Fallout THE ORIGIN   作:ダルマ

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第四十二話 ヌカ雪姫 前編

 宿屋のベッドに寝転がり、気絶するかのように直ぐに眠りにつける程、疲労したのはいつ以来だろうか。

 日が落ちるまで行われた舞台の練習は、シーキ団長が言っていた通り、詰め込まれた激しいものであった。

 日頃とは異なる体の使い方に、台詞覚えや出番の把握、動作の確認と修正等々。

 

 それまであまり使ってこなかった領域を使う事による心身の疲労は、俺自身も気付かぬ程、多大なものとなっていた。

 

 しかし、ここで音を上げていては駄目だ。

 辛いのは、俺だけじゃない。

 マーサも、ナットさんも、ノアさんも。──ニコラスさんは、なりきりのお陰でのみ込みが早く、凄くノリノリではあるが。

 兎に角、他の皆も慣れないながらも各々頑張っているんだ。弱音なんて、吐いていられない。

 

 翌日も、昨日の疲れが残る中、シーキ団長の厳しい指導になんとかついていきながら、必死に声を張り体を動かす。

 午前の練習が終わり、休憩を挟んで午後からの練習となるのだが。

 この日は、明日の本番で各々が着る衣装の寸法合わせの為、各々のサイズの計測が行われた。

 

「時間はありませんけど、必ず本番までには仕上げますんで、任せておいてください!」

 

 衣装係の団員さんからかけられた言葉に。

 俺は、明日の舞台は俺達のみならず、決して表には出ない、裏方の方々の思いも背負っているんだと、改めて身に染みた。

 そして、どんな形であれ、必ずや最後までやりきろうと、改めて誓うのであった。

 

 その後、午後からの練習を経て、まるで生きる屍の如く様相で宿屋に戻って、ベッドに寝転がるのであった。

 

 

 そして、本番当日。

 午前に最後の練習となる、本番を想定しての通し練習を行い。

 昼食を取りながら、全員で本番に向けての決起集会を行い、全員の気持ちを舞台の成功という一つの目標に合わせ。

 

 午後、いよいよ本番開始数分前を迎える事となった。

 

「うわー、凄い数だ」

 

 衣装係の団員さん達が夜を徹して作ってくれた舞台用の衣装。

 白を基調とした、王子様をイメージして作られた衣装に身を包みながら、俺は、舞台袖から観客席の様子を窺い、空席なく埋まっている、満員御礼ともいうべき観客の数に声を漏らした。

 やはり娯楽の少ないウェイストランド故か、特に子供の姿が多く見られる。

 

「こ、これからこのお客さん達の前で、私達が演技するんですよね。どど、どうしましょう、何だか、今頃になって緊張してきました」

 

 俺の隣で、装飾の施された姿見の鏡の部分から顔だけ出ている、そんな恰好をしているのは、ニコラスさんである。

 練習ではのびのびとしていたニコラスさんも、この観客を前にして、緊張せずにはいられなくなったようだ。

 

「そういう時は、手のひらにアルファベットのEという単語を三回書いて飲み込むといいらしいわよ」

 

 そんなニコラスさんに緊張をほぐすアドバイスを送ったのは、黒を基調とし胸元や背中が大胆に開かれたセクシーで大人なドレスを着込んだナットさんであった。

 

 それにしても、何故、人ではなくアルファベットのEなのだろうか。国が違えば慣例も異なるからか。

 そういえば、あの組織のマークにも、組織の頭文字であるEという単語が用いられていたが。もしかして、Eとはエンク……。

 いや、余計な考えは止めておこう。もしかしたら、深い意味はないのかもしれないし。

 

 因みに、ニコラスさんは、ナットさんのアドバイスを早速試していた。

 

「マーサ? どうしたの?」

 

「にゃ!? なな、なんでもないわよ!」

 

