Fallout THE ORIGIN   作:ダルマ

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第四十四話 ヌカ雪姫 後編

──それから数日後の事です。

──以前、来賓としてお城を訪れていたとある国の王子様が、ヌカ雪姫の眠る森へとやって来ました。

 

「ふー、ここは空気が澄んでいてとても気持ちがいい!」

 

 あのおまじないが効いたのか、それとも一度舞台に上がればもう慣れてしまったのか、今度は特に緊張で台詞が飛ぶこともなく、口から台詞がすらすらと飛び出す。

 

──森を堪能していた王子様は、近づいてきた小鳥たちに更に癒されます。

──と、突然、そんな小鳥たちが、まるで王子様を何処かに誘いたいかのように王子様の周りを飛び回り始めました。

 

「一体何処に行くんだい、小鳥さんたち?」

 

──小鳥たちに導かれるように、森の中を歩く王子様。

──やがて、王子様は森の中にひっそりぽつんと佇む、一軒のお家へ辿り着きました。

──そのお家は、ヌカ雪姫がMr.ハンディ達と幸せな日々を過ごしていたお家だったのです。

 

「あ! あれは!?」

 

──そして、王子様はそんなお家の近くに設置されたガラスの柩に気が付き、更に、その中に安置された人物の姿を目にして驚きました。

──何故なら、安置されていたのが、以前お城を訪れた際に一目惚れしたヌカ雪姫だったからです。

──王子様は慌ててガラスの柩に駆け寄ると、近くで悲しみに暮れていたMr.ハンディ達に何があったのかを尋ねました。

 

「一体何があったんだ!?」

 

「おや、貴方は?」

 

「私は、とある国の王子です。以前、この方をお城でお見掛けし気にかけていたのです」

 

「そうでしたか。彼女の名前はヌカ雪姫。以前より彼女の命を狙っていた王妃の罠にかかり、毒入りのヌカ・コーラを飲んでしまい、この様な事に……」

 

──王子様の素性を知ったドクターは、王子様にこれまでの事情を全て話しました。

 

「そうだったのか。……そうだ! この、我が国に伝わる秘伝の、スティムパックの原材料を混ぜた"ヌカ・コーラ・スティム"を使えば、ヌカ雪姫を助けられるかもしれない!」

 

 取り出した小道具、怪しく黄緑色に光るヌカ・コーラの瓶を高らかに掲げる。

 

「でも王子様、どうやってヌカ雪姫にそれを飲ませるんです?」

 

「私が口に含み、口移しのキスで飲ませます!」

 

 そして、瓶の蓋を開けると、ヌカ・コーラ・スティムを口に含む。

 うん、色付けされただけで味は普通のヌカ・コーラだ。

 今回は舞台用の小道具だったが、もし実際にこんなヌカ・コーラが存在していて飲むかと問われれば、俺は間違いなくご遠慮させていただくだろう。

 

──こうして、ヌカ・コーラ・スティムを口に含んだ王子様は、ガラスの柩を開くと、ヌカ雪姫の口にキスを……。

 

 そして、ノアさんの語りに合わせて、俺はマーサの顔に自分自身の顔を近づけキス、のフリをしようとした。

 まさに、その時であった。

 

「おうおう、下らねぇ茶番はそこまでだ!!」

 

 不意に、舞台袖から次々と、複数の男性達が舞台上に姿を現す。

 その姿はどう見ても、舞台の登場人物には見えない、何処からどう見てもただのチンピラにしか思えない。

 

「てめぇらだな、俺様の可愛い部下を可愛がってくれたってのは」

 

 そんな男性達の中、スキンヘッドの男が一人前に出て、そんな言葉を口にした。

 そこで、俺は気が付いた。彼らがマーサが指を切り落とし、俺が鉄拳制裁を加えたチンピラ集団のリーダーであると。

 

「へへへ、だからよ、可愛がってくれたお礼に来てやったぜ。これだけの観客の目の前で、てめぇらをボコボコにして、女をヒーヒー言わせて、惨めな姿を晒してやるって言うお礼をしにな」

 

 くそ、何てタイミングだ。これじゃ、折角の舞台が台無しだ。

 そう思った、次の瞬間であった。

 

──と、その時であった! 何という事だろうか、ぞろぞろと大挙して押し寄せたのは、ヌカ雪姫を完全に殺すべく、用心深い王妃様が送り込んだ刺客たちだったのです!

