Fallout THE ORIGIN   作:ダルマ

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第四十七話 英雄の証

 ニコルズ市長はぐずるご子息を、俺達の座る対面のソファーに座らせると、逃げ出さないように肩に手を置き、ご子息の紹介を始めた。

 

「これが、私の息子のボザ・ニコルズだ」

 

 対面に座るご子息、ボザさんの紹介を終えると、今度は俺達の紹介を始めるニコルズ市長。

 程なく、俺達の紹介も終えると、黙っていたボザさんが痺れを切らしたかのように口火を切った。

 

「父上! 何故、何故この様な明らかに余所者の格好をした者達を紹介するのです!?」

 

「何故だと? 分からぬか? この方々はお前の儀式に同行し、お前を補佐してくれる者達だぞ」

 

 儀式、その単語が出た瞬間、ボザさんは言葉のトーンを一段上げた。

 

「父上! 僕は儀式は受けたくないと言ったじゃありませんか!?」

 

「馬鹿者! この儀式は一族に代々伝わる神聖なもの! 一族の一員として生まれた者は、誰であろうと受けなければならないものだ!」

 

「それでも嫌です! あんな薄気味悪くて、気持ち悪いカニ共がうようよしている場所になんて、絶対に行きたくありません!!」

 

 断固として儀式を受ける事を拒むボザさん。

 これには父親であるニコルズ市長も、困り果てた様子だ。

 

 すると、事の成り行きを見守っていたマーサが不意に立ち上がり、ボザさんのもとに歩み寄ると。

 次の瞬間、そっぽを向いていたボザさんに、見事な平手打ちを食らわせたのであった。

 

 この突然のマーサの行為に、俺を含め、周囲は唖然となる。

 

「な、何するんだ! おま──」

 

 と、突然平手打ちを食らわせたマーサに反発の声を挙げようとした刹那。

 再び、マーサの平手打ちがボザさんの顔に命中する。

 

「ぶったね! ……そ、それも、二度もぶった!! ぼ、僕、父上にもぶたれたことないのに!!」

 

 すると、ボザさんは平手打ちを食らい赤くなった自身の頬に手を当てながら、何処かで聞いた事のある様な台詞を口にする。

 

「あんたね! いい歳して、いつまで我儘言ってるのよ!! あんたはゆくゆくこのVaultシティを率いていくのよ! それが何よ、安全で豊かな世界でぬくぬくと育ったからってこの体たらく!! 甘ったれるのもいい加減にしなさい!!」

 

「お、お前に僕の何が分かるんだよ!」

 

「分かるわよ!! あたしの両親も、サンクチュアリって場所の代表を務めてるわ! だから境遇はあんたと同じ、でも見てよ! あたしはあんたみたいに体たらくじゃない! ちゃんと自分の身は自分で守れる! あんたみたいにね、親の権威に守られてのうのうと生きちゃいないわよ!」

 

「う、うぅ」

 

「何よ、悔しいの? だったら儀式を受けて、ちょっとは男があるって所をあたしに見せてみなさいよ!!」

 

「ま、マーサ! もうその辺で……」

 

 流石にこれ以上はまずいと、慌ててマーサをボザさんから引き離す俺。

 まだ腹の虫がおさまらないマーサを何とか宥めて、とりあえず再びボザさんに食って掛かる事のない程度にまで落ち着かせると、ボザさんの様子を確かめる。

 

 マーサの言葉にかなり落ち込んでいる様子のボザさん。

 すると、そんな様子のご子息を見て、ニコルズ市長が言葉をかけ始めた。

 

「ボザよ。先ほど彼女が言っていた事は、言い様は少々過激ではあるが、内容は至極的を得ているものだ。ボザ、Vaultシティの住民達が、お前の事を陰で何と言っているのか、私の口から、今更言うまでもあるまい。もし、お前の心に、そんな住民達を見返してやりたいという気概が残っているのなら、儀式を受け、男を上げてみせろ!」

 

「あの、俺達も、可能な限り補佐しますので」

 

「聞いただろう、彼らもお前の力となり助けてくれる。さぁ、ボザ、どうする?」

 

