センター・ゲートを通り、中心街へと足を踏み入れた俺達が目にしたのは、スラム街とは全く異なる街の光景だった。
中心部に位置するVaultシティ・タワーと呼ばれていたタワーを中心に、舗装された道路に、区画整理され建てられた、コンクリート製の建築物達。
粗悪なバラック等、何処を見回しても一軒もない。
道路には、夜間でも利用可能なように等間隔にポール外灯が設けられている。当然、バラック街にはポール外灯なんて整備されていなかった。
そんな街中を、Vaultジャンプスーツを身に纏った人々が行き来している。
そして、行き交う人々の顔は、皆穏やかで、まるで魑魅魍魎蠢くウェイストランドに住んでいるとは、とても思えないほどだ。
二重壁で隔てられただけで、こうも世界は変わるものなのか。
全体像を見た際も薄々感じていたが、実際に間近で目にし、俺は改めて、この世界が如何に厳しいものか、再認識した。
「ねぇユウ、いつまでぼーっとしてるの! ピートって収集家に会いに行くんでしょ?」
「え? あぁ、そうだった!」
と、考えに耽っていると、不意にマーサの声に意識が現実へと引き戻され、俺は止めていた足を再び動かし始めた。
「この中心街の何処かには住んでいる筈だから、声をかけて聞いてみよう」
行き交う中心街の住人達にピートと言う名の収集家が何処に住んでいるかを尋ねようとした、その時だった。
「君達、待っていたよ」
不意に声をかけられ、振り返ってみると。
そこには、先ほどお世話になったニコルズ市長の姿があった。
「ニコルズ市長、ですよね?」
「そうだ、覚えていてくれてありがとう」
「あの、俺達に何か御用ですか?」
「実は、君達と話がしたくてね。君達の事を待っていたのだよ」
一体Vaultシティの市長が俺達に何の話があるんだ。
予期せぬ誘いに内心困惑するも、相手はVaultシティの市長、ここで断れば機嫌を損ねられて追い出される可能性すらあり得る。
それに、考えようによっては、この誘いは利用できる。相手はVaultシティの市長、ならば、住人の一人であるピートと言う名の収集家の住所についても把握している可能性が高い。
故に、話の流れの中で住所を聞き出せるかもしれない。
そう考えて、俺はニコルズ市長の誘いに乗る事とした。
「構いませんよ」
「それはよかった。では、私の後に付いてきてくれ」
こうして俺達は、ニコルズ市長の後に付いていく。
「ねぇユウ、話なんてしてていいの? あたし達急いでるのに?」
「でもここでご機嫌を損ねると、後々面倒なことになると思うし。それに、市長なら、住人であるピートの住所も知ってる筈だから、案外無駄足とは言えないよ」
「あ、そっか」
その道中、こっそりと話しかけてきたマーサに俺の考えを伝える。
すると、マーサも納得した表情を見せた。
それからニコルズ市長に先導されて歩く事数分。
俺達の前の前に現れたのは、Vaultシティのシンボルとも呼べるVaultシティ・タワーの入り口であった。
「このタワーは、私の遠い先祖であるジョン・ニコルズが戦前に所有していた高級ホテルの一つでね。今は、Vaultシティの市政の中心を担う市役所として機能している」
自慢げに自身の先祖が戦前に保有し、今なお子孫である自身の為に役に立っているVaultシティ・タワーの説明を行うニコルズ市長。
そんなニコルズ市長の説明も一区切りした所で、俺達は入り口を潜ると、市役所ことVaultシティ・タワーの内部へと足を踏み入れる。
元高級ホテルという事もあり、最初に目にすることになる玄関口と言うべきロビーは、所々に飾られている装飾品などが戦前の高級感を漂わせている。
「私のオフィスは十一階にある。付いてきたまえ、エレベーターを使えば直ぐだ」
そして、ロビーに隣接したエレベーターホールへと足を運び、十一階に向かうべく、到着したエレベーターに乗り込もうとした時であった。
「あぁ、すまないが……。そちらの二人は、悪いんだが階段を使ってはくれないか? 階段はエレベーターホールを出てすぐの所にある」
ニコルズ市長はノアさんとニコラスさんに対して、階段を使うように願い出たのだ。