 ふと、隅で背を向けて、何やらしていたマーサに気が付き俺が声をかけると、上擦った声で返事を返すマーサ。

 一瞬の事でちゃんと確認はできなかったが、先ほどナットさんがニコラスさんに送ったアドバイスを試していたようにも見えた。

 普段の格好や態度から、人前で演技する事など造作もないのかと思っていたが、そんなマーサでも、この状況は緊張するんだな。

 

 そんなマーサが着ているのは、ヌカ・コーラをイメージした、赤い上半身部分と青いスカート、オレンジのパフスリーブに、アクセントとなる赤いリボンが付いたカチューシャ。

 物語の主役を務めるに相応しい可愛い衣装を纏っている。

 

 因みに、これは個人的な主観の話だが。

 俺とニコラスさんの衣装に比べ、何故か、女性陣の二人の衣装の方が、作りが凝っている気がしてならない。

 俺の衣装、一見すると作りこんでいるようにも見えるが、実は、マントで隠れる背中の辺りとか、かなり粗さが目立っている。

 そして、ニコラスさんに至っては、拾って調達してきたであろう姿見に顔を通す為の穴を開けただけ。ニコラスさん本人に至っては、役柄、黒の全身タイツだ。

 

 一方、ノアさんはと言えば。

 

「ほぉ、これはまた随分な入りだな」

 

 普段と変わらず、緊張のかけらも感じさせない程落ち着いていた。

 流石は、俺達の中で最年長を誇るノアさん、俺達みたいな若輩者とは経験してきた回数が違うな。

 

「さぁ、準備はいいか!? 間もなく本番開始じゃ!」

 

 と、ノアさんの落ち着き具合に感心していると。

 シーキ団長が俺達に声をかけてくる。

 

「前にも言ったが、下手でも何でも、一生懸命演技すれば、その熱意は、必ずお客さん達の心に届く!」

 

「はい!」

 

「おぉ、よい返事じゃ」

 

 と、本番開始を告げる音が鳴り、観客席を照らしていた照明が消える。

 そして、舞台の幕が上がり、舞台が照明で照らされる。

 

 さぁ、本番の始まりだ。

 

 

 

 

 

──舞台、ヌカ雪姫、始まり始まり。

──むかしむかし、ウェイストランドのとある場所に"オアシス"と言う、豊かな木々や動物たちが住まう、素晴らしい場所がありました。

──オアシスには、沢山の人もレイダー達の襲撃に怯える事無く住んでいました、それは、オアシスの周囲を山々が囲い、それらが天然の要害となっていたからです。

──そんなオアシスを治めているのが、王様と呼ばれる偉い人でした。

──王様の住まいであるお城は、オアシスを一望できる高台に建てられ、その絢爛豪華な外観は、オアシスの住人たちの羨望の的でありました。

 

──そんなお城には、お城の外観にも負けず劣らずの、美しい王妃様も、住んでおりました。

 

「はぁー、今日も疲れたわ」

 

 舞台上に姿を現すナットさん。その刹那、観客席からお客さん達の声が漏れる、主に男性の。

 王妃としての公務に疲れた仕草を交えながら、舞台上の定位置まで移動する。

 

「でも、これを聞けばそんな疲れも吹き飛ぶのよね」

 

──王妃様は、日課である秘密の部屋に置かれた鏡の前にやって来ると、呪文を唱え始めました。するとどうでしょう、鏡が意思を持ち、王妃様に挨拶を始めたではありませんか。それもその筈、この鏡は、魔法の鏡だったのです。

 

「おおお、王妃さーま! ほほほ、本日はお日柄もよく、いいお天気ですね!」

 

 あちゃー、ニコラスさん。緊張のあまり、台詞が上擦ってるよ。

 

「世辞はよい! それよりも魔法の鏡よ、私の質問に答えよ!」

 

「は、はい! な、何なりと!」

 

 しかし、ナットさんの機転の利いた演技により、ニコラスさんの演技の不自然さは、お客さん達に気にされる事はなかった。

 

「魔法の鏡よ鏡、世界で一番美しいのはだぁーれ?」

 