「う、うぅ。あんな場所に行くのは嫌だけど、陰口叩かれるのはもっと嫌だし……。行ってみようかな」

 

 と、嫌々ながらも、儀式を受ける旨の発言をボザさんが零した刹那。

 

「よし、よく言った!! それでこそニコルズ家の男だ! おい、お前たち! 早速準備だ!!」

 

 ニコルズ市長が声を張り上げると、オフィスに複数の戦前のスーツを着込んだ男性が現れ、ボザさんをまるで拉致するかの如く何処かに連れていこうとする。

 

「いいか、表向きにはお前一人で儀式で出発した事にするので、準備を終えたら、一足先にVaultシティを出て人目に付かぬように、物陰に隠れて彼らを待っているんだぞ、いいな? ……それからお前達、ボザの出発の際は派手に見送るのだ! 一人で儀式で出発したと印象付ける為にな!」

 

「了解です市長!」

 

「ち、父上~!!」

 

 こうして男性達と共にオフィスを後にしたボザさんを見送ると、ニコルズ市長が今度は俺達に声をかけてくる。

 

「では、君達も時間を少し置いて出発してくれたまえ。あぁ、そういえばナカジマ君、君はピップボーイを持っていたね。ならば、ボザの装備しているパワーアーマーの無線を受信できるな、では、それを使ってボザと合流してくれ。重ねて言うが、くれぐれも今回の件は他言無用でな。……あぁ、それから、儀式の内容については、ボザと合流した後にでも本人から聞いてくれ」

 

「分かりました」

 

「我儘な奴だが、私の大事な一人息子なのだ。よろしく頼む」

 

 そして、俺達も時間を置き、Vaultシティを後にすると。

 無線でやり取りし、Vaultシティから少し離れた枯れ木の影に隠れていたボザさんと合流を果たすのであった。

 

 

 

 そこで待っていたのは、先ほど目にした我儘ボディのVaultジャンプスーツ姿ではなく。

 T-51パワーアーマーの後継という立ち位置ながら、その基となったのはT-45パワーアーマーであり、同パワーアーマーの発展・改良型。

 T-51のような避弾経始を取り入れた設計ではないものの、単純な重装甲化により優れた防御力を有する。

 勿論、単純な重装甲化による機動力の低下や視界の悪化等々のデメリットもあるが、それでも、T-51よりも優れた生産コストでT-51に迫る性能を有するメリットは、運用側にとっては最高のメリットだろう。

 

 まさに紅茶の国が生み出した主力戦車である百人隊長が、南アフリカの大地で象に進化したかの如く。

 

 ナンバリングタイトルの4において初登場したそのパワーアーマーの名は、T-60。

 

「お、やっと来たか、待ちくたびれたぞ、全く!」

 

 そんなT-60パワーアーマーを装備したボザさんは、合流するや否や、早速文句を漏らした。

 

「それにしても、暑苦しいな、全く」

 

 そして、徐にヘルメットを脱ぐと、蒸れて汗だくなその素顔を曝け出す。

 

「そ、それを脱ぐなんてとんでもない!!」

 

 と、突然ニコラスさんが声を挙げボザさんに制止を促す。

 おそらく、キャプテン・パワーマンの三代目搭乗機であるT-60を目に出来た感動に浸っていた所を、ボザさんの気分で台無しにされたので声を挙げた、という所だろう。

 

「な、何だお前は? 別にヘルメットを被ろうが脱ごうが僕の勝手だろ? 第一、蒸れて暑苦しいんだよ」

 

「貴方はそのパワーアーマーの価値を全く理解できていません! いいですか、そのパワーアーマーは……」

 

「ニコラスさん、落ち着いて、ね!」

 

 ヘルメットをうちわの代わりのように扇ぐなど、ぞんざいに扱うボザさんの態度に堪らずニコラスさんが注意しようとするが。

 何とかその前にニコラスさんを宥める。

 

 はぁ、まだ試練の湖にも到着していないっていうのに、もうどっと疲れた。

 

「お前の仲間はどうも教育がなっていないようだな、全く、これだから余所者は……」

 

「あんたねぇ! あたし達はあんたの補佐をするのよ、少しは感謝と尊敬の念を持てない訳!?」

 