確かに、エレベーターはパワーアーマーを着込んだ利用者が利用する事を想定して作られてはいない筈だ、故に、乗り込んだ途端にかごが落下しないとも限らない。
「分かった、では私達は階段で向かうとしよう。ニコラス、行くぞ」
「は、はい!」
こうしてノアさんとニコラスさんを見送った俺達は、エレベーターに乗り込み、先に十一階に到着すると、二人の到着を待った。
そして数分後、無事に二人と合流を果たすと、再びニコルズ市長に先導され廊下を歩き始める。
「さ、どうぞ、ここが私のオフィスだ」
「失礼いたします」
やがて、とある扉の前で立ち止まると、ニコルズ市長は扉を開き、俺達を部屋の中に招き入れた。
中に入ると、そこはニコルズ市長が言った通り、執務机や応接用のソファー等の家具が置かれた彼のオフィスであった。
部屋の大きさからして、高級ホテルの頃はスイートルームとして使用していたのだろう。
高級ホテルの頃は、ここから素晴らしい景色を一望できたのだろうが、今は、その殆どが地平線まで広がる荒廃した大地という寂しいものばかりだ。
「さ、ソファーにかけて、どうぞ」
「ありがとうございます」
ニコルズ市長に着席を促され、俺とマーサ、それにナットさんの三人は応接用のソファーに腰を下ろす。
ノアさんとニコラスさんの二人は、パワーアーマーを装備している為、ソファーの後ろで立っている。
「では先ず、お互い自己紹介といこうか。私の名はジェイムズ・ニコルズ。既に知っての通り、このVaultシティの市長をしている」
「ユウ・ナカジマと申します。仲間と共に傭兵業を営んでいまして、後ろの二人が仲間のノアさんとニコラスさんです」
「私はパブリック・オカレンシズのジャーナリスト、ナタリー・ライトです。彼女は私の護衛のマーサ・ヒコック」
「傭兵とジャーナリスト……。随分珍しい組み合わせですな」
こうして互いに自己紹介を終えた所で、早速ニコルズ市長が口を開く。
「という事は、これまでも随分と世界を見て回っているかね?」
「はい、少しばかりは」
「では、私も見知らぬ装備を身に纏い、先ほど目にしたワークショップの様な珍しい物を所有しているようだが。それらも、これまでの旅の途中で手に入れたと?」
「はい」
「成程。……では、これまで相当、修羅場とやらを掻い潜ってきたのだろうな」
まるで探りを入れるかのように、ニコルズ市長の視線と言葉が突き刺さる。
それに対して、俺は臆する事無く返答を返す。
すると、ニコルズ市長は不敵な笑みを浮かべ、そして、再び口を開いた。
「やはりそうか。いや実は、初めて君達を見た時から、君達はただものではないと感じていてね。やはり、私の目に狂いはなかった」
そして、自身の審美眼を自画自賛すると、更に話を続ける。
「ところで、君達は何故、このVaultシティを尋ねたのかね?」
すると、絶好の流れに、俺はすかさずピートと言う名の収集家を尋ねる為と答えると、次いで、その住所について知っているかをニコルズ市長に尋ねる。
「ピート……、あぁ、あの者か。それならば、よく存じている。彼は、Vaultシティ、特に中心街ではかなり変わり者の収集家として有名だからね」
「では、その人の住所を教えていただけないでしょうか!?」
「それは構わんが。……生憎と、彼は今、自宅にはいないぞ」
「え!?」
浄水チップに関する重要人物に漸く会える、と胸躍らせたのも束の間。
ニコルズ市長の口から、断崖絶壁の如く、落胆を誘う言葉が発せられる。
「彼は今、収集の旅に出ている。彼は、ある日ふと突然思い立つと、収集の旅に出てしまう。それは前回の旅から戻った翌日な事もあれば、数か月たってからと、まさに気まぐれにな」
「そ、それじゃ、いつ戻って来るかは……」
「いや、それが、旅に出るのは気まぐれでも、旅から戻って来るのはきっちり旅に出てから一か月後と決めている様だ。……確か、旅に出てからそろそろ一か月が経つはずだ」
だが、どうやら絶望するのはまだ早そうだ。
希望の光は、まだ残されている。
「それじゃ、近々戻ってくる予定なんですね!」
「あぁ、その筈だ」
「よかった……」
「所で、君達は何故あの収集家に会いたいのかね?」
ニコルズ市長の口から飛び出た、至極当然の質問。