「そ、それは、勿論王妃様でございます」

 

「おーっほほほ!! そうでしょう!!」

 

 高飛車な笑いと共に、再びノアさんの語りが始まる。

 

──こうして王妃様は、日頃のストレスを解消し、今夜もぐっすりと快適な睡眠を迎えるのでした。

 

 そして、暗転。

 日付が変わった事を印象付ける暗転が終わり、再び舞台上に照明が灯される。

 

「魔法の鏡よ鏡! この世で最も美しいのはだぁーれ?」

 

──王妃様はこの日も、秘密の部屋で日課のやり取りを行っていました。

 

「そそ、それは、王妃様……。と申したいのですが、王妃様はどちらかと言えば大人の魅力あふれる"綺麗系"で世界一でございます」

 

──しかし、この日は少し様子が違いました。魔法の鏡が答えたのは、王妃様が求めたものとは異なる答えだったのです。

 

「ちょっと!! 綺麗系ってどういう事よ!? 私は、綺麗系も可愛い系も全て含めて世界一の美しさを持つ唯一の者である筈よ!!」

 

「そ、そう言われましても……」

 

「そもそも!! 誰よ!? 可愛い系で私を押さえて世界一なのは!!?」

 

──美に強欲な王妃様は、毛色の異なるものでも自身を押さえて世界一の者がいる事が、癪に障って仕方がありませんでした。

──そこで、王妃様は、可愛い系世界一が誰なのかを、魔法の鏡に問いかけました。

 

「それは……。"ヌカ雪姫"でございます。彼女こそ、若さと可愛さを兼ね備えた美しさを持つ女性でございます」

 

──魔法の鏡が答えたのは、王妃の義理の娘であったヌカ雪姫の名前でした。

──ヌカ雪姫の実の母、先代の王妃が雪の舞い降る夜、針仕事の最中雪に気を取られ針で指を刺してしまい、その血が飲みかけのヌカ・コーラ・クアンタムが入った表面に滴りました。

──それを目にした先代王妃が、ヌカ・コーラ・クアンタムのように光り輝く、血のように赤く、カップのように白い子供が欲しいと願い。

──やがて、その願いの通り、白く澄んだ肌を持ち、血のように赤い頬と唇を持ち、ヌカ・コーラ・クアンタムのように光り輝く金の髪をした赤子、ヌカ雪姫が生まれるのでした。

 

 そして、語りが終わると、舞台が暗転し、次なる場面の準備が速やかに行われる。

 程なくし、再び照明が灯されると、舞台上にはマーサが練習通りのポーズを決めて立っていた。

 

「うふふ、小鳥さん、おはよう! リスさん、おはよう!」

 

 舞台セットのお城のテラスに立ち、ヌカ・コーラを片手に笑顔で小鳥たちに手を振るマーサ。

 始まる前の緊張具合が嘘のように、役になりきり自然な演技でお客さん達の視線をくぎ付けにするマーサ。

 ナットさんもそうだけど、女性って、色々と凄いな。

 

──成長するにつれ、美しさを増していくヌカ雪姫。

──王妃様も、実は無意識のうちに、成長するにつれ美しくなっていくヌカ雪姫の事を疎ましく思っていたのです。

 

 っと、そろそろ俺の出番だ。

 袖の定位置で合図を待ち、そして、合図と共に俺は舞台上に足を踏み入れた。

 

──そしてある日、オアシスの外にあるとある国の王子様が来賓としてお城を訪れた際の事でした。

 

「ら~ららら~、ら~」

 

「お、おぉ……なんと美しい歌声なのだろう。そして、なんと美しい」

 

 あ、危ない。舞台上に立って照明が当てられた刹那、知らぬ間の緊張が一気に湧き上がってきたのか、一瞬台詞が飛びそうになった。

 それでも、何とか台詞とポーズは決めることが出来た。

 

──王子様はテラスのヌカ雪姫を目にし、その澄んだ歌声と美しさに一目ぼれし、恋をしてしまうのです。

──ですが、そんな様子を、白の窓から目にしている人物がいました、そう、王妃様です。

 