「ひぃ!? ご、ごめんなさい!」

 

 と思っていたら、今度はマーサが声を挙げた。

 どうやらオフィスでの出来事でマーサが苦手になったのか、ボザさんは途端に怯えた様子で謝罪の言葉を口にした。

 

「って、いつまでこんな所で突っ立ってるのよ! とっとと試練の湖に行くわよ!」

 

「は、はい!!」

 

 かと思ったら、マーサの言葉に素直に従い歩き始めるボザさん。

 どうやら、あのオフィスでの出来事で、マーサはボザさんを手懐ける事に成功していた様だ。

 

 最も、どちらかと言えば恐怖で支配しているとも言えなくもない。

 

 

 こうして試練の湖目指して歩き始めた、その道中。

 俺は、ボザさんに儀式の内容について尋ねた。

 

「儀式の内容は単純だ。試練の湖まで行って、そこに生息しているマイアラークが生んだ卵を持って帰ってくる、というものだ」

 

「内容だけ聞くと、とても簡単そうに聞こえますけど?」

 

「はぁ、それは余所者のお前だからそう感じるのだろう。僕はお前と違って繊細なんだ、それに、僕はあのマイアラークのような脚がうじゃうじゃとしている生物がだーいっ嫌いなんだ!」

 

「そうなんですか。……あ、そこにラッドローチが」

 

「ひぃぃぃっ!!!」

 

 と、俺が足元近くを指さすと、ボザさんは腰を抜かしたかの如く倒れ込んだ。

 少しからかうつもりで冗談を言ったのだが、どうやら想像以上に複数の足を持つ生物が嫌いなようだ。

 

「すいません、俺の見間違いだったようです」

 

「ユウって、案外サディストなのね」

 

「むぅ……、のようだな」

 

 すると、そんな様子を見ていたナットさんとノアさんから、何やら聞き捨てならない会話が聞こえてくる。

 俺は別に、他人を虐める事に快楽を感じるなんて事はない。

 

 さて、倒れ込んだボザさんもノアさんの手を借りて立ち上がった所で、再び試練の湖目指して移動を再開する。

 

 

 

 それから歩き続ける事、数時間。

 途中、野生生物との遭遇戦を数度行い、その都度、ボザさんは俺達の後方、安全な場所から戦いを観戦していた。

 T-60パワーアーマーも、自衛用に持たされたR91アサルトライフルも、全くの無用の長物と化していたが。

 

 それでも、依頼の通りボザさんの安全を確保しながら、途中、昼食を挟んで、漸く目的の試練の湖へとたどり着いた。

 

 戦前は隣接する公園や、ボートを使って楽しむなど、沢山の人々が利用し笑顔に溢れていたであろう湖。

 しかし今では、濁った湖の周囲を闊歩しているのは、マイアラークと呼ばれるカブトガニが突然変異した水棲の野生生物であった。

 

 因みに、ゲームではナンバリングタイトルの3と4で、名称とその外見が異なるマイアラークであるが。

 この世界では、3に登場する小さく平らな甲羅に二足歩行を行う、文字通りカニ男という外見の方がマイアラークの"雄"。

 そして、4に登場する大きな甲羅に複数の足を有する外見を持つ方が、マイアラークの"雌"、として存在していた。

 

 余談だが、マイアラークの肉については、雄の方が雌よりも美味しいとされている。

 おそらく、雌は卵などに栄養分が取られる為、肉が細くなってしまうからだと思われる。

 ただし、雄も雌も、どちらの肉もゲーム同様に"臭い"を気にしなければ、どちらもご馳走と称する程の美味らしい。

 

 なお、ノアさん曰く一番美味しいのは"ミソ"の部分らしいのだが、多分、そんな部分を食べられるのはノアさんだけだと思われる。

 

「ボザさん、見た所、卵らしきものは見当たりませんね」

 

 そんな話はさて置いて。

 試練の湖から少し離れた物陰から、双眼鏡を使って試練の湖の様子を窺っていた俺は、隣で同じく、双眼鏡を使い様子を窺っているボザさんにそう声をかけた。

 ここから窺える範囲では、見えたのはマイアラークの雄と雌が数体のみで、卵らしきものは何処にも見当たらなかった。

 

