 

「ニコラスさん、ナットさんに事情の説明をお願いします! それと、自宅の何処かにエドザックがカジノで当てた大金が隠されてる筈ですから、二人で探してもらえませんか」

 

「え、えぇ、分かりました」

 

「ユウはどうするの?」

 

「俺は、マーサを追いかけます」

 

 大金、大量のキャップとなる、を逃走時の様子からエドザック本人が所持している可能性は低く。そうなると、まだこの自宅内の何処かに隠されている可能性が高い。

 故に、二人にその大金の捜索をお願いすると、家を出て、マーサが走っていった方角目指し走り始めようと走り始める。

 だが、その時。

 

「ナカジマ!」

 

「ノアさん、どうしたんですか?」

 

「ナカジマは二人の後を追うのか?」

 

「えぇ、そのつもりです」

 

「では、私は先回りして逃げた男を確保できるか試みてみよう」

 

「お願いします」

 

 ノアさんに声をかけられるも、どうやらノアさんも、大体の事情は既に察してくれているようだ。

 ノアさんの先回りが功を奏する事を祈りつつ、少し出遅れたが、俺も二人を追うべく走り始めた。

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