誤魔化すか否かを考え、ふと、ボルトの住民達が旗揚げし出来たとされるVaultシティの長であるニコルズ市長ならば、浄水チップに関して何か知っている可能性はある。
そんな考えに至り、俺はニコルズ市長に浄水チップに関して尋ねる決断を下す。
「実は、浄水チップと呼ばれる物を持っていないか、或いは何処かに保存されているなど、有益な情報を知っているかを尋ねる為に会いに来たんです」
「浄水チップ、あぁ、聞いた事がある。確か、私の先祖であるジョン・ニコルズが初代監督官を務め、Vaultシティの発祥の地でもあるボルト52で使用していた物だったか、確か清潔な水を調達するのに必要不可欠な物」
やっぱり、ニコルズ市長は浄水チップについて知っている。
そこで俺は畳みかける様にニコルズ市長に問いただした。
「その浄水チップについて、知っている事を教えてくれませんか!? もしくは、もし現物がまだ保管されているのなら、是非とも俺に譲っていただきたい!」
「少し待っていくれるか」
するとニコルズ市長は徐に立ち上がると、自身の執務机へと向かい、机に置かれていたパソコンで何かを調べ始めた。
程なくして、調べ終わったのか、戻ってきたニコルズ市長は再びソファーに腰を下ろすと徐に口を開いた。
「何故君が浄水チップをそこまで渇望するかは解らぬが。残念ながら、記録によれば、再入植の際のテラフォーミングで不要となった為、ボルト52で予備として保管されたいたものは全て廃棄されてしまったと記録されている」
「そ、そんな……」
期待を裏切られ、肩を落とす俺。
そんな俺に、隣に座っていたマーサがふと、俺の肩に手を置いた。
そして、マーサの顔を見て、気付かされた。
そうだ、まだ希望が全て失われた訳ではない。
まだ、収集家のピートという希望は残されている。
励ましと、そして気付かせてくれたお礼にマーサに笑顔を返すと、マーサは頬を赤く染めて、恥ずかしそうにそっぽを向いた。
「青春だなぁ……」
すると不意に、後ろから小声で、ノアさんの意味深な独り言が聞こえてくるのであった
さて、色々と気持ちの浮き沈みはあったものの、ニコルズ市長との対談では有益な情報も手に入ったし。
最後にピートと言う名の収集家の住所を聞いたら、お暇させてもらうとするか。
「彼が帰ってくるまで間、どうするのかね?」
「スラム街の宿屋に泊まって待っていようと思います」
「それはつまり、君達には今、時間があるという事だね?」
「え、えぇ……」
「では、その時間を有効活用してはみないかね? ……私の頼みを聞いてはくれまいか? もし、私の頼みを聞いてくれると言うのならば、ピートの住所を教えよう。どうだ、よい"等価交換"だろう?」
ニコルズ市長の不敵な笑みを目にし、俺は思った。
あぁ、何だか何処かで身に覚えがあるな、この展開。
アリの巣退治、それともレイダーの討伐、はたまたスーパーミュータントの掃除、エトセトラエトセトラ。
いずれにせよ、厄介な頼み事である事は間違いないだろう。
しかも、その対価が住所。
街中の住民に聞けばすぐにでも分かりそうな程の情報に、それ程の価値があるのか。
しかし待てよ、確かに目に見える対価は住所のみだが、目に見えない部分。
例えばニコルズ市長からの評判を良くすることで得られる恩恵等を鑑みれば、受ける価値は、あるのではないか。
こうして俺は頼みを受けると決めたが、他の皆の意見も聞いてみなければ。
「少し、相談させてください」
「構わんよ」
そして、他の皆の意見を聞いていく。
「私はナカジマの意見に従う」
「私もです」
「私も、ユウの意見を尊重するわ」
「あたしも」
しかし、特に反対意見など出る事もなく。
俺達は、ニコルズ市長の頼みを受ける事にした。
「素晴らしい! では早速、私の頼みを聞いて欲しい。……と、その前に、君達にこのVaultシティの成り立ちについて知ってほしい」
こうして頼みの内容が説明されるのかと思っていると。
ニコルズ市長の口から飛び出したのは、Vaultシティの成り立ちについての話であった。
「先ほども言った通り、このVaultシティは、今や市役所となったこのタワーの地下に作られたボルト52を発祥の地としており。中心街に住まう多くの住民達は、私を含め、ボルト52の住民達の子孫だ」