「心配ない。実は、一族の者はこの儀式に備えて、産卵場所の位置を教えられている。ついてこい、案内してやる」

 

 そう言うと、俺達はボザさんを先頭に移動を開始する。

 そして、足を運んだのは、戦前は公園の駐車場として利用されていた場所であった。

 

「この先の公園にある砂浜が、マイアラークの産卵場所の一つだ。そこならば、卵はあるだろう。……という訳で、僕はここで待ってるから、さっさと卵を取ってこい、いいな」

 

「なに言ってるのよ! あんたが自分で取りに行かなきゃ、儀式の意味ないでしょ!!」

 

「ひ! で、でもぉ……」

 

「安心してください。俺達が守りますから」

 

「ほ、本当か?」

 

「はい、その為に俺達はここまで来たんです」

 

「よ、よし、絶対僕の事を守ってくれよ」

 

 直前になってもお得意の我儘が炸裂するも、何とか自身でやる気にさせると、ボザさんを中心に、ノアさんとニコラスさんを前衛、俺とマーサが左右に、そしてナットさんが後方。

 と、この様な布陣を敷き、いざ、公園内へと突入を開始する。

 

「おぉ、何と生きの良さそうなマイアラーク達だ!」

 

「ノアさん! 戦闘に集中してください!」

 

「ははは! 何処を向いても美味そうなカニだらけだ!」

 

 砂浜目指して足を踏み入れた俺達は、マイアラークの熱烈な歓迎を受けた。

 おそらく、自分達の縄張りに足を踏み入れたので、防衛の為に出てきたのだろう。

 

 独特の足音を響かせて、雄と雌が、そのハサミを振るって俺達を排除しようと襲い掛かってくる。

 

 それに対して、何故か上機嫌になったノアさんの手にしたチェーンソードが音を立て、一閃の後に、その硬い筈の甲羅が見事に真っ二つとなる。

 勿論、中には鉄拳を受けて吹き飛ばされ、文字通り泡を吹いてしまうかの如く痙攣した後、息を引き取る個体もあった。

 

 一方ニコラスさんも、マイアラークのハサミを専用ドアシールドで受け止めながら、M199 ヘビー・アサルトライフルを発砲し、戦う。

 しかし、今までの野生生物と異なり固い甲羅に覆われていて、少々手を焼いていた。

 

 そんな前衛二人に殺到気味なマイアラーク達に、俺とマーサは自慢の銃から鉛弾をぶっ放していた。

 

「貴方も戦いなさいよ!」

 

「そ、そんな事言ったって、僕、あんまり銃を撃った事ないんだよ」

 

 そして、ボザさんに手にしたR91アサルトライフルを使って戦闘に参加するように言いながら、ナットさんも手にしたN99型10mm拳銃を発砲している。

 

 こうして、暫しの激しい銃声が公園内に鳴り響き。

 その後、再び公園内に静寂が戻ってくると、チェーンソードや銃器、それに破片手榴弾(フラググレネード)を使ってのマイアラーク達との激しいパーティー(戦闘)はお開きとなった。

 

「お、終わったのか? む、むははは! 所詮カニ共も、僕の力の前には手も足も出なかったか、ははは!!」

 

「あんたは何もしてなかったでしょう! 何調子乗ってんのよ!」

 

「ひ、す、すいません!」

 

 因みに、結局ボザさんは手にしたR91アサルトライフルを一度も発砲する事はなかった。

 にも拘らず調子に乗るボザさんをマーサが叱責するのを他所に、俺は、何やらマイアラークの死骸の近くで何かを行っているノアさんのもとに近づいた。

 

「おぉ、丁度いい所に来たナカジマ。すまないが、空きビンを持っていないか、あれば貸してほしいのだが?」

 

「空きビンですか? えぇ、いくつか持ってますけど」

 

 突然の謎の要求に、俺は頭に疑問符を浮かべながらも、ピップボーイから幾つか空きビンを取り出すと、それをノアさんに手渡す。

 するとノアさんは、恩に着ると感謝の言葉を口にすると、次いでその空きビンの蓋を開けると、損傷の少ないマイアラークの死骸から、何やら緑の様な茶褐色の様な、何とも言い表せない奇妙な色合いをした半固形状のものを、空きビンに入れ始めた。