 

 何と、ノアさんが突如、本来の予定にはない語りを始めたのだ。

 おそらくノアさんのアドリブであろうその語りに、ざわついていた観客席が落ち着きを取り戻し始める。

 どうやら、ノアさんの機転により、お客さん達はこれも舞台の演出の一部と思い込んでくれたようだ。

 

 だったら、こっちも呼応して、上手く演出の一部としてチンピラ達を組み込んで、奴らに舞台を盛り上げてくれた"お礼"をするとしよう。

 

「お前たちは、王妃の送り込んだ刺客たちだな! この私がいる限り、ヌカ雪姫には指一本触れさせない!」

 

「は? なに言ってんだてめぇ?」

 

「さぁ、私の拳を恐れぬのなら、かかってくるがいい!」

 

 ファイティングポーズを構えチンピラ達を挑発すると。

 

「野郎! なめた事言いやがって! 何だか知らねぇが、おいおめぇら、まずはあの男からやっちまえ!」

 

 リーダーの男性の合図と共に、手下のチンピラ達が一斉に襲い掛かる。

 

──今まさに、刺客たちと王子様の戦いの火ぶたが切って落とされた! 刺客たち、数を生かして王子様に襲い掛かるも、その拳は素早い身のこなしの王子様を捉えられない! おっと、早速王子様渾身の右フック炸裂! 早速一人ダウンだ!

──おっと次は左エルボーからの平手突きのコンボ! おっと、王子様の拳の連続攻撃! 顔! 脇腹! もう一発下から顔! 刺客、ガードが追い付かない! 最後は回し蹴りでフィニッシュ!!

──なお、彼らは特殊な訓練を受けています。良い子の皆は絶対に真似しないでね。

 

 もはや語りというよりもただの実況と化したノアさんの声を他所に、俺は襲い掛かるチンピラ達を次々となぎ倒していく。

 

「えぇい! たかが相手は一人だろうが! 何手間取ってやがる!!」

 

「でもリーダー、アイツ滅茶苦茶強えぇよ」

 

「えぇぃくそ! だったら俺が相手してやる。よく見てろ!!」

 

 手下のチンピラ達が泣き言を言うだけの役立たずになって、遂に、リーダーの男性自らが出てくる。

 腕を鳴らしながら俺の前へとやって来るリーダーの男性、流石にチンピラ集団のリーダーを務めているだけはあり、その身に纏う風格は、手下たちよりも強い。

 

「は! その余裕ぶった顔、今すぐ滅茶苦茶にしてやるよ!!」

 

 リーダーの男性の威勢のいい宣告により、俺とリーダーの男性との直接対決の幕が上がる。

 刹那、リーダーの男性の右ストレートが、俺の顔面目掛けて放たれる。

 だが、俺はそんな拳を左手で受け止めると、お返しに右ストレートを繰り出す。

 

 しかし、リーダーの男性は、そんな俺の右ストレートを左手で受け止める。

 

 どうやら、風格のみならず、実力も伴っているようだ。

 

 互いに両腕を抑えられ、互いに相手の次の出方を窺っていると、示し合わせたかのように互いに頭を振るい。

 そして、互いに頭突きを繰り出す。

 

「は! やるじゃねぇか!」

 

「っ!」

 

 その後は互いに一進一退の殴り合い。

 しかし、あまり時間をかけすぎるとお客さん達に不審がられてしまうので、手早く片を付けなければ。

 

 と、リーダーの男性が何度目か殴りかかってきた所で、俺は軽々とリーダーの男性を馬飛びで飛び越えると、その無防備な足元に足払いを繰り出す。

 そして、倒れ込むリーダーの男性に更に畳み掛けるべく、天高く上げた右脚のかかとを、リーダーの男性の腹部目掛けて勢いよく打ち下ろした。

 

「がはっ!!」

 

 大の字で舞台上に倒れ込んだリーダーの男性は、倒れ込んだまま、動き出す気配はなかった。

 

「り、リーダー!」

 

「大丈夫ですかリーダー!?」

 

「う、うぅ……」

 

 直ぐに手下のチンピラ達が駆け寄り、リーダーの男性に声をかけ状況を確認する。

 気を失っているリーダーの男性を担ぎ上げ、その場を去ろうとするチンピラ集団。

 どうやら、リーダーが倒された事で恐れをなして逃げ出そうとしているようだ。

 

「おい、待て!」

 