「許せない! 許せないわ!! 世界中の男たちの視線は私に釘付けでなければならないのよ!! それを奪うヌカ雪姫を許せるものですか!!」

 

──嫉妬の炎を燃やす王妃様は、やがて、悪魔のような計画を思いつくのです。

 

 暗転。

 急いで舞台袖にはけると、美術スタッフ達が暗い中を慣れた手つきで大道具や小道具を設置していく。

 程なくして、設置が終わると、再び照明が灯される。

 

 場面は、王妃の部屋から始まる。

 

──ある日、王妃様は自身の部屋にとあるロボットを呼びます。

 

 現れたのは一体の、真ん丸な曲線美を多用したシルエットが何処か愛嬌のある、レトロな人型ロボット、プロテクトロン。

 何処かぎこちない動作と共に、椅子に座るナットさんの前までやって来るプロテクトロン。

 

「オウヒサマ、ナニカゴヨウデスカ?」

 

「貴方に特命を与えます! ヌカ雪姫を森の中に連れ出し、人気のない場所で花を摘ませている間に、ヌカ雪姫を"殺す"のです!!」

 

「トクメイ、リョウカイシマシタ。ヌカユキヒメヲ、コロス・コロス・コロス」

 

「そうよ、さぁ、さっさとお行き!」

 

──遂に王妃様は、ヌカ雪姫を亡き者にすべく、恐ろしい計画を発動させたのです。

 

 ノアさんの語りが続く中、観客席からは、子供たちの恐怖に恐れ戦く声が漏れ聞こえてくる。

 そんな中何度目かの暗転により場面転換が行われ、次の場面は、ヌカ雪姫ことマーサが人気のない森の中で花を摘んでいる場面となる。

 

──王妃様の計略通り、プロテクトロンと共に人気のない森の中へと向かったヌカ雪姫は、まさか自身が命の危機に晒されてるとは露知らず、お花畑でお花を摘んでいました。

 

「まぁ、綺麗なお花! うふふ……」

 

「コロス、コロス……」

 

──お花を摘むのに夢中なヌカ雪姫は、背後から近づくプロテクトロンに気付く様子はありません。

──プロテクトロンは、王妃様の命令に従い、ヌカ姫様を殺そうと、搭載しているレーザーを起動させ、発射しようとします、しかし。

 

「あら、小鳥さん、大丈夫? 怪我は、していないようだけれど……」

 

──ふと、ヌカ雪姫が見せた優しく純粋な心を目の当たりにし、プロテクトロンの思考回路に電流が走りました。

──そして、プロテクトロンは改心し、ヌカ雪姫を殺すことなく、ヌカ雪姫に警告するのでした。

 

「あら? どうしたの、プロテクトロンさん?」

 

「ヌカユキヒメ、ヒメサマノミニキケンガセマッテオリマス。オシロニハモドラナイホウガヨイデショウ」

 

「でも、何処に行けば……」

 

「トニカクオニゲナサイ、マタ、オウヒサマノシキャクガヤッテクルマエニ」

 

──こうして、ヌカ雪姫は森の奥深くへと、王妃様の魔の手から逃れるべく逃げていきます。

──森の中を一人さ迷うヌカ雪姫は、日が暮れ、森を暗闇が覆う中、恐怖に涙し、やがて疲れ果てて大きな木の根元で眠ってしまいました。

 

「まぁ、小鳥さん、おはよう!」

 

──そして、小鳥のさえずりに目を覚ますと、ヌカ雪姫の周りには、沢山の小鳥たちの姿がありました。

──ヌカ雪姫の優しい心に惹かれた小鳥たちは、ヌカ雪姫の為に道案内を買って出ます。

 

──小鳥たちに案内され、森の中を歩いていると。

──やがてヌカ雪姫は、森の中にひっそりぽつんと佇む、一軒のお家へと辿り着くのでした。

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