 俺は、恐る恐るその半固形状のものの正体をノアさんに尋ねる。

 

「の、ノア、さん。そ、それは一体……」

 

「これか? これこそ"マイアラークのミソ"だ。美味いぞー」

 

 ヘルメットで表情は窺い知れないが、声だけで、とても上機嫌で嬉しそうに半固形状のものの正体を語るノアさん。

 一方俺は、そうですかと相槌を打ちながらも、内心では、ドン引きしていた。

 

 ノアさんはスーパーミュータントであったとしても本当にいい人だ、それは理解している。

 だが、スーパーミュータントだからなのか、それともスーパーミュータントに変異する前からなのか。

 ノアさんの食の好みに関しては、おそらく一生、俺は理解できないと断言できる。

 

「そうだ。Vaultシティに戻ったら、早速ご馳走してやろう」

 

「……、いいえ、俺は遠慮しておきます」

 

 本当は、ノアさんの折角のご厚意を断るのは大変心苦しいんです。

 でも、俺の胃袋はまだ、死にたくないんです!

 

「そうか、なら仕方ない。では、機会があれば、またご馳走するとしよう」

 

 あぁ、本当にすいませんノアさん。

 俺のゴーストが願う様にと囁いてしまうんです、そんな機会は二度と訪れませんように、と。

 

 

 

 さて、程なくノアさんのミソ回収も終わった所で、目的の産卵場所目指して再び移動を再開する。

 警戒しながら砂浜を目指して移動し、程なく、試練の湖を眺められる砂浜へと到着する。

 

 第二波を警戒していたが、どうやら熱烈な歓迎は先ほどのもので打ち止めのようだ。

 

「おぉ、これだ、これこそお目当てのマイアラークの卵だ」

 

 安全を確保すると、早速ボザさんが、砂浜に産みつけているマイアラークの卵に近づいていく。

 

「うーむ。どれにしようかな」

 

「どれでもいいでしょ、さっさとしてよ!」

 

「か、形や大きさは大事なんだ!」

 

「はぁ……、もう」

 

 どうやらボザさんなりに持って帰る卵にはこだわりがあるらしく、呆れるマーサを他所に、ボザさんは卵を吟味し、持ち帰る卵を選ぶ。

 

「うん、これにしよう。大きさ、形、申し分なしだ!」

 

 そして暫くして、漸く持ち帰る卵を決めたのか、一つの卵を両手で大事そうに抱えた。

 

「それじゃ、後はVaultシティに帰って……」

 

 と、Vaultシティに引き返そうとした、その時であった。

 不意に、ピップボーイのレーダーに反応が現れる。しかも、反応が示している方向は、湖の中だ。

 

「待て! 何か来るぞ!」

 

 どうやらノアさんも何かを感じ取ったのか、警戒を呼び掛ける。

 と、反応を示した湖の方を見ていると、ふと、湖面にぶくぶくと泡が上がってきている事に気が付く。

 

 あれは一体なんだ、と、疑問を浮かべた刹那。

 

 それは姿を現した。

 湖面を突き破るように、水飛沫をまき散らしながら姿を現したのは、人間やスーパーミュータントの背丈を優に超える程の巨体を有するマイアラーク達の女王。

 

 その名を、マイアラーククイーンだ。

 

「ギィィィィィィーーッ!!!!」

 

 それはまるで、卵を盗られた事に対する怒りの咆哮。

 刹那、その巨体がゆっくりと湖面を移動し、更には、俺達目掛けてその噴射口から毒液を噴射してくる。

 

「マーサ、ナットさん! ボザさんを連れて逃げて! ここは俺達で何とかするから!」

 

「あ、あたしも戦う!」

 

「いいから行け! 早く!!」

 

 ニコラスさんの専用ドアシールドで毒液を防いでいる間に、俺はマーサ、ナットさんにボザさんと共に安全な場所まで退避する様に指示する。

 しかし、マーサはこれに反発し、一緒に戦うと言い出した。

 なので、少々強い口調で再度指示すると、渋々納得した様子で、退避を始める。

 