 そんなチンピラ集団に俺は声をかけた。

 もうこれ以上、俺達に付きまとわないように念を押す為だ。

 

 とはいえ、演出の一部として不自然さがないように、慎重に言葉選んで念を押す。

 

「よく聞け。もしまた今度、私やヌカ雪姫達に危害を加えようとするのなら、その時は、これ以上の恐怖を味わう事になるぞ、いいな、覚えておけ」

 

「ひーっ!!」

 

「す、すいません!」

 

 そして、チンピラ集団が足早に全員舞台袖へと消えると、次の瞬間、観客席から割れんばかりの拍手が沸き起こる。

 

──こうして、刺客たちを追い払った王子様は、再びヌカ・コーラ・スティムを口にすると、今度こそ、ヌカ雪姫の口にキスをするのでした。

 

 ノアさんの語りに合わせ、俺は再びマーサの顔に自分自身の顔を近づけるとキスのフリを行う。

 すると、背中越しにでも伝わる、更に割れんばかりの拍手が劇場内に響き渡った。

 

──王子様のキスにより、ヌカ雪姫は再び目を覚ますと、自分自身の命を救ってくれた王子様と長らく幸せに暮らしました。

──そして一方、ヌカ雪姫を亡き者にしようとした王妃様は、後に王子様の告発により殺人罪・国家転覆罪等々により死刑が言い渡され、皮肉にも、毒入りのヌカ・コーラの刑に処されたのでした。

──また、魔法の鏡も。ヌカ雪姫の存命を知った際に、怒り狂った王妃様のパワーフィストによる一撃で破壊され、この世から、魔法の鏡はなくなってしまいました。

 

「マーサ、途中トラブルはあったけど、何とかうまくいったみたいだね」

 

「そ、そうね……」

 

 ノアさんの締めの語りが続く中、舞台の幕が下りるまでキスのフリを続けていた俺とマーサは。

 小声で無事に舞台が終わった事に安堵していた。

 

「凄い拍手だ、鳴り止まないな」

 

「そ、そうね……」

 

「マーサ、大丈夫? 顔が真っ赤だけど」

 

「そそ、そんな事、ないわよ。あたしは別に、いつも通り、よ」

 

「マーサ、口調がプロテクトロンみたいになってるけど、本当に大丈夫?」

 

 と、その時であった。

 何やら背後に気配を感じたと思ったら、誰かに背中を押され。

 

 突然の事に踏ん張れなかった俺は、その勢いのままマーサの顔に……。

 

 あぁ、何て暖かく柔らかいんだ。

 

 

 こうして、甘酸っぱい味と、素敵な香りを残して、舞台の幕が下り。

 無事に、舞台本番は終了した。

 

 

 

 

 

「いやー、大成功じゃ! 本当に素晴らしかった! 儂も感激で涙がちょちょぎれたわい! いや本当に、君達の演技は怪我した団員達にも負けずとも劣らん! こんな事でなければ、正式に団員として迎え入れたいぐらいじゃよ!」

 

 舞台が終わり、俺達はシーキ団長の部屋に足を運んでいた。

 そこで、シーキ団長から舞台の感想とお礼、そして完遂証明書を受け取る為だ。

 

「それじゃ、今完遂証明書を書くから、少し待っててくれ」

 

 その時、俺とマーサは、何だか気恥ずかしさらか、互いによそよそしくなってしまっていた。

 

「あら? ユウ、マーサ、何だか二人とも顔が赤いわよ? どうしたの?」

 

「え、そ、そうですか?」

 

「き、気のせいですよ、ナットさん」

 

「あらそう? うふふ」

 

「そうか、気のせいか、ははは」

 

「???」

 

 頭に疑問符を浮かべているニコラスさんを他所に、まるで俺とマーサが本当にキスした事を知っているかのような様子のナットさんとノアさん。

 

 そういえば、舞台終わり直後。

 ナットさんとノアさん、それにドクターと呼ばれていたMr.ハンディが何やら話し合っていたのを目にしたが、まさか、ね。

 

 

 その後、シーキ団長から完遂証明書を受け取った俺達は、短い間お世話になった劇場とシーキ団長始め団員の方々に見送られながら、宿屋へと戻るのであった。




ご愛読いただき、そしてご意見・ご感想、皆様の温かな応援、本当にありがとうございます。
そして、次回もご愛読のほどよろしくお願いいたします。
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