ニコルズ市長曰く、ボルト52はVaultシティ・タワーの地下に作られたボルトで、同ボルトでの実験内容は、居住者の国に対する寄付金の額に応じてボルト内での役職が割り当てられる、というもの。
そして、当時居住者の中で寄付金の額が断トツであったニコルズ市長の先祖、ジョン・ニコルズが初代監督官として、ボルト52を導いている事となる。
実験内容が内容だけに、狂気の実験施設ではなく、まともなシェルターとしてボルト52は機能していた様だ。
その後、西暦二一七〇年代、かねてより計画されていた地上への再入植計画が始動し。
再入植の為に配付され保有していた
そして、その土地にVaultシティの礎となる村を作り、代々ボルト52の監督官を務めているニコルズ市長の先祖が村長を務める事となった。
こうして時が経ち、村は街となり、やがて外敵から身を護る二重壁が作られ、二重壁の中の生活に憧れスラム街が誕生し。
そして、現在のVaultシティとなった。との事だ。
「こうしてVaultシティとなった後も、私の一族は、代々住民達を導くリーダーとして、その責務を背負い続けている!」
因みに、ボルト52時代から現在に至るまで、ニコルズ市長の一族による独裁政治が敷かれているようだ。
最も、二世紀以上も続いているので、少なくとも、悪政ではないのだろう。
「しかし、いつかは私も引退し、先祖たちがそうしてきたように、私の役目を、私の息子に引き継がせねばならない……」
と、そこで、ニコルズ市長は急にため息を漏らすと、一旦話を止める。
そして、暫くすると、再び話を再開させた。
「さて、ここからが本題の、今回君達に頼みたい事なのだが。私の頼みというのは、何を隠そう、私の息子の事なのだ」
「ご子息が、どうかなされたんですか?」
「実は、私の一族には、次代のリーダーとして必要な"勇敢さ"を示す為、二十歳になると一族の者ならば誰もが受けなければならない危険な"儀式"がある」
「儀式、ですか?」
「そうだ、この一族の儀式は、時代によりその内容は異なっているが。再入植後は一貫して、このVaultシティの北西に位置している、かつてはチューリッヒ湖と呼ばれていた湖。現在では、"試練の湖"と呼ばれている場所で行われている」
「つまり、ご子息がその儀式をお受けする際に、俺達はご子息の補佐を行う……、と言った所でしょうか?」
「おぉ、察しがいい。そう、その通りだ。本来、この儀式は一族に代々伝わるパワーアーマーを装備し、一人で行わなければならないのだが……。息子は、この儀式を受ける事を嫌がってな」
「それで、俺達を」
「そうだ。一時はVaultシティ・セキュリティを護衛とすることも検討したが、これは私の一族に伝わる歴史と伝統ある儀式、何より、一族の面子をつぶしかねん。そんな時、君達が現れた。部外者である君達が、秘密裏に儀式に同行し、息子の護衛を務めてもらいたい。勿論、護衛の事は絶対に他言無用だ、表向きには、儀式は息子一人で成し遂げた事にしたいのでね」
「分かりました」
こうして、ニコルズ市長の頼みである、ご子息の儀式に秘密裏に同行しご子息を補佐する事を約束すると。
ニコルズ市長は、問題のご子息を呼びにオフィスを後にした。
そして数分後、ニコルズ市長は問題のご子息を引き連れ、再びオフィスに戻ってきた。
「い、嫌です!! 僕はあんな儀式なんて受けたくないと言っていたじゃないですか!」
「我儘を言うな! 兎に角、部屋に入りなさい!!」
その際、一悶着を経て俺達の前に姿を現したニコルズ市長のご子息。
ウェイストランドでも屈指の安心安全な場所で、食に困る事無く、愛情をもって育てられたからか。
金髪をマッシュルームカットにし、身に纏ったVaultジャンプスーツが今にもはち切れんばかりの肥満体型。
そして、体型に負けず劣らず、我儘そうな性格。
その姿を見た瞬間、俺は思った。
これは、一筋縄では行かない、と。
ご愛読いただき、そしてご意見・ご感想、皆様の温かな応援、本当にありがとうございます。
そして、次回もご愛読のほどよろしくお願いいたします。