「し、死ぬんじゃないわよ! 死んだら承知しないんだからね!」

 

「分かってるよ」

 

 こうして、絶対に生きて合流しなければならなくなったので、何としてもあの女王様を倒して、マーサ達と合流しよう。

 

 気合を入れ直すと、俺は手にしたM4カスタムに、M995(徹甲弾)を込めたマガジンを装填する。

 巨体に見合う固さを有する女王様には、特別な弾を叩き込んでやる。

 

「くらえ!」

 

 そして、狙いを定めトリガーを引くと、M4カスタムの銃口から女王様目掛けてM995(徹甲弾)が放たれた。

 

 しかし、巨大な為に外れる事はないが、致命的なダメージを与えられている様子も見られない。

 

「うわ、何だかわらわら出てきましたよ!?」

 

「くそ、幼生か! ニコラスさん、幼生の排除を!」

 

 と、湖から次々と、小さなマイアラークことマイアラーク幼生がマイアラーククイーンを援護するかの如く、次々と砂浜に姿を現し襲い掛かってくる。

 しかもその数が多く、マイアラーク幼生を排除する為に、マイアラーククイーンへの攻撃がおざなりになってしまう。

 かといって、マイアラーク幼生を放置する事も出来ない。

 

 どうする。

 考えを巡らせ、辿り着いたのは、高火力を短時間にマイアラーククイーンに叩き込む、というものであった。

 

 そして、急いでピップボーイから現在所持している武器の中で一番高火力であるヌカランチャーとミニ・ニュークを取り出すと、発射準備を整える。

 

「ノアさん! ニコラスさん! 合図したら、この場から急いで離れてください! 」

 

 準備が完了し、後は合図と共に派手な花火を女王様にお見舞いするだけとなった、その時であった。

 

「待て! まさかそのミニ・ニュークをクイーンに向かって撃つつもりじゃないだろうな!? 駄目だ、それは駄目だ!」

 

 まさかの、ノアさんが発射に待ったを掛けたのだ。

 

「何言ってるんですか、ノアさん!? このままじゃ押し込まれます!」

 

「駄目だ! そんなものを使えば、折角の"クイーンのミソ"が吹き飛んでしまう!!」

 

 えぇ……。

 い、一体どんな理由で待ったを掛けたのかと思えば、まさかのミソ関連ですか。

 

「ミソなんてもういいじゃないですか!?」

 

「いいや、駄目だ! 私はまだクイーンのミソを生まれて一度も口にした事がないのだ! この機会を逃せば、次はいつ訪れるかも分からないだぞ!」

 

「なら、ミニ・ニュークを使わずどうクイーンを倒せって言うんですか!? ここにはパワーローダーも溶鉱炉もないんですよ!?」

 

「何を言ってるか分からんが、兎に角ミニ・ニュークは駄目だ!」

 

「お、お二人とも! 言い争ってないで早く決めてください! もう持ちこたえられません!」

 

 ニコラスさんの悲鳴にも似た声を聞き、俺は覚悟を決めた。

 ノアさんの制止を振り切り、クイーンに向かってミニ・ニュークを撃ち込むと。

 

「く! ならば、私が一人で倒してみせる!!」

 

「え!? ノアさん!!?」

 

 すると刹那。

 突然ノアさんがマイアラーククイーン目掛けて突撃し始めた。

 

 幾らスペースマリーンパワーアーマーを装備しているとはいえ、マイアラーククイーンに対して接近戦を挑むなんて無謀だ。

 

 そんな俺の心配を他所に、手にしたチェーンソードを振るい、マイアラーク幼生を切り捨てながらマイアラーククイーンに迫るノアさん。

 既に砂浜に上陸しかかっていたマイアラーククイーンの巨大なハサミが、そんなノアさんに対して振り下ろされる。

 だが、それを見事な動きでノアさんは躱すと、マイアラーククイーンの背後に回り込み、背中の甲羅の針の様な突起を掴んで頭頂部に登っていく。

 

 そして、振り落とそうとするマイアラーククイーンの妨害に負ける事無く、見事頭頂部まで到着すると、ノアさんは、その手にしたチェーンソードを、マイアラーククイーンの脳天目掛けて勢いよく突き刺した。

 

「ぬおおおおぉっ!!!!」

 

「ギギギィィィィィィーーッ!!!!」

 

 それはまるでマイアラーククイーンの断末魔。

 苦しみに巨体を揺らしていたマイアラーククイーンは、やがて、その巨体を砂浜に横たわらせ、そして、再び動き出す事はなかった。

 

「す、凄い! 凄いですよナカジマさん! ノアさん、本当に一人で倒しちゃいましたよ!!」

 

「そ、そうですね……」

 

 マイアラーククイーンが倒され俺達に恐れをなしたのか、はたまた別の何かか。

 残っていたマイアラーク幼生達も、我先にと湖の中に逃げ出し、戦闘は、俺達の勝利で幕を閉じた。

 

 にしても、あれ? フォールアウトって狩りゲーだったっけ?

 何だか目の前に、クエストクリアってロゴが見える気がする。

 

「どうだ、ナカジマ。これでもう文句はないだろう?」

 

「え、えぇ、勿論」

 

 返り血や泥などで汚れたヘルメットの向うで、満面の笑みを浮かべているであろうノアさんの様子を見て、俺は、考えるのを止めた。

 ミソに対する執着心だろうが何だろうが、やっぱりノアさんは凄い方だ、そして、こんな心強い仲間が他にいようか。

 素晴らしい仲間の存在を結果再認識させられた、それでいいじゃないか。

 

「おぉ、これがクイーンのミソか!!」

 

 でもやっぱり、何とも言い表せない奇妙な色合いをした半固形状のものを嬉しそうに空きビンに入れる心境は、理解できそうにない。

 

 

 

 

 こうしてマイアラーククイーンを倒し、無事にマーサ達と合流を果たすと、俺達はVaultシティへの帰路についた。

 数時間後、夕焼けに照らされたVaultシティへと戻ってきた俺達は、出発時同様、ボザさん一人を先に行かせると、時間差を置いてVaultシティに足を踏み入れる。

 

 そして、数時間ぶりにニコルズ市長のオフィスに戻ってみると。

 そこには、ご子息の無事の帰還と、儀式を無事に終えた喜びに沸くニコルズ市長の姿があった。

 

「おぉ、君達も戻ったか。にしても、ボザ、今回は本当によくやった! 男を上げたな!」

 

「そんな父上、これ位朝飯前ですよ。彼らも、少しは役に立ちましたが、でも、僕はこのアサルトライフルで襲い来るカニ共を次々に撃ち倒していったんですよ!」

 

「おぉ! まことか! それでこそ、ニコルズ家の男だ!」

 

「それ程でもありませんよ父上。ぬは、ぬははははっ!!」

 

 多少、嘘や誇張混じりの報告をするボザさんの様子に、マーサが呆れた様子で言葉を漏らす。

 

「本当、調子いいんだから。……にしても、あんな奴が次期市長なんて、この街の住民の人たちにはちょっぴり同情しちゃうわ」

 

「でも、ボザさんが市長になる事は、何も悪い事ばかりじゃないよ」

 

「? どういう事?」

 

 俺の言葉の意味を理解できず小首を傾げるマーサに、俺は一つのホロテープを見せる。

 

「なにこれ?」

 

「実は、儀式の最中、ピップボーイとボザさんの無線をつないで、その内容をこのホロテープに録音しておいたんだ。だから、もしもの時は、今回の事をネタに、色々と便宜を図ってくれるかもしれないよ。そう考えると、悪い事ばかりじゃないでしょ」

 

「ユウって、優しい顔して、結構えげつないわね」

 

「うむ」

 

 俺の解説に、マーサは固まり、ナットさんとノアさんはまたも聞き捨てならない会話をしているが。

 これはこの弱肉強食の世界で生きていく為の交渉術の一つであって、決して快楽の為ではない。

 

 さて、ホロテープの秘密を発表し終えた所で、ニコルズ市長からピートと言う名の収集家の住所を聞かせてもらおうか。




ご愛読いただき、そしてご意見・ご感想、皆様の温かな応援、本当にありがとうございます。
そして、次回もご愛読のほどよろしくお願いいたします。
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